バカと双子と二刀流   作:ペンギン太郎

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第五問 衝突

 俺達が肝試しの準備をしていると常夏コンビが他の三年生達を連れて俺達のいる教室に怒鳴り込んで来てはぎゃあぎゃあと喚いてきた。

 

 「騒がしいと思ったらやっぱりまたお前か! 吉井!」

 

 「お前はそこにいる東條同様目障りなヤツだな・・・・・・!」

 

 俺と明久にそう言ってきたのは坊主頭が特徴の夏川とモヒカン頭がトレードマークの常村だ。コイツらには学園祭の時に色々と迷惑を掛けられたから不愉快なんだが

 

 「変たー変態先輩でしたっけ?」

 

 「明久。名前は違うがコイツらにはピッタリなあだ名だ」

 

 「おい!? 今言い直そうとしたくせに俺たちの顔を確認して言い直すのをやめなかったか!? それと東條! そのあだ名は間違ってるからな!」

 

 「お前、吉井と同じ俺たちを心の底から変態だと思ってるだろ! 常村と夏川だ! いい加減名前くらい覚えろ!」

 

 ぎゃあぎゃあうるさいんだよお前らは。そんな偉そうに喚くんだったらここに来なければいいのに。

 

 「それで常夏先輩。どうしたんですか?」

 

 「テメェ・・・・・・。個人を覚えられないからってまとめやがったな・・・・・・」

 

 「さすがはあの吉井明久だ。脳の容量が小さすぎるぜ」

 

 「なんて失礼な」

 

 「明久がバカなのは置いておくとして、なんで三年の先輩達がここに来たのですか?理由をお聞かせてください」

 

 一応先輩なので、俺が敬語を使い質問をすると

 

 「んなもん。お前らがうるさいから文句を言いに来たんだよ!」

 

 「夏期講習に集中できねぇだろうが!」

 

 常夏コンビと一緒に来た三年も「そうだそうだ」と騒ぎ立てる。確かに俺達はさっきまでバカ騒ぎはしていたが上の階にまで響くほどじゃなかった筈だ。まさかコイツら、受験勉強に飽きて俺達にクレームをつけるためにここに来たんじゃないだろうな。

 

 「すいません。上の階まで響いてるとはーー」

 

 「おいおいセンパイ方。そいつは酷い言いがかりじゃないか?」

 

 明久が頭を下げようとすると、雄二が割って入ってきた。雄二のことだからとっくに気付いてるだろうな。

 

 「え? 雄二。言いがかりってどういうこと?」

 

 「口実を設けて難癖をつけることだ。いちゃもんとも言う」

 

 「つまり、先輩達はただ単にーー」

 

 「言葉の意味は聞いてないよ! さてはキサマ僕のことを凄いバカだと思ってるな!?」

 

 「・・・・・・え・・・・・・?」

 

 「なんだその『何を今更』って顔は! 僕をそこまでバカだと思っているのは雄二と斗真だけに決まっているじゃないか!他の人は皆ーーって待った! どうして皆気まずそうに目を逸らすの!? 僕の目を見てよ!」

 

 「明久。お前は少し黙ってろ。話がややこしくなる」

 

 「そうだな。この件はゆっくりと話そう。今は他の話があるから、な?」

 

 雄二は明久を子供を諭すように言うが、明久はそれに対して腹立たしそうにする。悪いがそれは後回しにしてと

 

 「それで、えーと・・・・・・何の話だっけか?」

 

 「三年生の文句が言いがかりではないか、という話だ。先輩達は上で夏期講習をやってたんだけど、俺達が騒ぎ立てるからクレームをつけに来たんだよ」

 

 雄二はそうだったな、と呟くと先輩達の方へ向き直って説明をする。

 

 「俺たちが騒がしいのは認めるが、これだって歴とした試験召喚獣を使った勉強の一つだ。学園長だってそれを認めている」

 

 雄二の言う通り、これは召喚獣を使った催し物だし、それを否定することは試召戦争も、ひいてはこの学校のシステム自体を否定することになる。ババァからのお墨付きがある以上、先輩達から頭ごなしに言われる筋合いはない。

 

 「それに何より、ここは新校舎だ。古くてボロい旧校舎ならともかく、試召戦争という騒ぎを前提として作られた新校舎で、下の階の騒ぎ声が上の階の戸を閉めた教室の中にまで聞こえるわけがないだろ?」

 

