「というわけで雄二。今日も楽しく勉強しよう!」
放課後。素早く帰り支度を整えた明久が雄二のもとに駆け寄ると一緒に勉強しようと話し掛けた。
「・・・・・・明久。似合わない台詞が気持ち悪いぞ」
「なんとでも言ってよ。今の僕には体裁を気にしている余裕がないんだから」
「その様子だと、また玲さんから減点をくらったのか?」
「うん・・・・・・。朝からいきなり英語の問題を出されてさ・・・・・・」
明久から詳しく聞くと、今日の朝。起きてすぐに玲さんから英語の問題を出されただけに留まらず、所持しているエロ本に姉萌えがないという理不尽な理由で減点されたそうだ。英語に関してはともかく、下らない私情で減点されるとは明久があまりにも気の毒すぎる。
「そうか。それで、今はどのくらいの減点なんだ?」
「確か、合計で290点。かなり厳しいんだよね」
「290か。そうなると、期末の総合目標は1090くらいだな」
「そうなんだよ。今までは絶好調でも1000点ちょっとだったから、それに更に50点以上アップさせないと・・・・・・」
「普段から勉強していればそれだけの点を取るのは難しくなかっただろうに」
「だって、面白いゲームを見つけたらついついやっちゃて・・・・・・」
「お前なぁ。そんなことばっかしていたからあの姉が来たんじゃないのか」
俺が呟くと明久は痛いところを突かれたのか物凄く落ち込んでしまった。
「まぁ、その程度ならまだなんとかなるだろ」
「え? そうかな」
「暗記科目を中心に今から死ぬ気で根性入れたら、それなりに上がるはずだからな。お前の場合、伸び代が残っている世界史あたりが狙い目だ。確か今までは50~60程度だったよな?」
「うん。よく覚えてるね」
「一応クラス代表だからな」
試召戦争の為にクラスメイトの点数をチェックするところは流石に代表なだけはあるか。戦力を把握するのは指揮官としては当然のことだしな。
「振り分け試験と違って、期末の問題を作るのは田中らしい。お前にはありがたい話だろ?」
「田中先生か・・・・・・。それなら確かに点数を取り易いかも」
「確かに。田中先生はそんな難しい問題を作る人じゃないしな」
今回のテスト問題を作る田中先生はおっとりとした初老の先生で、あの人の問題は解きやすいと生徒達からは評判が高い。いつもなら全員が解き易いと点数に差が出ないから意味がないと思うが、明久にとってはありがたみがある。今の明久に必要なのは他の皆との差ではなく点数だからな。
「下手に理数系に力を入れるよりは、暗記科目に集中した方が点数に結びつきやすいはずだ」
「そうだね。今から数学なんて勉強してもあまり点数は上がらなそうだし」
「明久にはそれしか残されてないから、他は切り捨てるほかないな。いきなり数式を解けとか聞かれてもバカな解答がでるのは想像に容易いし」
「うっ!・・・・・・それを言われると否定できない」
明久にとって期末テストの鍵は世界史が握ることになるのは確実だ。それをどこまでやれるかは明久次第ってところか。
「なんじゃお主ら。今日も明久の家で勉強かの?」
俺達が話していると秀吉が鞄を抱えてこちらにきた。
「僕の家? う~ん・・・・・・。今日からは姉さんが仕事でいないから、それでもいいんだけど・・・・・・」
「けど?」
「今日は雄二か斗真の家にしようよ。たまには僕の家以外にも行ってみたいし、何より僕の部屋には参考書とかの勉強道具があまり揃ってないし」
「明久。悪いけど俺の家には姉ちゃんがいるし、勉強する時は極力自分だけでしたいって姉ちゃんが言ってたから俺の家は無理だ」
「そうなんだ。じゃあ雄二の家で勉強会はどうかな? 昨日は無理を押して僕の家に来たんだし」
「まぁ、確かに昨日は無理矢理押し入ったようなもんだしな・・・・・・」
少し何かを考え始める雄二。
「わかった。今日は俺の家でやるか。幸い、おふくろも温泉旅行で不在だしな」
雄二のヤツ。なんで母親の存在を気にするんだ?そういえば昨日料理をしてる時雄二は『放っておくと何をしでかすかわからないからな』って言いながら遠い目をしていたから、雄二の母親は明久の姉の玲さんと同じくらいヤバイ人なのかな?
