~明久視点~
特になにかするわけでもないので、空き教室での退屈な時間を過ごしている間。僕はぼんやりと考え事をしていた。
僕の脳裏をよぎるのは美波のことだ。
僕の美波に接する態度は間違っていたんだろうか?
美波は僕が気を遣わないでいたことに傷ついていたんだろうか?でも斗真は島田さんにも非があるから気にするなって言っていた。
僕はもう徹底的に嫌われてしまったんだろうか?
そんな疑問がぐるぐると頭を巡る。色々と考えてみるけど、考えれば考えるほど頭の中が混乱していく。こんなことなら、いつも斗真に言われているようにもっと頭を鍛えておくべきだった。
自分の頭の悪さに辟易しながらも必死で考える。思考は収束しないし、答えが導き出される予兆もない。それでもまだまだ考える。
そして、そのままどのくらいの時間が過ぎたかわからなくなった頃、気が付けば廊下での喧騒がこちらに近づいてきた。
「そろそろ、かな・・・・・・?」
頭の中からさっきまでの考え事を一旦追い出して思考を切り替える。まずは目の前の試召戦争だ。
教室には斗真と姫路さんがいるとは言え、防衛がうまくいっているのか不安になるけど、グッと目を閉じて堪える。僕には僕の役目があるんだから。
近くで行われているであろう防衛戦の喧騒と、狙い通り誰かが僕の様子を見ていたような気配を感じる。
そのまま更に待つことしばし
「こんなところに一人でいてくれて良かったです。貴方に話がありましたから」
待ちわびていた相手の声が聞こえたので目を開けるととそこに立っていたのは正真正銘Dクラスの清水さんだ。
「話って、何かな?」
歩み寄ってくる清水さんに問うと
「そう難しい話ではありません。要するにー白黒はっきりさせましょう、というだけです」
そう告げる彼女の目は敵愾心に満ちている。よほど僕のことが気に入らないのだろう。
「幸いにも今は試召戦争の最中です。わかりやすく決着をつけることができます」
清水さんの後ろには布施先生が立っていた。どうやら向こうの準備は万端のようだ。
ここで勝負から逃げれば僕は敵前逃亡で死亡扱い。当然受けるしかない。
清水さんは提案と言ってはいるものの、僕に同意以外の選択肢を与えないつもりはないのだろう。それともあるいは・・・・・・、僕が断るとは微塵も思っていないのかもしれない。僕も決着を望んでいるだろう、と。
そしてその考えは、恐らく正しい。
「わかったよ。勝負だ、清水さん」
僕がそう言うと、清水さんは布施先生の方を向いて告げた。
「先生。召喚許可をお願いします」
「わかりました」
布施先生が化学のフィールドを展開すると、僕と清水さんは召喚を開始する。
「「
二人同時に呼び声をあげると、僕らの足元には召喚獣が姿を見せる。
僕らはそれぞれの召喚獣に構えを取らせながら睨み合った。
清水さんはそれなりに試召戦争を経験しているし、今回は不意打ちでもない。簡単にあしらえる相手じゃないため、慎重に攻めないと
「・・・・・・そう言えば、勝負を始める前に一つ確認しておきたいことがありました」
お互いに隙を疑うような状態が続く中、清水さんは召喚獣から目線を外すことなく僕に問いかけてきた。
「何かな?」
答える僕も、当然視線は召喚獣に固定している。
「昨日の話ですが」
「うん」
「私が東條にこの戦争を起こすよう脅された後。私に話しかけましたが、あれは、もう決まったこととは言えこの戦争を起こす為の狂言ですか?最後の言葉も」
FクラスがDクラスとの開戦を望んでいたという情報。それによって、清水さんには昨日の不自然な交渉の目的が見破られている。だからこそ、彼女はそんな疑問を抱いたのだろう。
「それは・・・・・・」
即座に答えられず、言葉に詰まる。
果たして、ここで正直に答えられたところで信用してもらえるんだろうか。
