『━━時より、第二グラウンドにて召喚野球を行います。参加する生徒は━━』
校舎に取り付けられたスピーカーからアナウンスが響き渡る。
開会式も無事に終えて、グラウンドの一部を仕切って作られた自分達の席を離れ、俺達は野球大会の行われる会場へと向かって行った。
「雄二。最初の対戦相手はどこだっけ?」
「確か一回戦は同学年の隣のクラスが相手という話だったから、Eクラスのはずだ」
「Eクラスは試召戦争をやったって話を聞いてないし、覗き騒動ぐらいしか関わってないから情報が少ないな。そんなヤツらと野球やって大丈夫か?」
俺は隣にいる雄二に尋ねる。
こっちのメンバーは姫路さんや島田さん。秀吉がいるからもしもに備えて確認しておかないと。
「ん〜・・・・・・。まぁ、大丈夫だろ。さっきちょっと代表同士で挨拶した限りだと、対応も可愛いもんだったしな」
「え? 本当? 可愛いって、どんな感じの子だったの?」
「どんな感じって言うと、そうだな・・・・・・」
雄二がそう言うくらいだからおそらく、可愛らしい人だと
「『押忍! 自分はEクラス代表の中林であります! 本日は絶対勝たせて頂くであります!』って感じで」
「ソイツきっと全身筋肉質だよね!? 絶対可愛くないよね!?」
前言撤回。どこをどう取っても可愛らしいという言葉が見当たらなかった。
「冗談だ。本当は、『今日はヨロシクねっ。絶対に負けないんだからっ☆』って感じで喋る代表だった」
「そっか。よぉーし、こっちだって負けるもんか」
「ただし、ラグビー部所属」
「やっぱりソイツ全身筋肉質だろ!」
「それ以前にそんな喋り方するラグビー部がいてたまるか」
「なんてな。それも嘘だ。Eクラスの代表は女子テニス部のエースをやってる中林ってヤツだ。性格は島田に近い感じじゃないか?」
「外見は?」
「鉄人に近━━冗談だ明久。ダッシュで逃げるな」
「雄二の冗談は心臓に悪いんだよ!」
「寧ろ島田さんの性格で体格が鉄人先生並の攻撃力じゃ勝ち目がないだろ」
「まったく・・・・・・。雄二よ、明久をからかうのも大概にするのじゃ。全然話が進まん。結局Eクラスはどういった連中なのじゃ?」
一緒に歩いていた秀吉が改めて雄二に問う。秀吉もEクラスにはあまり知り合いはいないみたいだ。
「すまんすまん。そうだな・・・・・・。Eクラスは一言で表すと、『体育会系クラス』だな」
「体育会系クラス?」
「この前アランが教えてくれたんだが、Eクラスは部活を中心に学園生活を送っている人が殆どだとさ。部活に打ち込むあまり成績は悪い人ばかりだが、その分体力や運動神経はかなり良いみたいだぞ」
「なるほど。部活バカってわけだね」
おいおい。それ以上のバカだっていうお前が言えたもんじゃないだろ。それと明久の声が聞こえてたのか、正面からズンズンとこちらに近付いてくる人影があった。
「アンタにバカって言われたくないわよバカ!」
ヘアバンドが特徴的な女子が出会い頭に明久を罵倒した。明久も初対面だからか、いきなり罵倒されては戸惑っている。
「えっと・・・・・・」
「私たちがバカなら、その下のクラスのアンタたちは大バカじゃない! この大バカ!」
出会って早々俺達を大バカと呼ぶとは良い度胸してるなこの女は。それはそうとこの人は一体・・・・・・もしや?
