バカと双子と二刀流   作:ペンギン太郎

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第十問 Dクラス戦 中盤戦

「あ。明久君、東條君。おかえりなさい」

 

「あ、うん。ただいま」

 

「ただいま。姫路さん」

 

俺と明久が教室に入ってすぐに姫路さんが俺達の元に駆け寄る。どうやら姫路さんはここで雄二の防衛に回ってるようだな。

 

「あのさ。姫路さんはどんな指示が出ているの?」

 

「はい・・・・・・。それが、よくわからないんですけど、坂本君には『Fクラスの教室から出ないように』って言われているんです」

 

「え?それだけ?」

 

「はい。それだけです」

 

明久は雄二の狙いにまだ気付いてないようだ。

 

「おう、戻ったか明久、斗真」

 

姫路さんと話している中雄二がこちらに近付き声を掛ける。

 

「首尾はどうだ?」

 

「ああ、うん。一応、言われた通りにしてきたけど」

 

「雄二。そろそろ明久に作戦の目的を説明してやったらどうだ」

 

「そうだな。斗真はとっくに気付いてたみたいだが、明久は全然だしな」

 

辺りを見回すと教室には防衛された際押さえる為の戦力が五人と今補充試験を受けているヤツが十人いる。

 

「あの、坂本君。私も教えてもらいたいんですけど」

 

「なんだ、姫路?」

 

「私は何もしなくていいんですか?」

 

「姫路さんはこのまま教室にいてくれないか?そうすれば敵は楽に戦えると考えるからね。そうだろ雄二?」

 

「え?東條君。それは一体どういうことですか?」

 

「斗真の言う通り。敵はおそらく『Fクラスはこれだけの戦力を渡り廊下や階段に投入してきたのに、どうして姫路が出てこない?廊下や階段を制したいんじゃないのか?』ってな感じにな」

 

「でも、実際に守りたいんでしょ?」

 

「さっき俺が言ったことを忘れたのか明久。俺達の目的は時間稼ぎをして拮抗状態を作ること。それを作るには何もこっちから戦力を投入しなくても、向こうから戦力を小出しさせることも友好なんだよ」

 

俺の説明を聞いて明久はさっきの光景を思い出す。

Dクラスの人達は姫路さんがいないのを確認した上で何人かが前線を離れていった。それはおそらく代表である平賀の護衛に回したに違いない。

 

「つまり、姿の見えない姫路さんや前線に出ている斗真を警戒させて、クラス代表の防衛に戦力を割かせているってこと?」

 

「そういうことだ」

 

雄二の発言でようやく理解する明久。向こうの戦力が少なければこちらの戦力の消耗も少なくて済むし。姫路さんを温存すれば廊下や階段を突破された後の防衛は有利に進める上体の弱い姫路さんも体力の消耗を抑えられるから楽になる。

 

「前にDクラス代表の平賀は姫路に一杯食わされているからな。きっと面白いように警戒しているだろうさ」

 

「そっか。そういうこともあったよね」

 

平常時なら平賀はそう易々と引っ掛かってくれそうにないが、今の状況じゃこの作戦はかなり有効になる。さっき雄二も言っていた苦い経験もそうだが、向こうは代表が男子生徒というだけあって良い影響を与えているに違いないし俺達が勝つには裏を掻いて代表を討ち取らないと勝ち目がない。そんな状況でDクラス代表は前の覗き騒動で点数が少ない上Fクラスの主力である俺は前線には出ているが、もう一人の主力の姫路さんは姿を見せていない。となると十中八九姫路さんで代表の首を狙ってくるだろうと向こうは考えるだろう。そうなると向こうは主戦力である補充を終えた女子生徒をある程度代表の近くに置くしか手立てがない。

 

「それで、渡り廊下の女子が戻っていったってわけか・・・・・・」

 

「だが、それだけでは不十分かもしれないからな。向こうが強引に突っ込んでくることのないように、更にダメ押しをしておいた」

 

「ダメ押し?」

 

「そういうことか。通りでムッツリーニがここにはいないわけだ」

 

「ああ。アイツには情報操作に専念してもらう為に点数補充をさせてなかったんだからな」

 

今教室の中には大島先生がいて補充試験をやっているが、ムッツリーニの姿が見当たらない。ムッツリーニは保健体育に関しては教師に匹敵する為何故受けていないのか疑問に思っていたがそういうことだったか。

 

「アイツには『FクラスがDクラスとの開戦を望んでいた』って情報をDクラスにリークさせている。何の準備も無ければ不自然な情報だが、Dクラスには清水がいる。盗聴器経由でそれらしく伝えるのはムッツリーニなら造作もないことだ」

 

「そう言えばDクラスの伝令が『怪しい情報が何とか』って言っていたがアレはムッツリーニの仕業だったんだな」

 

ムッツリーニと清水さんがしているのは諜報活動による情報戦ってところか。

 

