俺がマウンドに上がって向こうのバッターボックスには三ーAのトップバッターが打席に付くのだが。
「東條・・・・・・。この前の肝試しはよくも三年に恥を掻かせてくれたな。絶対に許さねぇ・・・・・・。
トップバッターは敵意を撒き散らしては召喚を開始した。どうやら肝試しの件に関しては相当恨んでいるみたいだ。
召喚獣が表れ、点数が表示される。向こうもAクラスなだけあって良い点数を取っているが俺には及ばない。
《まずコイツとは普通に勝負する。この点数差なら打たれる心配はないが様子見だ》
《了解》
キャッチャーを務める雄二からのアイコンタクト。雄二の言う通り、Aクラス相手にどこまでいけるか確認はしておいた方が良さそうだ。ここでコイツらを負かして決勝に進めば更に上の点数を誇る教師達と戦うことになるからな。どこまで勝負できるのか試させてもらうか。
雄二にアイコンタクトで返事をし、俺は召喚獣を振りかぶらせては投球動作をする。雄二はミットを外角低めを要求してきたのでそこへ向けてボールを投げる。
『ットライッ!』
相手打者は初球を見逃してはじっくりと見てきた。こっちの球速と球威を確認したところか。点数ではこちらが上回っているからおそらく向こうは警戒している。
雄二からボールが返球され、再び投球動作を入る。今度は外角高めを要求し、相手の打撃フォームがオープンスタンスっていうところから見て打ちにくいところを狙っているな。
指示されたところにボールを投げると、相手はバットを振ってきた。
カキン、と音をたてて宙へ上がりボールはそのまま伸びることなく、前進したセンターにキャッチされて終わった。
「く・・・・・・っ!」
トップバッターは悔しげに俺を睨んではベンチへと戻って行く。
今の打席から見てわかったことは、いくら点差があったとしても、ある程度真芯に当てないと打球は飛ばないってことだ。
さっきのEクラスとした時みたいに、点数に差がなくても上手く当てればホームランになることもある。力があるだけでは勝てないってところは、普通の野球と一緒ってところか。ま、力があった方が有利なのは変わらんけど。
「よし。俺の出番だな。
常夏コンビの片割れで、さっきはキャッチャーをしていた常村が打席に立つ。点数は腐ってもAクラスなだけはあるか。
「さてと。吉井に坂本に東條・・・・・・! 溜まりに溜まった今までの屈辱、俺に土下座させたこと、きっちり利子つけて返してもらうぜ・・・・・・っ!」
常村が俺を睨みつけてくる。土下座させられたことを根に持ってるからか向こうはやる気だが、対するこちらはというと
《一球目は外していくぞ》
雄二がミットを構えるが、その場所は、バットの届かないくらいの外角。ストライクゾーンから外れているし、雄二の意図を俺は理解した。
大きく振りかぶり、第一球を投げる。すると、常村はわざとらしいほど大きなスイングでバットを空振った。
「っと、手が滑った!」
常村が振り切ったバットをそのまま止めずに回転させ━━キャッチャーをしている雄二の召喚獣に向かって放り投げた。
常村が振り切ったバットが当たっては、雄二の召喚獣がダメージを負った為点数が消費される。さっきまでは200点台だった雄二の点数が一気に減ってしまった。
「悪いな坂本。わざとじゃないんだが」
審判の目を横目で確認しながら雄二に声を掛ける常村。今のが故意の行動だと判定されたら退場になる。常村はそれを恐れて心にもない謝辞を口にしたのだろう。
「・・・・・・いや。気にすることはない。スポーツに事故はつきものだからな」
一方の雄二はさして気にした風もなく、爽やかにそれを流す。召喚獣を屈ませ、さっきの衝撃で溢してしまった球を拾わせた。
「そうか。さすが坂本は心が広いな」
「いやいや。それほどでもないさ」
表面上はにこやかに会話をしているが、雄二は拾った球を俺に返球する為、こちらに向かって全力で投げつけた。
━━俺と雄二の間には、常村の召喚獣がいたにも関わらずだがな。
ゴスッという鈍い音をたててはボールが常村の召喚獣の頭と衝突する。
「すまないな先輩。俺はどうにも召喚獣に慣れていなくてな」
今度は常村の点数が減った。雄二の点数が100点近く減らされたのに対し、向こうは30点ちょっと。やはりバットとボールでは攻撃力にはっきりと違いはあるか。
「けどまぁ、仕方がないよな? スポーツに事故はつきものだもんな?」
「く・・・・・・っ! そ、そうだな。このくらい笑って許してやるよ。大したダメージでもないからな・・・・・・!」
