守矢家の日常記録 Re:record   作:宮橋 由宇

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オリキャラが出ます


Memory.3『幻想ブンヤと天狗の長』

 のんびりとした風の吹く昼下がり。

 二柱がスマ○ラでOK牧場の決闘を繰り広げている部屋の横で、俺は一人読書にふけっていた。

 『白雷』の使用による体へのダメージはすっかり取れ、今はもう何の問題も無く動ける。しかし、自ら動くこともないため、俺は久々の何もない日常を満喫していた。

 

 と、そんな中──

 

 ピンポーン

 

「こんにちはー!毎度おなじみ、文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)でーす!」

 

 わざわざピンポンを押しておきながら、なぜか縁側から一人の烏天狗がやってきた。

 何故神社にピンポンがあるのかとかは気にしてはいけない。

 

 ああ、また煩いのがやってきた……と、自らの平穏がガラガラと音をたてて崩れていくのを聞きながら、俺は気だるげに障子を引き開けた。

 

「毎度毎度元気だなお前は。少しその元気を俺によこせ」

「あ!一樹さん、お久しぶりです!」

「ああ。昨日も来たけどな、お前」

 

 自由奔放とか、神出鬼没とかの言葉を体現したかのようなこの烏天狗の少女の名前は写命丸 文(しゃめいまる あや)

 文々。新聞とか言う、ガセネタ上等の完成度だけは無駄に高い新聞を作っている、幻想郷の情報発信担当である。

 まぁ。彼女の発信する情報の信用度は地の底だが。

 ただ、情報の正しさよりも、面白さを優先する幻想郷である。彼女の新聞はそれなりに需要はあるらしい。

 『守矢の現人神二人の熱愛が発覚!』なんて記事を書かれたときは、ぶっちゃけ妖怪の山ごとあのクソガラスを駆逐してやろうかと思った物だ。

 まぁ、そんなことする暇があるなら肩でも揉んでくれないかい?なんて神奈子様にいわれて急にアホらしくなってやらなかったんだが。

 

「で、なにしに来たの?お前」

「……なんかいつもより当たりきつくないですか?」

「そんなことねーよ」

 

 ないない。実は根に持ってるなんてことないない。

 

「今日はですね、一樹さんと早苗さんにちょっと頼みたいことがあってきたんですよ」

「早苗はいねーぞ」

「ええ、そのようで。なので、だったら一樹さんに早苗さんの分もやってもらえればいいか、と」

「ねぇそれ俺の意思入ってないってわかってる?」

「はい!」

 

 とっても良い笑顔で頷かれた。

 もうなにも言うまい……

 

「……わかった。けど条件がある」

「なんでしょうか。取り敢えず聞いてあげます」

「何をするにしても俺の意思を尊重すること。もうお前が持ってきたって時点で面倒事なのは確定だから良いとして、必要以上の苦労はしたくないんだよ、俺は。あと何で上から目線なんだお前」

 

 どうして天狗という一族はこうも不遜なやつらが多いのか。椛は例外として。

 

「まぁいいでしょう。それじゃあ行きましょうか!飛ばすのでちゃんと捕まっててくださいねー!」

「はぁ!?ちょ、せめてちゃんと説明してからって、だから人の話をきけぇぇぇ!!!!!」

 

 了承が取れたと見るやいなや、俺の服をつかんで軽々と背中の翼で飛び上がる文。何一つ説明もされないままに俺は文につかまれ何処かへと連れ去られていった。

 

 ─────────

 

「ほらほらー!わたしを止めたきゃもっと酒に強い奴を連れてきなぁ!」

 

「と、言うわけで、一樹さんにはにとりさんの機械でおかしくなった菜月様を止めていただきたいのです」

「デジャヴですか、デジャヴですよね!本当にありがとうございましたドチクショウ!」

 

 文に連れられ妖怪の山へたどり着いた俺を待っていたのは、いわゆる地獄絵図だった。

 死屍累々という言葉が似合いそうな白狼、烏、その他もろもろの天狗たちの群れがあちこちに倒れている。とはいっても誰一人として死んでいるわけではない。ようは酔いつぶれているだけだ。

 そして、この状況を作り出したであろう、元凶は今は楽しそうに何人かの初老の烏天狗たちと飲み比べ大会を決行しているらしい。既に顔が真っ赤に染まり、焦点の定まらない目をしている烏天狗たちと比べその元凶はまだまだ余裕がありそうだった。

 

 

 あ、最後の烏天狗が倒れた。

 

「……で、状況の説明を」

「クソ──失礼、河童のにとりさんが持ってきた。欲望に素直になる酒のせいでウチの大将が暴走しました」

「把握……」

 

 ようは……あれだ。前回のときの雛暴走(しかけ)事件の焼き増しだ。

 またやらかしたのだ。あの河童は。

 

「ほんとろくなことをしない……」

 

 実験、発明が好きなのは結構だが、それの被害をこちらまで飛び火させないで欲しい。

 今度またじっくりと話し合わねば………

 

「あ」

「あ」

 

 等と考えていたら、元凶と目があった。どうやら次の相手を探して亡者のようにさ迷っていたらしい。気づけば文は居なくなっており、元凶の視線が完璧に俺をとらえていることをはっきりと認識してしまう。

 と、そんな考えを巡らせるが早いか、俺は一目散に逃げ出した。と、思っていた。

 

「なに逃げようとしてんのさカズ。逃がさないよ?」

「ちょっ!?こんなことに能力使うとか反則だろ!ツキ!」

「なーに言ってんの。これは能力を使わざるを得ない緊急事態だよ!」

「お前の身体能力ならこんなもん使わなくても一発だろうが!」

 

