三ーE対三━Fの試合は決着がつかず、俺達の不戦勝が決定した。そして、準決勝に進んでいくのだが
「まさか次の相手がアイツらとはな」
「確か、三ーAだっけ?」
「ああ。あの常夏コンビがいるクラスだ」
ヤツらとは夏休みに行なった肝試しで対決したばかりだってのにこうして再び戦うことになるとは。あの二人とは妙な因縁関係ができたことか。
「んむ? ということは、ニーAは負けたということじゃな?」
「そうなるな」
「負けたって、あの霧島さんや木下さんがいるのに?」
明久が言うように、Aクラスには代表の霧島さんを始め、優子は勿論、愛子や久保。そして参謀を務めるアランがいる。これだけの精鋭が揃っていながら負けるなんていくらなんでもおかしいと思うが。
「ん〜・・・・・・まぁ、姫路程じゃないにせよ、アイツも野球はあまり詳しくないからな。その辺が原因で負けたんじゃないか?」
「もしくは三年には霧島さんクラスの人がいたって可能性もありえるしな」
「う〜ん、そういうもんかな」
とにかく優子達が負けたという事実に変わりはないのでこっちも気合を入れて行かないとな。こちらが得点できるチャンスがあるのは一回か二回程度だと考えておこう。
「ここでごちゃごちゃ考えていても仕方がないだろ。さっさとグラウンドに行こうぜ」
「それもそうだね。会ってみればわかるんだから」
「・・・・・・・・・・」
「んむ?どうしたのじゃ斗真? ボーッとしておるように見えるのじゃが」
「え? あ、いや。なんでもないよ。ちょっと気になることがあってな」
「そうか」
「おい斗真。チンタラしてないでさっさと行くぞ」
「あ、悪い。今いくよ」
ニーAが負けた理由が未だに気になるが、今は目の前のことに集中しないと。何しろ、こっちが勝利する為には雄二の作戦が肝になるからな。相手としては雄二や俺のことを知り尽くしている霧島さんや優子が率いるニーAクラスよりは、点数が高いだけの三ーAの方がやり易い。
「ちなみに雄二」
「ん? なんだ明久」
「ニーAが勝ち上がってきたらどうするつもりだったの?」
「久保を懐柔して十人対八人で勝負する予定だった」
「何の躊躇いもなく卑劣な手を直ぐ様思い付けるのは流石としか言いようがないな」
雄二は自信あり気に言うが、例え久保を懐柔できたとしても向こうにはアランがいるから大して変わらない気がする。アイツは学力では久保に劣るが、知略においてはおそらく雄二より優れているからな。
「久保君を懐柔って、何言ってるのさ。あの久保君がそんな汚い行為に手を染めるはずがないじゃないか」
「・・・・・・そうか。そう思っていられるのなら、お前はそのままの方が幸せなのかもしれないな・・・・・・」
「真実の久保はヨゴれた好意に身が染まっておるからの・・・・・・」
「・・・・・・・・・・知らぬが仏」
「ま、明久には知る必要がないからな」
「え? 何? どうして久保君の話をすると皆そんなに慈愛に満ちた目で僕を見るの?」
明久。お前には知らなくていいことがあるんだ。だから、今は気にしないでくれ。
「して雄二。この試合はどんな作戦で行くのじゃ?」
「ああ。正直、三ーAが相手とは言っても、翔子や久保がいるニーAが負けるとは思っていなかったからな。殆ど作戦なんてないんだが━━」
「で、どうするつもりだ?」
「━━奴らの召喚獣を殺そうと思う」
「わかりやすい作戦だな。やること事態が人として最悪だが」
「もう既にスポーツマンシップという概念は消え失せておるようじゃな・・・・・・」
「最低の作戦ね・・・・・・」
「殺す・・・・・・? アウトにするってことですか?」
「姫路さん。君は何も知らなくていいから」
「ほぇ?」
「わかった。乱闘で相手を再起不能にするんだね?」
「・・・・・・・・・・誰を狙えばいい?」
「なにゆえお主らは躊躇いもなくその作戦を受け入れられるのじゃ・・・・・・」
ムッツリーニは何の躊躇いもなく受け入れているし、明久も堂々と言ってるあたりからしてエロ本を取り戻す為には手段を選ばないようだ。
「いや、別に乱闘じゃなくてもいい。奴らを殺す手段は直接攻撃以外にも色々とあるからな」
「そっか。タックルしたりデットボールを狙っていったりもできるしね」
「・・・・・・・・・・振り切ったバットを相手に投げつけてもいい」
「ああ。理解が早くて何よりだ」
「「お前ら(お主ら)は真性の外道だな(じゃな)!」」
「アンタらねぇ・・・・・・。そんなことをして、相手に『卑怯だ!』って、文句言われても知らないわよ?」
俺や秀吉と同じ感性がまともな島田さんも明久達に呆れたように言うが
「ふふっ。わかっていないなぁ美波は」
「全くだ。島田には俺たちのスポーツマンシップが全然伝わっていないらしい」
「・・・・・・・・・・理解不能」
明久と雄二とムッツリーニが肩を竦めてみせる。何が言いたいんだコイツらは。
