フロワロに覆われた大地。
一見鮮やかなこの花は、触れた者の生命力を奪う毒花。
本来、無事に進むにはこのフロワロを避ける他ない。
ただし、それは脆弱な生命力しか持たない生き物の場合である。
その常識を有り余る生命力で打ち破り、毒花を蹴散らしながら進む軍勢の姿があった。
魔王軍六大軍団が一つ、超竜軍団である。
フロワロと共に現れたドラゴンではない、この世界純正のドラゴンの群れ。
一匹一匹が、小さな村や街を焼き払う力を有する、最強の生物。
それをまとめ上げる存在こそが、ドラゴンを駆り先頭を進む男……竜騎将バランである。
「しかし、バラン様……これほどの軍勢が、今のリンガイアに必要とは思えませんな。あの竜もどきに蹂躙され、虫の息と聞いていますが?」
「ガルダンディーよ、バラン様のご命令に意見するなど……」
「よい、本来ならばガルダンディーの言うことももっともだからな」
バランに追従する三騎のドラゴンを駆るは、バラン直属の配下である竜騎衆。
空戦騎ガルダンディー、海戦騎ボラホーン、陸戦騎ラーハルトである。
よほどのことがない限り招集されない彼らが、全員揃うことは稀なことであり、ガルダンディーはどれほどの強敵がと期待していた。
だが、それがリンガイア攻略と知り不満が募っているのだった。
「オレはこの目障りな花の大元……竜もどきを蹴散らすのだと思っておりましたよ。帝竜とかいう親玉を討ち取れば、この花も散るそうですしな」
「全てはバーン様のご命令だ。リンガイア地方の帝竜とやらは、ガルヴァスの部下が担当している」
「ふっ……なんでも、ハドラーの地位を奪おうとして失敗したとか。では、事がうまく運べばバラン様の地位をそやつが狙っていたのでしょうかな?」
ラーハルトの言に、バランは僅かに口元を緩める。
ガルヴァスの部下……べクロムとは一度顔を合わせただけであるが、竜騎衆にも他の軍団長にも及ばぬ小者。
たとえガルヴァスがハドラーを蹴落としたとしても、とても超竜軍団の長を務める器ではなかった。
「帝竜とやらを討ち取ってくれば、多少は認めてやろうではないか。おそらくはリンガイア陥落までの時間稼ぎにもならんだろうがな」
「それでは、リンガイアを落とした後は帝竜とやらを?」
「次なる命令が下る間に、魔王軍に敵対する輩を討ち取って、何の問題がある?」
バランの言葉に、三者に理解が広がる。
一瞬でリンガイアを滅ぼし、取って返して帝竜さえも討ち取る。
そのために、我らは招集されたのだと。
「クククッ、そういうことならさっさと人間どもを皆殺しにしてやりましょう。雑魚をいたぶるより、竜もどきの相手のほうが楽しめそうですからなぁ」
「だが油断はするな。バーン様とハドラー殿から、リンガイアには勇者アバン以上の豪の者が三名いると聞いている。そもそも、リンガイアが未だ健在なのもその者たちの功績らしい」
「三名、ですか……」
バランの言葉に、遥か遠方に視線を向けながらラーハルトが呟く。
「どうした、ラーハルト……ほう、なるほどな」
「バラン様、ど、どうなされたので?」
「リンガイアが蹂躙されては困るらしい……向こうから出向いてくれるとはな」
バランの言葉に、ガルダンディーとボラホーンも二人の視線の先を見つめる。
小さな三つの点……それが人影だとわかったのは、もう少し近づいてからだった。
「馬鹿が、たった三人で我らを相手するつもりか? 身の程知らずが、このまま轢き殺してくれるわ!!」
「いや、全軍止まれぃ!!」
ボラホーンの言を退け、バランは全軍に停止を呼びかける。
徐々に速度を落とす軍勢は、人影のわずか手前で停止した。
バランは中心に立つトウコに言葉を投げかける。
「……まずは名乗るがいい」
「私はトウコ、後ろの二人はチェルシーにイクラ。異界の地にて、特務機関ムラクモ13班に所属している。主な任務は、此度現れた「マモノ」及び「ドラゴン」の討伐だ」
「私は超竜軍団軍団長、竜騎将バラン。おまえたちはあの竜もどき共を退治する専門家だと、そう言いたいわけか」
バランの言葉にトウコは黙って頷く。
「それで、我ら超竜軍団に何のようだ。同じ名を持つドラゴンであれば討伐すると?」
「そのようなつもりはない。私達はあのドラゴンの脅威を魔王軍にも伝えるべく、軍団長である貴方の前にこうして立っている。願わくば、大魔王バーン殿にお目通りしたい」
「あのドラゴンの脅威、だと?」
バランは、フロワロが咲き始めた時に感じた不安感を思い出していた。
それ故か、今にも襲いかかる勢いであったガルダンディーを片手で制し、一応の対話に応じる構えを見せる。
「内容次第だ。話してみるがいい」
「単刀直入に、ドラゴンの目的から話そう。奴らの目的は、この星の捕食にある」
「星の捕食……だと?」
