世界に異変が生じる直前。
デルムリン島での戦いに終止符が打たれようとしていた。
「メ・ガ・ン・テ!!」
「あああぁ~~!!?」
天さえも貫くほどの爆発。
アバンの命のエネルギーは膨大な破壊力となり、全てを飲み込んだ。
何もかもが消し飛んだ大地に、ダイ、ポップ、ゴメ、ブラスだけは無傷で立っていた。
13班が消えた後に始まった、アバンとハドラーの戦い。
ハドラーは傷ついていたが、それでもまだアバンとの間には大きな実力差が存在していた。
アバンはダイたちにアストロンを施し、自己犠牲呪文であるメガンテでハドラーを道連れにすることを選んだのだった。
ダイとポップに、卒業の証であるアバンのしるしを残して……
「うああ……せ、先生~~!! お、おれのせいでぇ……!!」
ポップはアストロンで動かぬ体のまま、大粒の涙を零していた。
13班がいれば、こんなことにはならなかったに違いない。
ポップの脳裏には、この結果を招いた己の不甲斐なさが思い返されていた。
グロッキー状態から回復し、アバンたちの帰りをマリナと共に待っていたポップ。
そんな中、突然の地響きが島中を揺らした。
ポップは、それが誰かが結界を破ろうとしているのだと気がついてしまった。
揺れが収まった後、ポップはアバン達の元へ行こうと思ったが……どこで修行をしているのか知らなかった。
仕方なく、不安に怯えながら帰りを待とうと考え直した直後。
「見つけたぞ」
聞いたこともない声と共に、目の前に魔族が降り立ったのだ。
「あ、あああ~~~!? ま、魔族がなんでこんな場所に~~!?」
今まで見てきたどんなモンスターや魔族より恐ろしい殺気を放つ存在に腰を抜かすポップ。
そんな彼の前に、マリナが立ち塞がった。
「ば、馬鹿野郎!! に、逃げろ、こいつぁ魔族だ!!」
「喚くな、虫ケラめ。用があるのはこの娘よ」
「……わたし?」
首を傾げるマリナ同様、その言葉にポップも疑問を持つ。
何故、魔族が異世界の住人に用があるのだろう。
そもそも、どこでこいつはマリナのことを知ったのだろうと。
しかし、そんなことを問えるはずもなく、ポップは震えるのみ。
「私は豪魔軍師ガルヴァス。大魔王バーン様の配下の一人……バーン様が、我らが居城へ貴女を招待したいと仰っております」
「嫌」
一言、マリナは拒絶の意思を示した。
「困りましたな……手荒な真似をすれば、命はないものと思えと厳命されております。ですが……後ろの魔法使いに関しては、何も聞いておりません」
ギロリと、ガルヴァスの視線が初めてポップを捉えた。
ガタガタ震えるポップとガルヴァスの視線を遮るように、マリナが間に立つ。
「……どうすれば、ポップを逃してくれるの?」
「私は貴女をお連れすることだけが任務。それ以外のことに、興味はありません」
しばらく俯いていたマリナだったが、顔を上げ、ガルヴァスに一歩近づく。
「ついていくから、この島のみんなに、手を出さないで」
「マ、マリナぁ……!!」
「ポップ、13班にわたしは大丈夫って、伝えて」
ポップに向ける表情は、先ほどからまったく変化がない。
だが、ポップにはその体が僅かに震えているのがわかってしまった。
それでも、ポップの体は恐怖故に動けない。
「……メネロ」
ガルヴァスの言葉に、背後から女魔族が姿を現す。
「くれぐれも丁重にな。バーン様の機嫌を損ねれば、私の首まで飛びかねん」
「わかっておりますわ。さぁ、大人しく着いていらっしゃい」
メネロに従い隣に立ったマリナは、彼女と共にルーラの光に包まれ空に消えた。
「さぁて……」
「なっ、なんだ!? マ、マリナとの約束を破るつもりか!?」
「知らんな。そんな口約束……信じる奴が愚かということよ」
そうしてポップは捕まり、アバン達の前まで連れて行かれるのだった……