 「雄二の言う通りだ。あなた達が真面目に授業を受けてたんなら下の階の騒ぎ声は届かない筈ですよ」

 

 「要するに、だ。センパイ方は勉強に飽きてフラフラしているところで俺たちが何か楽しげなことをしているのに気がついて、八つ当たりをしにきたってワケだ」

 

 雄二がそう言うと、常夏コンビや他の三年の先輩達はバツが悪そうに目を逸らしていた。姉ちゃんから先輩達については粗方聞いてはいたけどここまで器が小さいとは。

 

 「それじゃあ言わせてもらうが坂本よぉ! お前らは迷惑極まりないんだよ! 学年全体での覗き騒ぎに、挙句の果てには二年男子が全員停学だぞ!? この学園の評判が落ちて俺たち三年までバカだと思われたらどうしてくれんだ! 内申に響くじゃねぇか!」

 

 「「「う・・・・・・」」」

 

 明久と雄二を筆頭に、二年生男子全員が目を逸らす。向こうの言い分はもっともだし。それで学園のイメージに深く関わったのは間違いない。だがあれは清水さんが俺達に濡れ衣を着せたからその無実を証明する為にやったことなんだがな。

 

 「だいたいお前ら二年は出来が悪い連中が多すぎんだよ。バカの代名詞の観察処分者だって二年にしかいねぇし、学園祭で校舎を花火で破壊したのだってそこのクズコンビだろ?」

 

 「呼ばれたよ雄二。謝りなよ」

 

 「お前のことだろ明久」

 

 「お前ら二人ともだクズ」

 

 「「そんなバカな?」」

 

 「何驚いてるんだよ。当然だろうが」

 

 常夏コンビは明久達が校舎に花火を放ったことに文句を言ってるがあれはお前らがバカなことをするのを止める為にやったのに平然と言ってられるな。それについて言ってやりたいけどその件は学園長から口止めされてるから強く言えないのが残念だ。

 

 「まぁ、明久が気に入らないというそちらの言い分はわかった」

 

 「待って雄二。そうやって全ての罪を僕に押し付けようとするのは良くないことだと思う」

 

 「雄二。そういうことをするから常夏コンビの二年風情バージョンだって学園長から言われたのを忘れたのか?学園長の言い分は合ってるし、俺もそう見えるからな」

 

 「おい斗真!俺をあのクズ野郎と一緒にするんじゃねぇぞ!」

 

 「「どういう意味だゴラァッ!!」」

 

 雄二が反論すると、それに反応するように常夏コンビも騒ぎ立てる。

 

 「東條! 自分の姉が俺たちと同じ三年Aクラスなのをいいことに調子乗ってんじゃねぇよ!」

 

 「てめぇもそこにいる吉井たちと同じクズだろうが!」

 

 ふぅん。俺までクズ呼ばわりするとはな。だったら言ってやろうじゃないか。

 

 「それじゃあ言わせて貰いますけど、そのクズに召喚大会で負けたのはどこの先輩方ですか?しかもテストの問題に多少のハンデが合ったとはいえ後輩に惨敗したのをお忘れじゃないですよね?」

 

 「くっ! てめぇ・・・・・・!」

 

 どうやら常夏コンビはあの時受けた屈辱を忘れてはいないようだな。

 

 「そういうことですので偉そうにするのはやめて貰えませんか?先輩として敬れたいのならもう少し品のある行動をして下さいよクズ如きに負けた先輩方」

 

 ブチッ!

 

 「上等だぁ!だったらここであの時の雪辱を晴らしてやろうじゃねぇか!」

 

 「東條弟! そこまで言ったからにはてめぇをここでぶっ潰してやるよ!」

 

 常夏コンビが怒りを露に俺に勝負を挑もうとすると

 

 

 『いい加減にしなさい!』

 

『!?』

 

 突如、怒鳴り声が聞こえてきたので声のした方を見てみると

 

 「あなた達、ここで何してるの!休憩時間が終わっても戻ってこないから様子を見にきたのにどうして二年生と喧嘩をしてるのよ!」

 

 声を荒げながら現れたのはなんと俺の姉である東條真理だった。姉ちゃんはこの学園じゃ有名だから知らない人はおらず、姉ちゃんを見た瞬間、三年の先輩達は萎縮し始めた。どうやら三年生の中じゃ姉ちゃんの立場は上のようだ。

 

 「ね、姉ちゃん・・・・・・」

 

