陽だまりシリーズ:小日向未来<異聞> -帰ってきた立花麻由-   作:ヨザリイコイ

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不毛

 神奈川県川崎市の工場地区で、怪物を目撃したという噂を聞きつけて調べていると、とある缶詰工場の一室で見た事のない怪人が2人、なにか打ち合わせをしている所を見つけた。1人は大幹部用のベルトを巻いた大鷲の怪人、そしてもう1人は蝙蝠の怪人だった。ここはどうやらアジトの一つらしい。

 テレパシーで通話しているようなので、具体的に何を話し合っているのかまでは掴めないが、近いうちにこの辺りで何か作戦を起こす相談をしていると見ていい。大幹部クラスの怪人が出向いているともなれば、そこそこ大きめのテロでも仕掛ける可能性がある。

「京浜工業地帯を狙ったテロは、初代ショッカーもしていたからな。しかし……」

 一概にそうとは言い切れない節がある。

 それというのも、横浜に程近いここで事件を起こすのは、とても賢明だとは言えないからだ。間も無く1ヶ月経とうとしているとはいえ、コンサート襲撃事件の影響から横浜を含む首都圏の警備は依然、厳戒体制のままなのである。そんな時に何かやらかせば、自身の存在を露見させかねない。

 果たしてショッカーが、そんな事を望むだろうか。

「どうも今一つ目的が掴めん」

 単に缶詰爆弾でも作って日本中に流そうとしているのかもしれないし、はたまた普通の缶詰を作って資金稼ぎをしているのかもしれない。前者は御歳暮に送りつけられて、家を爆破された事があったし、後者はベーコンやえんどう豆の缶詰の製造プラントを基地で見かけた事があるから、どちらの可能性も有り得る。

「えんどう豆のベーコン添えの材料を作るってだけなら嬉しいのだが……」

 

 

 

 

 市内の漫画喫茶で待機していると、2日目の夜に動きを見せた。ただ反応の数が増えている。前は2人しかなかったが、今日は35人もいる。戦闘員でも連れてきているのかもしれない。

 料金を払って引き上げ、ネオサイクロン号を飛ばして工場地区へと進入し、ゆっくりと後をつけると、西の端にある取り壊し予定の廃工場に入っていくのが見えた。

 元薬品工場だったそうだから、そこで妙な物を作る計画なのかもしれないが、それならあの工場を買い取っている筈だ。しかしここら一帯を調べたところ、そんな動きは見受けられ無かったし、そもそも設備は既に撤去されていて、新しく機械を入れた動きも無かったことから考えるに、その線はない。

「何をする気だ……?」

 一先ず左隣の工場の屋根に登って、息を潜めているうちに、北の方角からショッカーの改造人間とは別系統の反応が、こちらに近づいてくるのを感知した。吸血鬼擬きと似た周波数の脳波を出している。

「奴の仲間か……?」

 イルミナティの改造人間の絶対数やそれぞれの動向を把握している訳ではないので、断定はできない。奴と何の関係もない人だとすれば、それを迂闊に襲ってしまえば、ただの通り魔と変わらなくなってしまう。人間であろうと改造人間であろうと、無辜の相手に手を出すのは御法度である。

「人間のように、でっち上げが出来ないからね。改造人間には……」

 何の権力も持っていない奴の方が、かえって慎重に事を運ばなければならない。パトロンがいないから好き放題できないんだ。

 

 

 

 そっと屋根からイルミナティ製の改造人間の姿を見た。ジュラルミンケースを抱えた背の高い奴は、私より少し年下ぐらいの……、差し詰め24歳くらいだろうか。南アジアや東南アジアで見かける顔立ちの女だ。昔、マラッカ海峡で私の乗ったフェリーを襲った海賊に、あんな顔をしたのが居た。人間らしき姿をしていることから変身能力があるのか、再改造後の結城君のような身体になっているのだろう。

 そしてスーツケースを引き摺るもう1人は、14,5歳くらいの白人の少女だ。しかし髪色が桜色と、どのような事をすればあんなになるのか、さっぱり分からない具合の変色の仕方をしている。頭の上の狼らしき耳が、その答えだと思われる。あれではまともな生活を送るのも一苦労だろう。

