一限目の授業が始まり、今教室は今まで以上に静まり返っている。いつも騒いでいるFクラスがまるで嘘のようだ。
一言も無駄口を叩かず黙りしているクラスメイト達を余所に島田さんが顔を赤らめチラチラと明久を見ていては慌て顔を伏せており。対する明久もそれに気づいたのか少しドキドキしているようだが
『では須川君。この場合3molのアンモニアを得る為に必要な薬品はなんですか?』
『塩酸を吉井の目に流し込みます』
『違います。それでは、朝倉君』
『塩酸を吉井の鼻に流し込みます』
『流し込む場所が違うという意味ではありません。それでは、有働君』
『濃硫酸を吉井の目と鼻に流し込みます』
『『それだっ‼』』
『それだ、ではありません。それと答えるときは吉井君の方ではなく先生の方を見るように』
明久を妬んでいるのか物騒な発言をするFクラスのバカ達。一限目の終了を告げるチャイムが鳴り響き
「えー・・・・・・、今日はここまでにします」
先生が溜め息をついて教室を出る。
そしてFクラスのバカ達はと言うと
『吉井のヤツ、島田と目と目で通じ合っていやがったぞ・・・・・・』
『島田は狙い目だと思っていたのに、あのクソ野郎・・・・・・!』
『畜生・・・・・・!姫路、木下に続いて島田にまでヤツに持っていかれたら、このクラスはアキちゃんしか希望がいねえじゃねぇか・・・・・・!』
明久に対し殺意を向けるのであった。
ってかお前ら、姫路さんはともかく秀吉は俺の彼女だろうが。それに島田さんは狙い目って言ってるが元からそんな気配は見せてなかったくせに何言ってるんだよ。
んで持ってアキちゃんはどこからどうみたって男じゃないか。
そうしてバカ達の視線が飛び交う中、俺は明久に今朝の事について聞こうとしたが島田さんが明久に近づき
「み、美波?」
「アキ。お、おはよ・・・・・・」
目を伏せたまま明久に挨拶をする。
「あ、あのねアキ。お願いがあるんだけど、・・・・・・いいかな?」
「お願い?な、何かな?」
「えっと、一つは、アキの卓袱台を使わせて欲しいんだけど・・・・・・」
「へ?卓袱台?」
「うん。ウチの卓袱台。色々あって使いにくくなっちゃって」
島田さんがそう言うので卓袱台を見てみると、ボロボロになっていることが分かる。天板は傷だらけで脚も一本折れているし、あれじゃあ使いにくいだろうな。
ま、一緒に使うなら同じ女子である姫路さんに頼んだ方がベストなんだが
「アキ。ウチと一緒でもいい?」
「あ。うん。いいけど」
「そう。ありがとっ」
彼女はパッと花が咲くように笑うと
「じゃ、す、座るわね・・・・・・」
島田さんは明久の隣に座り込むと
「・・・・・・・・・・」
「な、なによアキ。何で黙り込むのよ」
「いや。その、別に・・・・・・」
そりゃあ島田さんがあんな近くにいたんじゃドキドキするのは当然だ。しかし明久のヤツ。俺が来てない間に何をやったんだ?
(なぁ雄二。明久は島田さんと何があったのか知ってるか?)
俺は近くにいた雄二に小声で尋ねると
(ああ。あの野郎どういうわけか、島田と朝からキスをしていやがったぞ)
雄二も周りにバレないよう小声で俺に返す。
(それは分かるけど。そういえばお前もFクラスの奴らに捕まってたが何をしでかしたんだ?)