「な、なによアンタら。何が言いたいのよ」
「いいかい、美波?」
戸惑う島田さんに、諭すように三人で一斉に告げる。
「「「卑怯汚いは敗者の戯言」」」
「アンタら最低過ぎるわっ!」
いくら勝つ為とはいえ、コイツらの頭にはモラルという言葉を叩き込んでやりたい。
「んむ? じゃが、向こうの召喚獣を行動不能にしたところでこちらの勝ちになるわけではなかろう。そのあたりはどうするのじゃ?」
そもそもこちらの点数では碌に相手にダメージを与えられんではないかの、という秀吉の素朴な疑問。秀吉の言ってることは最もだ。例え相手を倒しにかかったとして、その後はどうするつもりなんだ。
「相手は三年だからな。持ち物検査が俺たちニ年しか行われなかった以上、向こうの優勝に対するモチベーションはこっちほど高くはない」
「ま、そりゃそうだろうね」
「だからそのモチベーションの差を利用する」
「モチベーションの差を利用するってもな。その手は多分使えないと思うぞ」
「あ、どういう事だ斗真」
「アレを見てみろ」
『あのクズどもが・・・・・・。あの時はよくも俺たちに恥を掻かせてくれたなぁ・・・・・・』
『おかげで他のクラスからは“今年の三ーAは不作の年”だとバカにされたんだぞ・・・・・・!』
『殺す。アイツらはここで絶対にコロス・・・・・・!』
守備に付いている三ーAは俺達Fクラスに対し明確な殺意を露わにしていた。
「ねぇ二人とも。 どうして常夏コンビを始めとする三年生の先輩たちは僕たちを憎たらしそうな目で見ているの?」
「そういうことか。 明久、この前の肝試しでお前らが勝った後、常夏コンビに何をさせたか覚えてるか?」
「何って? 姫路さんに謝らせただけなんだけど・・・・・・。あ、ひょっとしてあの時の」
「ああ。どうやら三年の連中は俺と明久に負けた後、姫路さんに土下座して謝らされたのを根に持っているみたいだ」
「なるほど。Fクラスに土下座して謝ったことはあやつらからすればかなりの屈辱を受けたに違いないからの」
「・・・・・・・・・・実際、常夏コンビは下げたくない膝を無理やり下げて謝ってた」
「そっか。それじゃあ向こうはやる気ならぬ殺る気満々だね」
「で、どうする?」
「ま、いいから見てろ。どうせ他に方法はないんだからな」
「んー。一応了解」
「・・・・・・・・・・了解」
それ以上の作戦の説明もなく、俺達はとりあえず試合のあるグラウンドへと向かっていくのだった。
「・・・・・・たまに、あんなヤツのどこがいいのかわからなくなるわ・・・・・・」
「外道な手段を駆使して、求めるものがエロ本じゃからな・・・・・・」
「あ、あはは・・・・・・」
「とりあえず。試合を始めるとするか」
『━━トライッ!バッターアウッ!』
審判のコールが響き渡り、先頭打者の島田さんが申し訳なさそうに戻ってきた。相手チームの三ーAは球速もコントロールも先程戦ったEクラスとは段違いだから無理もないな。
「ごめん。あれはちょっと打てないわ・・・・・・」
「気にするな島田。点数差が点数差だ」
この回の科目は化学。得意科目というわけでもないから、打てないのも仕方がない。そもそも、雄二の作戦は打撃ではなくラフプレイで相手をどう沈めるかが肝だからそんなものは何の意味も為さない。
『
2番打者の須川が召喚をする。因みにこの試合の打順は
1番 サード 島田美波
2番 ショート 須川亮
3番 ファースト 吉井明久
4番 ピッチャー 東條斗真
5番 キャッチャー 坂本雄二
6番 ライト 近藤吉宗
7番 セカンド 土屋康太(ムッツリーニ)
8番 センター 君島博
9番 レフト 横溝浩二
ベンチ 木下秀吉
姫路瑞希
となっている。
初回からいきならラフプレイをすれば警戒されるので島田さんには普通に打ってもらい。須川と明久には、様子を見つつもやれそうならやるように、と雄二が指示を出す。後は相手が油断してくれればいいのだが。
向こうのバッテリーは坊主頭の夏川とモヒカンが特徴の常村の常夏コンビ。二ーAとやった時は別の人達がバッテリーを組んでいたって話だから、相手が俺達Fクラスだと知ってわざわざ上がってきただろうな。そういう性格からしておそらく
『59点か。こいつぁはまた、随分貧相な点数だな』
マウントに上がっている夏川がこちらの点数を見て愉しげに嗤う。相変わらず人を見下した態度をとるヤツだ。
須川は点数を揶揄されても特に気にせず、打席に立つが夏川の投げるボールには手が出せず、いや目もくれずそのまま見逃し三振に終わった。
『おいおい。折角緩い球投げてやったんだからちゃんと打てよな?』
夏川はわざと挑発するように言い放つ。さっきから俺達をバカにしたような投球をしてくる辺り、どうやら体育祭の準備をやらされていることを根に持ってるな。ん? 夏川が俺を見ては今にも殺さんとばかりの勢いで睨みつけてるんだがどういう事だ?