「なぁ雄二。ひょっとしてこの人がEクラスの代表か?」
「ああ。コイツがEクラスの代表の中林ってヤツだ」
雄二が教えてくれたおかげで大体わかった。この人が俺達が戦う相手クラスの代表か。う〜ん。見た目からしてそんな頭良さそうには見えないし、体育会系って感じの人だな。
「この人が全身筋肉質って話の」
「明久。それは雄二の嘘だから真に受けるなよ」
「全身筋肉質!? 私一体どういう紹介されてたの!?」
Eクラス代表の中林さんが目を丸くしている。それもそうだ。初対面の明久から悪意ある自己紹介をされてたんじゃ驚くのは当然だ。明久は雄二から聞いた情報と違ってたからか、中林さんをまじまじと見詰める。中林さんも明久の視線を何かと勘違いしたのか、自身の身体を抱くようにして明久から距離を取って言い放った。
「な、何よその目は。これだからFクラスのバカは嫌なのよ。人の身体をジロジロと見て、いやらしい」
やけに自意識過剰だな。明久はそんな嫌らしい目で見たわけじゃないのに変に誤解してるし。
「違うよっ! 僕はただ単に、中林さんはラグビー部所属で鉄人に似ている人だと(ゴツン)痛った!斗真。何いきなり僕に拳骨食らわすの!?」
「明久。いい加減雄二の嘘に気付けよ。そこにいる中林さんはどっからどう見たって鉄人先生に似てる要素はないだろ。ま、言えるとするならバカなのは間違いないが」
「アンタたち私に喧嘩売ってるんでしょ!? そうよね! そうに決まってるわよね!」
中林さんは俺の挑発を真に受けたのか、俺と明久を見る目が険しそうになっていく。見た目通り煽り耐性無いな。
「まぁまぁ落ち着けパツキン姉ちゃん。明久と斗真は悪気があって言ったわけじゃない」
そこに雄二がフォローに入ってくれたが。パツキンってどういう意味だ?
「パツキン? 金髪ってこと? バッカじゃないの。私のどこが金髪に見えるのよ。病院でも行ってきたら?」
中林さんも俺達と同じ疑問を抱いたように、訝しげに雄二に視線を向けた。
「違う違う。パツキンってのは『髪が金色』ってことじゃねぇ。『髪筋』って書くんだ。文字通り、髪まで筋肉でできてんじゃねぇのか」
これほどまでに侮辱が籠もった発言をする雄二。それを言われた中林さんはかなり気に触ったか、今にも爆発寸前な程の怒りを露わにしている。
「言ってくれるじゃないの・・・・・・っ!!」
「━━と、コイツらが言っていた」
「なんですってぇぇ━━!!」
「酷い誤解でげふぅっ!」
「俺はそこまで言っては危なっ!」
明久は殴られはしたものの、俺は咄嗟に躱したので当たらずにすんだ。
「おい雄二!何デタラメ抜かしてんだよ!俺と明久がとばっちり食らう羽目になっただろうが!」
「まぁ落ち着け斗真。後で話はいくらでも聞いてやるから。ところで中林。さっきは聞き忘れたが、先攻・後攻はどうする?」
「知らないわよ! 好きにしたらいいじゃない」
「そうか。それならこちらは後攻にさせてもらう」
「いいわよ。そんなことより覚えてなさい! 絶対アンタには負けないんだから!」
中林さんはそう言い捨てて、ズンズンとEクラスのベンチへ下がって行った。
「よくやった。ナイス挑発だ二人とも」
「よくやった、じゃないっ! 雄二のせいでいきなり初対面の人との間に距離が出来ちゃったじゃないか!」
「気にするな明久。一生懸命努力さえしていれば、人との距離は埋められるし、大きな夢だって叶えられるし、秘蔵のエロ本だって奪い返せる」
「良いこと言っているようだけど最後の一つで台無しだ!」
「ったく、俺も中林さんを軽く煽ったが、お前が余計なことを言うから向こうも本気で俺達を潰しに来るかもしれないんだぞ。で、どうするつもりだ?」
「決まってる。勝てばいいんだよ勝てば」
「随分と余裕ぶっていられるな。始まってすらいないのに」
「なにやら揉めておったが、大丈夫じゃったのか?」
「大丈夫だ。むしろ上出来だと言える」
「俺と明久からすればいい迷惑だったがな」
「そうだよ。僕にとっては最悪なことだったし・・・・・・」
明久は精神的ダメージが大きかったか、大きく溜息を吐いては悄気げていた。
ま、とりあえず。召喚獣を呼ぶとしてだ。この試合の1回はグラウンドに向井先生が立っているから古典で勝負することになる。
「それじゃあ早速、