 あんな身体にして、一体イルミナティは何をするつもりだったのか。調べたところ、単なる烏合の衆に過ぎなかったから、これといった判断は下せない。

「それは今はいいか……。あの2人は……」

 2人ともあの廃工場に足を進めているようだ。ショッカーと取り引きでもするつもりだろうか。とすれば、スポンサーは今の今まで居なかったか、それとも消え去ったかのどちらかだと考えられる。奴等の立場を考慮すれば、後者の線が強い。

「余計な仕事が増えかねないな」

 工場の中に2人が入るのを確認し、こちらも屋根から下りて入り口へと近寄った。その横に張り付いて暫く様子を窺っていると、中から物が割れる音や悲鳴が聞こえ出した。慌てて強化服を装着してサイクロンに飛び乗って駆け付けると、さっきの2人組が蝙蝠怪人の大群に襲われていた。2人とも戦闘は可能なようだが、向こうは空を飛べるし、しかも数が数だから壁際に追い詰められて防戦一方になっている。

 見かねてそこ目掛けてライトを目一杯照射させると、コウモリなだけあってやはり光には弱いのか、モロに光を浴びた5匹がよろめき倒れてしまった。しかし直撃を免れた親玉らしきオオコウモリの怪人や6匹の蝙蝠怪人は、こちらを標的に据えて襲いかかってきた。

「ジャマヲスルナァァァア!」

 2人の荷物を奪おうとしたのかと思ったが、ジュラルミンケースはこの場にはないし、誰も持っていない。オオワシ怪人がいない事から見て、奴が既に持ち去っている可能性が高い。

 それではスーツケースはどうかと見れば、中身が出された状態で部屋の片隅に放り出されているが、誰一人として見向きもしていない。つまりは荷物より殺しの方が大事らしい。

 先陣切って突っ込んできた蝙蝠怪人に当身を食わせて、後続の1匹にぶち当てて沈黙させ、私に組みつこうとした親玉の懐に飛び込み、体を引っ掴んで部下目掛けて投げ飛ばした。まだ命は取らない。一応、動機は聞いておきたいから。

「あいつら、お前らに何かしたのか?!」

「横浜ノライブデ殺サレカケタ」

 それを聞いただけで理由は分かった。あいつら、吸血鬼の仲間らしい。しかし手を掛けるには、少々早過ぎる気がする。

「なるほど、邪魔をして悪かった! しかし……」

 一斉に飛び掛かってきた4匹の蝙蝠怪人のうち、1匹の首を掴んで振り回して残り3匹を叩き落としつつ、続けて詰問した。

「裏に誰かいないか、吐かせなくていいのか?」

「総統ガ、全テ把握シテオラレル。必要ナイ」

「手回しのいい事で!」

 掴んでいた怪人を柱の鉄骨にぶつけて気絶させて地面に投げ捨て、大コウモリ怪人に向き直った。

「オマエヘノ攻撃ハ、アノ2人ノ後ニスルカラドウカ手ヲダサナイデクレ。タノム」

 そう言ってぺこりと頭を下げて頼む彼。どうも任務として、私の抹殺も命令されているようだが、それよか怪物もどき2人を血祭りにあげる方が、この怪人には大事な事らしい。こちらとしても人間相手ではなく、テロの片棒を担いだ改造人間相手ならば、別段止める必要もないから断る道理もない。むしろ余計な仕事が減って有難いし、人間を襲われるよりもずっとマシである。

「分かったよ。ここで見物しているから、さっさと済ませてくれ」

「アリガトウ」

 こうして意気揚々と大コウモリ怪人は、2人目掛けて飛び掛かったのだが、ここでとんだ邪魔が入った。青と白の強化服を装着した2人連れが、工場の外壁を打ち破って飛び込んできたんだ。しかもそれを見た親玉が、隠していたと残りのコウモリ怪人を解放したものだから、もう樽の中で芋を洗うような混戦具合になってしまった。

「こいつは拙い」

 一先ず強化服を装着した連中を襲おうとした蝙蝠怪人を蹴散らし、標的である怪物もどきの姿を探してみたところ、何と姿を消していた。この混乱に紛れて逃げ出したようだが、まだ遠くには行っていまい。

 急いでサイクロンを走らせ、私は表へと飛び出した。

 

 

 

 

