一回の攻防が終わり。再び攻守を交代して守備につくFクラス。
二回は数学勝負となった。さて、再びマウンドに上がるとして━━
「待て斗真。この回のピッチャーはお前じゃない」
「ん? どういうつもりだ? 俺が投げた方が打たれずに済むんじゃないのか?」
「いや、この回は数学だから島田に抑えてもらう。なにしろ島田にとっては唯一の見せ場だからな」
「・・・・・・そうだな。ここは島田さんに任せるとするか」
数学は島田さんにとって数少ない得意科目だ。雄二もそれなりに点数を取っているから島田さんの球を受けることができるだろうし、この回だけならBクラスレベルのバッテリーを組むことができる。
「じゃあこの回はウチに任せて。ちゃんと抑えてみせるから」
「うん。頼んだよ美波」
「ええ。頼まれたわ」
島田さんは明久とハイタッチをしてはマウンドに上がる。彼女は試召戦争や召喚大会も経験してるし、運動神経も良いから問題はないだろう。
「じゃあ僕がセカンドに付くから斗真はサードを頼むよ」
「ああ、任せな。島田さん、後ろには俺や明久が付いてるから気楽に行けよ」
「ありがとう東條。頼りにしてるわ」
そうして各々が自分たちの守備位置へ向かっていると姫路さんがじっと明久を見つめており。それに気付いた明久が姫路さんに声を掛ける。
「ん? どしたの姫路さん?」
「あ、はい。えっと・・・・・・」
姫路さんは小走りで明久の方へと進んでいく。
「明久君。手を━━こうやってもらえます?」
「こ、こう?」
明久は姫路さんに言われた通りに手をあげる。すると姫路さんは楽しそうに笑顔を浮かべて何するかというと
「はいっ」
ペチン、と明久の手を叩いたのであった。
「頑張りましょうね、明久君」
「あ、うん。頑張ろうね姫路さん」
「はいっ」
にっこりと笑っては外野へと駆けていく姫路さん。あれはおそらく島田さんが明久とハイタッチしたのが羨ましくて自分もああしたんだろう。が
「そっか・・・・・・。姫路さんはそんなにも、僕らのエロ本を見てみたいのか・・・・・・」
当の明久はその意味をわかっておらず。バカな発言をした。
『・・・・・・なんだか、凄い誤解を受けている気がします・・・・・・』
姫路さんも明久が理解していないことに落ち込む羽目に。とりあえず、明久は後で説教だな。
気を取り直して守備に付くとしてだ。Eクラス相手になら、当たりどころによるけど抑えられるだろう。後は内野の守備力によるが。
予想通りの点数差。向こうは下位打者からだが、特に問題はないみたいだな。
一球目、二級目とバッテリーのやり取りを見守るが、特にこれといった心配はなく。三球目を雄二が取りそこねてはボールは召喚獣の胸に当たった。島田さんの点数で投げられるボールはおよそ140km以上は出ており。先程俺が投げたボールより遅いとはいえ捕り損ねるのも無理はない。
二人の点数が表示される。雄二の点数は200点台だったから、今の捕り損ねで25点程のダメージを負ったな。点数が上回っている雄二の召喚獣でもこれ程のダメージなら、おそらく俺と姫路さん以外のFクラスが捕り損ねたら即座に戦死するだろうな。
その後も特に打たれることはなく、島田さんはこの回を三人で抑えた。
「お疲れ、美波。ナイスピッチ」
「ありがと、アキ」
「凄い球だったね。流石だよ」
「おかげで俺達は楽できたしな」
「ふふっ。さっき打つ方では活躍できなかった分、せめて守備で返さないとね」
島田さんは片目で目を瞑ってそう言うが
『お姉様! 最高です! 格好良すぎです! そんなお姉様を見ているだけで、美春は、美春はもう・・・・・・っっ!!』
見物席の方から、Dクラスの清水さんの興奮した歓声が聞こえた。
「・・・・・・一応、応援してくれる人がいて良かったな」
「そうね。できれば男子から応援してもらいたかったわ・・・・・・」
「それじゃ、今度はこっちの番だね」
「次は7番だから、須川からだな」
「おう。かっ飛ばしてくる」
須川は意気揚々と向かっていったがレフトフライに終わり。その次の福村はヒットを打ったものの、後続の横溝が空振り。秀吉はフルカウントまで粘ったがサードゴロとなり、無得点で二回の裏が終わってしまった。
その後も俺がマウンドに上がってはEクラスの打線を抑え、Fクラスも得点を上げられないまま三,四回が終わる。
迎えた最終回。科目は保健体育。そろそろアイツの出番だ。
「ピッチャーは任せたよムッツリーニ」
「・・・・・・・・・・了解」
「いやいや、ちょっと待てお前ら。この回も斗真が投げるからムッツリーニはキャッチャーだ」
「え? どうして?」
「忘れたのか明久。召喚獣の投げる球は点数に比例して速くなるんだぞ。そこで教師を上回る点数を取ってるムッツリーニがピッチャーしたらどうなる?」