「それならば、ワシも同行させてもらっていいかの? 一人では勉強をする気が起きんのじゃ」
「秀吉はやる気以前に俺と優子が監視しないとまともに勉強しないだろうが」
「と、斗真の言う通りじゃな・・・・・・」
「まぁ、ちゃんと勉強するっていうのなら教えてやらんこともないけど」
「そうなのか?じゃとしたら頑張らないと・・・・・・」
「予め言っておくが、優子も連れていくから覚悟しておけよ」
「うぅぅぅ~。斗真が姉上と同じくらい意地悪するぞい」
「意地悪じゃないっての」
秀吉は俺を怨めしそうに見詰めるが、秀吉をこのままにしておくと優子に何言われるかわからないからな。とりあえず明久と一緒に勉強を見てやらないと
「それじゃ、いつものメンツと木下姉を含めた八人でやるとするか。 それならさっさとしようぜ」
「そうだね。おーい、ムッツリーニ、姫路さん、美波!」
「はい。なんでしょうか明久君?」
「何か用?」
「・・・・・・・・・・どっかに行くとか?」
勉強道具を鞄にしまっていた三人がこちらにやってきた。
「うん。今日は雄二の家でテスト勉強をしようと思うんだけど、良かったらーー」
皆は期末テストに向けて気合いが入っていた為、勉強会には二つ返事で参加だった。
「というわけで、今日もよろしく頼むよ」
「任せて。学園の優等生としてしっかり教えてあげるわ」
「姉上は普段は猫を被ってるだけなんじゃがの」
「何か言ったかしら秀吉?」
「な、なんでもないのじゃ!」
「まぁまぁ落ち着けよ優子。ここで秀吉を絞めたら地の性格が露になるからやめておけ」
「そうね。秀吉、後で覚えておきなさいよ」
「どのみちワシは折檻されるなんてあんまりじゃ!」
優子と合流した後、俺達は雄二の家へと向かうことに
「んじゃ、入ってくれ」
学校から歩いて十五分程度。住宅街の一角にある雄二の家に到着した俺達はさっそく中に入る。
「「「お邪魔します」」」
玄関で靴を脱ぎ、さっそくリビングに行こうとすると明久が雄二に尋ねる。
「ねぇ雄二。家には誰もいないの?」
「ああ。親父は仕事で、おふくろは高校の同級生たちと温泉旅行らしい。だから何も気兼ねせずゆっくりしてくれ」
「そうなんだ。そういえば、前に来たときも雄二の家族は留守だったね」
「ああ。その方が都合がいいからな。色々と」
「俺達に会わせたくないってことは、雄二の母親は明久の姉並にヤバイのか?」
「まぁ、そこは置いといてだ」
俺からの質問を受け流し、晴れやかな表情をした雄二がリビングのドアを開けると。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・‼(ぷちぷちぷちぷち)」
居間には一心不乱にプチプチを潰している女の人がいた。
「・・・・・・・・・・」
ーーパタン
何も言わずに戸を閉める雄二。
「ゆ、雄二・・・・・・? 今の、山ほどあるプチプチを潰していた人って」
「・・・・・・赤の他人だ」
「んなワケあるか。あれはどうみたって雄二の母親に違いないだろうが」
「さ、坂本の母親なの・・・・・・? なんだか、随分と凄い量を潰していたわよね・・・・・・」
「う、うむ。あれほどの量。費やした時間はおそらく一時間や二時間ではきくまい」
「それ以前にどうしてあそこまでプチプチを潰せれるか気になるけど」
「・・・・・・・・・・凄い集中力」
「坂本君のお母さんはそういうお仕事をされているのでしょうか?」
「姫路さん。そういう内職は存在しないからな」
様々な憶測が飛び交うが、今のはどう見たって雄二の母親に違いない。
「恐らく、精神に疾患のある患者がなんらかの手段でこの家に侵入したに違いない。なにせ、俺のおふくろは温泉旅行に行っているはずだからな」
「雄二。下手な誤魔化しをしても意味ないぞ」
雄二は苦し紛れに嘘を付く。
いつもは詐欺師のように人を騙す雄二がここまで苦しい言い訳をするなんて珍しい光景だ。