 京浜運河の近くを逃げているところで追いついた。

 向こうも排気音でこちらの存在を察知して、迎撃の構えをとった。狼女は尻尾についたクレーンアーム、背高のっぽは手の指についた7.62ミリ口径くらいの機関砲をそれぞれ構えて、私が射程距離まで近づくのを待ち構えている。どちらもこちらを物凄い顔で睨んでるよ。仲間をやられたのだものなぁ。しかしこれしきの事でビビるようでは、改造人間は生きていけないのである。寧ろ顔で私は共犯者ですと教えてくれる事に、深く感謝しなくてはならない。

「さてどう料理するか……」

 あの工場の中でならば、大コウモリ怪人にやらせておけばいいが、今頃あの2人にやられているかもしれない。眷属らしき蝙蝠怪人もさして強くなかったし。強化服を装着できないように超音波を使うか、地獄大使や「彼」がかつて使ったような機械を狂わせる光線を使う事が出来るのならば、話は違うかもしれないが。

「それにしても眷属の素体は何だったのか……。しかし今は……」

 それを考えるよりも目の前の敵を片付けるのが先だ。

 

 

 

 距離を10メートルまで詰めたところで、まずは狼女が飛び掛かり、尻尾のアームを伸ばして襲いかかってきた。のっぽの方もそれを援護するかのように砲撃を浴びせかけてくる。上手く役割分担しているようだ。

 加速しつつ、ジグザグにサイクロンを走らせて弾幕を避け、私を咥え込もうと口を開けたクレーンアーム目掛けて飛び上がり、空中で身体を1回転半捻って、風力を目一杯取り込む。そしてそれを両脚に流し込んで蹴りの威力を上げる! 

「電光ライダーキック!」

 久方振りに使う技だが威力に衰えは無く、アームを蹴り抜いて破壊した。その後、前に1回転して無事屋根の上に着地すると、あののっぽが足からスラスターを噴かして、機関砲を乱射しながら飛びかかってきた。

「危ないやつ」

 そのまま私に組みつこうとしたのを懐に飛び込み、体当たりを喰らわせて屋根の上に転がし、身を起こしたところを持ち上げてきりもみ回転しながら飛び上がって放り投げる。

 頭を下に向けたところで、更に背後から重なるように組み付いて、一気にスラスターを噴かせて女諸共屋根を打ち抜き、柱数本をへし折ってから床に首から叩きつけた。昔、ジェットコンドルを仕留めた技だが、あの時ほどのスピードは乗っていないから、大した威力は出ていない。その証拠にまだ息があるもの。

「きりもみシュートと私のスラスターじゃ、高度とスピードが足りないから仕方がないか」

 よろめきつつも立ち上がる女に、トドメの一発を叩き込もうとしたときに、鉄球が外からすっ飛んできた。狼女が仲間を助ける為に、尻尾に括り付けて投げ込んできたんだ。

「結城君のアームみたいな物か……」

 これを前に転がって避けると、のっぽが腹から砲門を引っ張り出して、私目掛けてレーザーをぶっ放してきた。

「アチッ!」

 右の耳許を掠めただけだが、ヘッドギアのその部分が熱で溶けてしまい、バイザーの締まりが悪くなったので、邪魔になる前にクラッシャー共々取り外して投げ捨てる。顔は剥き出しになったが、特に気にも留めなかった。どうせどちらかが死ぬのは免れ得ないのだから、顔が敵に割れた所で困る事など何も無いからだ。

 

 

 

 砲門が過熱によって溶けるのを走り回りながら待ち続け、頃合いを見計らって飛んできた鉄球の鎖を左手で引っ掴み、一気に引っ張った。

 そして中に引き摺り込まれた狼女の背中に回し蹴りを喰らわせ、引きちぎった鉄球を振り回して勢いをつけ、頃合いを見計らって投げつける。

 だが敵さんは敵さんで其奴を受け止めて、こっちに投げ返してきた。邪魔だから叩き割ると、その陰から飛び出し私に体当たりをして転ばせて、更に胸へと肘打ちを喰らわせてきた。