こめかみに青筋を浮かべんばかりの常村。掴みかかってやりたいが審判の手前にいるから仕方なく堪えてる、って感じだな。
『君達。試合に集中しないさい。小競り合いするようなら2人とも退場にしますよ』
「「・・・・・・・・・・」」
審判の先生に咎められ、それ以上は何も言わずにそれぞれの役割に戻る二人。今度は遮られることなくこちらに届いたボールを受け取り、俺は召喚獣にピッチングの構えを取らせた。
念の為、雄二の合図を確認する。
《斗真。そろそろ仕掛けるぞ》
《・・・・・・わかった》
そして出された攻撃の合図。ミットの位置はど真ん中だが、俺が投げる球は打者の頭狙い。普通なら退場ものだが常村には清涼祭や肝試しで色々迷惑をかけられた恨みもあるし、俺は何の躊躇もなく、狙い澄ました投球で、ヤツの頭をブチ抜く。
「来い、東條」
常村が身体をマウンドに向けて開いた状態で構えている。あの構えからしておそらく、ピッチャーに向かってでも、キャッチャーに向かってでも、バットを投げやすいようにしているな。常村の狙いは間違いなく雄二だ。さっきのやりとりで相当腸が煮えくり返っているだろうから。俺は全力で敵の頭を狙い撃つ。
バッターとの間に緊迫した空気が流れる中、俺の召喚獣が三度目の投球を行なった。
ボールはバッターの脳天へ飛んで行き、バットもキャッチャーへ向かって振り切られる。互いの渾身の一撃は、それぞれの目標に対して吸い込まれるように命中した。
『━━デットボール』
ボールが地面に転がる。そして、俺達の攻撃の結果が表示される。
「チッ。仕留めそこねたか」
「ナイスだ斗真!」
「・・・・・・の野郎っ!」
雄二が100点以上減ったのに対し、常村の点数は10点になった。少し力加減が甘かったか。
『っていうかテメェら、今のわざとだろ! 先輩に向かって良い度胸じゃねぇか!』
『何言ってやがる! そっちが先に仕掛けてきたんだろうが!肝試しに負けたのを根に持ちやがって! 器が小せぇぞ先輩!』
『んだと!? 上等だ! こうなりゃ野球なんて面倒な事やってねぇで、直接━━』
『望むところだ。元々三年は気にくわなかったんだ。ここらで一発━━』
ベンチや他の選手達からそんな声が上がった。どちらも良い感情を抱いていない相手だからか、敵意が高まるのは仕方がない。後は雄二の目論見通り、乱闘になるだろう・・・・・・。
キャッチャーを務める雄二の口元がにやりと歪む。あの野郎。今から面白そうなことになるなって顔をしてるよ。こんなところをあのババァに見られでもしたら
「おやめバカどもっ!」
予想が的中したかの如く。しわがれた声が入ってきた。どうやらあのババァはこの試合を見ていたようだ。
「やれやれ、つくづく救えないガキどもさね・・・・・・。どうして召喚獣勝負にまでしてやったのに、おとなしくできないんだい」
ババァこと学園長は額を押さえては呆れたように俺達を見つめる。
「なんだババァ。何をしに来たんだ?」
舌打ちでもせんとばかりの口調で雄二が問いかける。まぁ狙いを邪魔されたから悔しそうにするのはわかるけどこればっかしはババァが止めるに入るのは当たり前だ。
「学園長と呼びなクソガキ」
ふん、と鼻を鳴らして雄二の方を向く学園長。そのまま一同を睥睨して
「まったく・・・・・・組み合わせを聞いて人がちょい様子を見に来たらこのざまかい。折角、来賓だって召喚野球に満足してくれたんだ。この後におよんでアンタらがバカやって評判を落とすんじゃないよ」
と続けた。
どうやら学園長は対戦の組み合わせを見て、俺達が何か問題を起こさないかと監視をしに来たが、その予想は見事に当たっており、ここで止めに入らなければ俺達は乱闘を起こしていたからな。
『止めないで下さい学園長! ニ-Fのクズどもに礼儀と常識ってヤツを叩き込む必要があるんです!』
『こっちこそもう我慢ならねぇ! 人のことを散々バカにしやがって!学園長!この先輩面したカスども、いや、土下座野郎どもを殺らせて下さい!』
『誰が土下座野郎だ坂本っ!』
『元はと言えばお前らが無理矢理させたのが悪いだろうが!』
「だからお止めって言っているんだよ! クソガキども!」
言い争う皆に、学園長が再び一喝を浴びせる。流石は年の功と言うべきか。ここにいる全員が黙り込んだ。
「本当に、このガキどもときたら・・・・・・。召喚獣の痛みが返って来ないから、そんな短絡的に乱闘へと雪崩れ込むのかねぇ・・・・・・」
呆れたように頭を振り、俺達を見てしばし考え込む学園長。