「奴らの長である真竜と呼ばれる個体は、生物の創造主を自称している。遥か太古の時代に生命の種を撒き、幾千幾億の時間が経過した後、育った文明ごと喰らう……ということらしい。それが、我々の知る意味の食事と同じ意味かまでは知らないが」
トウコの言葉に、ガルダンディーとボラホーンは何を馬鹿なと嘲り笑う。
「あの竜もどきを神様だとよぉ? この人間ども、奴らに襲われておかしくなっちまったんじゃねぇか?」
「真偽のほどは私たちにも知る由もない。だが事実だとしても、種を撒いただけで放置して、運良く食べられるよう育ったので頂く……そんな存在が神だとしても、私たちも従う気はないとは言っておこう」
「あやつらが創造主であろうとなかろうと、興味はない。大事なのは、あやつらは魔界をもこのような世界に作り変えるつもりだということだろう?」
トウコの説明にバランは自身の予想を告げる。
驚く竜騎衆と、やはり頷くトウコ。
「その通りです。ドラゴンにとって、人間も魔族も等しく捕食対象。両種族の戦争は、あいつらにとって好都合でしかないのです」
「だからなんだと言うのだ? 人間と仲良く手を取り合うべきなどと、戯けた戯言を抜かすか?」
トウコの言葉に、バランは怒気を含めた言葉を返す。
「手を取れずとも、どうか不干渉を。ドラゴンは人間との争いを継続しながら勝てるような存在ではありません。人間と魔族の長きに渡る因縁を、ぽっと出のドラゴンによる両種族絶滅という結末で終わらせることなど誰も望みはしないはずです!」
「理性ある選択をしろと? 罪なき魔族を迫害してきた人間が吐いてよい言葉ではないわ! バーン様への謁見は口添えしてやろう……リンガイアを滅ぼした後でな」
トウコの説得は届かない。
バランは、ドラゴンの脅威を甘く見ているわけでも、自身の力を過信してもいなかった。
人間は敵。
それこそが、バランの思考の大前提なのだから。
「無駄だトウコ。ぽっと出と言うならば私たちとて変わらんだろう? 何も知らぬよそ者が正論を振りかざしたところで、誰とて納得せぬさ」
「わかっているならば、こちらに従え。人間であれ、魔王軍に恭順を示すならば手荒な真似はせん」
「……違うな、間違っているぞ! 私は言葉で説得するのは無理だと言ったに過ぎん」
チェルシーを中心に、周囲の空気が張り詰めていく。
それに続くようにトウコ、イクラも纏う気質を変える。
明らかな敵対の、戦闘の意思を示す三人にバランは一言だけ告げる。
「……正気か?」
「力を示す……それが魔界の流儀と聞いた。我ら13班と、超竜軍団で、お互い参考にしようじゃないか……本当にドラゴン退治ができるか否かを!」
チェルシーの言葉の終わりに重なるように、ドラゴンの群れもまた口を開いた。
飛び出すは業火。
たかが三人の人間には過ぎた熱量は、しかし三人には届かない。
「バギクロス!!」
イクラの放ったバギクロスが、業火を散らしていく。
自ら放った炎が暴風と共に帰ってきたことで、ドラゴンたちの隊列が乱れる。
その隙を縫うように、飛び出したのはチェルシー。
狙うは大将バラン。
暴れるドラゴンに騎乗し、身動き取れぬバランに会心の一撃を浴びせる、はずであった。
「ガッ…………!?」
閃光が走り、攻勢は逆転した。
「チェルシー!!」
トウコの叫びが上がった時には、チェルシーは後方に吹き飛んでいた。
バランの額から発せられた光線が、チェルシーを直撃したのだ。
「今のは……!」
もう消えてしまった額の輝く模様に、トウコは見覚えがあった。
だが、それを追求する暇はなかった。
ラーハルトが、一瞬でトウコの背後に回っていた。
同時に放たれた槍撃を太刀で受け止める。
「ほう、俺の速さについてこれるのか。なるほど、口ばかりではないらしい」
同じくイクラも竜騎衆の二人と対峙していた。
「てめぇ~、よく見りゃ魔族じゃねぇか。人間に与するなんざ、魔族の面汚しってもんだ」
「…………」
「恐ろしくて声も出せぬか? だが、魔族とて生かしてはおけぬ。自らの愚かさをあの世で悔いるが良いわ!」
バランは、その様子を見ながらドラゴンから降り、号令を降した。
「全軍、リンガイアに向かえ! 人間どもを国諸共に焼き払うのだ!!」
バランの号令にドラゴンは吠え、大地を揺るがしながら前進する。
トウコはラーハルトと刃を交え、イクラもボラホーン、ガルダンディー、スカイドラゴンに囲まれ動けない。
「なに!?」
だと言うのに、ドラゴンたちの動きが悲鳴と同時に止まったことにはバランとて困惑した。
その原因は、一目では理解できない。
ドラゴンたちには、手が絡みついていた。
百や千どころではない、無数の黒い手がドラゴンたちを地面に広がる闇に引きずり込もうとしていたのだ。