 負けじと私も奴の顔面を殴りつけて体勢を崩させ、立ち上がるなりこれを抱えて膝頭に3回叩きつけ、ぐったりした所で柱へと投げ付けて、更にドロップキックを胸に喰らわせた。でも柱と壁を破壊して外に転がり出たのに、身体の損傷は胸の乳房が吹き飛んだだけで、中身はまだまだ無事なようである。この前倒した吸血鬼擬きが、割と柔だったので侮っていたが、意外と頑丈にできている。とはいえ胸の辺りの守りを堅めてあるのは私も同じだから、設計思想は大して変わらないのかもしれない。

 だとすればこいつ何処までが生身なのか。少なくとも元が人間だったとすれば、脳髄に関してはそのままの可能性が高い。錬金術師が、脳改造の技術を持っているのかどうかは定かでは無いが、ショッカーなどの組織の場合、下手に手を加えて何も考えられなくなると堪ったものでは無いので、せいぜい刷り込みとその効果の永続化以外の処置しか取られることはなかった。私やライダー達のように、補助用の電子頭脳を取り付けられる者もごく僅かにいたが、それだってあくまで脳の情報処理をサポートするだけの物である。

 それらの事から類推するに、目の前の改造人間も恐らく脳髄は、人間の頃のままだと思える。ともなれば、攻撃の狙いは一ヶ所のみに定まる。

 倒れたままののっぽの両足を掴み、一気に地面に叩きつけようとした。小さな影が私を突き飛ばしたのは、その時だった。狼女が体当たりして、私を海へと突き落としたんだ。

 岸辺に這い上がると、放置していた狼女がのっぽを引き摺り、道を一つ挟んだ先にある曲がり角を曲がって逃げていくのが見えた。何と逃げ足の早い。

「逃すものか……」

 後を追おうとすると、大コウモリ怪人が目の前に落ちてきた。身体のあちこちに刃傷や痣、それに銃創が出来ている。余程に手酷くやられたらしい。きっと怪人の正体が人間だと気づかなかったものだから、やり過ぎてしまったのだろう。イルミナティ製に比べれば、怪物染みた見た目をしているから、その可能性は高い。

「おい、大丈夫か?!」

「ヨコハマ以来ノ仲間ハ全滅シタ……。私モモウ駄目ダ……」

 私が声を掛けると無念さを滲ませた表情で項垂れた。どうやら眷属だと思っていたコウモリ怪人は、同じ立場の人間だったらしい。今回の件は、別に放っておいても困るのは私だけだったから、首を突っ込まなければ良かった。

「そうかい……。改めて邪魔をした事を謝るよ。ごめんなさい」

「モウイイ……。ソレヨリモコレヲ……」

 その言葉とともに、彼は震える手でUSBメモリを私に差し出した。

「ヨコハマノ全貌ダ……。モッテイテクレ……」

「そんな物を私が……」

「奴等ニワタシテタマルカ……」

 どうやらあれは白色テロらしい。公僕に渡したくないだなんて、それくらいしか理由はない。

「分かった。預かっておくよ」

「カンシャ……ス……」

 その言葉を最後に、オオコウモリ怪人の体は砂と化して、地面に崩れて落ちていった。それを待ち構えていたかのように、サイクロンが現れて私の横で止まった。そして遠くからは、別のマシンや足音が聞こえてくる。

「行こうか……」

 

 

 

 

「これは……」

 排気音を追ってバイクを走らせると、その先でパヴァリア光明結社の残党2人の変死体を見つけた。背の高い方は頭を天辺から両断されて、脳髄の一部がそこから飛び出しており、もう1人は鉄骨で頭を打ち付けられた挙句、何とそれで扼殺されていた。十中八九、横浜のライブにもいたあのサイボーグが手を掛けたのだろう。

 急ぎ検視官を呼び寄せて死体を回収を任せ、排気音のした方向へと向かうと、既に彼女の姿は何処にも無かった。発令所からも探してもらったが、一向に見つかる気配はない。

「特徴のある形状故に、発見は容易いと思うのだが……」

 もしやすると一般車に変形できるのかもしれない。そうすれば、木の葉を隠すなら森の中という例えにあるように、周囲のマシンと見分けがつかなくなる。

 今回の一件の真相を掴む為にも、彼女を見つけ出したいのだが、そういった物がないのではどうにもならない。

 そこで場所を変えて、3人が戦っていたと思われる倉庫跡を調査すると、ヘッドギアとマスクらしき物が見つかった。拾い上げて調べてみると、頭部のバイザーといい、角のような装飾といい、神獣鏡のそれに形状は似ているが、後頭部をよく見るとダイレクトフィードバックシステムのコアは存在せず、別の装置が取り付けられており、耳あての形状も違うなどの差異が存在している。