そして、意を決したように腰に手を当ててはこう告げてきた。
「よし、決めたよ。この試合だけ、召喚獣の設定を変えてやろうじゃないか」
「「「は?」」」
その場の全員が異口同音に聞き返す。
「あの、学園長。設定を変えると言いましたが一体どうするおつもりで?」
「どうするも何も、全員に痛みがフィードバックするようにしてやるって言ってんだよ。そうしたら、乱闘なんかせずにまともに試合をするだろう?」
あ、そういうことか。要するに
「それはつまり・・・・・・。俺達全員明久と同じ様に召喚獣の受けたダメージが直に伝わってくるってことですよね!?」
「「「なにぃーっ!?」」」
今俺の言ったことが本当になったとしたら悲惨な展開を迎えることは目に見えている。なんてことをしてくれるんだこのババァは・・・・・・!
「待って下さい学園長! もしそうなったとしたらこの場は益々とんでもないことに━━」
「じゃあ、そういうことだよ。全員真面目にしっかり野球をやりな」
学園長は俺の言葉を意に介さず、手を降っては校内に向かって歩き去って行った。
「えーっと」
突然の出来事に頭がついていかず、明久を含むこの場にいる全員が口をポカーンと開いては立ち止まっている。
「すんません。ちょっとタイムで」
そこで雄二が今更ながらタイムを審判に申請し、正式に試合を中断した。ここは一旦話し合った方がいいな。
マウンド付近に、雄二や他の内野が集まったので早速話し合う。
「どうする二人とも? 乱闘の目論見が崩されたよ?」
「問題ない。予定とは違うが、こうなったらこちらの秘密兵器を使うまでだ」
「秘密兵器?」
「おい待て、秘密兵器ってのはひょっとすると」
「ああ。お前の予想通りだ。幸いにも次のバッターは坊主野郎だ。手加減する必要もない」
雄二は次の打者が夏川だからか、何も気にせずベンチに視線を送ってからピッチャーの交代を宣言した。
「ピッチャー東條に代わって、姫路。キャッチャーを俺から吉井に、キャッチャーの俺はサードの島田と交代。東條はファーストだ」
守備位置とピッチャーの交代を告げるが、今の話を要約すると姫路さんをピッチャーにしてその球を取るキャッチャーを明久に。明久が付いてたファーストには俺が付き、雄二が島田さんに代わってサードに付き、島田さんがベンチって、ちょっと待て。
「雄二! なに自分だけ被害を免れようとサードに付こうとしてんだコラァ!」
「当たり前だろ!このまま続けたら俺にも被害が及ぶのはわかりきってるだろうが。んな危ない橋を渡ってまで野球をしたくねぇよ!」
「んなもん俺だってそうだよ! てか元はと言えばお前らが卑劣な手を使ったからこうなったんだろうが!」
「うるせぇ!もう交代をしてしまったんだからお前は黙って守備に付け!」
『お二人とも。喧嘩は止してください。退場にしますよ』
チッ、今ここで言い争っても仕方がない。とりあえず俺は雄二の指示通りにファーストに付くとしてだ。後でたっぷりと仕返しをしてやらないとな。
『あの、明久君、よろしくお願いしまひゅっ!』
『あ、うん。よろしくね姫路さん』
明久とバッテリーを組むことになったからか姫路さんは緊張しては噛み噛みで話す。さっき雄二と何か話をしてたみたいだが、話をしてる時の雄二の顔付きから察するに碌なことにならないのは言うまでもない。
『私、明久君を信じて全力で投げますっ!』
『あはは。そう言って貰えるのは嬉しいよ。頑張ろうね』
『はいっ。頑張って素敵な家庭を築きましょうねっ! えっと・・・・・・あ、アナタ・・・・・・』
雄二。姫路さんに余計なことを吹き込んだな。これが終わったら後で訂正しとかないと。
『じゃあ、ばっちり受け止めて下さいねっ』
そう言っては小走りでマウンドに上がり、準備を始める姫路さん。明久は自身が危険な目に合うことにも気付かずキャッチャーの位置に付く。
そして試合が再開し、状況は1アウト、ランナー一塁。
『へっ。何の小細工を考えたかしらねぇが、俺には通用しないってことを教えてやる。
3番打者の夏川がバッターボックスで召喚を始める。
『が、頑張ります・・・・・・。
姫路さんもマウンドに上がっては召喚獣を喚び出す。
『げっ!そういや、あの女はかなり点数があったんだよな・・・・・・!』
夏川が姫路さんの点数を見て戦く。それもそうだ。姫路さんは第二学年主席の霧島さんに次いで学力があるからいくらAクラス所属の夏川といえどもそうそう勝てるもんじゃない。
『くそ。高城抜きでやるのはキツいかもしれねぇな・・・・・・』
高城?