 「あ、お久しぶりです。真理さん」

 

 姉ちゃんが来たことに俺と明久は驚くが

 

 『眼福じゃあー!』

 

 二年生の男子生徒の殆どが姉ちゃんを見ては興奮していた。女子達も姉ちゃんを見てはとても羨ましそうに見ている。

 

 「ん? 斗真じゃない。丁度良かった、何があったか聞かせてくれる?」

 

 「ああ。そこにいる先輩達が俺達二年生が騒いでたからいちゃもんをつけに来てな。俺や明久達をクズ呼ばわりしてくるから召喚大会でボコボコにしたことを言ったら逆ギレされちゃって」

 

 「ふ〜ん。そういうことだったのね」

 

 「おい東條! なに邪魔をしてくれてるんだよ!こっちは今からお前の弟を懲らしめようとしたのに・・・・・」

 

 「先に仕掛けたのはあなた達でしょ。それに私達は受験勉強で忙しいんだから下らないことで喧嘩をしないで」

 

 「そうですよ。そんなことをしてる余裕がないんだったら大人しく自分達の教室に戻って勉強したらどうですか」

 

 「こ、この野郎〜!」

 

 「もう頭に来た!てめぇはここでぶちのめす!」

 

 「はぁ、どこまで気が短いのやら。姉ちゃん、悪いけど下がっといてくれないか。こうなった以上ここで白黒つけなコイツらは引き下がらないからな」

 

 「ちょっと斗真。相手は私と同じAクラスよ」

 

 「大丈夫だって。前回同様返り討ちにすればいいだけの話さ。明久、悪いけど手を貸してくれないか?」

 

 「オーケー。僕もこの人たちには言われっ放しになるのも嫌だし協力するよ」

 

 「それじゃあ、俺と明久対常夏コンビと行きますか。秀吉、腕輪を切っといてくれ」

 

 「うむ。了解した」

 

 秀吉が黒金の腕輪をOFFにすると世界史のフィールドが再び展開され、俺達は召喚獣を出す。

 

 『試獣召喚(サモン)っ!』

 

 幾何学模様の中から常夏コンビの召喚獣が現れるが事前に聞いてたからかヤツらは大して驚いてはいない。

 常夏コンビの召喚獣は牛頭と馬頭を出している点からして本質は『弱いものいじめ』か。どうやら心の底まで腐りきってるとみて間違いなさそうだ。

 一方の俺達はルシフェルとデュラハンを出し、戦闘態勢をとる。

 

 「明久、俺はモヒカンの召喚獣を殺るからお前は坊主頭を頼む」

 

 「了解」

 

 「常村と夏川だ! 名前くらいちゃんと言えや!」

 

 明久に夏川の方を任せ、俺は自身の召喚獣を常村に向ける。

 

 

三年Aクラス 常村 勇作 174 点

 

VS

 

二年Fクラス 東條 斗真 355 点

 

 「な!? 俺の倍も取ってるだと!?」

 

 「悪いがさっさと決めさせてもらいますよ」

 

 「テメェ! 三年を舐めるなぁ!!」

 

 常村の召喚獣は槍を構えて突撃するが、俺はそれを尽く躱していく。

 

 「な、なんで当たらねぇんだ!? 経験はこっちが上のはずじゃ!?」

 

 「生憎こっちはそれなりに場数を踏んでますので、この程度の攻撃を避けるのは容易いすよ」

 

 「この野郎!」

 

 「まぁいいか、それより・・・・・・とっととくたばれ」

 

 俺の召喚獣であるルシフェルは手から光を収束させ槍にして馬頭へ投げ飛ばすと槍は直撃し、常村の点数は大幅に減っていく。

 

 

三年Aクラス 常村 勇作 15 点

 

 「チッ!仕留めそこねたか」

 

 「ば、バカな。この俺がクズに圧倒されるなんてことが・・・・・・」

 

 「まだそんなことを言うんですか。そうやって人を見下してばかりいるから俺には敵わないんすよ」

 

 「くっ!」

 

 「それより、明久の方はどうなってんだ」

 

 俺は明久と夏川が戦っている様子を見てみると

 

 

 

三年Aクラス 夏川 俊平 65 点

 

VS

 

334クラス アレクサンドロス大王 161 点

 

 

 「・・・・・・明久」

 

 「ん? どうしたの斗真?」

 

 「自分の名前を見てみろ」

 

 「え? あ、いつの間に!?」

 

