ダイの大冒険~七竜降臨~   作:ボレロ

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魔軍の動向

「ぐ、ぬぅぅ……オォ!?」

 薄暗い大広間に響く苦悶の声。

 一際大きな叫びの後、声の主……魔軍司令ハドラーは目を見開いた。

「ハァ……ハァ……こ、ここは?」

「……鬼岩城だ」

「ミ、ミストバーン!?」

 誰に問いかけるでもなく口に出た疑問に、応える声。

 ハドラーの振り向いた先には、白い影……六大軍団長の一人である、魔影参謀ミストバーンが立っていた。

「た、確かにここは鬼岩城……ミストバーンよ、おれは何故ここに? 何故か知らぬが、前後の記憶が定かではないのだ」

「……それは、お前が死んだからだ」

「な、何を馬鹿なことを!! い、いや……?」

 滅多に喋らぬミストバーンの思わぬ発言に、声を張り上げたハドラーであったが、直後に脳内で記憶の整理がつきだす。

「そ、そうだ……おれは、帰還途中で……!」

 

 ◇

 

 キメラの翼で空を高速で移動するハドラーは、眼下に広がる光景に目を奪われていた。

 赤い花が、海も陸地も問わずに延々と咲き乱れている異常事態。

 何が起きたのか急ぎ調査せねばと、思考の海に沈んでいたハドラーは、周囲への警戒を怠っていた。

 

「む、前方に何……ガァ……!?」

 一瞬の交錯。

 進行方向から飛来する何かに気がついた次の瞬間には、ハドラーの体は四散していた。

 二つ存在する心臓もご丁寧に砕かれ、ハドラーは絶命した。

 

 

 ◇

 

「ぐ、ぬぅぅ……ぶ、無様……な、なんという体たらくだ、オレはぁ!!」

 満身創痍の体、アバンを倒して生まれた油断、謎の現象への不安感。

 その全てをどう繕おうとも、魔軍司令の肩書きを持つ者に許されぬ死に様。

 ハドラーは情けなさに、言い訳の言葉すら浮かばず歯噛みするばかりであった。

 

『――よい、ハドラーよ。あまり己を責めるな』

 どこからともなく耳に届いた声に、ハドラーはハッと顔を上げる。

 視線の先には、ミストバーンがおり……その背後には、普段ハドラーが座っている玉座がある。

 そして、更にその背後にある六芒星と、その中心に彫られた鬼岩城の頭部を模したレリーフ。

 今、そのレリーフの目が怪しく光っている。

 

 そこより発せられる圧倒的存在感が示していた。

 大魔王バーンが、そこにいると。

 

「こ、これは大魔王さま!! 申し訳ありません、こ、このハドラー……とんだ失態を……!!」

『よいと言った……余はこれをお前の失態とは考えぬ。今現在起きている異常事態は、余すら予測しきれぬことであった』

「はっ……し、しかし私は一体? あの感覚は忘れもせぬ、死の感覚……なぜ蘇生を?」

『あの時と同じだ、ハドラー。アバンに敗北した時同様、お前を死の世界から拾い上げた……今回は、肉体を更に強化してある』

 その言葉に、ハドラーが自身の体を確かめた。

 確かに、体には以前以上に力が満ち溢れているのが感じられた。

 更なる力は、ハドラーが最も望むものである……が、素直に喜べる心境ではなかった。

 

「感謝の言葉もありません……が、魔王軍に泥を塗ったも同然の私には過ぎた褒賞かと」

『納得がいかぬか? アバンを倒した功績は、先の敗北で消えるものではない……気持ちは理解できるが、素直に受け取り、その上で汚名返上してみせよ」

「……ハハッ! この力をもって、必ずや魔王軍に勝利を捧げましょう!」

『うむ……ではハドラーよ、現状を伝えるとしよう。お前の命を奪った、異常事態についてな』

 その言葉に、ハドラーは怒りに燃える気持ちを切り替える。

 地上支配の障害であるアバンを倒した直後に発生したイレギュラー。

 新たな障害に対して、魔軍司令として冷静な対処に当たらねばならないからだ。

 

『赤い花……これよりフロワロと呼称する花は、地上全土を覆った。この鬼岩城周辺も同様であったが……ミストバーンを呼び戻し、対処させた』

「カール王国方面を担当していたお前がここにいるのは、そのためだったか……」

『四散したお前を拾って来たのも、ミストバーンだ。さすがの余も、肉体がドラゴンの餌になっては蘇生できぬからな』

「(オレを殺した存在の目を逃れて……? まさか、撃退したのか……!?)」

 配下とはいえ、得体のしれないミストバーンに戦慄するハドラー。

 そんなハドラーを気にすること無く、バーンは話を進めた。

『フロワロは、周囲の生命力を吸い取る特性を持つ。そして、ただの動物をモンスターに匹敵するまで変異させる。そして……ドラゴンを呼び寄せる』

「ドラゴン……私を殺害したのも、ドラゴンだと?」

『魔界にも、地上にも、天界にさえ存在せぬ存在……我らが知るドラゴンとは同名の異種と思った方が良いであろう……奴らはフロワロのある場所でしか生息出来ず、フロワロもドラゴンなくば枯れる……共生の関係にあるようだ』