(翔子がその場で俺が寝ている間にキスをしたって言ってな。それを須川に聞かれてしまい俺もあのバカと同じ目に合ったんだよ)
(そういうことだったのか。でも明久のヤツ、みたところ気づいてないけど、果たしてどうなるんだか)
(知るか。お陰で俺も酷い目にあったからアイツがどうなろうが知ったことじゃねぇよ)
(俺からすれば霧島さんにキスして貰うとか羨ましい気がするけど)
(斗真。それとこれとは話が別なんだよ)
俺と雄二がそう話し合っている中、島田さんは明久に二つ目のお願いをする。
「そ、それとねアキ。二つ目のお願いなんだけど・・・・・・、良かったら、その・・・・・・今日のお昼、一緒に食べない?」
どうやら二つ目は明久と一緒に昼飯を食べたいみたいだ。それに対し明久はと言うと
「あ、そ、そうだね。それじゃ、お昼に水飲み場で・・・・・・」
何でそこは水飲み場なんだよ。ってか明久、お前また懲りずに塩と水だけで生活してるのかよ。
「ううん。そうじゃなくてね、ウチがアキの分も作ってきたからー」
へぇ、島田さんが明久の分を作ってくるとは。今日はいつにも増して積極的だな。
島田さんが手に掲げている鞄から何かを取り出そうとすると
「お姉さまっ!何をしているんですか!?そんなに豚野郎に密着して!?」
突如教室内に悲鳴のような制止の声が響き渡り。声のした方を見てみるとそこにいたのは
「し、清水さん!?ウチの邪魔をしにきたの!?」
「お姉さまっ!美春とお呼びください。当然ですっ!そこの豚野郎がお姉さまに密着している姿を見て黙っていられるはずがありませんっ!」
血の涙を流さんとばかりに、明久を見つめているのはこの前の強化合宿で明久に脅迫をしただけに留まらず、覗きの冤罪を被せ二年男子による覗き騒動を起こす原因を作った張本人である清水美春さんだ。見たところ、あれだけ鉄人先生に指導され観察処分者になったにも関わらず彼女は全く懲りてはいないようだ。
「み、密着って、仕方ないでしょ!?変わりの卓袱台なんてないし、狭いんだからくっつかないとダメだし・・・・・・」
「お姉さま。それなら姫路さんのところでいいじゃないですか!どうしてその豚野郎のところにする必要があるのです!」
「そ、それは・・・・・・。だって、ほら、瑞希はきちんと勉強するから邪魔したら悪いでしょ?その点、アキなら邪魔になってもならなくてもどうせ成績は悪いんだし・・・・・・」
「美波。僕、微妙に悪口を言われている気がするんだけど」
島田さんと明久は大して成績は変わらない筈だが、まあ本心では明久の側にいたいってところか。
「あの、美波ちゃん。私は別に邪魔だなんて思いませんから、こっちに来て下さい。その・・・・・・色々と話したいこともありますし・・・・・・」
姫路さんは島田さんが来ても問題ないと告げる。まあ姫路さんも明久のことが好きだからおそらく明久から島田さんを剥がしたいだろうが。
「気持ちは嬉しいけど・・・・・・。でも、瑞希は優しいから、ウチは邪魔でも我慢しちゃうでしょ?」
対する島田さんも一歩も引かない姿勢を見せる。
「い、いいえっ。本当に邪魔じゃないですから」
「そうですお姉さま!席を移動して、手作りのお弁当は美春と一緒に食べましょう!お姉さまが昨日お弁当用の食材を買っている姿を確認してから、美春は何も食べずにお腹を空かせてきましたから!」
あの~清水さん。それはおそらく明久に食べて貰おうと作ってきた筈なんだが、何勝手に自分が食べようとしているんだ?