今更、何を言っても空々しく聞こえてしまう。誰がどう見ても、僕らが美波を利用していたとしか思えないような状況なのだから。・・・・・・そして、僕らが美波を利用して、昨日の交渉でDクラスを挑発しようとしていたことは事実なのだから。
「どうなんですか」
「・・・・・・・・・・」
再び問いかけてくる清水さんに、僕は返す言葉を持たない。
「そう、ですか・・・・・・」
そんな沈黙を肯定と受け取ったのか、清水さんはそれ以上僕に問うこともなく、ただ言葉を切った。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
召喚獣の動きもなく、無言の状態が続くが睨み合いというわけじゃない。清水さんは俯いて召喚獣から目を離している。
そうして数秒の時が流れ、清水さんが不意に声を震わせながら呟いた。
「・・・・・・・・・・泣いてました」
怒りを伴う、静かな口調で清水さんは僕に告げる。
「・・・・・・・・・・お姉さま、昨日走り去る時に・・・・・・泣いて、ました」
言われて、僕も昨日のことを思い返す。
清水さんの言う通り、美波は涙を浮かべて駆け出していた。
「きっかけは、美春の言葉です。東條から『その人のことを思ってるのなら、その人のことを理解してやるのが当たり前なのに、どうして理解してやらなかったんだ』と言われた時、美春は深く反省をしました。・・・・・・でも、原因は、原因は・・・・・・っっ‼」
清水さんが俯いてた顔を上げると、烈火の如く怒りを宿した瞳を僕に向ける。
「オマエが・・・・・・!オマエのような男がいるから・・・・・・っ!お姉さまが泣く羽目になるんです!」
その言葉を合図に清水さんの召喚獣が僕に突っ込んでくる。
正面からの真っ直ぐな攻撃に、僕は力を受け流すように動いたが、僕の身体に鈍い痛みが訪れた。
「ぐ・・・・・・っ!」
正面からの受けたわけじゃないのにこの威力。余程点数の差があるんだろう。
横目で確認した彼我の差は約五倍。こちらが圧倒的に不利だ。
「どうしてオマエのような下郎がお姉さまの傍にいるのです!どうして気持ちを弄ぶ下衆がお姉さまと言葉を交わしているのです!」
清水さんは駄々っ子のように剣を振り回す。その一撃一撃全てが、僕の腕を痺れさせるほどに重かった。
美波が泣く羽目になったのは事実。
僕らが美波を利用していたのも事実。
でも、
「どうして、お姉さまを利用する為に平然と嘘をつく外道が友人面をしていられるのです!」
ガッ
相手の剣を木刀で受け止め、そのまま力任せに押し返す。
「・・・・・・嘘は・・・・・・付いて、いない・・・・・・っ!」
「な、にを、言って・・・・・・」
色々あって、酷いことをした。
傷つけたし、泣かせてしまった。
僕の言うことなんて薄っぺらく思えるかもしれない。
けど、それでもー
「僕が言ったことは、嘘じゃないんだ・・・・・・っ!」
鈍い音を立てながらも、僕の召喚獣は木刀では相手の召喚獣を弾いた。
「な・・・・・・!?」
そう。嘘じゃない。
付き合っているという話が演技でも、キスをしたということの原因が誤解でも、僕が清水さんに言ったことに嘘はない。あれは全部本心だ。
そもそも・・・・・・僕は、あんな場面で嘘をつけるほど器用じゃない!
「僕はいつも斗真にバカだなって言われてるけど、言っていい嘘と悪い嘘くらいわかる!昨日のあれは、紛れもない僕の本心だ!」
剣を正面から受け止めたせいで木刀が折れかかっている。
五倍という力の差がある相手と押し合ったせいで消耗している。
こんな状態で勝ち目なんてあるわけがない。
「けど、逃げるもんか・・・・・・!」
元はと言えば全ての原因は僕が作ってしまったこの騒ぎ。迷惑をかけてしまった人の為にも、僕が責任を取らないでどうする!
