このSSでは鹿角家について独自の解釈をしていますのでその点はご了承ください。
前より少し文章量を増やしましたが、私の性格上恐らく話数を重ねるごとに文章量が増えていくかと思います。
それではお楽しみください。
鹿角家の次女、鹿角理亞は期待に胸を膨らませていた。
そんな彼女の様子はまるで遠足前日の小学生のようだった。
もうすぐ高校一年生として新しい学校生活が始まるというのももちろんだが、本質は別のところにあった。
やっと憧れのスクールアイドルになれると。
大好きな姉と一緒に歌い、踊ることができると。
二人で目指した夢への第一歩を踏み出すことができるんだと。
彼女は自分の姉と同じ学校に通うために得意ではない勉強も精一杯やった。
周りからは『難しい』とか『志望校のレベルを下げた方がいい』などと言われたことがあったが、それでも家族は彼女のことを信じ続け、それに応えるように彼女も最後まで諦めること無く努力した。
神様はそんな彼女の姿をしっかりと見ていたのだろうか、彼女の必死の努力は見事に花を咲かせた。
合格発表で自分の番号を見つけた時には一緒に見に来ていた母も姉も自分の事のように喜んでくれた。
その時は彼女自身できて当然と言わんばかりに喜びを顔には出さなかったが、内心嬉しくて仕方なかった。
(やっと姉様とスクールアイドル活動ができる!)
新生活に向けての準備とスクールアイドル活動について姉と色々話し合っている充実した時間の中で突然それは訪れた。
「家族会議?」
理亞は姉の聖良から告げられたその言葉を反復した。
「えぇ、今日の晩御飯の後に母さんから私達に話があるそうなのです。」
「ふーん・・・。」
鹿角家で家族会議は特段珍しいイベントではなかった。
家族でどこに旅行に行くだとか、新しい家具などの相談だとかそこまで深刻な内容のものはほとんど無かったからだ。
理亞は特に気にする様子もなく部屋に戻り新生活の準備の続きに取り掛かった。
「今夜は積もるかも・・・。」
窓の外に写る空からの白い来訪者を見て彼女は一人そう呟いた。
「んん・・・」
けだるさと共に理亞は目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
コンコン
彼女の部屋のドアを叩く音が聞こえる。
「理亞ー、晩御飯の用意ができましたよー。」
姉の聖良が起こしに来てくれた。
「すぐ行くわー。」
ベッドから起き上がった理亞はあることを思い出した。
(そういえば・・・今日は家族会議があるって。一体なんだろう。もしかしたら犬でも飼うとかかな?・・・・・・なんてね。そんなわけないか。)
彼女の予想はある意味では間違ってなかったとこの後知ることになる。
晩御飯を食べ終え、食器を片付けたところで二人の母が彼女たちに切り出した。
「二人に聞いてほしいことがあるの。」
「「!」」
二人はいつものたわいもない話をする母とは違う雰囲気を感じたので思わず身構えた。
そして次に出てきた言葉は二人の想像をはるかに超えたものだった。
「この家で養子を引き取ろうと思うの。」
「「え?」」
一瞬聖良と理亞は母が何を言っているのかが分からなかった。
しかしそんな混乱した状況の中でも聖良は母にこう言った。
「どうして養子を引き取ることにしたんですか?」
「う~ん・・・どこから話せばいいのかな・・・。とりあえず引き取ろうって思ってる子の写真を見てもらおうかな。」
そう言って美紀はスマホの写真フォルダにある雪の写真を見せた。
二人は身を乗り出してスマホの画面をのぞき込んだ。
そこに写っていたのは雪のように白く透き通った肌の男の子。しかしその顔はどこか悲しそうであまり生気を感じさせない表情だった。
「綺麗・・・」
理亞は彼を見て思わずそんな言葉が漏れた。
「えぇ、とても可愛らしくて、優しそうな感じのする男の子ですね。」
聖良も彼から漂う優しそうな雰囲気を感じ取っていた。
そんな二人の感想を聞いて母はにっこりと微笑んだ。
「そうなの・・・あの子にそっくりなのよね・・・」
(母さんの顔、何だか嬉しそう・・・。)
「この子は白銀雪くんっていうの。それで私の親友の子供なの。まぁその親友は天国に行っちゃったんだけどね。」
「この子の父親はどうしたの?」
美紀は少し俯いて理亞の質問に答えた。
「その子の父親も母親と一緒に事故で・・・。」
「そんな・・・。」
この姉妹も養子の男の子と同じように父親を早くに病によって亡くしていたのだ。
父親は理亞が二歳になってからすぐに急病で倒れ、そのまま帰らぬ人となっていた。だから理亞は聖良と違って父親との思い出をほとんど覚えていない。彼女が知る父親は仏壇にある遺影に写った姿だけ。
なのでこの姉妹は幼くして父親を亡くした雪に共感するところがあったのだろう。
それから美紀は理亞と聖良に雪のことについて話した。彼の両親が亡くなってからの事、彼が親戚たちから疎ましく思われていたこと。彼には私たちが必要だということ。
「それで、どうかな?彼を養子に迎えてもいいかしら?もちろん嫌なら嫌って素直に言っても大丈夫よ。」