「でも、これはその、アキの為に」
「お姉さまが朝の四時に起きてわざわざお手製のタレで下味をつけた唐揚げとか、ちょっと奮発して買った挽肉で作ったハンバーグとか、産地に気を遣って選んだじゃがいもで作ったポテトサラダとか考えるだけで美春は、美春は・・・・・・」
「待ちなさい清水さん!どうしてアナタがそこまで知ってるの!?」
「しかもご飯のところにはハートマークですよ!?」
「清水さんーっ!?」
島田さんは余程恥ずかしいことを言われたからか、顔を真っ赤にして叫ぶ。ってか清水さんはあの合宿以前から島田さんに盗聴器を仕掛けているようだな。でないと島田さんの行動をアソコまで把握できるわけないし。
「あのね、清水さん。よく聞いて。今までは我慢してきたけど、これからはそういうことはやめて欲しいの。だってー」
島田さんが顔を赤くしたまま、清水さんに告げる
「ーだって、ウチはアキと付き合っているんだから」
「畳返しっ‼」
シュカカカカッ‼
咄嗟に畳を縦にした明久のもとに無数のカッターが飛来し、それをガードされたFクラスのバカどもはと言うと
『『『ーチッ』』』
当て損ねたからか舌打ちをする。っていうかとんでもない発言をした島田さんもそうだが、それを聞いてすぐに明久にカッターを投げるとかどんな頭してるんだよコイツらは。
「お、お姉さま・・・・・・?付き合ってるなんて、冗談、ですよね・・・・・・?」
打ちひしがれたようによろめく清水さん。そんな彼女に島田さんは
「冗談なんかじゃないわ。ホントの話」
「そ、それじゃ、お姉さま。美春の幻覚だと思った今朝のキスも、本当に・・・・・・?」
どうやら清水さんもその現場を目撃してたようだ。ってかそれを見て幻覚ってどれだけ島田さんが明久と仲良くしているのを認めたくないんだよ君は
「・・・・・・うん」
島田さんは小さく頷き
「だからね、清水さん。これからもウチの」
「・・・・・・男なんか」
「あくまでもお友達として」
「・・・・・・男なんかが存在するから、お姉さまは・・・・・・」
清水さんはプルプルと震えだすと
「清水さん、聞いてる?」
「男なんかが存在するからお姉さまは惑わされるんですーっ!」
勝手に暴走し始め、その矛先を明久に向ける
「この豚野郎を始末します!そして美春が第二の吉井明久としてお姉さまと結ばれるのです!」
何とんでもないこと言ってるんだこの人!?
「ちょ、ちょっと清水さん!?かなり錯乱してない!?僕を始末したところで入れ替わることは難しいと思うけど!?」
それ以前に明久と島田さんが付き合ってるかどうか気になるが
「極力身体に傷をつけないように始末した後、剥いだ皮を被って吉井明久になりすまします!」
「それ凄くグロいよ!ちょっと本気で考えていそうだし!」
「大丈夫です!日本昔話で狸さんもそうしていました!」
「しかも原点は意外と可愛い!」
清水さんは目に止まらぬ速さで明久に襲いかかり。明久も逃げ回るが捕まるのは時間の問題とみて間違いないだろう。
「助けてムッツリーニ!清水さんを止めて!」
明久はムッツリーニに助けを乞うが
「・・・・・・・・・・今、消しゴムのカスで練り消しを作るのに忙しい」
どうやらムッツリーニにとっては
《友人の命》 〉《練り消し》みたいだ。
「くそっ!練り消し作ってるフリをして飛び回る清水さんのスカートを目で追っているムッツリーニなんて大嫌いだ‼」
「・・・・・・・・・・‼(ブンブン)」
否定のポーズを取りながらも目線を外さないムッツリーニ。うん。いつも通りのムッツリーニだ。
「男なんてこの世からいなくなってしまえばいいんですっ!お姉さまに必要なのは美春なんです!」
いや何勝手に男を全滅させようとしてるの?それに島田さんには自分が必要ってどれだけ勘違いしてるんだよ。
「待って清水さん!キミにだってお父さんはいるでしょう?男なんていなくなれなんて、そんな哀しいことを言っちゃダメだよ!」
「アレは誰よりも最初に消えるべき男ですっ!」
ちょっと待て。君はお父さんと何があったんだ?