これはある意味ありがたい機会だ。この一騎討ちを姫路さんや雄二あるいは斗真に任せていたら、僕は騒ぎを起こすだけ起こしたロクデナシだ。こうして責任を取る機会をもらえたことを、雄二や斗真に感謝ー
『
「「えっ!?」」
不意に教室の中に響く召喚の声。目をやると、そこには斗真が召喚獣を出して武器を構えていたのだ。
~斗真視点~
俺は明久と清水さんが戦っている空き教室に入り、直ぐ様召喚獣を呼び出した。二人は俺が割って入ってきたことに驚いているみたいだが、俺にはここで為さねばならぬことがある。
「伏兵、ですか・・・・・・!卑怯な真似を・・・・・・!」
清水さんが俺と明久を憎々しげに睨み付けている。まあ、確かにそうなるのも仕方ないが
「斗真!いくら大事な勝負だからって、そんなやり方は間違っているよ!」
明久は俺が騙し討ちをしにきたと思っているようだ。
「悪いな明久。これは勝負じゃなくて戦争なんだ。俺には雄二に代わってクラスを守る義務があるんだよ」
「へ?ねぇ斗真。雄二は今何を・・・・・・?」
「本当ならここで雄二が後始末をする予定だったんだが、俺が気絶させて教室にて寝てもらっているよ。雄二に関しては姫路さんに介抱してもらってるから問題ない」
「でも・・・・・・」
俺は明久に冷たく言い放ち、武器を構えると
「や、やめー」
俺は召喚獣に攻撃を仕掛けた。
明久の方にだがな。
ザシュ
「・・・・・・・・・・え?」
攻撃を受けた明久は一瞬思考を放棄する。そして数秒の時が流れると
「痛あぁぁあっ‼ねぇ何コレ!?今までで一番痛いんですけど!?」
「それはそうだ明久。何しろ俺の化学の点数は300点を超えてるからそれなりの痛みが来て当然だ」
そして痛みに悶絶している明久をほったらかし、ズボンのポケットに手を突っ込んだ姿で清水さんに視線を向けて話をする。
「清水さん。この通り、明久にはそれなりの罰を与えておいたから、これで今回の件を水に流してはもらえないか?そうしたら、昨日のアレも返してあげるよ」
「ぎゃぁぁぁあっ!斗真、いくらなんでもこれはあまりにも痛すぎるよ!」
明久はあまりにもの痛みにのたうち回っており、清水さんはそれを呆れた目で見下ろしていた。
「・・・・・・そうですね。まだまだ美春の怒りは収まりませんが・・・・・・」
「悪いけど、これ以上やったら明久は状態抜きで危ないからこの辺で勘弁して休戦を受け入れてくれないかな?でないとー」
「わかりましたわ。納得いきませんが貴方の要求通り、休戦を受け入れます」
「うん。ありがとう。・・・・・・音質は頂いたよ(スッ)」
「え?」
俺はポケットからあるものを取り出す。それは
「こ、小型録音機・・・・・・。あ、貴方はまさか美春から証言を録る為にこんな真似を・・・・・・!」
「悪いけど、君も明久と同じように補習室にて反省してもらうよ」
ザシュ
俺は即座に清水さんの召喚獣を切り刻んだ。
「みぎゃあぁぁあっ!何ですかこれは!?美春の身体から今まで感じたことのない痛みがー‼」
清水さんも明久同様痛みに悶絶し始める。
「忘れたのかい清水さん。君は前回の合宿で覗き騒動の原因である明久への脅迫文と女子風呂にカメラを設置した罰で観察処分者になっただろ。だから召喚獣にダメージが与えられるとフィードバックがくるようになったんだよ」
「お、おのれぇぇぇー!東條ー!貴方だけはー!」
「島田さんを利用したことに関しては悪かったけど、この一撃は島田さんのプライバシーを勝手に覗き見してきたことへの報いだと思って頭を冷やすんだな」
「あの、東條君。これはいくらなんでも、やり過ぎじゃないですか?」
「布施先生、この二人にはこれくらいで十分ですので問題ありません。それとフィールドは消しても構いませんよ。音質が取れた以上この戦いを続ける意味はありませんからね」
「そうですか。わかりました」
布施先生は化学のフィールドを消すと、その場を離れていった。
「さて、そろそろ来ると思うけど・・・・・・」
俺は痛みに悶絶している二人を放置して、ある人を待っていると
タタタタッ
「はぁ、はぁ、はぁ。すみません、アキちゃんの写真が貰えると聞いて来たんですけど」
「ああ、玉野さん。来てくれたか」
そこには玉野さんが息を荒げて駆けつけて来たのだ。
実はさっき連絡を入れたのは、清水さんと同じDクラスの玉野美紀さんで。何故玉野さんをここに呼んだかと言うと
「玉野さん。悪いけど、この録音機を平賀に渡してくれないかな。そうしてくれたらコレをあげるよ」
「写真、ですか・・・・・・?」
玉野さんに写真を見せると、目付きが変わり始めた。
「お、オォォーっ!これはメイド服のアキちゃんじゃないですか。本当に貰ってもいいんですね!?」
「勿論だよ。じゃあ後はこれを頼むね」
「わかりました。録音機は代表に渡しておきますので、任せてください!」
そうして玉野さんは写真を受けとると、嬉しそうな顔をしながら平賀のいる教室へと向かっていった。
「と、斗真・・・・・・。き、君は・・・・・・雄二に負けず劣らずの外道だね・・・・・・」
「・・・・・・・・・・ピクピク(あまりにもの痛みに気絶している清水さん)」
「さて、この二人は鉄人先生に回収してもらうとして、俺も教室に戻るとしますか」
こうしてDクラス戦は休戦となり、俺達は無事にBクラスとの戦争を回避することに成功したのであった。
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