母の質問に聖良はすぐに返答した。
「私は良いと思います。母さんがそこまで言うのならきっと悪い人ではないのだと思いますし、母さんの言う通り彼には私たち家族からの愛情が必要だと感じました。それに新しく弟ができるのもなんだか嬉しいです。」
「理亞はどう思う?」
聖良の返答を聞いた母は続けて理亞にも答えを求めた。
「私は・・・」
彼女は混乱していた。自分がどう答えてもいいのかが分からなかったのだ。
だから・・・
「うん。私も姉様と同じ気持ち。いいと思うわ。」
その答えを聞いて母は喜んだ。
「二人ともありがとう!じゃあ彼がいるご家庭に連絡しておくわね!多分こっちに移ってくるまでそんなに時間はかからないと思うから。」
美紀は娘たちが了承してくれるのを信じて、ある程度の手続きは既に済ませていたようだった。
彼女は足取り軽く食卓を離れて雪の親戚に連絡を取るために自室へ向かった。
残された聖良と理亜は彼のことについて話していた。
「兄弟が増えるなんて楽しみですね!」
「そうね、この家には男の人はいないからきっと楽しくなると思うわ。」
「白銀雪くん・・・私たちみんなでたくさん楽しい思い出を作りましょうね!」
「えぇ・・・本当にそう思うわ・・・。」
理亞は母に雪を引き取るか聞かれた時どう答えるか迷っていた。
それは彼女の中で白銀雪という少年を怖がっていたからだ。
雪の容姿についてそのような感情を抱いたのではなく、彼女は新たに鹿角家の一員となる彼が母の美紀や姉の聖良の愛情を理亞の分まで奪ってしまうのではないかと危惧していた。
彼の境遇を聞く限り恵まれた環境で育ってきたわけではなく、むしろ彼は今まで言葉で表す以上に辛い思いをしてきたことは理亞にも想像できた。しかしその思いは聖良も同じことで人一倍面倒見のいい彼女はきっと白銀雪という少年に本当の兄弟のように愛情を注ぐということは自明の理であった。
もちろん美紀や聖良が理亞をないがしろにして雪に構うということはありえないと頭では分かっていたのだが、心のどこかでそんなことが起こってしまうのではないのかと恐れている自分がいたことも否定はできなかった。
それでも鹿角理亞はまだ中学校を卒業したばかりの少女。まだ実際に会ってもいないのに雪に嫉妬心に似た感情が沸き上がろうとしていた。
だからこそ返答に悩んだ。
でもその時の母や姉の顔を目の当たりにすれば『嫌』なんて言葉は口が裂けても言うことはできなかった。
彼女もまた家族を愛していたからだ。愛する家族の気持ちを裏切りたくなかった。
感情を上手く表に出すことができない彼女なりの愛の形だった。
(白銀雪か・・・会ってみたいけど、やっぱり少し怖いわ・・・)
彼女は雪と出会うその日まで興味と恐怖という相反する気持ちを抱きながら忙しい時間を過ごしていた。
そして今日ついに鹿角家に白銀雪が養子としてやって来た。
その日は実家で経営する茶屋の店番をしていたが時間帯的にお客さんがあまり来店しないので同じく店番をしていた聖良と一緒に客が来るまで店の奥の居住スペースで休憩していた。
インターホンと玄関の扉が開く音が聞こえたので客が来たと思い、エプロンを着なおしてから店へと向かった。
しかしそこで見たのは大きすぎない荷物を抱えた少年と彼と楽しそうに会話する母親の姿だった。
「母さん、お客様ですか?」
「ちょっと待ってよ姉様。」
母のそばに立つ少年をしっかりみると二人はあることを思い出した。雪のように白い肌、少し怖そうに見える目元、何よりどこか生気の抜けた表情。写真で見た時よりも少し成長しているがあれが今日から家族になる白銀雪という少年だということを理解した。
そして母が姉妹のことを目の前の少年に紹介する。
母が紹介を終えると少年は姉妹の方を向いてこう言った。
「今日からお世話になります、白銀雪です。よろしくお願いします。」
(やっぱり彼が白銀雪・・・写真で見るよりも綺麗。)
理亞がこんな感想を抱いていると聖良が彼に自分自身の言葉で自己紹介をしていた。
「はじめまして白銀雪くん。私は今日からあなたの姉になる鹿角聖良といいます。今年から高校三年生なのであなたより二歳上になりますね。よろしくお願いします。」
姉が簡単な自己紹介を終え、次は自分の番だと分かっているがいざ雪を目の前にすると理亞は中々声が出なかった。
そんな妹の様子に気づいた聖良は理亞の代わりに彼女の自己紹介をした。
「この子は鹿角理亞といって私の二つ下の妹です。ですから雪くんとは双子になりますね。少し人見知りなところがあるので今は緊張していますが根はいい子なので、きっとすぐに仲良くなれると思いますよ。」
二人の自己紹介を聞いた彼は少しぎこちない笑顔を二人に見せてこう言った。
「聖良さん、理亞さん僕を家族として受け入れてくれてありがとうございます。ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします。」
「はい、素敵な家族になりましょうね。」
聖良はそう言ったが、結局理亞は何も言えなかった。
第三話もいつ投稿できるか不明ですが、空いた時間に頑張って執筆します。