「須川君。どうだった?」
明久がベンチに戻ってきた須川に寄り添っては声を掛ける。おそらく今の打席で、何か攻略の糸口を見つけたか聞こうとしているだろう。
「ダメだ。全く見当たらない」
「そっか・・・・・・」
「どこを探しても、この前のエロい着物姿の先輩が見つからない・・・・・・!」
「なるほど。それはそれでありがたい情報だよ」
どうやら須川は夏川など眼中になく、小暮先輩を探してたみたいだ。今の話を夏川が聞いていたら間違いなくブチ切れていたであろう。
「明久。任せたぞ」
「任せて。絶対に傷の一つは負わせてみせるよ」
「いや、そこは普通にバットを振ってこい」
明久が打席に立ち、点数が表示される。
『テメェで三つ目の三振だな、吉井明久』
『そう簡単に僕らは負けませんよ、変川先輩』
『おい待て。今俺の名前と変態という単語を混ぜて斬新な名字を作らなかったか』
『あ、すいません変態先輩』
『違う! 俺は変態に統一しろと言ってるんじゃねぇ! 夏川に統一しろっていってるんだよ』
『すみません。どうにも紛らわしくて』
『紛らわしくねぇよ! “夏川”と“変態”だぞ!? 共通点は文字数ぐらいしかねぇか!』
『まぁまぁ、そう熱くならないで下さい夏川変態』
『響きが似てるからって今度は“先輩”と“変態”間違えんなぁーっ!』
明久のヤツ。わざと間違えて言ってるな。対決を行う前に夏川はヒートアップしてるし。
『テメェ、吉井明久・・・・・・! 絶対に殺す!』
夏川の召喚獣が第一球を振りかぶっては勢いよく投げる。
『ストライッ!』
初球はど真ん中に直球。明久はその球に手を出さず、じっと様子を見る。
『へっ。手が出ねぇみたいだな』
そんな明久の様子がお気に召したのか、キャッチャーからの返球を受け取った夏川がご機嫌に鼻を鳴らす。
そして、第二球が投げられた。
『ストライク!』
二球目もど真ん中。
『なんだ。随分とおとなしいじゃねぇか』
二球続けて見送る明久に、夏川がつまらなさそうに吐き捨てる。
『様子を見ているんですよ。次でぶっ飛ばす為にね』
『様子見? ハッ! 正直に言えよ。本当は単純に手も足も出ないだけなんだろ?』
『・・・・・・・・・・』
明久はそんな挑発に応えず、黙って次の球に備える。
敵の投球は、島田さんや須川に対してのものを含めても、今のところは真ん中にしか投げていない。夏川の性格からしておそらく明久を三球三振で打ち取る為に次も真ん中に投げるだろうな。
『けっ。ジーッとボールばかり見やがって。男気のねぇ連中だな』
返球を受け取りながらも、様子見の姿勢を崩さない明久への罵倒を忘れない夏川。
ヤツはまだ気付いてないみたいだが、明久が見ているのはボールではなく、投球後の夏川の立ち位置だ。今までの動きからして同じ位置に立っているのはわかっている。三年だからか召喚獣の扱いには慣れていて、投球フォームに無駄な動作もない。
『そんじゃ、コイツでトドメだ』
夏川が第三球を振りかぶり、明久に向かって投げてくる。明久はその動きに合わせて、召喚獣にバットを全力で振らせた。が
『『━━って危なぁーっ!!』』
夏川の投げたボールは明久の召喚獣のこめかみを、明久の投げたバットは向こうの鼻先を掠めて飛んで行った。
『『おのれ卑怯なっ!』』
「どっちもだろうが」
「あやつらは普通に野球ができぬのかのう」
バットを振り飛ばした明久もそうだが、まさか夏川の方も三球投げ続けると見せかけて、明久にデッドボールを投げてくるとは。咄嗟に避けなかったら最早野球どころじゃなかったよ。
『ストライク。バッターアウト』
判定は勿論ストライクとなり、三振となる。これでアウトカウントは三つ。攻守交代だ。
「ごめん。これで警戒されちゃったかもしれない」
「気にするな。今の失敗は後で取り戻せば良い」
「・・・・・・・・・・皆でフォローするから心配ない」
「一見普通の会話に聞こえるが中身は最悪じゃな・・・・・・」
「ま、向こうも同じ事を考えてたみたいだし、お互いヤラれても文句は言えないな」
「コイツら、スポーツマンシップって言葉知らないのかしら・・・・・・」
「警戒とか、敬遠とか、野球って色々な専門用語があるんですね」
「姫路さん。後でじっくりと教えてやるから今の会話は聞かなかったことにしてくれ」
「んじゃ、今から守備に付くとしてだ。斗真、お前をピッチャーにした理由は言わなくてもわかってるよな」
「ああ。だが、後で三年からどんな報復されても俺は知らないぞ」
「よしっ。じゃあいくぞ。野郎ども、きっちり打ち取れ!」
「「「っしゃぁーっ!!」」」
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