 バーンの説明に、ハドラーが思い浮かべるは自身を殺したドラゴンと思わしき存在。

 まず間違いなく、ドラゴンの中でも強力な部類であろうと推測はつく。

 

『お前の命を奪ったのは、我らが軍団長に相当する存在であろう、『帝竜』インビシブル。空はあやつの勢力下となり、空を駆るモンスターはもちろん、ルーラやキメラの翼を使い長距離を移動した者は、ことごとく命を落としている』

「軍団長に相当する、ということは……その、帝竜なる存在は他にも?」

『海には、ドレッドノートなる存在が確認されている。海のモンスター、航海中の船舶と、見境なく餌食としているようだ。そして……マルノーラ大陸に至っては、帝竜に完全に制圧されたと見てよいだろう』

「マルノーラ大陸が? ではオーザム攻略に向かっていた氷炎魔団は?」

『撤退には成功している。現在はミストバーンと入れ替わりにカール王国を攻略中よ……フレイザードは、さっさと片付けてドラゴンどもを皆殺しにしたいと猛っているそうだがな』

「そのことなのですが……我々六大軍団は、変わらず人間どもの相手などしていて構わないのでしょうか? ドラゴンどもの存在は、人間にとっても大きく有害でしょうが、我らにとっても邪魔な存在なのは明らか。早急に対策が必要だと思われます」

 

 ハドラーの言葉には、自分の命を奪った帝竜を葬りたい意図もあった。

 だがそれ以上に、一瞬で地上全土に勢力を広げたドラゴンへの危機感が強い。

『六大軍団……そして、お前には変わらず人間どもの相手を優先してもらう。対ドラゴンには、別に部隊を編成することになった』

「別の部隊……それは?」

『ガルヴァスに編成を任せている』

 またか、とハドラーは内心の不快感を隠しきれない。

 元々自分の影武者でしかないガルヴァスが功績を重ね、自分を追い落とすのではないか。

 そんな光景さえ過り、ハドラーは気が気でない。

 

 だが、そんなハドラーの心を読んだように、バーンが言葉を続けた。

『心配は無用だ、ハドラー。これは余の与えた罰のようなものよ』

「罰、とは?」

『それには、ガルヴァスの顛末を語らねばならぬな。まずは、ハドラー……お前には申し訳ないことをした。宿敵であるアバンとの決着に水を差しかけたのは、余があの島にガルヴァスを送り込んだことが原因だからな』

「一体どのような密命をあやつに?」

『込み入った事情があり、詳しくは話せぬが……尋ね人を迎えに行かせたのだ。アバンがあの島にいると知ったのは命令を出した後のこと。ガルヴァスは好機と捉えたのであろうな』

 突然の大魔王直接の命令。

 今の地位に不満を持つガルヴァスにとって、まさに降って湧いたチャンスであった。

 アバンもついでに葬り、一気に功績を上げ、魔軍司令の座を簒奪……そんな腹積もりだったことは、ハドラーにも容易に想像できた。

 

『ガルヴァスは、兼ねてより仕込みをしていたリンガイアにあの強者……13班とやらを招き入れた。「突如現れた存在を、人間が敵視するよう誘導。私兵のモンスターと人間の板挟みにして13班を始末し、超竜軍団より先にリンガイアを落とす」……という、筋書きだったのだろうが……』

「ガルヴァスらしい手ですが……うまくいかなかったようですな?」

『ドラゴンどもの襲来に、ガルヴァス自慢の私兵は崩壊。それでも、本来ならばそのドラゴンどもが代わりにリンガイアを滅ぼしてくれただろう……が、それも13班なる者たちの一騎当千の活躍にて、半壊程度で生き永らえた。結局、ガルヴァスは我らにとって不利益ばかりを作り、逃げ帰ってきたのだ』

 少々苛立ちが感じられるバーンの口調。

 ハドラーはガルヴァスの失態に内心喜んだが、すぐに考えを改めた。

 実際に手合わせしたハドラーは、13班の脅威を理解していた。

 辺鄙な島でアバンと行動を共にしていたらしい、無名の強者。

 それが、リンガイアという後ろ盾まで得てしまった事実は、魔王軍にとって大きな障害になるのは確実であったからだ。

「なるほど……では、ドラゴン討伐はガルヴァスにとって最後のチャンスとなるわけですな?」

『見事任務を果たし、己が有用性を示すか……ドラゴンどもの餌に成り果てるか……全てはガルヴァス次第よ』

 無能は魔王軍に必要無し。

 ハドラーも、アバン抹殺に失敗でもしていたら、ガルヴァスの境遇に陥っていたのは自分であった可能性に冷や汗を浮かべる。

「了解致しました。ドラゴンどもはガルヴァスに任せるとして、今後の地上制圧における最優先事項についてご提案があります」

『13班のことだな?』

「アバン亡き今、あの者たちこそ最大の障害。六大軍団の総力を結集し、リンガイアごと討ち滅ぼすべきです」

『最もな提案だが、今すぐは難しいだろう。ドラゴンに制空権、制海権を奪われた現状、軍団長単独ならいざ知らず軍団規模での遠征は難しい。かと言って、軍団長不在の六大軍団では、帝竜クラスの襲撃には耐え切れまい。ガルヴァスの獅子奮迅の活躍をしばし待とうではないか』