「おい、今夏川が高城って言ったよな?」
先程夏川が言った言葉に反応した俺は試合中にも関わらず隣で突っ立っている常村に尋ねる。
「あっ? それがどうしたってんだよ。お前には関係な━」
ガッ
「ぐぁっ! て、テメェ・・・・・。先輩に向かっていきなり何を・・・・・・!?」
『と、斗真!?』
俺は常村の胸倉を掴んでは殺気を露わに常村に詰め寄り。その行動に驚いたのかここにいる全員が目を丸くする。
「つべこべ言わずに答えろ! 今夏川は高城がって言ってたよな!」
声を荒げて再び聞き返すと常村は観念したのか怯えながら口を開く。
「あ、ああ。今夏川が言ったのは俺たち三ーA代表の高城雅春のことだよ。それがなんだってーヒィッ!?」
常村は俺の放つ威圧感に蹴落とされたのかさっきよりも激しく怯えだす。
「斗真。ひとまず落ち着くのじゃ!」
「そうだよ。いきなりモヒカンの胸倉を掴んだりしてどうしたのさ!?」
この場にいる全員が殺気を露わにしている俺を見て驚いており。明久と秀吉が止めに入ってきた。
「悪い二人とも。今はそれどころじゃなかったな・・・・・・」
自分が何をしているのか瞬時に理解した俺は常村から手を離す。
「とりあえず明久。俺はもう大丈夫だから自分のポジションに戻れ」
「う、うん・・・・・・」
俺を気にしながら明久は自分のポジションへと戻って行く。
「斗真。一体どうしたと言うのじゃ。お主がそこまで取り乱す姿を見るのは初めてじゃぞ」
「秀吉。わけは後で話す。だからお前もベンチに戻れ」
「わかったのじゃ・・・・・・」
クソッ! ヤツの名前を聞いた瞬間。嫌な思い出が甦ってしまったじゃねぇか。
「おい東條。高城との間に何が━━」
ギロッ
「━━って、聞けそうにねえな」
常村は俺と先程言った高城との関係について質問してきたがあの事については言いたくないから威圧して牽制した。
『え、えっと私はどうすれば・・・・・・』
『姫路さん。もう斗真は落ち着いているみたいだから始めたらいいよ』
『そうですか。じゃあ、よろしくお願いしますっ』
姫路さんは投球に入ろうするが。明久は何故自分がキャッチャーをやらされてるのかを察したのか顔を真っ青にする。
『えっと、このプレートに足をかけさせて、こうして・・・・・・』
『待って待って姫路さん!』
『? なんですか明久君?』
明久は雄二の企みに漸く気付いたのか姫路さんを慌てて止める。姫路さんの召喚獣は400点を超えていて特殊能力を使えるから、そこから繰り出されるボールがどれほど危険なものかは言うまでもない。
『ほら、一塁にランナーがいるでしょ? まずはその人に盗塁をされないよう、牽制球を投げてみようよ』
「待て明久!それが何を意味するのかわかってて言ってるよな!?」
『牽制球━━あ、わかりました。ボールを一塁に投げたら良いんですね』
『そうそう。一塁にいる斗真にボールを投げて貰える?』
「明久ぁーっ!!」
『了解です。それじゃ━━』
姫路さんの召喚獣が腕を振り上げ、投球の構えを取る。マズい!