サイキックの奥義「黒のインヴェイジョン」が発動したのだ。
ドラゴンたちはなす術もなく闇に飲まれて行く。
「その魔法使いだ、殺せ!!」
瞬時に首謀者を見極めたバランが、ボラホーンたちに命じる。
「こいつ、我らの前で舐めた真似を!?」
怒りに任せたボラホーンの一撃が、まるで避けるそぶりさえ見せないイクラに迫る。
「なぁ!?」
「こ、これは!?」
その一撃を受けたイクラは、砕けた。
文字通りガラスの様に、人体ではあり得ない崩壊を見せたのだ。
「幻惑の類か!」
バランがそのカラクリ……サイキックのスキル「デコイミラー」に気がついても、もう遅い。
ドラゴンたちは、闇に飲み込まれた後であった。
本物のイクラは、最もドラゴンたちに近い位置にいた。
イクラが奥義の制御を終え地面の闇が薄れると、そこには白目を剥き、痙攣を繰り返すドラゴンたちの姿があった。
「て、てめぇ~! よくも超竜軍団を~~!!」
ガルダンディーがスカイドラゴンに飛び乗り、イクラに迫る。
対するイクラは、最大スキルを使用した反動か動ける様子ではない。
そんな弱った獲物の様子に、嬲り殺すとガルダンディーは決めていた。
それ故、視界に入らなかったのだ。
イクラとガルダンディーたちの直線上に、何があるのか。
「はっ……?」
ガルダンディーの視界が、回転した。
友であるスカイドラゴンのルードが、真下からの攻撃によって独楽のように回ったためである。
だが、事実を知ることもできず、ガルダンディーは回転から逃れるため、ルードから離れ翼を羽ばたかせた。
「女の上を跨ぐとは、デリカシーが足りんな」
ルードを仕留めたチェルシーの呟きを耳にした直後、ガルダンディーもまた重い拳に沈んだ。
「なぁ!? あ、あいつはバラン様が仕留めたはずでは!!」
驚愕の表情で固まるボラホーンに、チェルシーが突貫した。
「調子に乗るな! カアアァ!!」
まっすぐ直進してくるチェルシーに、ボラホーンは得意とする凍える吹雪を吐きかける。
「吹裂く也」
だが、それはチェルシーには悪手であった。
全てのブレスに対するカウンタースキル「吹裂く也」。
マヒャドに匹敵するとされるボラホーンの吹雪も、チェルシーにとっては問題なく無効化できるシロモノに過ぎない。
言葉通りに裂かれた吹雪の中心を進み、ボラホーンの脂肪が詰まった腹に拳をねじ込む。
「ゴ……ッ……!??」
「ハドラーに比べると、随分脆いな」
前のめりに倒れたボラホーンを地面に払い、チェルシーはバランと向き合った。
「随分な一発をどうも。私でなければ死んでいたぞ?」
「紋章閃で貫けぬか。人間とは思えぬ強度だな?」
軽口に、軽口で返す。
その直後、どうしても気になることをチェルシーは問うた。
「紋章閃、か……このドラゴンの紋章について、詳しいようだな」
チェルシーの腕には、先ほどの紋章閃による傷痕が深く残っていた。
今まさに闘気を高ぶらせるバランの額に浮かぶ紋章と、同様の傷跡だ。
「ふっ……異界の人間を名乗っておきながら、まるで見知ったような口ぶりだな?」
「その紋章の力を使う者を見るのも、お前で二人目だからな。私も使い方を教えて欲しいものだ」
更なるチェルシーの軽口に、バランは驚きの表情を浮かべたが、すぐに薄く笑いを浮かべる。
「……フッ、何の駆け引きをしたいのか知らんが、そんなブラフは無意味だ。この紋章は、世界で唯一私だけが持つもの。私の生ある内は、二人目などけして存在し得ぬのだ!!」
「くっ、ははは! そこまで言うのなら事実なのだろうな! ならばボウヤは神の奇跡か何かか? これはますます、次に会う時が楽しみじゃないか!」
「まだ世迷いごとを……いや、貴様まさか本当に……?」
バランの言葉を受けても、態度にまったくブレがないチェルシー。
まったくの虚言とは思えぬその様子に、絶対にあり得ぬと知るバランにも疑念が生まれる。
「さて、な。知りたくば力づくで聞けばいい。お互いに、な」
「……よかろう。万が一にでも私とラーハルトを倒せたならば、いくらでも望みを聞こうではないか」
そう口にしたバランの殺気が膨れ上がる。
「だが、もし貴様らが情報を得るまで殺されぬと勘違いしているならば……まずはお前の四肢を裂いて、その甘い考えを正してやろう!!」
「こちらが言う手間が省けたな……本気で来い、竜騎将バラン! そう簡単に生き残れると思うなよ!!」
チェルシーとバラン、トウコとラーハルト。
ムラクモ13班と超竜軍団最強の二人の激突が、始まろうとしていた。
戦闘描写は難しいと痛感。
バランの相手がチェルシーなのは、デストロイヤーらしく動かそうとした結果です。
とにかく前に出て、殴られる度に殴り返すのが仕事ですからね。
ダイの仲間でいえばクロコダインポジなんでしょう、多分。