「昨日の目的不明な交渉も含めて、Dクラスの清水と代表の平賀には思い当たるフシが沢山あるだろうからな。簡単に信じてくれるだろ」

 

「そういうことですか。確かにその話が伝われば、Dクラスは更に私たちを警戒するでしょうね。『勝ち目のない勝負で開戦を望んでいたとは思えない。Fクラスは何か秘策があるんじゃないかって』」

 

「・・・・・・あっ!そっか!僕と雄二がDクラスの前をフラついていたアレも」

 

「まぁ一応そういうことだ。あの時は単純に点数補充をしていないというアピールが目的だったが、今となっては意味合いが変わってくる。向こうにしてみれば『校舎も違って用がないはずの坂本と吉井がいたなんておかしい。アレは俺たちを開戦に踏み切らせる為の芝居だったんじゃないか』なんていう疑問の種にもなる。偶然が二つ三つと重なると考えないのが人間だ。その向こうに何か目的があるんじゃないか、と疑問に思うのは当然のことさ」

 

「あの時点からここまで考えるなんて流石だな雄二」

 

「まあな。向こうは開戦を後悔し始めている頃だろうな。なにせ、得られるものが何もない上に負けたら最低設備に格下げなんていうハイリスクノーリターンの戦いだ。何かきっかけがあればすぐにでも休戦に応じるだろうよ」

 

「何かきっかけがあれば、ってことは、更にもう一押しする必要があるの?」

 

雄二はおそらく、こっちの戦力を整えても、きっかけがないと休戦に持ち込みにくいと考えているだろうが、それにどう区切りをつけるつもりなんだ?

 

「ああ。最後にもう一つ、手を打つ。敵の頭を打つ為にな」

 

「敵の頭っていうと、Dクラス代表の平賀君?でも、そんなことができるなら休戦なんてー」

 

「いや違うぞ明久。すでに向こうは防衛が敷いてあるから迂闊に近づけない。それに相手をするのは平賀ではなく、Dクラスの女子達を動かしているあの人だよ」

 

「わかりました。清水さんですね?」

 

「ご名答。清水を落とせばDクラスの開戦派はおとなしくなる。休戦協定を結ぶ為のきっかけ作りにおあつらえ向きの状況ができるだろうさ」

 

「さっきの様子から見ても、清水さんが指示を出していたみたいだし、彼女を落とせば休戦協定は成立するとみて間違いないよ」

 

「そんなわけで明久。お前には隣の空き教室で清水と一騎討ちをしてもらう」

 

「え?僕がやるの?」

 

「俺は指示を出す為に点数補充はできないし、ムッツリーニも同じだ。姫路は姿を見せるわけにはいかないし、いざとなったら斗真と一緒に防衛に加わってもらう必要もある。つまりお前しかいないんだよ」

 

島田さんと秀吉は最前線で戦っていて、他の皆もそれに回されている。そうなると召喚獣の扱いに一日の長がある明久を出すのが妥当ってところだ。

 

「それに、清水を引っ張り出すにはお前が好都合なんだ。俺は斗真から聞いた話しか知らないが、斗真が清水の弱味を握って開戦に踏み切らせた後清水と何か話をしていたんだろ?」

 

「う・・・・・・。そ、それは、えっと・・・・・・ど、どうなんだろうね?」

 

「何にせよ明久が清水さんのターゲットになるのは間違いないか」

 

「あっ。それでこの配置なんですね」

 

隣で聞いていた姫路さんが広げられていた雄二のメモを指差して頷く。示しているのは俺達がいるFクラスの教室の隣にある空き教室に一人だけ置かれている明久だ。

 

「さすが姫路。察しがいいな」

 

「・・・・・・ごめん。どういうこと?」

 

明久はわかってないみたいだ

 

「そうだな・・・・・・例えば、この位置に須川が配置されていたとしよう。もしお前が戦っている相手だとしたら、そこに須川がいることについてどう思う」

 

「どう思うも何も・・・・・・意味のないものにしか思えないけど」

 

雄二が示している空き教室は守るべき代表もいなければ、地理的に押さえておかないといけない場所でもない。そんな場所に一人だけ置かれても、一応警戒はするけどそこまで考えるわけもない。

 

「まぁ、普通はそう考えるよな。それなら、そこに更に条件を付け加えよう」

 

「条件?」

 

「ああ。そのタイミングで、須川とお前が姫路を巡って争っていたとしよう。そうすると、どう見える」

 

「あ、あの、私を巡って、って・・・・・・」

 

「明久と須川が姫路さんを巡って争っている最中に試召戦争が起きた場合。明久としては戦争も大事な話になるだろ?試召戦争とは別に須川のことが気になるだろうが、須川も当然明久のことが気になるに違いないし、そんな状況で須川が一人で空き教室にいるとしたらどう思う明久?」

 

「須川君が僕を待っているように見えるかな。姫路さんを巡っての話に決着をつけるために」

 