「クッ!こうなったら仕方ない」
ガシッ
「お、おいテメェ! 何俺の召喚獣を盾にしやがるんだ!? 離しやが━━!」
「やぁ━━っ!」
━━キュボッ
「・・・・・・・・・・は?」
咄嗟に常村の召喚獣を盾にした為、俺の召喚獣は大して点数は減っていないが、身代わりにされた常村の召喚獣はドサリと音を立ててはその場で倒れる。
身代わりにされた常村は綺麗に上半身が消し飛んでいた。
「ぎぃゃぁああああーっっ!! 身体が! 身体が痛ぇぇえええっ!!」
「い、痛たた。手がここまで痺れるとは、やってくれたな。あのババァ」
遅れて召喚者の常村が悲鳴を上げる。どうやら召喚獣の設定変更はバッチリのようで、俺の手が少しだけ痺れているのに対し、常村はあまりにもの痛さにのたうち回っていた。
『あ・・・・・・! ご、ごめんなさいっ! 私、どのくらいの力加減で投げたらいいのか全然わからなくて!』
姫路さんがあたふたと頭を下げている。下で転がっている常村はそれどころでは済まないんだがな。
『負傷退場者の交代要員を出してください』
審判の先生がクールに交代を促した。苦しむ常村を運び出し、代走として男の先輩が入った。
『うぅ・・・・・・。失敗しちゃいました・・・・・・』
姫路さんはわざとじゃないとはいえ常村を葬り去った事に対し、自責の念を見せる。できれば行ってフォローしてやりたいが、ここで手加減をしてもらわないとキャッチャーをしている明久にも被害が及ぶ。明久もそれをわかってるからかミットを震えながら構えていた。
『気にするな姫路。お前はただ全力で投げればいい』
『でも・・・・・・』
『いいんだ。ピッチャーはそれが仕事なんだからな』
『でも、そんなことをしたら、今度は明久君が』
『おいおい。なんてことを言うんだ。お前は明久を信じられないのか?』
『あ・・・・・・。い、いえっ! そんなことありませんっ!』
雄二。明久を殺す気満々だな。明久も雄二を憎たらしそうに睨んでいるよ。
『行きます、明久君っ!』
姫路さんはそう言っては明久に向かって投球をする。
『え、えいーっ!』
『ん? は━━なンでっ!?』
可愛い掛け声と共に放たれた剛速球は、目にも止まらぬ速さで━━次打席の用意をしていた三年生を直撃した。
元の点数も不明な4番は、そのまま帰らぬ人となった。これで犠牲者は二人目だ。
『し、審判! あれは危険球じゃないのか!? 退場モンだろ!』
バッターボックスに立つ夏川が血相を変えて主審に反則を訴える。すると、雄二が口を出してはこう告げる。
『おいおい、酷いこと言うなよ先輩。姫路のあの姿を見たらわざとじゃないことくらいわかるだろ?』
『ほ、本当にごめんなさいっ!私ピッチャーとか初めてで緊張しちゃって・・・・・・!』
『大丈夫よ姫路さん。アナタがわざとじゃないってことは皆わかってるんだから』
姫路さんが三ーAベンチに走り寄り、ぺこぺこと頭を下げ、ベンチに座っていた姉ちゃんも姫路さんをフォローしては宥めていた。あれだけ謝っていれば誰から見てもわざとだと思わないだろうな。
『ふ、ふざけんな坂本ぉっ! 故意じゃないにしても許されないことってもんがあるだろうが!』
『黙れ土下座野郎。さあ先生、よく考えて見てください。苦手でもクラス行事に一生懸命参加する可憐な生徒と、神聖なスポーツに悪意を持ち込む不細工な先輩。あなたは聖職者としてどちらを応援しますか?』
『プレイッ!』
『審ぱぁん!?』
無情に告げられる試合続行の掛け声。さっきまでのラフプレイと比べれば、姫路さんの行動に悪意は微塵もない。妥当と言えば妥当の判断だが、審判の目が節穴かと疑いたくなる。
『おい吉井! あの女をどうにかしろ! このままだったらお前も死ぬぞ!』
『む、無理ですよ! ああ見えて、姫路さんは結構思い込みが激しいんだから!』
バッターボックスに立っている夏川は明久と言い争っているが、今の姫路さんはそれくらいでは止まらない。
『うぅ・・・・・・。難しいです・・・・・・。もっと力を込めたらうまくいくんでしょうか・・・・・・?』
「え? 今のは本気じゃなかったの・・・・・・?」
マウンドに戻った姫路さんが溢した台詞に、この場にいる全員から冷や汗が流れた。