「(こんなことになるなら、死んでも抵抗するんだった……マリナを逃してやれれば、結果的に先生が死ぬことなんて……!!)」
激しい後悔に苛まれるポップの前で、瓦礫が動く。
「「先生……!?」」
ダイと重なった希望を込めた言葉。
瓦礫の下から現れたのは、血に塗れたハドラーの姿であった。
「そ、そんなぁ……!!」
絶望に打ちひしがれるダイたちを尻目に、ハドラーはアバンを倒したことに狂喜の笑い声を上げていた。
「フハハハハ!! ……さて、残るは貴様ら、か」
ハドラーの鋭い眼光がダイたちを貫く。
ふらつきを抑えるためか、一歩一歩踏みしめるようにアストロンで固まった彼らに歩を進める。
「お、おれたちを始末する気か!?」
「フフフ……安心しろ、オレはガルヴァスとは違う。約束通り貴様の命だけは助けてやろう、貴様だけは、な」
命を保証する言葉が、ポップには死刑宣告以上に辛い。
ハドラーはポップを蹴り上げ、一人だけダイたちから遠ざける。
「俺のメラは地獄の炎。アストロンの上からでも延々と燃え続ける……呪文がとけた瞬間、貴様らが灰と化すまでな」
指に炎を纏わせ、今にも放とうかというハドラーであったが、突如その動きを止める。
「……なんだ?」
ふと、違和感を感じて空を見上げたハドラー。
高速で接近してくる、飛行物体。
それは、ハドラーさえ見知らぬドラゴンの群れであった。
「なんだ、あれは……ぬぅ!?」
ドラゴンの先頭が、デルムリン島を囲む結界へと激突する。
ハドラーが侵入した時同様、島全体に振動が走った。
その勢いに乗ると言わんばかりに、第二、第三と続々結界を破らんと押し寄せるドラゴンたち。
だが、そのような力技はハドラークラスの実力があってこその芸当。
有象無象が束になろうと、破れるようなものではない。
「こ、このドラゴン共は一体!?」
「て、てめぇの部下じゃねぇのか?」
「超竜軍団はリンガイアを担当しているはず……それに、まったく見たことがないドラゴンだと……?」
ハドラーが困惑している内に、ドラゴンは結界を破れぬとわかると空へと舞い戻っていった。
しかし、島への興味を失っても空に見えるドラゴンの数はむしろ増え続けていた。
ただ通過する者、縄張りとするかのように旋回する者……
一匹で数十の戦士を上回るとされるドラゴンがこれほど野生で飛び回るなど、考えられないことであった。
「ぬぅ……」
ハドラーは異常事態が起きていることを瞬時に理解した。
魔軍司令たる自分が、まったく情報を得られない場所にいるのは非常に不味いことも。
「……貴様ら雑魚に構っている暇はなくなった。一秒でも生き残りたいならば、この島でアバンの墓守でもしながら怯えて暮らしていることだ」
そう言い残すと、ハドラーはキメラの翼を天高く放り投げ、瞬く間に空の果てへと消えていった。
周囲のドラゴン全てが、獲物を見つけたとばかりにハドラーの軌跡を追いかけていく。
「い、行っちまった……」
辺りの喧騒が収まった頃、アストロンが解けたポップがへなへなと崩れ落ちた。
ダイたちも呪文が解けると、ハドラーが出てきた地面の辺りに駆け寄る。
先生も、ハドラーのように埋まっているだけでは……そんな期待を込めて。
だが、そこにはかろうじて眼鏡の残骸が残っていただけ。
アバンの死を改めて認識した一同は、深い悲しみに包まれるのだった。
「し、しかし……あのドラゴンどもは一体? 魔王軍ではないようじゃが……」
「……じいちゃん。トウコの話を覚えてるかい?」
「トウコ殿の話じゃと? 何の話じゃ、住んでおった異世界のことか?」
ブラスの問いに、ダイは首を横に振る。
しばらく黙っていたダイだが、喉まで出かかった考えを口に出した。
「トウコたちの戦いの話……おれ、あのドラゴンを見た時に、その話が頭に浮かんだんだ。トウコの住む国を、たくさんのドラゴンと、赤い花が覆ったって話を……」