「え、えっと・・・・・・何かあったの?」
「・・・・・・思いだしたくないです」
おぞましいものを思いだしたかのように身震いする清水さん。あの様子からして何かあったみたいだな。
「とにかく豚野郎は消えるべきです!そして美春はお姉さまと結婚して、生まれてくる娘にお姉さま『美波』から字を取って『美来』と名付けるのです!」
「待つんだ清水さん!息子が生まれたらどうするんだ!」
「男なんかが生まれたら『波平』で十分です!」
「そんな、あんまりだよ!」
君は一回磯○家に土下座して謝ってこい
「二人とも!その前にウチと美春じゃ子供ができないって気付きなさいよ!」
島田さんも女同士では子供ができないと反論するが、清水さんは全く聞いておらず明久に近づいていき
「さぁ、五秒あげます。神への祈りを済まして下さい」
「く・・・・・・っ!」
はぁ、仕方ない
「ムッツリーニ、ちょっとこれ借りるぞ(ヒョイ)」
「・・・・・・・・・・あ」
俺はムッツリーニからあるものを借りるとそのまま清水さんに近づき
「清水さん。ちょっと静かにしてもらおうか」
「何ですか?美春を陥れた豚野郎が話掛けないでください」
「はいはい。あれはどう見たって君がやったことだから自業自得だよ。ちょっとチクっとするが・・・・・・歯喰いしばれ」
バチィ
「ぐぇっ!?」
バタッ
清水さんの首もとに先程ムッツリーニから借りたスタンガン(二十万ボルト)を当て気絶させた。
「ったく、ようやく沈んだか」
「あ、ありがとう斗真」
「とりあえず。この女をここから出すとするか。でもそろそろ次の授業が始まるからどうしようかー」
俺が清水さんをどう処分しようか考えていると
ガラッ
「さぁ、授業を始めるぞ。今日は遠藤先生は別件で外しているので俺がビシビシーん?何で清水がここで気絶しているんだ?」
教室の扉が開き鉄人先生が入って来た。
「ああ鉄人先生、実はですねー」
俺が何で清水さんが気絶しているのか説明すると。
「なるほど。清水が勝手に教室に入っては島田が吉井と一緒にいるのが気に食わず、殺そうとしていたから東條が気絶させたってことか。全く清水のヤツ。あれだけ指導したのに全然反省はしていないようだな」
鉄人先生は納得してくれた。
「そういうところです鉄人先生。というわけですのでちょっと清水さんをDクラスに引き渡してきますので、少し抜けてもよろしいでしょうか?」
「いや、清水は廊下に放置しておいて構わん。後で俺が連れていってやるから問題ない」
「そうですか。じゃあ今から清水さんを置いてきます」
そう言って俺は清水さんを廊下まで引きずり、そこら辺に放置して教室に戻ると
「さあ全員席に着け。教科書86ページから始めるぞ。今日の内容はー」
その後何事もなかったかのように授業が始まる。遠藤先生はおそらくこの前の覗き騒動で点数がなくなった他のクラスが点数を補充する為の補充試験の担当をしているに違いない。でないと鉄人先生が俺達の授業の担当するなんてありえないしな。
「ー“I wish I were a bird”これは仮定過去法という特殊な過去形でー」
さっきまでの騒ぎが嘘かのように静まり。普段通りに授業を受けているFクラス。
「ーつまり直接的な日本語訳は『私は鳥であったことを望む』となるがー」
鉄人先生が教科書を手に持ち、説明しているが。俺の後ろに座っている明久と島田さんはというと、明久が島田さんの髪の毛を弄り対する島田さんもそんな嫌がらず楽しそうにしており。とても横から割り込めにない雰囲気を露にしていた。でもな明久。いくら鉄人先生が授業を担当しているとはいえそんなやりとりをしているところをFクラスの奴らが見過ごす筈が
『『『もう我慢ならねぇー‼』』』
と思っていた矢先にFクラスのバカ達はあまりにも見ていられなかったのか怒号をあげる。
そしてカッターを構えて明久に向け始めると
『さっきから見てりゃあ、これ見よがしにイチャイチャしやがって!』
『殺す。マジ殺す。絶対的に殺す。魂まで殺す』
『・・・・・・お姉さまの髪に触るなんて・・・・・・八つ裂きにしても尚、赦されません・・・・・・!』
いつの間に復活してたんだ清水さん?
『出入り口を固めろ!ここで確実に殺るぞ!』
全員が一斉に投擲モーションをし、明久にカッターを投げようとするが
「お前ら!今は授業中だぞ‼」
鉄人先生が一喝し、場は静まり返る。
「清水。授業はどうした?」
「そ、それどころじゃありません・・・・・・!お姉さまが」
「清水」
低い声で鉄人先生が叫ぶと清水さんは押し黙った。
「これは警告だ。おとなしく自分の教室に戻れ。それとこの教室への出入りを禁止する。わかったな?」
「・・・・・・わかりました」
納得しない顔をしたまま、教室を出ていくが。出ていく直前、明久を親の仇のように睨み付けていた。
「お前らも準備中に遊ぶんじゃない。そういうことは休み時間にやれ」
いやそこはクラスメイトにカッターを向けるのはダメだって注意するべきなんですが。どうやら鉄人先生も気づかぬ間にこのクラスの影響を受けているみたいだな。
まあ色々あったが、鉄人先生のおかげでことなきを得たかのように思えたんだが、その後清水さんはとんでもないことをしでかそうと後に知ることになるのであった。
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