《よしっ! Bクラス制覇!》
《やったね真一君!》
朝倉達が撃破されてから七組のペアが突入し、そのうち五組が何度かギリギリの悲鳴を上げながらもなんとかチェックポイントに辿り着くことに成功した。今回の勝負は補充テストはなく、チェックポイントの人員の入れ替えもできない。攻め込むこちら側は一回の勝負では勝てなくても何度か戦い、相手を消耗させればクリアできることになっている。つまりこの勝負は、如何に沢山の成績優秀な人を失格にさせずにチェックポイントに送り込めるかが鍵となるわけだ。
「はぁ・・・・・・。良かったです・・・・・・。これで私たちはBクラスには行かなくていいんですよね」
「うん。Bクラスはもうクリアしたからね」
事前に取り決めたルールでは、一度踏破したクラスは飛ばして、次のクラスからスタートしてもいいことになっている。クラスの並び順と迷路の形の関係で、Bクラスの次はDクラスに突入することになる。
「私は怖いから不参加にさせてもらいたいんですけど・・・・・・」
「う〜ん・・・・・・。そればっかりは学園長のお達しだからね」
今回の肝試しは授業を潰してやっているからこれも授業の一環となっている。自由参加の夏期講習に出ていた他のクラスはどうにもなるけど俺達Fクラスは参加義務のある補習を潰しての授業な為、怖いから不参加という理屈は通じないのだ。
「優子。大丈夫か・・・・・・?」
「う、うん。アタシはさっきよりは少しマシになってきたかな」
「そうか。あまり無理はするなよ」
「ありがとう斗真」
「この調子で皆さんがクリアしてくれたらいいんですけど・・・・・・」
一縷の望みをかけて、姫路さんは最後にしてもらっている。その前に誰かが最後のAクラスのチェックポイントをクリアしてくれるといいんだが
「姫路さんが行かないで済むように、僕らも頑張るよ。ね、美波?」
「そ、そうねアキ。一緒に頑張りましょ」
「斗真。ワシも微力ながら頑張るぞい」
「そうか。頼りにしてるぞ秀吉」
島田さんが複雑そうな顔をしながらやる気を見せているのに対し、秀吉はいつでも行けると意気揚々な様子を見せつける。秀吉はこういった時には明久同様頼りになるから俺にとってありがたい存在だ。島田さんも怖がってはいるけど楽しみにもしているといった複雑な感じの表情を見せている。
俺達以外にも、参加している皆はモニターを見て悲鳴を上げたり相手の配置をノートに書いたりと、それぞれが方法を駆使しては楽しんでいる。姫路さんは怖いものには苦手意識があるから難しいかもしれないが、せめてこの雰囲気だけは一緒に楽しんで貰えるといいな。
《それじゃあ、引き続き俺たちはDクラスに向かうぞ》
《頑張ろうね、真一君》
カメラの向こうではBクラスを突破した二人がそのままDクラスに向う。ここから先はどうなってるかわからない為要注意だ。
《怖かったらいつでも言えよ真美。俺が守ってやるからな》
《うん。ありがとう。頼りにしているからね真一君》
『『『チ・・・・・・ッ!!』』』
モニターから伝わるリア充の二人に対し、教室中から舌打ちが聞こえてくる。やったのはCクラスかBクラスの男子達によるものだった。
「ねぇ斗真。どうして男子はそういう心無いことを平気でするのかしら」
「そういうことをするから自分は彼女ができないということに気付くべきなんですけどね」
「まぁ落ち着けよ二人共。舌打ちは確かに良くないけどアイツらはFクラスと比べれば全然マシな方だからな」
「? どういうこと斗真?」
「どうもなにもFクラスのヤツらはー」
「坂本。次は俺に行かせろ。ヤツらに本物の敵は二年にいるってことを教えてやる」
「待てよ近藤。ここは【安心確実仲間殺し】の異名を持つこの俺、武藤啓太の出番だろう」
「いやいや【逆恨み凄惨します】がキャッチコピーの、この原田信孝に任せておくべきだ」
「舌打ちでは済まされないレベルのバカなことをしようとしてるからだ」