「ま、まさか……ダ、ダイ、海岸まで行くぞ!!」
ブラスもまた、ダイが何を言わんとしているか理解した。
その推論の審議を確かめるため、ダイたちは走りだした。
「お、おい! どこに行くんだ?」
崩れ落ち、アバンの死の悲しみから涙していたポップも、突然走りだしたダイたちの後を追う。
森を抜け、見えてきた海岸線。
しかし、青く広がるはずのそれは、まるで正反対の色に輝いていた。
「あ、ああ!?」
驚愕の声を上げるダイ。
その光景を、話にだけ聞いていたダイは、それを深く理解できていなかったことを知った。
赤く輝く花……それを綺麗な景色じゃないかと、そう思っていた。
だが、これは。
海一面を覆い尽くす、赤いフロワロの大群生は、日常の崩壊を視覚化した悪夢の光景であった。
結界の手前で、フロワロは途切れていた。
この花もまた、結界に阻まれるべき邪悪なる存在なのか……
皮肉にも、怪物島と呼ばれるこの島だけが、かつての姿を残している。
間違いなく、トウコたちの世界を襲ったドラゴンがこの世界にも現れたのだ。
ダイはそれを確信したが、詳しいことを知るトウコたち13班の行方は知れない。
「トウコたちは無事に決まってる。詳しい話だって知ってるはずだ!」
翌日、旅の準備を整えたダイは小舟でデルムリン島を出港した。
悲しんでいたポップも、マリナのことを13班に伝えるためだ、などと言って同行を決意した。
「では行くぞ……バギマァ!!」
ブラスの起こした風の塊が小舟のスクリュー代わりとなり、魚以上のスピードでデルムリン島から離れていく。
フロワロの海を掻き分け、空のドラゴンから逃れるために考えた苦肉の策であった。
バギマの効力が切れた後は、辛い航海の始まりでもあった。
海のモンスターだけではなく、未知のモンスターまで現れ、空にはドラゴンが飛び交っている。
目的地であるロモス王国までの短い航路ですら、まだまだ未熟なダイたちには死の危険を纏う地獄へと変貌していたのだった。
だが、ダイたちは自分たちがどれだけ幸運であったか知る由もない。
人類はその時すでに、制空権も制海権も失っていたのだから。
そんな勇者の旅立ちも、何の影響もなく世界は赤く染まり続ける。
それに大きく影響されたのは、もちろん住まう人間たち……だが、それだけではない。
今まさに地上の人間たちを根絶やしにせんと行軍していた魔王軍もまた、異邦からの使者に手をこまねいていた。
「なんだ、このドラゴン共は……」
超竜軍団長、竜騎将バランは無数の竜の屍の上に立っていた。
突如襲いかかってきた謎のドラゴン。
その全てを皆殺しにし、しかしそれでもバランの胸中には未だかつて無い感覚が押し寄せていた。
竜の騎士としての全遺伝子が、ヴェルザーやバーンを前にした時と同様の……否、それ以上の警告を発しているのだ。
だが、ドラゴンたちの歯ごたえのなさを思い出し、何かの間違いだとバランは断じた。
「それよりも……」
ドラゴンを一掃したことで、先程まで咲き誇っていた赤い花が消えた。
魔法さえ受け付けぬ、鉄以上の強度を誇る花。
しかも、触れるだけで体力を徐々に奪う、死の花。
それが、このドラゴンたちと関連しているのは明白だった。
「ふっ……地上の人間ども諸共、配下のドラゴンまで弱らされては敵わん」
バラン自身は無傷であったが、超竜軍団には被害が出ていた。
部隊再編のため、バランは死骸を踏み締め歩き出すのだった。
「おおっ!? な、なんだぁこいつらは!?」
ラインリバー大陸、魔の森。
ロモス王国の攻略準備をしていた百獣魔団は混乱に陥っていた。
突如として、見たこともないモンスターの襲撃を受けたのだ。
百獣魔団長、獣王クロコダインはありえない自体に驚きはしたものの、すぐに撃退の指示を出し、自身もモンスターを蹴散らしていった。
「こ、こいつらは……!?」