すると雄二が戸を閉めていたリビングから雄二の母親らしき人物の声が聞こえてきた。
『あら・・・・・・?もうこんな時間。さっき雄二を送り出したと思ったのに』
どうやら八時間近くプチプチを潰していたようだ。
『続きはお昼を食べてからにしましょう』
しかもまだ続けるみたいだ。
「おふくろっ! 何やってんだ!?」
雄二が耐えきれずに踏み込んだ。やはりあの人は雄二の母親だったか。
「あら雄二。おかえりなさい」
「おかえりじゃねぇ! なんで家にいるんだ!? 今日は泊まりで温泉旅行じゃなかったのかよ!?」
「それがね、お母さん日付を間違えちゃったみたいなの。7月と10月って、パッと見ると数字が似ているから困るわね」
「どこが似ているんだ!? 数字の形どころか文字数すら合ってないだろ!?」
「こら雄二。またそうやってお母さんを天然ボケ女子大生扱いしてっ」
「サラッと図々しい台詞をぬかすな! あんたの黄金期は十年以上前に終わっているはずだ!」
「あら、雄二のお友達かしら?」
「だから人の話を聞けえっ!」
怒涛の応酬に呆気に取られる俺達。まさか雄二の母親がここまで凄い人だったとは。昨日初めて玲さんと会った時と同じくらいの衝撃だ。
「皆さんいらっしゃい。うちの雄二がいつもお世話になってます。私はこの子の母親の雪乃と言います」
柔らかな微笑みで俺達に挨拶をする雪乃さん。その優しげな雰囲気に接する限りじゃ、雄二と血が繋がってるようには見えない。
そして何より驚くことといえば、雪乃さんは顔つきがあまりにも若すぎることだ。
「さ、坂本の母親って・・・・・・若すぎない!?」
「むぅ・・・・・・。とても子を産んでおるとは思えん・・・・・・」
「・・・・・・・・・・美人」
「まるでお姉さんみたいですね~」
「嘘でしょ・・・・・・。ここまで若々しい母親がいるなんて」
皆が言うように、母親って言うより年の離れた姉っていったところだ。実際の年齢はどれくらいか気になるが
「み、皆、とりあえずおふくろは見なかったことにして、俺の部屋に来てくれ・・・・・・」
「う、うん。それじゃ、お願いします」
頭を下げて上にある雄二の部屋に向かうことに。
『皆さん。後でお茶を持っていきますね』
居間からはそんな声が聞こえてきたが、さっきプチプチを潰していたあの姿からして、まともにお茶を立てれそうには思えない。
「ここが俺の部屋だ。入ってくれ」
階段を上がってすぐのところにある雄二の部屋は意外にも片付けられており、一人用の部屋としては結構の広さがある。
「そういや、久しぶりに雄二の部屋に来たよ」
「ワシもじゃな」
「・・・・・・・・・・同じく」
「前にここに来たのは去年の秋くらいだったかな」
「え?アンタたちはよく来てるんじゃないの?」
「大抵は僕の家に集まっていたからね。雄二の家だけじゃなくてムッツリーニや秀吉、斗真の家でもあんまり遊んだことはないんだよ」
「場所といい、広さといい、明久の家は都合がいいからな」
「家族用のマンションで一人暮らしですもんね。贅沢です」
「食生活を除けばね」
「それが原因であの姉が来たんだから、期末テストで結果を残さないとな」
「そ、そうだね・・・・・・」
どうやら明久はちゃんと自覚はしていたようだ。
「それはそうと・・・・・・。やっぱりこの人数で俺の部屋は狭すぎるか。参ったな・・・・・・」
俺達は全員で八人。座って話をするくらいなら問題ないが、道具を広げて勉強をするには広さが足りないな。
「居間じゃダメかな?」
「ダメじゃないが、おふくろがいるからな。勉強にならない可能性が高い」
雄二が嫌そうな顔をしている。まぁ、あの母親の近くで勉強するとなると雄二が苦労するだけになるしな。
「もうっ。ダメですよ坂本君。お母さんを邪魔者扱いしてっ」
「そうは言うがな姫路。お前はあのおふくろと一緒に暮らしていないからそんなことが言えるんだ。四六時中一緒にいると、ツッコミどころが多すぎてー」
Prrr! Prrr!