「・・・・・・あそこまでバカだと尊敬に値するわね」
「はぁ。まさか僕の想像を遥かに上回るほど頭が悪いとは」
「おいおいお前ら・・・・・・。とにかく落ち着けよ」
雄二は呆れたように肩を竦めるが
「ーーそういうことは、クラス全員でやるべきだ」
何言ってるんだお前は。蔓延る悪事は見逃せど、他人の幸せは見逃さない。という醜いことを平然としようとしてるんだよ。
「一応鉄人先生に報告はしておくか」
「けどまぁ、今仲間同士でやり合うのはまずいよね。折角先に進んでいるんだから、彼らにも頑張ってもらわないと」
「うむ。やるからには勝ちを狙うのは当然じゃからな」
そうして下らない会話を打ち切ると、敵のしかけを見極める為に画面に視線を戻す。
今度の舞台となっているDクラスはさっきまでのBクラスに比べて圧倒的に狭く、広さは大体三分の一くらいしかない。おそらくBクラスよりは大掛かりな仕掛けもできないからさっきよりは簡単にクリアできるかもしれんが
《きゃぁあああっ!》
《え!? どうした真美!? なにかあったのか!?》
《な、なにかヌメっとしたものが首筋に・・・・・・!》
そう思った矢先にモニターから悲鳴が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・・失格」
音声レベルは失格ラインを超えている。さっきの悲鳴は女子の方だが、ルール上どちらかが悲鳴を上げた時点で両者共に失格となる。
「ねぇ雄二。今の、何をされたか見えた?」
「いや。カメラには何も映らなかった」
「どうやら向こうは何らかの方法を使ったと見て間違いなそうだな」
Dクラスは何らかの町並みをモチーフとした作りではなく、あくまでも暗く、ゴミゴミとしただけの装飾になっている。これだと本人達も何が起きたのか判別するのは難しいだろう。
《うきゃぁああーっ!》
《おいっ! どうした!?》
続いて入っていった二組目も、何度か現れたお化けに怯むこともなくある程度進めたのだが、途中で悲鳴を上げてしまい失格になってしまった。
「なぁアラン。ひょっとして三年は召喚獣を囮に使って本命は何らかの物を使ってるんじゃないか?」
「多分そうかもしれないね。召喚獣を見せつけてその隙に死角から物を当ててるかもしれないよ」
「だろうな」
今俺とアランが言ったように、死角から何かを触れさせて驚かしているんだろうな。さっきヌメっとしたものがどうとか言ってたからおそらくコンニャクを当ててたに違いない。
《おわぁっ!? へ、蛇!?》
《か、カエル! カエルが降ってきた!?》
立て続けに入っていった三組目も失格になった。今度は爬虫類のおもちゃを使ったか。暗闇の中で悲鳴を上げさせるには充分効果があるしな。
「くそっ。向こうもバカじゃないな。うまく切り替えてやがる」
「うまく切り替えるって、驚かし方を?」
「ああ。さっき斗真と如月が言ってたように刺激する感覚を触覚に変えて来やがった。Bクラスでは散々視覚のみを刺激されたからな。急に他の感覚に替えられたらついていけないだろ」
「なるほど。向こうも頭を使っておるというわけじゃな」
「流石に上級生なだけはあるか」
さっきはいくらでも召喚獣を出して来たから同じ手は使わないと高を括っていたがあんなやり方で驚かしてくるとは意外だったな。おまけに道も広い上、目で見える物に驚くという点だけに気を付けていたら良かったものの。今度はそれに接触を織り交ぜてきたか。今から突入する人達もさっきまでモニターを見て【目で見える物の恐怖】が植え付けられている。カメラからでは伝わらない【身体に触れる物の恐怖】には簡単に対応できないのも無理はない。
「それならこっちだって手を打ってやろうじゃねぇか。Fクラス部隊第二陣、出撃だ!」
『『『おうっ!』』』
気合の入った返事が返ってくるが、果たしてコイツらは上手くやってくれるか心配だな。