全てを撃退し、その死骸は同時に百獣魔団のモンスターの食料へと変わった。
そこで、クロコダインは謎のモンスターの正体に気がついたのだった。
「た、ただの獣なのか……?」
大きく変異しているが、それはよく見ればモンスターでもなんでもない、魔の森に元々住んでいた鳥、猿、狼など。
それこそ百獣魔団の食料となり、大きく数を減らしたはずのただの動物であった。
「ただの動物が、これほどの力を……この、花のせいなのか?」
突如として周囲に生え出した、奇妙な花。
この花が咲いた周囲の草花は、その生命力を奪われるのか徐々に枯れ出す。
魔の森の木々も、張りを失いつつあった。
人面樹などは当然として、その他のモンスターも花の近くでは体力を奪われていく。
そこを先ほど同様襲われ続ければ、壊滅は免れない。
「仕方あるまい……怪しい箇所を潰してみるか」
問題はないだろう、とクロコダインは特に花の自生が激しい地域へと向かう。
体力に余裕ある部下たちの報告で、正体不明のドラゴンが大量に群れをなしていることも判明していた。
ロモス王国の弱い兵士たちに飽き飽きしていたクロコダインにとっては、気晴らしも兼ねての事だった。
「フッ、これでは、ロモスは我々が手を下さずとも滅びるやも知れぬな」
クロコダインは真空の斧を片手に、一人森の奥へと消えていったのだった。
各地のドラゴン襲撃による被害は、マチマチであった。
リンガイアはその中でも最大クラスの襲撃であったが、それ以上の襲撃を受けた地域が存在する。
北のマルノーラ大陸に存在する、オーザム王国周辺である……
「な、なんだぁこいつらぁ!?」
オーザム王国攻略を命じられていた、氷炎魔団長である氷炎将軍フレイザード。
彼らは、人も家畜も焼き尽くし、氷漬けにし、目についたすべての命を奪い進撃を進めていた。
奇妙な花が咲き始めても、見たこともないドラゴンやモンスターが徘徊し始めても同じこと。
魔王軍以外、生きることを許さぬと言わんがばかりに、生命を刈り取っていった。
だが、そんな氷炎魔団が囲まれていた。
フレイム、ブリザードを中心とした軍団員が攻撃を仕掛けるも、その直撃弾を浴びてなお襲撃者たちは立ち上がる。
「フ、フレイザード様ァァ!!」
「チィィ!! フィンガーフレアボムズ!!」
フレイザードの得意技である五連発メラゾーマ、フィンガーフレアボムズの業火が包囲網に一瞬の穴を作り上げる。
「おまえらぁ、撤退だぁ!! 着いてこれねぇ奴は切り捨てる!!」
「は、はいぃぃっ!!」
フレイザードを先頭に、一直線に駆け抜ける氷炎魔団。
逃げきれなかったモンスターが一部串刺しにされながらも、彼らは撤退に成功した。
魔王軍は撤退し、戻ってくることはなかった。
されど、それはオーザムの勝利を意味するものなどではない。
フレイザードたちに逃げ切られた襲撃者たちは、ゆっくりと進路を変えた。
彼らは、オーザムの兵や民であった。
その進む先にあるオーザム城下は、破竹の進撃を続ける魔王軍を迎え撃つための厳戒態勢にあった。
一年を通して雪に覆われるオーザムではあるが、普段以上の悪天候に見舞われ、吹雪の中で懸命に見張りを行うオーザム兵士。
兵士の一人が、ゆっくりこちらに近づく彼らを発見した。
報告を受け、緊張に包まれたのも束の間。
彼らがオーザムの民とわかり、安堵した兵士たちは彼らを迎え入れた。
魔王軍に村を焼かれ、這々の体で避難してくる人々は少なくない。
ボロボロの服、青白い顔、酷い傷……命からがら逃げ延びてきたのだと、誰一人疑いすら持たなかった。
だから、無防備に近づいた兵士は串刺しにされた。
最初の一人が殺されても、まったく状況が受け入れられず。
ようやく悲鳴を上げて、生き残りの兵士たちが逃げ出した時には、もう全て手遅れとなっていた。
彼らは、オーザムの兵士や民で「あった」。
