バカと双子と二刀流   作:ペンギン太郎

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第十問 昼食

 「斗真。少し良いかの」

 

 「なんだ秀吉?」

 

 三ーAとの試合が終わり、自分達が使用している待機場所へ戻る途中、秀吉が神妙な顔をしては俺に尋ねる。

 

 「先程お主は『高城』という名前に過剰に反応しておったのじゃが、一体何があったのか聞かせてくれぬか?」

 

 「・・・・・・そうだな。いずれ知られることだし、教えてやるよ。秀吉が言う『高城』っては俺もさっき常村から聞いたんだが、どうやら三ーAの代表って話みたいだ」

 

 「ふむ。その高城という人が斗真とはどういう関係なのじゃ?」

 

 「・・・・・・・・・・」

 

 「斗真?」

 

 「・・・・・・ヤツは、高城は・・・・・・。俺の人生を狂わせた。最低最悪な男だ」

 

 

 

 

 

 「雄二・・・・・・。よくあんな非道な作戦を立てたよね・・・・・・」

 

 「いや・・・・・・。フィードバックについては想定外だったからな・・・・・・。流石にあれは俺でも同情するぞ・・・・・・」

 

 「だったら、最初から卑怯な手を使わず、まともにやれば良かっただろうに。まぁ向こうも同じ手を使ってきたから大して変わらんかっただろうけど」

 

 「あの、明久君、東條君・・・・・・」

 

 秀吉に俺と高城の間に何があったか伝えた後、明久達が待っている待機場所に戻ってきたものの。俺達は三ーAを相手に勝利を収め、昼休みを向かえる筈が、先程のえげつないプレイが未だに忘れられないからか一切の爽快感を味わえずにいた。

 

 「そもそも俺は『三年は持ち物検査を受けていないから、再試験を受けてまで試合を続けようと思わないだろう』と考えていただけだ。だがお前らが肝試しのときに与えた屈辱を根に持っていたから無意味になるかと思っていたが、ババァが余計な介入をしてくれたおかげでああするほかなかったんだぞ」

 

 「あの、坂本君・・・・・・」

 

 常夏コンビはともかく、無関係な4番の先輩には悪いことをしてしまったな。あれだけ痛い思いをしてしまったんだ。トラウマになってもおかしくはない。

 

 「流石に学園長もやりすぎたと思ったようじゃの。あと後すぐに元の仕様に戻すと言っておったぞ」

 

 「・・・・・・・・・・惨劇だった」

 

 「あの、木下君、土屋君・・・・・・」

 

 あれほど悲惨な光景を目の当たりにしながら問題ないと言い切る人は教育者どころか人間ですらない。一応散っていった三人には鎮魂歌を捧げてやらないとな。

 

 「で、次はいよいよ決勝だぞ雄二。どうするつもりか聞かせてもらおうか?」

 

 「ああ。午後からの勝負だが━━」

 

 「あのっ! 五人ともっ!」

 

 必死の呼びかけに応じなかったからか、姫路さんは声を大きくしては俺達に呼びかけた。あそこまで声を上げられたからには無視することはできない。

 

 「「「「「・・・・・・・・・・はい」」」」」

 

 「実は私、お弁当を作ってきたんですけど・・・・・・」

 

 姫路さんが大きな包みを差し出す。それを手にして歩いている姿を見た瞬間、自分達がどうなるのかを察した。だから俺達は先程まで黙り込んでいたのだが返事をしてしまった今さっきまでの沈黙は何の意味も為さない。

 

 「ホント、瑞希って尽くすタイプよね」

 

 姫路さんの隣にいる島田さんが拗ねた顔をしては面白くなさそうにする。

 

 「ま、まぁ、とりあえず座ったらどうかな」

 

 俺はその場から立っては姫路さんと島田さんに場所を譲る。そしてそのまま踵を返して

 

 「じゃあ。俺は向こうで優子達と一緒に飯食ってくるよ」

 

 「だったら、俺は飲み物を買ってくるとしようかな」

 

 「いやいや。斗真は僕たちと同じクラスだから一緒に昼飯を食べようよ。それに、雄二は座ってなよ。僕が買ってくるから」

 

 「そう言わず、ここはワシに任せるのじゃ」

 

 「・・・・・・・・・・俺が行く」

 