唯でさえコントロールを無視したトップクラスの全力投球。最早ベンチ付近ですら安全ではないというのに、その話を聞いてしまえば明久だけじゃなくこの場にいる全員が野球という競技を忘れさせるには充分な材料だった。
最早これは野球というより殺戮ショーと言っても過言ではない。
『こ、今度こそ・・・・・・明久君のところへっ!』
『『ひぃぃ━━っ!!』』
バットもミットも放り出し、頭を抱えて蹲る明久と夏川の召喚獣。剛速球はその頭上ギリギリを凄い勢いで掠めていた。
『ボール』
審判がボールと宣告するが最早あれはストライクとかボール以前の問題な気がする。
『替えろ坂本! あのピッチャーを今すぐ替えろぉっ!!』
『何を言うんだ先輩。徐々に狙いがシャープになってきているというのに』
『その狙いがキャッチャーミットだとは思えねぇんだよ!』
それは俺と明久も同感だ。
言い争う夏川を他所に、姫路さんはマウンド上で何かを呟いていた。
『うぅ・・・・・・。きっとこれは、私が明久君のことを心の底から信じ切れていないからうまくいかないんです・・・・・・。もっともっと明久君を信じないと・・・・・・』
「姫路さん! お気を確かに!」
俺が姫路さんに声を掛けるも、彼女は戻されたボールを握り締めては、更に恐ろしい行動に出ようとする。
『おい!?あのピッチャー、目を閉じてないか!?』
『違う。あれは信頼関係の表れだ。キャッチャーのリードを心から信じてるからこそ、目を閉じていても投げられるんだ』
『だから目ぇ瞑ったらそのリードが見えねぇって言ってんだよ!』
『じゃああれだ、心の眼ってヤツだ。達人は目で見なくとも気配で獲も━━相手の居場所を探り当てることができるんだ』
『居場所探り当ててどうすんだよ! 必要なのはストライクゾーンだろ!? てかお前今獲物って言いかけなかったか!?』
『言いがかりはよして貰おうか獲物先輩』
『言っただろ!? 今思いっきり俺のことを獲物先輩って言っただろ!?』
その獲物とやらには明久も含まれているだろうな。
『あの、姫路さん! 聞こえてる!? そこまで頑張らなくても』
『すぅ・・・・・・。はぁ・・・・・・。すぅ・・・・・・。はぁ・・・・・・。大丈夫、明久君を信じていれば、きっと上手くいきます』
『姫路さぁん!?』
どうやら姫路さんは瞑想ならぬ迷走状態になっており、言葉やサインが届かないみたいだ。もうあれから逃げ切るには・・・・・・自力でなんとかする他ないか。
『し、仕方ない。こうなったら姫路さんが投げた瞬間に大きく横っ飛びをしよう。そうしたら、運が良ければ生き延びられるはずだ・・・・・・!』
『き、汚えぞ吉井! 一人だけ助かろうって魂胆か!』
『すいません先輩! 僕は自分の命が惜しいんです!』
野球のルール上、打者はバッターボックスから出ることができない。夏川は限られた範囲内で姫路さんの投げる球を躱すしか逃れる方法がない。
『行きます、明久君っ!』
『できれば目を開けて、姫路さん!』
姫路さんの呼び声に、明久は必死で命乞いをする。
しかしながらそんな切なる願いは届かず、姫路さんは目を閉じたまま全力でボールを叩き込んできた。
━━夏川の、召喚獣の頭に。
「・・・・・・・・・・うわぁ。夏川がグロテスクになってるよ」
今俺の目の前に映っている打者の姿は、まるで飛び散ったザクロを彷彿とさせる姿に成り果てていたのだった。
『ひでぇ・・・・・・よ・・・・・・。あの女、絶対・・・・・・悪魔だ、よ・・・・・・』
無残な姿に変わり果てた自らの召喚獣の隣で、痛みと意識を失いかけた夏川が倒れている。これは流石に同情せざるを得ないな。
「先輩。もうこれ以上続けても悲惨な結末を迎える他ありませんが、どうしますか?」
「・・・・・・棄権するよ」
「了解しました」
そうして俺達は三ーAから棄権を勝ち取り。無事決勝へと進むことができたのであった。
「・・・・・・斗真。高城君がこの学園にいることを知ってしまったのね。まだ、あの事を引き摺っているままなのに」
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