《おい。坂本や戻ってきたヤツの話だと、どうにもここは何かよくわからん物を当ててくるらしいぞ》
《そうなのか。それだとさっきまで見ていたBクラスよりやりにくいな》
《ああ》
Fクラス第二陣の内の一組が警戒しながら会話をしている。流石に流血沙汰に慣れているFクラスでも、今回の向こうの作戦は少しやりにくいみたいだ。それでも他のクラスの人達よりはずっと大丈夫そうに見えるのだが
《そこで、俺はちょっとした対策を考えてきたんだ》
《対策? 何か良い方法があるのか?》
《おう。とっておきの方法だ。 ・・・・・・いいか? 突然触ってくるものが怖くなって悲鳴をあげるのは、それがなんだかよくわからない気持ち悪い物だからだ》
《ああ。そうだな》
《だから、その触れてくる物を『俺のことが好きで手をつなぎたいけど、恥ずかしいからそこらの物を使ってしまう美少女』に脳内変換してやればいい。そうしたら、怖いどころか嬉しい接触に早変わりだ》
《な、なんだと・・・・・・!? それはあまりにも妙案すぎる・・・・・・! 武藤、俺はお前の頭脳が恐ろしいぜ・・・・・・!》
《へっ。よせやい》
「ねぇ二人とも。あの二人、会話がモニター越しに皆に伝わっていることを知らないのかな」
「わからん。なにせ、恐ろしい頭脳の持ち主たちだからな」
「おかげで俺達の評判がだだ下がりになっていることに気付いてないのかアイツらは」
「そうじゃな。近くで見ている女子からも蔑みの目線が出ているしの」
「確かに恐ろしいね」
そのまま二人の行動を見守ること数分。偶然方向転換をしたカメラに、何かが横切る瞬間が映った。あれは・・・・・・コンニャクか。
ピタッという音を立てて二人に接触すると
《ふおぉぉおーっ!! たまんねぇーっ!!》
バカ二人は脳内変換でトリップしていた。
「・・・・・・・・・・失格」
「明久、斗真。後であの二人を始末しといてくれ」
「わかった」
「了解」
悲しいかな。この手でクラスメイトに手をかけることになるとは。
「こ、このクラスは見ているだけならそこまで怖くないので助かります・・・・・・」
「そうね。これならウチも平気かも」
「アタシもこれくらいは大丈夫ね」
なんて言いながらも、三人は悲鳴が響いてくる辺りで体をビクッと震わせていた。
「雄二。今の二人はともかく、他の三組は順調そうだね」
「そうだな。突然の接触に驚きはするものの、悲鳴をあげるほど繊細な神経をしている連中じゃないからな」
「例え声を出したとしても失格レベルには至らないし、その辺は問題はないか」
「ということは、向こうもそろそろ動きを見せる頃合ということじゃな」
「ああ。向こうにもこっちの様子は筒抜けだからな。また別の方法で落としにかかってくるだろう」
お互いにカメラを通じて状況を把握できる分、臨機応変な対応が可能になる為向こうが順調ならこっちが、こっちが順調なら向こうが手を打つのは当然だ。
「そうなると、今度は何をしてくるのかな?」
「多分俺達の予想を上回る何かだと思うけどな」
「さぁな。見当もつかないがーーん?」
雄二が言葉を途中で句切るとモニターに身体を向ける。
「あ。何か雰囲気が変わったね」
「そうじゃな。暗くてわかりにくいが・・・・・・どうも広い場所に出たように見えるのう」
秀吉の言う通り、カメラ④は薄暗いながらも広い空間を映していた。
「けど、何も仕掛けがなさそうに見えるね」
「うむ。広めの空間だけのようじゃ。あとは・・・・・・中央の上部に照明設備らしきものが見えるくらいじゃな」
「そこにある何かに注目しろって言ってるようだが、何を見せつけようとしてるんだ?」
「さぁね。でも、碌なものじゃないのは確かだけど」
俺達は更に目を凝らしてモニターの映像を見る。天井の辺りにケーブルの様なものが見える。あれはおそらくスポットライトだろうが何に使うつもりだ?