 俺を除く四人がまるで競い合うかのように席を立とうとするが、狙いは飲み物を買うと見せかけその場を離れようとしているのが見てわかる。そうしたい気持ちはわからなくもないが。

 

 「ははっ。無理するなよ明久。飲み物を買ってくるには金が必要だろ?」

 

 「大丈夫だよ、最近結構余裕があるから。何より、使いっぱしりと言えば僕、僕と言えば使いっぱしり。これ以上の適任はいないと思うんだ」

 

 「都合良く自分を卑屈するな明久」

 

 「待つのじゃ。使い走り歴十五年。姉上にこき使われ続けるワシのキャリアを舐めるでない。明久よりほぼ洗練された使い走りをご覧に入れよう」

 

 「秀吉。今の台詞を優子が聞いていたらお前は只では済まされんぞ」

 

 「・・・・・・・・・・違う。必要なのは速さ。【闇を裂く疾風迅雷の使い走り】と呼ばれた俺こそが、適任」

 

 「ムッツリーニ。格好良く言ってるつもりが『使い走り』という言葉が入ってる次点で格好悪くなってるぞ」

 

 俺を除く明久ら四人は使いっ走りという名目を利用してはこの場から離れようと必死になっている。行ってしまえば適当に口実を作って誤魔化すことができる。残ってしまった俺を含む四人の命と引き換えにだが。

 

 「テメェら、上等じゃねぇか! この俺の使いっ走りに勝てると思うなよ!」

 

 「何を言ってるのさ! 僕の使いっ走りの方がずっと凄いに決まってるじゃないか! 雑魚どもは引っ込んでるべきだ!」

 

 「雑魚とは心外じゃな。このワシの使い走りを見ずに、よくそんなことが言えたものじゃ」

 

 「・・・・・・・・・・いいから黙って俺に行かせろ・・・・・・!」

 

 「たかが飲み物を買いに行くだけでここまでする必要あるか?」

 

 明久達が我が先に使い走りをと下らない言い争いをしている。すると

 

 「あ、飲み物ならウチが用意してきたけど?」

 

 「「「「・・・・・・・・・・ああ・・・・・・そうですか・・・・・・・・・・」」」」

 

 「さっきまでの言い争いが無駄に終わったな」

 

 島田さんの優しい心遣いに涙を流す明久達。これは流石にドンマイとしか言いようがない。

 

 「それじゃ、座らせてもらうわね」

 

 島田さんが輪の中に入り、その隣に姫路さんもちょこんと座る。

 

 「さ、さて。今日はどんなお弁当なんだ?」

 

 「う、うむ。た、楽しみ、じゃなぁ・・・・・・」

 

 「まったくだね。あはは、あはははははははははは」

 

 「・・・・・・・・・・ドキドキが、止まらない・・・・・・」

 

 「だな。ど、どうなってるのかわくわくするな・・・・・・」

 

 俺達が背筋に冷たい何かを感じていると、姫路さんは持っていた包みを解いてはその中身を見せてくれた。

 

 「あれ? 瑞希、なんだか今日は量が少ないんじゃない?」

 

 お弁当の中を見て島田さんが尋ねる。確かにサイズは小さめで、普通の重箱一つと、二回りほど小さいサイズのが一つ。いつもならこれの倍くらい作っていた筈だ。

 

 「あ、はい。実は、また失敗しちゃったんです」

 

 そう言いながら姫路さんは大きい方の包みを開け、その中身は俵の形に握られたおにぎりが入っていた。

 

 「本当はこれの他にちゃんとおかずを作っていたんですけど・・・・・・」

 

 姫路さんには申し訳ないが、失敗してくれたのが俺達にとって唯一の救いだと思う。

 

 「美波ちゃんもどうですか?」

 

 「え? じ、じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 「「「「「あっ!」」」」」

 

 俺達が制止するよりも早く、島田さんがおにぎりを一つ手に取っては口に入れる。てか、前に姫路さんは料理に劇薬を入れるって言ったんだが、はたして

 

 「うん。普通のおにぎりだけど、美味しいわよ瑞希」

 

 「そうですか。良かったですっ」

 

 安心したように姫路さんは笑顔を見せるが。一応聞いてみるか

 

 「あの〜姫路さん。このおにぎり、どうやって作ったか聞かせてくれる?」

 

 俺は姫路さんにおにぎりの詳細を聞く。もしおにぎりに劇薬を混ぜ込んでいたら島田さんはその場で倒れる筈だからな。

 