 「いつの間にじゃねぇよ。この間の期末のミスがそのまま反映されてるだろうが。おかげでお前がバカだってことが先輩達に知れ渡ってるぞ」

 

 「ち、違うよ! ちょっと間違えちゃっただけで、これは正真正銘僕の点数だよ! 名前のミスなんて誰もが一度はやることじゃないか!」

 

 「何をどう間違えたらアレクサンドロス大王って書き間違えるんだよ」

 

 「そ、それはその、えーっと・・・・・・」

 

 はぁ、なんでこんな時に明久がしでかしたミスが浮き彫りになるんだよ。そのせいか

 

 『ほら見ろ。やっぱ二年はバカ揃いじゃねぇか』

 『ち、違う! 吉井は二年の中でも群を抜いたバカなんだ!』

 『そうだ! それに吉井は来年もう一度二年生をやるだろうから縁は切れるはずだ!』

 

 明久は三年だけじゃなく同じ二年のヤツらからも酷い言われようになっている。

 

 「とにかく、名前は後で修正してもらうとして、トドメといきますか」

 

 明久のミスを後にして、俺は常村に止めを刺そうとすると

 

 「悪いがそこまでにしてもらえんかね」

 

 聞き慣れた声が聞こえたので見てみると、学園長が教室に入ってきたのだ。

 

 「なんですか学園長?邪魔をしなければ先輩に止めをさせれたんですけど」

 

 「その決着はまた別の機会にしてもらえんかね。それよりも肝試しを許可してやったのに何だねこの有り様は」

 

 学園長が全体を見回し溜息を付きながら聞いてきた。

 

 「申し訳ありません学園長。事の発端は私達三年が二年生が肝試しの準備している最中に横槍を入れてしまい、このようなことになってしまいました」

 

 姉ちゃんが深々と頭を下げながら学園長に説明する。

 

 「なるほどね。まさか三年が夏期講習をサボってそんなことをするとはあまりにも情けないねぇ」

 

 「くっ・・・・・・!」

 

 そう言われた三年の先輩達は歯ぎしりをしながら悔しそうな顔をする。まぁ、後輩にしかも学園きってのバカで有名な明久とFクラスの俺にここまでやられたんじゃ相当腹が煮えくり返るだろう。

 

 「それで、こんなところまで来てどうしたんですか学園長? 僕らに何か用でも?」

 

 「ああ。ちょいと二年生に伝えておくことがあってね。坂本はいるかい?」

 

 「ん? なんだババァ?」

 

 雄二が学園長に呼ばれて出てきた。アイツ、俺と明久が常夏コンビと戦っている様子を一人だけ楽しそうに見ていたな。

 

 「この肝試し、学園側が援助してやろうじゃないか。大掛かりな設営も召喚する為の教師も応援する。せいぜい派手にやるこったね」

 

 「そいつはまた、随分と気前がいいな。どういうことだ?」

 

 「その代わり、作ったものはそのままにしておくこと。盆休みあたりに一般公開でもしてやろうかと思っているんでね」

 

 「イメージアップ戦略か。涙ぐましいことだな」

 

 「そうなる原因を作ったのはお前だろうが」

 

 「アンタたちがどんどん評判を下げてくれるからねぇ。こっちも苦労するさ」

 

 学園長はそれなりに苦労しているようだ。

 

 「元々この召喚獣の変更はそれが目的だったからね」

 

 学園長が念を押すように強調する。あれは自分がしでかしたミスを絶対に言うなって顔をしているな。

 

 「さて、次は三年についてだがー」

 

 「学園長。この件に関しては私が責任を取りますのでご許し下さい」

 

 姉ちゃんが学園長に深々と頭を下げると

 

 「まぁ待ちな東條。これはどう見たってそこにいるバカどもがしでかしたことに決まってるだろうからアンタが無理に責任を負う必要はないよ」

 

 「言われてるよ斗真」

 

 「なんで俺なんだよ。元はと言えばコイツらの仕業だろうが」

 

 「んだとコラぁ!」

 

 「・・・・・・(キリッ)」

 

 「「「すみません」」」

 

 姉ちゃんから強烈な睨みを効かされ、俺達は沈黙する。

 

 「はぁ、こうなったからには仕方ない。東條、肝試しに関してだが、三年も一緒に参加したらどうだい」

 

 「え? よろしいのですか学園長?私達三年は受験を控えてますのに勉強を休んでいいのでしょうか?」

 