《なんか不気味だな》
《ああ。よくわからねぇけどヤバい感じがする》
モニターの向こうの二人が固唾を飲んでいる様子が伝わってきた。こういったことには無頓着なFクラスでも、勝負の勘所はそれなりに感づいている。おそらく三年はここで何かを仕掛けてくるみたいだろうな。
「・・・・・・・・・・人の気配」
ムッツリーニも気付いたのか小さく呟いた。
画面には、暗闇の空間の中央に、誰かが静かに佇む影が映し出されていた。あれは向こうの仕掛けだと思うが囮の可能性も否定できん。何も無い広い空間と見せかけての、背後からの奇襲も考えられると思うが
《突っ立っていても仕方ない。先に進むぞ》
《わかった》
二人が歩を進め、カメラもそれに伴って暗闇の奥を映し出さんと移動する。
二人が空間の中央まであと三歩、といったところで画面に動きが見られた。
バン、と荒々しく照明のスイッチが入る音が響き渡ると暗闇から一転して光の溢れ出した画面の中央には、常夏コンビの片割れである夏川がスポットライトを浴びていた。
ーー全身フリルだらけの、ゴシックロリータファッションという気色悪い格好で。
『『『ぎゃぁあああーーっ!!』』』
そのあまりにもの気色悪さに、画面の内外を問わず悲鳴が響き渡る。
「坊主野郎めっ! やってくれやがったな!」
「汚いっ! やり方も汚ければ映っている絵面も汚いよ!」
「きゃぁああーっ!? お化け! いや、お化けじゃないですけどお化けより怖いです!」
「うぅぅぅ・・・・・・っ! 夢に見る・・・・・・! 絶対ウチ今夜は眠れないわ・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・気持ち悪い」
「あれは流石にワシも耐えられん・・・・・・!」
「なぁアラン。やり方はともかく、趣旨が間違ってると思うんだが・・・・・・うぇ」
「そうだね。あれは『怖がらせて驚かす』じゃなく『気色悪さで驚かす』だね・・・・・・うぷっ」
「うぅぅぅ。なんなのよあれは・・・・・・見るに耐えられないわ」
さしものFクラスメンバーやAクラスの優子とアラン、そして霧島さんも想定外のグロテスクな画面に悲鳴は避けられなかった。
てか誰だよあんな気色悪い格好させて驚かそうなんて考えたヤツは。
《なんだ? 今、こっちの方から何か聞こえなかったか?》
《ああ。間違いない。そこで悲鳴がーーぎゃぁあああーっ!》
二組目もやられてしまい、悲鳴が呼び水となってしまっている。
「雄二!早く手を打たないと全滅だよ!」
「く・・・・・・っ!だが、既に突入しているやつらはもう助けようがない・・・・・・!」
「そんな!? 彼らを見捨てるしかないって言うの!?」
「諦めろ明久。行ってしまった以上どうにもならないからな」
《ぎゃぁああーっ! 誰か、誰か助けーー》
《嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ! 頼むからここから出してくれ!》
《助けてくれ! それができないからせめて殺してくれ!》
《☆●◆▽┐♬♡×っ!?》
「・・・・・・・・・・突入部隊・・・・・・全滅・・・・・・っ!」
「くそぉっ! 皆ぁっ!」
「明久。あやつらは別に死んだわけじゃないぞ」
「多分戻ってくる頃には精神が汚染されてると思うけどな」
「どうする坂本君。あそこを進まないとチェックポイントを通過できないよ」
「わかっている! 向こうがそうくるのならこっちだって全力だ! 突入準備をしている連中を全員下げろ! ムッツリーニ&工藤愛子ペアを投入するぞ!」
『『『おおおーーっ!!』』』
ムッツリーニと愛子の名前を上げた瞬間。教室に雄叫びが響き渡った。
『『『ムッツリーニ! ムッツリーニ!』』』
『『『工藤! 工藤!』』』
鳴り止まない『ムッツリーニ&工藤』コールの中、名前を呼ばれた愛子は緊張した様子もなくムッツリーニに近寄り話し掛けた。
「だってさ。よろしくねムッツリーニ君」
「・・・・・・・・・・(こくり)」
ムッツリーニはあれだけのものを見たにも関わらず平然としていた。
「頼んだぞ二人とも。なんとしてもあの坊主を突破して、Dクラスを突破してくれ」
雄二がムッツリーニと愛子の目を見て話しかける。
「う〜ん。約束はできないけど、一応頑張るよ坂本君。あ、そうだ」
愛子は俺の方に振り向くとこう発言する。
「ねぇ斗真君。もしボクとムッツリーニ君がDクラスを突破できたらシュークリーム奢ってくれないかな?」
「え? ああ別に構わないぞ」
「ふふっ。ありがとう」
「・・・・・・・・・・」
「ムッツリーニ君。なにカッターを忍ばせているのかな?まさか工藤さんが斗真に近いことに焼いているのかい?」
「・・・・・・・・・・違う。俺は工藤に興味など持ってはいない」
「やれやれ。君も素直じゃないね全く」
ムッツリーニはアランと何らかのやり取りをしていたが、問題はないみたいだな。
「じゃ、行こうかムッツリーニ君」
「・・・・・・・・・・あの坊主に、真の恐怖を教えてやる」
こうしてムッツリーニ&愛子によるスケベコンビが突入するのだった。
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