 バーンの言葉に、ハドラーは渋々納得を示す。

 ガルヴァスがドラゴンを抑え込めるならば、その間に対13班の戦略を行えるが、それが叶わぬようならば六大軍団も対ドラゴンに動かねばならない。

 弱っていたとはいえ、自分の命を奪った帝竜の戦力を甘く見るつもりはない。

 13班含む人間の戦力を削る隙に、ドラゴンどもに手痛い奇襲を受けては意味が無いのだ。

『もちろん、13班を放置する気はない。思い出すがよい、ハドラー……今リンガイアを、誰が攻略に向かっているかを』

「ハッ……そ、そうか、バラン! 竜騎将バランならば、いかな13班とてひとたまりもないはず!」

 伝説の竜の騎士、竜騎将バラン。

 普段ならば、自身の地位も脅かさんばかりの実力に危機感を覚えるハドラーであったが、このような有事においてこれほど頼もしい存在も他にはいないこともわかっていた。

『既にバランはリンガイア攻略に向かっている。ハドラー、お前は新たな肉体に慣れるのを急ぐがよい。この戦……余の想像以上の激戦となろう』

「ハハァ!! 人間もドラゴンも打ち倒し、地上をバーン様に捧げましょう!」

 レリーフよりバーンの存在感が消え去るのを感じ取り、ハドラーは立ち上がる。

 

「ミストバーンよ、おれはすぐさまこの体を使いこなせるよう鍛錬に移る。お前はフレイザードと共にカール王国制圧に戻るがよい」

「…………」

 ハドラーの言葉に、ミストバーンは無言のまま消える。

「ふっ……まただんまりか。まぁ良い……」

 鬼岩城を歩み、外を一望できる場所まで移動したハドラー。

 ギルドメイン山脈に位置取り、見慣れたはずの光景はやはり一変していた。

 鬼岩城周辺は、既に一掃してあるのか普段と変わった様子はないものの、遠方には赤い色ばかりが広がっていた。

「13班、ドラゴンども……アバンを倒したというのに、オレのプライドはズタズタよ。見ておれ、必ず雪辱は晴らす!!」

 変貌した大地に、一人決意を口にするハドラーであった。

 

 

 ◇

 

 鬼岩城との交信を終えた大魔王バーン。

 その背後……普段、配下も近づけぬ大魔王の玉座に人影があった。

「……さて、待たせてしまったかな?」

 バーンの言葉に、ビクリと反応する人影。

 それは、ガルヴァスによって連れ去られた少女、マリナであった。

「わたしを……どうして連れてきたの?」

「フフフ……怯えることはない。無礼な招待であったことは謝ろう……だが、こちらにも事情というものがあってな」

 バーンを前に、マリナはその視線を正面から受け止める。

「気丈だな。この大魔王バーンを前にしてその態度……さすがはルシェ族、というわけだ」

「!?」

 知るはずのないことを告げられ、マリナは絶句する。

 この世界でそのことを知っているのは、13班を除けばデルムリン島の住人と、アバン、ポップのみ。

 レオナにも、異世界の住人であることは告げただけで種族名まで話してはいなかった。

「大魔王バーン……あなたは、いったい……?」

 マリナの問いに、バーンは答えること無く不敵に笑みを浮かべるのみ。

「(イクラ……トウコ……チェルシー……!)」

 どんな時も助けてくれた13班はいない。

 フロワロさえ咲かぬ、世界の果てである死の大地の底。

 大魔王を前に、マリナの味方はいなかった。

 

 

 

 

「大魔王ともあろうお方が、女一人虐めるなんてのは……ずいぶん趣味が悪いじゃねぇか」

 いない、はずであった。

「早い到着だな……しかし、ずいぶんな物言いではないか。大魔王相手に……不遜ではないかな?」

「バーン……てめぇが大魔王だろうが、神だろうが……同族に手を出すような輩に、下げる頭は持っちゃいねぇ」

「同……族? あ、あなたは……?」

 マリナの背後から現れた人影。

 マリナは、その人物にまったく見覚えがなかった。

 だが、その男性について知っていることがただひとつ。

 本来、イクラが性別上持っているはずの特徴である浅黒い肌に尖った耳。

「ルシェ族……!?」

 それを備えた彼が、ルシェの男であるという事実だけであった。




ガルヴァス様のリンガイアでの活躍。
1.デスカールの手引きで城下に潜ませたモンスター軍団を率いてリンガイア城に侵攻。
2.ドラゴンとフロワロで軍団崩壊、デスカールと共に敗走。
3.バーン様に怒られ、指折りリーチ。
4.対ドラゴン部隊という名の死地に部下ごと任命。

13班と戦わずに済んだ、実は生存ルート。
ガルヴァス様と仲間たちの七竜無双が今、始まれ!
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