「あ、そういえばそうだったね。さっき斗真と美波が投げた球も結構速かったしね」
「俺の点数は大体300点台だが、それでも160km以上は出ていたし。そこで400点以上の点数を取ってるムッツリーニが全力で投げて捕り損ねでもしたらどうなる?キャッチャーは消し飛ぶに決まってるだろ」
「それはまぁ・・・・・・ほら、上手く捕れば大丈夫だよ。さっき斗真の球を受けた時みたいにきちんとミットに収めたらダメージは受けないからさ」
「つまりは一度でも捕り損ねたら消し飛ぶってことだろうが!」
キャッチャーを務める召喚獣はプロテクトを付けておらず、無防備なままでムッツリーニの球を捕ろうものなら、雄二といえどかなりのダメージを受けるに決まってる。
「やれやれ。雄二は根性がないなぁ。男だったら命を懸けてそのくらい」
「わかった。キャッチャーは明久に譲る。男を見せてこい」
「明久の召喚獣はフィードバックが付いてるから捕り損ねたらかなりの痛みが来るけど構わないよな?」
「ごめんなさい。心の底からごめんなさい」
俺と雄二がキャッチャーの役目を任せようとした瞬間に明久は即座に謝る。明久の点数でムッツリーニの球を受けたら例え捕れたとしてもダメージを負うからな。
「なんじゃ。明久ならば召喚獣の扱いにも長けておるし、得点差なぞものともせずに捕れるじゃろうと思っておったのじゃが」
「秀吉。普通の人間でも速い球を捕るにはかなり練習を積まないといけないから無理を言ってやるな」
「まぁ相手はEクラスだからな。斗真が抑えればなんとかなるし。守備のことよりも攻撃の心配をしようぜ。なにせこっちが点を取ればサヨナラ勝ちになるからな」
「だな。んじゃ、俺がきっちり抑えいくから攻撃は任せたぞ」
俺はそう言ってはマウンドに上がる。いくら相手を抑えようと、点を取らないと勝負は終わらないからな。今は目先の守備よりも、如何に得点を上げるのかどうかだ。
ピッチャーとバッターの点数が表示される。言うまでもなくこれだけ差が出ていれば特に問題はない。
『バッターアウト。チェンジ!』
この回も三者凡退で仕留めては攻守交代した。ムッツリーニはボールを受け損ねるも、点数が高いため。召喚獣は大したダメージを負うことなく終わっていった。
「さぁ逆転するぞお前ら! この回は誰からだ!」
「ワシからじゃな」
打順はさっきの回で丁度二巡して、この回は再び1番打者である秀吉に戻っている。
「秀吉。もう後がないからここで打って男としての姿を見せてやれ」
「うむ。そう言われたからには絶対に打ってやるぞ」
「頼むぞ秀吉。絶対打ってくれ」
「秀吉ならできるよ。頑張って」
「・・・・・・・・・・期待している」
「木下、石にかじりついても打つんだ!」
「気合を入れてくれ木下! お前にかかっているんだ」
「そうだ!頑張ってくれ! そして、なんとしても打ってくれ!」
「う、うむ。努力はするが━━」
「「「俺たちの、エロ本の為に!」」
「・・・・・・・・・・」
『ストライク、バッターアウッ!』
「どうしたのさ秀吉! スイングに力が入っていなかったよ!?」
「あの激励で力を奪われてしまっての・・・・・・」
秀吉は疲れ切った顔をしている。いくら応援してくれてるとはいえ最後の台詞を聞いてしまえばやる気がなくなるのも当然だ。
「まぁ気を落とすな。次はムッツリーニの番だな。必ず良い結果が出るさ」
雄二が皆を励ますように告げる。次はムッツリーニの番だから期待できるからな。
「・・・・・・・・・・行ってくる」
ムッツリーニがバッターボックスに入る。得点は━━
この圧倒的な差。バットに当てることができれば芯からズレていようが場外まで飛んでいくだろう。
「やっぱり土屋君は凄いですね。これならきっとホームランを打ってくれますよ」
「あ、うん。打ったらきっとホームランだろうね」
明久の隣にいる姫路さんが小さくガッツポーズを取っている。彼女はこれで勝負が決まったと考えているようだが
「どうかな。俺の予想だとムッツリーニは勝負させてもらえないかもしれんぞ」
「そうね。東條の言う通り。土屋は打てないわ」
「え? どうしてですか?」
姫路さんは野球についてわかってないからか、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「あの得点差じゃからの。間違いなくムッツリーニは敬遠されるじゃろ」
「敬遠って━━あ。わざとフォアボールを出して勝負を避けるというヤツですね」
「うん。そういうこと」
「この場面で勝負すれば間違いなくホームランを打たれる可能性があるが敬遠すればランナーが一塁に進むだけで済むしな」
おそらく向こうとしてはこの回を抑えきって延長戦に持ち込みたいと思っているだろうから。ムッツリーニとの勝負は避けるに違いない。
『ボール。フォアボール』