「ああ。その通りだ」

 

雄二がよくできました。っと言った感じで頷くと更に話を続ける。

 

「つまり、だ。この配置は、他の連中には首を取る必要もない明久が意味もなく空き教室にいるだけに見えるだろうが、清水にとってはそうじゃない。明久が決着をつける為に清水を待っているように見えるってことだ。その為にわざわざ明久を前に出して存在をアピールさせたりもしたんだからな」

 

「そうか。それで明久を前線に出したんか。明久なら点数があるし戦えるが、敢えて前線に加わらないというスタンスを見せつけてやれば清水さんに明久を待っていることを伝えられるしな」

 

「じゃあ、さっき坂本君が言っていた『教室前まで退いてもいい』っていうのも・・・・・・」

 

「そうしないと明久がここで待っているということに気付いてもらえないからな。休戦の交渉に足るだけの点数補充を終えたら、廊下か階段を開放して空き教室の様子を教えてやる必要がある。もっとも、こちらが劣勢だと思われるわけにもいかないから、匙加減が難しいところだがな」

 

後は、これで上手く清水さんを誘きだし出せば、負けないで休戦に持ち込むことが可能だが

 

「そんなにうまくいくのかなぁ・・・・・・?」

 

明久は本当にこれで上手くいくのか不安を感じているようだ。

 

「それは結果を見てのお楽しみってヤツだな」

 

「まぁ、雄二がそこまで言うならいいけど・・・・・・」

 

「よし。それならとりあえず、明久は隣の空き教室に移動してくれ。いつ防衛戦が突破されるかもわからないしな」

 

「わかった。今すぐ移動するよ」

 

明久は言われた通り清水さんを待つために空き教室へ向かうのであった。

 

 

 

 

「さて、これで俺たちは清水が来るまでの待機だな」

 

「だと良いけど。本当に上手くいくのか」

 

「心配ねぇよ。後はアイツ次第だからな」

 

「そうですね。・・・・・・ふふっ」

 

「ん?どうしたの姫路さん?」

 

「なんだ、姫路?人の顔を見て笑うとは失礼なヤツだな」

 

「あ、ごめんなさい。そういうつもりじゃないんです」

 

「なら、どういうつもりだ?」

 

「いえ。なんだかんだ言っても、やっぱりお二人は明久君のことを理解しているんだなって思って」

 

「んぁ!?な、何をいきなり気色悪いことを・・・・・・」

 

「誤解しないでくれよ姫路さん。俺と明久はそういう関係じゃないから」

 

「照れなくてもいいじゃないですか」

 

「だから俺と明久は・・・・・・」

 

「いや、本気で気持ち悪いんだが・・・・・・」

 

「だって、明久君のことを理解していないと、さっき言っていた作戦を実行なんてできませんよね?」

 

「清水さんを誘きだすって、話のことかな姫路さん?」

 

「はい」

 

「・・・・・・まぁ、理解云々はともかく、だ。アイツの性格を考えると、昨日の話し合いで斗真が戦争に持ち込めるよう話をつけた後、アイツが清水にどんなことを言ったのかはなんとなく想像がつく。それが清水にとっては放っておけない内容だってこともな」

 

「私も・・・・・・なんとなく、ですけど、明久君がどんなことを言ったのか想像できる気がします」

 

「アイツはバカな分、考えていることがわかりやすいからな」

 

「素直なんですよ、きっと」

 

「それは同意しかねるな」

 

「俺もだ」

 

「ふふっ。東條君はともかく、坂本君は素直じゃないんですね」

 

「ま、まあな。俺がそうなれたのも明久やここにはいない秀吉や優子のおかげでもあるからな」

 

「けっ。言ってろ。・・・・・・けど、いいのか姫路?」

 

「はい?何がですか?」

 

「いや、これはお前にとってはあまり良い話じゃないと思ったんだが・・・・・・」

 

「確かに。明久のことを思ってるのは姫路さんも同じだからな」

 

「・・・・・・そう、ですね・・・・・・。確かに嬉しい話じゃありませんけどー」

 

「「けど?」」

 

「ーけど、私はそういう明久君に惹かれているんですから・・・・・・」

 

「ん?すまん。聞こえなかったんだが」

 

「何て言ったか教えてもらっていいかい?」

 

「あ、いいえ。なんでもありません」

 

「そうか。まぁ、とりあえず・・・・・・ご馳走さんっと」

 

「き、きちんと聞こえてたんじゃないですかっ!」

 

と楽しそうに話していた雄二と姫路さんであった。

 

 

 

 

「・・・・・・さて、そろそろ俺も動くとするか(スッ)」

 

雄二と姫路さんが話している間。俺はポケットからスマホを取り出すとある人に連絡をし始める。

 

「・・・・・・もしもし。ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、・・・・・・うん。・・・・・・そうだな。やってくれた暁には報酬を用意しておくよ。君の好きなアキちゃんの写真をね」




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