彼らに串刺しにされ、息絶えたはずの兵士がむくりと起き上がる。
否、息絶えているにも関わらず、彼らは歩み出す。
同じ光景が、マルノーラ大陸全土で発生していた。
氷炎魔団によって命を奪われた者たちが立ち上がり、モンスターを倒し、追い出す。
ここで終われば、英霊たちによる奇跡として語り継がれたかもしれない。
だが、死者たちの行進は止まらない。
人も家畜もモンスターも、全てを自分たちの仲間にするかのように、死者の行進は膨れ上がり続けた。
生き残った人々は、大陸から逃れようと海沿いへと逃げ続けた。
厳しい環境に加え、咲き誇るフロワロに体力を奪われ、次々に倒れた人々は、しばらくして歩く死者へと変貌する。
戦う力などあるはずもない生き残りの希望は、リンガイアから来るはずの援軍。
もはや彼らに救助してもらう他はない。
だが、その望みは叶うことはなかった。
「ううっ!?」
ラインリバー大陸から出発したリンガイア遠征軍。
可能な限り集めた船団は、今まさに全滅の危機に瀕していた。
「撃てぇ~~!!」
生き残った船の大砲が、彼らを遮る巨体に炸裂する。
直撃したというのに、その巨体は揺るがぬばかりか、お返しとばかりに砲弾を打ち返す。
「うわぁぁ!!」
船の甲板に直撃した砲弾は、ギョロリと船員を睨みつけると、その体を噛みちぎった。
そう、その砲弾は生きていた。
砲弾を飛ばした存在……生きた戦艦と表現するしかない生物同様、砲弾もまた生きたドラゴンなのだ。
「我が名は艦帝竜ドレッドノート!! 人間よ、海は我らが領域となった!! 怯えながら陸地で滅びを待つがいい!!」
嘲笑うような言葉を残し、帝竜ドレッドノートは海の底へと消えていった。
「ま、待てぇ!!」
遠征軍の指揮官であるノヴァは、この惨状を作り上げた存在を逃げすなど許せるはずもなかった。
彼はリンガイアの猛将バウスンの息子であり、若くして父を遥かに越える才能を持つ、人呼んで「北の勇者」。
トベルーラで追いかけてでも、倒す。
そんな無謀としか思えない行動であっても、止められるような人材はリンガイアにはいない。
だが、結果として彼の行動は止まることとなる。
「!?」
船の甲板に、何かが落下した。
先ほどのドラゴンの砲弾ではなく、落ちた際に近くにいたノヴァの顔に生暖かいものが付着する。
「う、うああああ!!?」
それは、人の上半身であった。
魔法使いらしき男は、苦悶の表情で絶命している。
突然のことに悲鳴を上げたノヴァであったが、我に返ると周囲の海から聞こえる落下音に気が付いた。
ボチャン、ボチャンと海に落下していく……おそらくは、目の前の男と同じ末路を辿ったであろう人々。
それは、オーザムから脱出しようとルーラやキメラの翼を使用した人々であった。
本来なら問題なかった逃避行を阻んだのは、やはりドラゴン。
ルーラの超高速さえも容易く捉え、バラバラに引き裂いてしまう恐ろしき狩人。
その姿は、誰の目にも捉えることは出来なかった。
「我が名は空帝竜インビジブル。人間ごときが空を駆るなど、身の程を弁えるがいい……」
声だけが不気味に響き渡り、辺り一帯は静かになった。
「ノ、ノヴァ様、これ以上は……オーザム近海は、謎の花で接近もできませんし……!!」
「わ、わかっている!! くそぉぉッ……作戦は中止だ!! 撤退する!!」
僅かな時間で起きた惨劇に、無鉄砲なノヴァでさえ戦意を大きく削がれた。
生き残った艦隊は、撤退を開始した。
しかし、海は僅かな時間でフロワロに覆われた死海と化していた。
変異した魚や、飛び交うドラゴンの襲撃に、誰もが眠れぬ航海を強いられるのだった……
そうして、ようやく全ての喧騒が収まる。
避難民が集まっていたはずの港町は、フロワロの底へと沈んだ。
生命の息吹が消えた氷の大地を、赤い怪しい月光が照らしていた……