「別物なのだろうか」

 だがそれにしてはあまりにも似通っている。一先ず持ち帰って検査してもらう事に決めた時に、溶けた右の耳当てから形式番号の表示器らしき物が、顔を覗かせているのが見えた。

「もしや……」

 右耳の物は爛れて読めなくなっていたが、左耳の物を小刀程の大きさにしたアームドギアで切り割ると、そこには"Lw-M13 EW "と書かれた表示器が出てきた。神獣鏡の物とはまるで違う。それどころかシンフォギア・システムの形式番号の法則と少しも一致していない。これは一体何なのだ。

「この13という数字の正体は、大体の予想はつく。このシステムが13番目に製造されたか、若しくは他に12機製造されているかのどちらかだろう。だがアルファベットに関しては、何なのかさっぱり見当も着かん」

 恐らく何かの頭文字だと思うが、アルファベットを使う言語など無数に存在するので、まるで要領を得ない。

「これに関しては専門のチームに任せる事にしよう。それにしても……」

 あの工場にいた怪物は、一体何だったのか。数回攻撃すると、アルカ・ノイズのように赤い砂と化してしまった。首領格の大柄な怪物は、外へ逃げ出したが、この倉庫の近くでそれらしき砂の山も発見された。あのサイボーグが倒したのか、我々の攻撃を受けてそうなったのか、それは定かでは無い。しかしそんな事はどうだって良い。

 怪物は全滅したが、それで本当に良かったのか。それが私には引っかかる。どうもあの怪物達を攻撃してしまったのは、大きな失敗だったのではないか。根拠はないが、そのような気がしてならない。近頃、私のライブから生き延びた者が、怪物になって暴れ回る事件が相次いでいる事を考えると、出会した彼らの正体もそうだったように思えてならない。

 自らの不手際で生み出した存在に、仕掛けなくても良い無用な戦を仕掛けて、本当に捕らえるべき相手を捕らえ損ねた。

「私は何をしていたのだ……」

 

 

 

 マシンを3日間止めることなく走らせた。あの辺りに居たくなくて、無我夢中で走らせているうちに、落ち着いた時には広島県の山奥に辿り着いていた。近くに島根県と広島県の標識があるのを見ただけだから、細かい位置までは分からないが、近くに人の気配はない。川だけだ。

 河原に腰を下ろし、水の流れを見て、あの戦闘を思い返した。

「今回の戦い、今までの中で一番無意味だった……」

 人間に害が出る訳でも無かったのにしゃしゃり出た結果、徒らに犠牲を増やしただけだった。私が乱入しなければ、蝙蝠の群れは本懐を遂げる事ができた。それに奴のターゲットは、あの2人を除けば私だけ。襲いに行く必要など無かった。

「知らなかったとはいえ、余計な事をして死者の数を18倍に増やしてしまった」

 こんな事ならば、知らぬ顔をしていれば良かった。コウモリ怪人のしようとしていたことは、私と何ら変わらなかったのだから。

「あの連中はあの世行きにしたから、もう奴等を狙った犯行は起きまい……。だがだからといって、生存者やその親類縁者を素体とした怪人はまだ出てくるだろうし、もしあの他に仲間の改造人間がいるとすれば、今回と同じ事件が起きてしまうやもしれない。もう嫌だ……」

 これから先、一体何人殺せば良いんだ。誰か教えてくれ。

「瑞季、親父さん……、皆んな…………、もうやだよ…………。人助けになるならともかく、明らかに非がある人間を庇って、何の非もない改造人間とこれから先もずっと戦わないといけないなんて、頭どうにかなりそう」