 「別にいいさね。アンタらも日々勉強ばかりでストレスが溜まってるだろうし、これを機に発散でもしな」

 

 「そうですか。ありがとうございます学園長」

 

 「冗談じゃねぇ。こんなクズどもと仲良く肩を並べて肝試しなんてやってられるか」

 

 「たよな。胸くそ悪い」

 

 後ろに控えている三年も声に出してはいないが同様の意を示しているな。姉ちゃんには悪いけどこんなヤツらと一緒にやるなんて願い下げだ。

 

 「そこまで言われると、是が非でも参加させたくなるねぇ・・・・・・。よし、決めたよ。明日の夏期講習・補習の最終日は全員参加の肝試しにするよ」

 

 「「な・・・・・・っ!」」

 

 常夏コンビが学園長の通達に目を白黒させる。

 

 「これはあくまでも補習と夏期講習の仕上げだからね。補習と講習の参加者は余すとこなく全員参加すること。いいね」

 

 学園長はそう告げると、満足したかのように教室を去っていった。あのババァ、面倒なことを押し付けやがって

 

 「とりあえず、そこにいる坂本君が二年生の責任者であってるよね?」

 

 「ああ。そこで突っ立っているヤツがここの責任者だ。雄二、今から話をつけるからお前も参加しろ」

 

 「わかってるよ。ま、そういうワケだセンパイ。楽しくやろうぜ」

 

 「そうね。じゃあ早速だけどー」

 

 「うるせぇ! 俺はお前らはなんざと仲良くやるつもりはねぇ!」

 

 「ちょっと常村 いい加減落ち着きなさいよ」

 

 「だろうな。俺もアンタらは気に食わねぇ。ま、斗真の姉は話がわかるから例外だが」

 

 「あぁっ!?」

 

 「だったら学年対抗で勝負するってのはどうだ? 驚かす側と驚く側に分かれて白黒つけた方が手っ取り早くすむからな」

 

 「二年と三年で分かれて、ってことか」

 

 「ああ。それなら仲良くやる必要はないだろ」

 

 その代わり、溝が深くなるけどコイツらは気に食わないから別にいいか。

 

 「それじゃあ、どっちが驚かす側に回るの?」

 

 「んなモン。俺たち三年が驚かす側だ。 俺たちはお前らにお灸を据えてやる必要があるからな」

 

 「その言葉そのままそっくり返してやりますよ。先輩」

 

 「んだとコラぁ!」

 

 「二人とも、喧嘩してる場合じゃないでしょ!」

 

 「ごめん姉ちゃん」

 

 「チッ!」

 

 姉ちゃんはともかく先輩らの目的は相手を怖がらせて笑ってやろうって考えてるな。ったく、そんなんだから敬うことはできねぇんだよ。問題は雄二がこれを譲るかどうかだがー

 

 「ああ。それで別に構わない」

 

 「え?」

 

 雄二はそれをあっさりと承諾した。雄二のことだからおそらく面倒な作業を先輩達に押し付けては自分だけ楽をしようと思ってるな。

 

 「じゃあ驚かす側は私達三年が引き受けるわ。それで坂本君、細かいルールについてなんだけどどうするつもり?」

 

 「コイツが最初俺たちが予定していたルールだ。文句があれば一応聞くが」

 

 そう言って雄二が取り出したのはA4サイズのプリントだ。さっき俺達が準備してる間に雄二はルールを作っていたがどういうふうになってるんだ?雄二からプリントを貰い見てみると

 

 

 ①二人一組での行動が必須。一人だけになった場合のチェックポイント通過は認めない。

 ※一人になっても失格ではない。

 ②二人のうちのどちらかが悲鳴を上げてしまったら、両者ともに失格とする。

 ③チェックポイントはA〜Dの各クラスに一つずつ。合計四箇所とする。

 ④チェックポイントでは各ポイントを守る代表者二名(クラス代表でなくとも可)と召喚獣で勝負する。撃破でチェックポイント通過となる。

 ⑤一組でもチェックポイントを全て通過できれば驚かされる側、通過者を一組も出さなければ驚かす側の勝利とする。

 ⑥驚かす側の一般生徒は召喚獣でのバトルは認めない。あくまでも驚かすだけとする。

 ⑦召喚時に必要となる教師は各クラスに一名ずつ配置する。

 ⑧通過の確認用として驚かされる側はカメラを携帯する。

 