キーワードを口にすると、俺の足元に幾何学的な模様が浮かび上がった。そして、その中からデフォルメされた俺自身が姿を現す。今回は野球仕様になっているから服装は野球のユニフォームをしており。バッドやグローブを持っている。ここまで細かい調整するとは変に力を割いているなあのババァは。
「一応、野球用ってだけあって操作の一部は自動になっているらしいな」
「ま、そうだよね。そうじゃないと野球なんてできないし」
「それだけ自分の技術力の凄さをアピールしたかってことだろうな」
「システムについてはワシらが気にしても詮のない話じゃろう。それよりも、ワシらはワシらで目の前の試合に集中するべきじゃ」
「それもそうだね。経緯はどうあれ、没収品を取り戻す絶好のチャンスなわけだし」
「んじゃ、そろそろ守備位置と打順を発表するか。おーい、全員聞いてくれー」
召喚野球大会に参加するクラスメイト達に雄二が呼びかける。こういったことに関しては雄二の腕は確かだからな。クラスの皆も文句を言わずに話を聞く姿勢になる。
「基本の守備位置と打順はだいたいこんな感じだ」
1番 ファースト 木下秀吉
2番 ショート 土屋康太(ムッツリーニ)
3番 ピッチャー 吉井明久
4番 サード 東條斗真
5番 キャッチャー 坂本雄二
6番 ライト 姫路瑞希
7番 セカンド 島田美波
8番 センター 須川亮
9番 レフト 横溝浩二
ベンチ 福村幸平
近藤吉宗
俺は4番サードか。打順とポジションからして格好いいし、かなり期待されてるとみて間違いなさそうだな。
「ねぇ雄二。僕がピッチャーでいいの? 雄二か姫路さん。もしくは斗真の方が良くない?」
「できるんならそうしたいところなんだがな」
「できるんなら、って?」
「考えてみろ明久。俺達が投げるとしてだ、その球をまともに捕れるキャッチャーがいるか?」
俺が説明すると、明久はシミュレーションをする。
「そっか。生身の人間と違って、召喚獣は他の人の十倍の力の差、とかがあったりするもんね」
「そういうことだ。細かい話になるが、使用するボールも━━まぁこれは一般的な召喚獣と同じで物には触れないが━━実際に重さを持っていると考えると、かなりの重さに設定されているらしいからな」
「そ、そうなんだ・・・・・・」
明久は雄二の説明を聞いては驚くと同時に納得した。召喚獣の力は明久程の点数であっても、普通の人間の数倍は力がある。Fクラスレベルでそれほどの力があるとすれば、Aクラスの人が普通の重さのボールを投げたら打てるわけがない。
「そういうことなら仕方がないね。姫路さんや雄二、斗真の点数で重いボールなんて投げられたら誰も捕球できないもんね」
「ならば、姫路が投げて雄二か斗真が捕るのではダメなんじゃろうか」
秀吉が手を挙げて質問すると、俺と雄二が答えるよりも早く姫路さんが反応した。
「す、すいません。私、野球とかは全然わからなくて・・・・・・。実際にやったこともないですし・・・・・・」
「だ、そうだ。そういうわけだから、今後はともかく、一回戦目はルールの把握も兼ねてライトに配置している。状況によっては配置変更はするけどな」
「それに、クラス交流の野球大会で召喚獣を使うからには左右の打ち分けは難しいだろうし。比較的打球が飛びにくいライトに配置した方が姫路さんにはやりやすいからな」
「以上だ。他に何か質問は?」
雄二が全員を見回す。それ以上は特に質問することはないみたいだな。
そして、雄二を中心とした円陣が出来上がると、雄二は皆を鼓舞するように大きく声を上げた。
「よし。それじゃ━━いくぞテメェら、覚悟はいいか!」
「「「おうっ!」」」
「Eクラスなんざ、俺たちにとっちゃただの通過点だ! こっちの負けはありえねぇ!」
「「「おうっ!」」」
「目指すは決勝、仇敵教師チーム!ヤツらを蹴散らし、その首を散っていった
「「「おうっ!」」」
「やるぞテメェら!俺の━━俺たちの、かけがえのない
「「「おっしゃぁ━━っ!!」」」
男子全員の目には炎が灯る。見るからに熱い展開なんだが、目的が教師から取り上げられたエロ本を奪還するという下らない目的の為に声を上げるのはあまりにもバカバカしく感じるのだった。
「あ、あの、美波ちゃん・・・・・・。こうしていると、なんだか・・・・・・」
「そうね・・・・・・。ウチらまでそういう本を没収されたみたいよね・・・・・・」
「ワシも別にエロ本などを持ち込んではおらんのじゃが・・・・・・」
女子二人と秀吉も疑問を感じつつも、Fクラス男子達と一緒に気持ちを一つにするのだった。
評価・感想をお願いします。