 こんな事続けたくない。でも続けないと、こっちが危なくなる。

「下手すると、私も怪人と十把一絡げに扱われかねないからやめられない」

 ああ、人間だらけの世界に来たものだから苦労する。結局のところ、中途半端な怪人でしかないから、こんな事で悩まないといけない。

「す・こ・し・や・す・ん・だ・ら?」

 横に止めていたネオサイクロン号が、こんな事をライトを点滅させて言い出した。3ヶ月も休まず走らせていたから、AIが早い段階で自我を持ち出したのだろう。

「敵さんが休ませてくれると思う?」

「に・ん・げ・ん・に・ま・か・せ・る・と・い・い。も・と・は・あ・い・つ・ら・が・じ・ぶ・ん・で・ま・い・た・た・ね」

「その種の存在すらも気付く頭が無いんだよ。そもそもそれ程にオツムが出来ているならば、改造人間が増える事なんかあるもんか……」

「あ・ま・や・か・し・す・ぎ。に・ん・げ・ん・に・も・す・こ・し・は・せ・き・に・ん・と・ら・せ・な・い・と・そ・の・う・ち・つ・け・あ・が・る。マ・ユ・が・い・い・よ・う・に・り・よ・う・さ・れ・か・ね・な・い」

「同類にされて殺されるよりかはマシさぁ」

「マ・ユ・が・こ・わ・れ・る・ほ・う・が・も・ん・だ・い」

「心配してくれてありがとう。でも嫌気が差しても戦わない理由にはならないんだ。人間でも怪人でも無いから……、戦うのをやめたら生きる事すら無理になっちゃうよ」

「な・ん・で?」

「怪人が人間を潰してしまったら、次は私が攻撃されるのは火を見るより明らか。逆の場合もそうだろう。それで皆んな犬死にさせられた。だから周囲へのアピールも兼ねて怪人と戦うしか無い。ショッカーになんか戻れる筈もないし、戻る気もない。なればさ……、こうするしか無いんだ……。嫌で嫌で仕方ないけど……、人間の味方をするという泥沼に嵌っちまったのだからなぁ…………」

 今思えば、それで本当に良かったのかも分からない。基地から逃げ出して追手に追い詰められていた時に一文字さんに助けられ、それ以降、ズルズルと戦い続けたわけだけど、気付けばそれしか出来なくなってしまったのだから。

「や・め・ら・れ・な・い・な・ら・お・わ・っ・て・か・ら・の・こ・と・を・か・ん・が・え・よ・う・よ。そ・う・だ。ふ・た・り・で・だ・れ・も・こ・な・い・と・こ・ろ・を・さ・が・さ・な・い?」

「誰も? 人口が100億人に迫りつつあるこの世界に、そんな場所があるのかな?」

「き・っ・と・あ・る。た・た・か・い・が・お・わ・っ・た・ら・さ・が・そ・う・よ」

 実現出来るかどうか今一つ分からない夢だが、何の目的も無く戦い続けるよりかは、ずっと良いかも知れない。

「いつまで掛かるか分からないけど……、その日まで力を貸してくれる?」

「も・ち・ろ・ん。わ・た・し・は・さ・い・ご・ま・で・マ・ユ・と・い・っ・し・ょ・に・い・る」

「ありがとう」




如何でしたか。
多少強引なところがありますが、あのまま戦い続けても麻由の心身が持たないと判断し、その後の楽しみを用意する事にしました。不毛なことを続けた先に、何か楽しみがなければ、人間でも改造人間でもやっていられませんからね。麻由からすれば、全く気の進まない敵と戦わねばならないのですから尚更です。
またネオサイクロン号には、原典には無い自我を付与しました。それというのも、これまでと違って話し相手になってくれそうな人もいませんから、仮面ライダーBLACKのバトルホッパーのような性格を持たせる事にしました。人工知能は無人走行用に組み込まれていますので、自我を持つ素地自体は、元から存在しています。
さて最後に少しだけ現れた翼さんについてですが、彼女も怪人騒ぎ自体は耳に挟んではいましたが、パヴァリア残党の対処が優先事項とされていた事や改造人間絡みの事件は麻由が全て対処していた為、警察がS.O.N.G.に解決を要請しなかった事から、結果として手が出せなかったんです。戦士である前に公僕ですから、権限から発生する制限を受ける事は免れ得ませんでした。
その為、今回遭遇したコウモリ怪人に関しても、ノーブルレッドを捕らえに来たところで、偶然出会しただけです。しかも襲われた所を単に返り討ちにしただけですから、彼女には何の落ち度もないのですが、怪人の正体を推察しているうちに、作中の通り、落ち込んでしまったんです。責任感が非常に強い人ですからこうなるのではないかと思い、書き上げました。
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