『・・・・・・・・・・(コクリ)』
予想通り。ムッツリーニは歩かされてしまった為、得点にはならない。
「明久。次はお前の番だからとりあえず行って来い」
「了解」
「ちなみに明久。お主の点数は?」
「確か保健体育は23点だったかな」
「酷いもんじゃな」
「だって、それは、その・・・・・・。
「お前は取られなくても大して変わらんだろうが」
「アンタは何を使って勉強しようとしてるのよバカ」
その点数じゃ外野を抜けるのは難しいな。ここで塁に出ることが出来れば俺か雄二のどちらかが勝負できるかもしれんが。
「ま、気楽に行って来い明久。なんとかなる」
「? どういうこと? 何か作戦とかあるの?」
「いや。特に作戦があるわけじゃないが・・・・・・。いいからさっさと行け。審判に怒鳴られるぞ」
「あ、うん。行ってくる」
「明久君。頑張って下さいね」
「ありがと、姫路さん」
明久は姫路さんに送り出されてバッターボックスに向かった。
「で、坂本。アキも言ってたけど、本当に何の作戦もないの?」
「ない━━が、状況を見たらわかるだろ。この勝負、俺たちの負けはない」
「負けはないって、どういうこと?」
「いい島田さん。今は五回の裏。同点で、科目は保健体育」
「? そんなのわかってるわよ。でも、土屋は敬遠されて」
「そして、ランナーは━━あのムッツリーニだ」
「まぁEクラスのピッチャーが投球モーションに入ったらその意味がわかるよ」
『盗塁だっ!』
Eクラスの誰かがそんな叫び声をあげる。
ピッチャーからの牽制球がないことを確認すると、ムッツリーニは二塁を目指して駆け出した。
投球モーションに入ったピッチャーの球は、そのままキャッチャーへ向かって投げられ、明久はムッツリーニの盗塁を補助する為に、高めに大きくバットを空振りした。一応送球妨害に当てはまるがこれはあくまで体育祭の種目の一つでちゃんとした野球じゃないから大丈夫だろう。
「く・・・・・・!」
キャッチャーが球を受けて、即座に二塁へ送球しようとする。今のタイミングだと、アウトかギリギリセーフになるか微妙なとこか。
「なぁ雄二。確か保健体育の時のムッツリーニはかなりスピードが速かった筈だが」
「いや。ムッツリーニはワザと手を抜いているんだろうな。理由はおそらく相手を油断させるためだ」
俺と雄二がそう話していると、二塁に向かってキャッチャーが球を投げる。その瞬間、ムッツリーニの目がぎらりと光った。
「・・・・・・・・・・かかった」
突如、ムッツリーニの召喚獣の動きが一気に加速する。雄二の予想通り手を抜いていたか。
「は、速えっ!」
召喚獣は目にも止まらない速度で二塁ベースを踏み。そのまま止まることなく三塁へ向かったところで、キャッチャーの投げたボールが二塁に到達。ムッツリーニは最初から三塁まで盗塁する為にワザと手を抜いていたんだな。まぁ初っ端からあんなスピードを出していれば、キャッチャーは二塁を諦めて三塁へボールを投げていただろうし、作戦としては立派だな。
「サードっ!」
「わかってらぁ!」
キャッチャーが鋭く指示を飛ばす。指示を受けたセカンドは即座にボールをサードへ送球する。
またもやギリギリのタイミングになるが、果たして・・・・・・。
「・・・・・・・・・・加速」
ムッツリーニがキーワードを口にする。召喚獣は単教科で400点を取っていると特殊能力を発動することができ、ムッツリーニの場合はスピードを加速させることができる。
「んだとぉ!?」
Eクラス陣営からは悲鳴が上がり、ムッツリーニの召喚獣は霞むほどの速さで三塁に到達した。
「っざけんなぁっ!」
これで状況は1アウトランナー三塁となった。
「良し。後は犠牲フライさえ出ればこっちの勝ちだ」
後は打席に立っている明久がどう打つかによるが、ムッツリーニのスピードなら例えゴロになっても進塁して点は取れるだろうし問題な━━。
ゴスッ
『デッドボール。一塁へ』
「だから・・・・・・っ! どうして僕にはデッドボールばかり・・・・・・っ!」
明久は理不尽にもデッドボールを受け、一塁へと進もうとするが
『吉井明久、戦死!』
「え!? ちょっと待って! まだ試合が残ってるのに保健体育の点数が0になったんだけど!?」
「明久、とりあえず補充試験を受けてこい。野球の方は代走で近藤に任せる」
「チクショー! 最悪だぁーっ!」
「なぁに、試合のことは心配するな。ここでやったならきっちり勝っておくさ」
「うぅ・・・・・・。あんまりだ・・・・・・」
明久は重い足取りで職員室へと向かって行き、その後、俺がサヨナラヒットを打ったことでFクラスはEクラスに勝ったものの、明久は一人だけ勝利を味わえず疎外感を味わうのだった。
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