 「特に何もしていないですよ? 炊いてあったご飯に、お塩を振ってから俵形に握って、海苔を巻いただけです」

 

 そうか。流石に劇薬は混ぜていなかったか。まぁ普通は料理に劇薬なんて使わないのが当たり前だしこれで一安心

 

 「おにぎりが普通な分、おかずを特別製にしていたんですけど、ね」

 

 できなかった。今回はおかずを持参してなかったからいいけど、また持ってきた時は気を引き締めておかないとな。

 

 「それじゃ姫路さん、僕もいただきます!」

 

 「俺も一つ貰うよ」

 

 「あ、はい。どうぞ」

 

 俺と明久はお弁当の中のおにぎりを一つ貰っては口に入れる。塩と海苔だけの普通のおにぎりだが、姫路さんが作ったとは思えないくらいとても美味しかった。

 

 「んじゃ、俺も遠慮なく」

 

 「ワシもいただこうかのう」

 

 「・・・・・・・・・・いただきます」

 

 雄二達もおにぎりを口に入れる。いつもの味を知っているからこそわかる。この味のありがたさ。まるで砂漠を彷徨っていた旅人が水を口にしたと言うくらいの感覚だ。

 

 「と、ところで、その・・・・・・」

 

 「ん? どしたの美波?」

 

 「いや、その、ね? 瑞希がおかず失敗したって言ってたじゃない。それで、良かったら、なんだけど・・・・・・」

 

 島田さんがおずおずとあるものを差しだす。

 

 「ん? お弁当? 美波。これって、自分の分じゃないの?」

 

 「う、うん。ウチも瑞希のおにぎりもらうから、それならこれも皆で、と思って・・・・・・」

 

 そう言ってはバスケットのふたを開ける島田さん。中身は色とりどりのサンドイッチ。トマトやレタスを挟んだものから、タマゴやツナにポテト、チーズにジャムと盛り沢山だ。区切ってあるスペースには唐揚げや卵焼き、ウィンナーも入れてあり、正にお弁当って感じがする。

 

 「ほぉ〜。自分の分ねぇ」

 

 「その割には量が多いでないかの?」

 

 「・・・・・・・・・・素直じゃない」

 

 「明らかに皆で食べるように用意してあるみたいだな」

 

 俺達は年頃の割には食べ過ぎしゃなきか、と揶揄する様に言うと

 

 「ちょ、ちょっと作り過ぎちゃっただけよ! サンドイッチなら、その・・・・・・余っても、家で食べられるし」

 

 相変わらず素直じゃないな島田さんは。そこは正直に皆に食べてもらいたくて用意してきたと言えばいいのに。

 

 「美波。そういう時は是非僕にも声をかけてよ。いつでも手伝うからルァァーっ!?」

 

 「おい、大丈夫か明久?」

 

 明久が突如悲鳴を上げたので確認すると、背中には分度器が投げつけられていた。もしやと思い投げつけられた方向を見てみると

 

 

 『吉井明久・・・・・・! 恨めしいです・・・・・・! 美春のこの憎しみで、人が殺せたらどんなに良いことでしょうか・・・・・・!』

 

 

 やっぱり、清水さんの仕業だったか。憎しみで殺せたらと言ってるけど、既に手を出しているから普通に傷害罪で訴えられるぞ。

 

 

 「この気配、さては清水さんね!?」

 

 

 『く・・・・・・っ! 気付かれましたか! こうなれば━━奇襲は諦めて突撃です! お姉様ぁああーっ!』

 

 

 「ウチはアンタに構ってる暇はないのよっ!」

 

 土煙をあげて接近する清水さん。それを島田さんは慌てて立ち上がっては反対方向へ駆け出した。逃げ出す時の島田さんはまるでアスリートの如く足が速い。

 

 

 『お姉様! お姉さま! おネェ・・・・・・サ・・・・・・!!』

 『こ、来ないで! なんか最近のアンタは特に怖いのよ!』

 『何を言っているのですかお姉様! 美春はお姉様の為であれば、畜生道に堕ちることすら厭わないと言っておりますのに!』

 『だからアンタのそういうとこが怖いって言ってるのよ!』

 

 

 どうやら今の清水さんには島田さんの声が響かないみたいだな。島田さんには申し訳ないがしばらくは清水さんの相手をしてもらうか。

 