 

 「へぇ〜。結構凝ったルールだね。面白そうだよ」

 

 「あとはこれに設備への手出しを禁止するって項目を追加する予定だ。学園長がうるさそうだからな」

 

 「ここまで丁寧に作るなんて流石としか言いようがないわ」

 

 「坂本。この悲鳴の定義はどうなっている?」

 

 「ん? そこの部分か。そうだな・・・・・・。そこは声の大きさで判別するか。カメラを携帯させるわけだし、そこから拾う音声が一定値を超えたら失格ってことでどうだ?」

 

 「そんなことができんのか?」

 

 「・・・・・・・・・・問題ない」

 

 カメラに関してはムッツリーニに任せればいいんだが

 

 「きゃっ!? いつの間に!?」

 

 「おいムッツリーニ。なに勝手に姉ちゃんのスカートの中を撮ってるんだよ」

 

 ムッツリーニは俺達が話をしてる間に密かに姉ちゃんのスカートの中を撮っていたようだ。本当に油断も隙もねぇなコイツは。

 

 「ムッツリーニ、そのカメラは没収するから写真を消去してから返却な」

 

 「・・・・・・・・・・無念!」

 

 俺にカメラを取られたムッツリーニは悔しそうな顔をしていた。

 

 「まぁ、音声に関してはムッツリーニに任せるから心配する必要はねぇってことだ」

 

 「チェックポイントの科目はどう決める?」

 

 「それについてはお互いに一つずつ科目を指定ってことでどうだ?」

 

 「一つずつ? 二つずつじゃないのか?」

 

 「ああ。もう既に化学と現国には話をしちまったからな。受験で選択されやすいその二つならそこまで有利不利もないし問題ないだろ?」

 

 教室はA〜Dクラスのを使うので全部で四つある。そのうちの二つは化学と現国で残り二つをそれぞれ選ぶこととなる。

 

 「坂本よぉ。それよりさっさと負けた側の罰を聞かせろよ」

 

 夏川は何がなんでも俺達を嵌めてやろうと嫌らしい顔をしている。とても最上級クラスのすることとは思えないな。

 

 「そうだな。負けた側は二学期にある体育祭の準備や片付けを相手の分まで引き受ける、ってことでどうだ?」

 

 「おいおい坂本。お前にしちゃ随分とヌルい提案じゃねぇか。さてはテメェ、勝つ自信がねぇな?」

 

 夏川はそう言うが、雄二はわけを話す。

 

 「アンタらと勝負するって話自体、皆に知らせてないからな。勝手に決める罰ゲームとしてはこの程度が妥当だろ? 俺も、アンタも」

 

 「そういうこと。いくら学園長のお墨付きとは言え、相談もなしに酷い罰ゲームを決めたら皆から色々言われるからな」

 

 「ほら、もうルールと罰ゲームを決めたんだからさっさと教室に戻るわよ」

 

 「・・・・・・けっ」

 

 「そう逸るなよセンパイ。勝負がしたいのならアンタらはチェックポイントにいてくれたらいい。そうしたら、俺と明久、もしくは斗真が個人的な勝負をしてやるからさ」

 

 「雄二。勝手に決めるなよ。まぁ俺はそれで構わないけど」

 

 「チェックポイントで直接対決か・・・・・・。面白れぇ。その話、乗ったぜ」

 

 「そんじゃ、勝負は明日ってことで。楽しみにしてるぜ、センパイ?」

 

 「クズどもが年上の怖さを思い知らせてやる」

 

 

 こうして肝試しは学年対抗戦となり、楽しくやる筈が互いの面子をかけた勝負となるのであった。

 尚、三年生は面倒な作業を押し付けられたことに気付かず。後に驚かす側を引き受けるんじゃなかったと後悔するのだった。

 

 

 

 

 

 三年生が明日の肝試しの準備をしている中姉ちゃんはと言うと

 

 

 「アラン君。ちょっといいかしら?」

 

 「構いませんよ。それでご用件は何でしょうか?」

 

 「うん。折角の肝試しだし、皆には思いっきり楽しんで貰う為にある物を用意して欲しいの」

 

 「あるもの、ですか?」

 

 「それはねー」

 

 

 五分後

 

 

 「わかりました。早急に手配致しましょう。学園長には僕から伝えておきますので任せてください」

 

 「ありがとうアラン君」

 

 姉ちゃんはアランに何らかの頼み事をしていたのだった。




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