雄二が反論している途中、突然スマホの着信音が鳴り響いた。
「あ、ウチのスマホね。ちょっとゴメン」
島田さんがスカートのポケットの中からスマホを取り出して耳に当てる。メールじゃなくて電話ってことは、何らかの急用だな。
「もしもし。 あ、Mutーーお母さん。どうしたの? ・・・・・・うん。・・・・・・うん。そう。わかった」
一分もしないで通話を終えた島田さんはスマホをポケットにしまう。
「美波、何かあったの?」
「うん・・・・・・。今週は仕事が休みだからって母親が家にいるはずだったんだけど・・・・・・ちょっと急な仕事が入って家にいられなくなったみたい」
「あ、そうなの? それじゃ、葉月ちゃんが家に一人ってこと?」
「そうね。 だから、悪いけど今日はウチは帰るわ。勉強はまた今度ね」
残念だけどそういう事情なら仕方ないか。まだ小学生の妹を家に一人にしておくわけにもいかないからな。
島田さんが鞄を持って部屋を出ようとすると、雄二が引き留める。
「待て島田。それなら、場所をお前の家に変更しないか?」
「え?ウチの家?」
島田さんの家か。それならさっき言ってたように島田さんの両親がいないから広く使えるし、葉月ちゃんを見てあげることできる。
「それは良いのう。島田の妹とは全員が顔見知りじゃし、丁度雄二の部屋は手狭だったところじゃし」
「葉月ちゃんとも会えますしね」
「・・・・・・・・・・なんなら、夕飯を作る」
「葉月ちゃんって、この前見たあの可愛い子でしょ。アタシも久し振りに会いたいわ」
他の皆も乗り気だな。まぁ、雄二はあの母親から遠ざけたいから会場を変えたくてしょうがないって顔をしてる。
「美波さえ良かったら、どうかな?」
「う・・・・・・。 そ、そうね・・・・・・」
「ん?どうしたの島田さん。イマイチ乗り気じゃないみたいだけど」
「な、なんでもないわ。じゃ、じゃあ、ウチの家にしましょうか・・・・・・」
島田さんは少し考えた後、承認したが
「ただし! 絶対にウチの部屋に入っちゃダメだからね!」
島田さんは明久の目を見てそう言った。明久はそんな人の部屋を覗き見る真似はしないんだけど
「よしっ! そうと決まれば早速移動だ! チビッ子も一人じゃ寂しいだろうからな!」
雄二が背中を押さんとばかりの勢いで俺達を玄関においやろうとする。あの母親から離れたいのが本音だと思うが
皆が靴を履いている間、雄二は居間にいる母親に声を掛けていた。
『おふくろ。ちょっと出掛けてくる。夕飯は昨日の残りが冷蔵庫にあるから、それを食べてくれ』
『あら、もう行っちゃうの? お茶を用意しているとこなのに』
『悪い。ちょっと事情が変わったんだ。・・・・・・ところで、その麺つゆのボトルは何に使うんだ?』
『麺つゆ? あらら・・・・・・。 てっきりアイスコーヒーだとばかり・・・・・・』
『おふくろ・・・・・・。色や匂いで気づいてくれとは言わないから、せめてラベルで気づいてくれ・・・・・・』
なんだろう。雄二は家にいる方が学校にいる時より疲れて見える気がするんだが
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