 「ま、いっか。あれはあれであの二人のコミュニケーションだし」

 

 「そうじゃな。雄二と霧島のじゃれ合いと似たようなものじゃ」

 

 「・・・・・・・・・・仲睦まじい」

 

 「微笑ましいですね」

 

 「おい待てお前ら。当人たちがどれだけ必死か知っているのか」

 

 「俺から見たらとても普通じゃないように思えるが」

 

 島田さんと清水さんのやり取りは恋路ではなく、只のストーカーと被害者にしか見えないのだが明久らはそれを気にせずお弁当に集中するのだった。

 

 「斗真」

 

 「ん? どうしたんだ優子? こんなところに来たりして」

 

 声を掛けられ振り向くと、そこには優子が身体をモジモジとして立っていた。今の優子はなんて言ったらいいか緊張している様に見えるんだが。

 

 「折角の昼休みだから、アタシも斗真達と一緒に食べていいかな? 勿論、アタシが作ったお弁当のおかずをあげるから」

 

 どうやら優子は俺と一緒に昼食を摂りたくわざわざここに来たのか。

 

 「いいよ。俺も優子と一緒に昼食摂りたかったんだし。一緒に食べようか。明久達も別に良いよな?」

 

 「僕は別に構わないよ」

 

 「ああ。問題ない」

 

 「・・・・・・・・・・寧ろ、大歓迎・・・・・・」

 

 「優子ちゃん。良かったらご一緒にお昼を摂りましょう」

 

 「姉上。今日はやけに早起きしておったのはこの為だったのじゃな。ワシも何か持ってくれば良かったのう」

 

 そうして俺達は島田さんが持ってきたサンドイッチと優子のお手製のお弁当を手に昼食を取ることにした。島田さんのサンドイッチはとても美味しく普段の暴力がなければ明久は間違いなく落ちていたであろうと思いそうな程だった。勿論、優子の手作り弁当もそれに負けないくらい美味かったがな。

 

 

 

 

 

 「優子。お弁当のお礼に飲み物奢ってあげるけど、どれが良いんだ?」

 

 「アタシはミルクティーにして頂戴」

 

 「オッケー。ミルクティーだな。んっと、あった、これだ」

 

 今俺は優子と一緒に購買傍にある自販機に来ていた。飲み物は島田さんが用意してたのだが、清水さんに追われる羽目になってしまい飲めなくなったので俺達は使い走りを決める為のじゃんけんをした。その結果、俺が負けてしまったので買い出しに行くことになったのだが、優子は行く必要がないにも関わらずわざわざ付いてきてくれた。

 

 「ところで優子。一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

 「何かしら?」

 

 「Aクラスは三ーAに負けたって聞いたんだけど、調子が悪かったのか?」

 

 「ううん。アタシたちも先生に色々と没収されたからそれを取り返したくて必死にやったわ。代表も久保君もやる気はあったけどね。ただ━」

 

 「ただ?」

 

 「向こうもクラスの代表が出ていてね。その人は点数は勿論、操作技術が吉井君並に上手だったからそれに圧倒されちゃったの。他にも科目に合わせて打順を上手く組合わせていたわ」

 

 「・・・・・・そうか」

 

 「どうしたの斗真? アタシ、何か気になるようなこと言った?」

 

 「いや、なんでもない」

 

 「?」

 

 秀吉にはさっき説明したからいずれ優子にも知れ渡るだろうし話さないでおくか。とにかく今は頼まれた物を持っていかないと

 

 「とりあえず。皆がいるところへ戻ろうか優子。あまり待たせるのもあれだしな」

 

 「そうね。アタシとしては没収されたものを取り返せなかったのが残念だけど」

 

 「大丈夫だよ。俺達が教師チームに勝ったら優子達が取られた物を返品して貰えるよう頼んでおくよ。だからそう落ち込むなって」

 

 「ありがとう斗真」

 

 俺が取られた物を取り返すと言ったからか優子は嬉しそうに微笑む。うん。可愛いな。

 

 

 そうして、買ってきた飲み物を持って、明久らが待っている陣地に戻るとそこには

 

 

 『犯人はにぎりめ──』

 

 

 地面にダイイングメッセージを残しては秀吉がその場で倒れていたのだった。

 

 

 「「秀吉━━っ!?」」




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