 どこか論点のずれた突っ込みを、俺は元凶──菜月(なつき)と呼ばれる一人の烏天狗に向けて言い放った。

 烏天狗には似つかわしくない真っ白な髪と純白の翼。そして、普通の烏天狗なら本来ないはずの白狼天狗の耳。

 こいつ、奈月は白狼天狗と烏天狗のハーフなのだ。……妖怪相手にハーフと言う言葉が適切なのかはわからないが。

 こいつは、元々こんな見た目で白狼天狗でも烏天狗でもない中途半端なやつだったから、それが原因で仲間の天狗たちから迫害を受けていたらしい。だが、こいつは石を投げつけられても、里を追い出されても、決して諦めなかった。いつしかその力が認められてこの天狗の里の長になっていたと言う。本人は「認めてほしかっただけで別に長になりたかった訳ではないんだけどね」と言っているが、ここまでのしあがってこれたのは、紛れもなく彼女の才だ。

 俺は、その点に関しては尊敬している。しているのだが……

 

「……この酒癖さえなければなぁ……どうやら今回はにとりの機械でさらに悪化してるみたいだけど」

 

 こいつは、天狗の例に漏れず、酒好きでさらに酒癖も良いとは言えない。その上酒にめっぽう強いもんだから手に終えない。

 で、なんでこいつを止めてくれなんて依頼が俺に回ってきたかと言うとだが……まぁ単純な話、俺が酒に強いからだ。奈月をも上回るレベルで。……と言うか一切酔わない。生まれてこのかた酒で酔うという経験をしたことがないのだ、俺は。(因みに早苗を呼ぼうとしてた理由は俺とはまた違う。あいつは奈月とまったく同じで、酒癖が悪く酒に強い。毒には毒をという感じで早苗がいると菜月が早苗に集中してくれるから、らしい)

 

「よーし!それじゃあ朝まで飲み明かそうカズ!誰か酒もってこーい!」

「俺は付き合わねぇからな!後もう生きてるやつは文くらいしかいねーぞ」

「なによー!カズ酒つよいんだからちょっとぐらい良いじゃん!文しかいないなら文で良いや。おーい文ー!」

 

 奈月はたぶんどこかで見ているであろう文を呼ぶ。だが文はいっこうに現れない。あの裏切り者め。

 

「んー、出てこないなぁ……文ー!面白いスクープのネタ教えてあげるよー!」

 

 それでも出てこない。

 

「……椛の秘蔵ヌード写──」

 

「お呼びですか奈月様。何なりとお申し付けください」

 

 このエロ天狗め。

 

「一樹さんいまこのエロ天狗めとか思いましたね?乙女に失礼ですよ死んでください」

「その発言こそ乙女に失礼だろ」

 

 全世界の乙女と呼ばれる人たちをバカにした発言だな。

 まぁそんなことをこいつにいったところで意味がないから言わないが。

 

「で、文ー」

「はい、お酒ならここに」

 

 そう言って文が取り出したのは『天狗墜とし』という名前の一升瓶に入った酒で──

 

「なんなんだその縁起悪い名前の酒」

「あぁ、これはですね。いつも文々。新聞を売り付け──いえいえ、快く買っていってくれてるお客様からの頂き物なんですよー『いつも面白い新聞をありがとう。これお礼に』って」

「いやそれ絶対売り付けられたことに対する嫌がらせだろ」

 

 あと誰なのかも大体見当がついた。多分豊穣の神の秋姉妹だろう。あの二人は いつも文に弄られてるから。

 

「ん!美味しいねこれ!名前は気に入らないけど!」

 

 と、気づけば既に酒を飲んでいた菜月がそう声をあげる。

「当たり前よ!豊穣の神の私たちが不味いものを出すわけないじゃない!」……などという声が聞こえた。気がした。

 

「ほら、カズも」

「……はぁ、わかったよ。ただし、付き合うのはこの酒の分だけだ。こいつが終わったらもう俺は帰るからな」

「あ、天狗墜としはまだ4本ありますよー!」

「ねえいまその情報必要だった?」

 

 ホントろくなこと言わねえなこいつ。

 天狗墜としでも飲んでいっかい地獄に落ちねえかな。

 

「ほらー!カズも飲みなって!」

「いや、飲むから無理矢理飲ませようとするな!」

 

 すすめた酒を飲まない俺に痺れを切らしたのか奈月は無理矢理オレの口に一升瓶をねじ込もうとしてくる。

 そして何を思ったのかそのまま自分でのんで、

 

「んー!!!」

「むぐっ!?」

 

 オレの口に入れてきた。つまり接吻である。

 

「!!!!????!?!?」

「あ、一樹さんが理解できないって顔してる。レアですね」

 

 俺が慌てるのをよそに文は呑気にそんなことを言い出す。おい!写真を撮るな!メモを取るな!にやけるな!

 

「ぷはっ!」

 

 ようやく菜月が俺から離れる。

 

「どう?美味しかった?」

「ば、おま……!なにやってんだ!」

「だってカズが飲もうとしないんだもん!」

「もっといいやり方あっただろ!なんでこんな……」

「?これが一番いいと思ったからやったんだよ?ボクカズのこと好きだし」

「……!」

 

 赤らめ顔で当たり前の事のようにそういう菜月に俺は二の句が継げなくなる。

 菜月は普段なら絶対にこんなことしない。ちゃんと友達としての一線を越えることはない。 

 だから、これが文の言ってたにとりの機械でおかしくなった部分なのだろう。

 

 まったく……ほんと、ろくなことしないなあのクソガッパ。

 

「いや、けどな……ああ言うのは恋人とか夫婦とかがするもので──」

「いいじゃないか別に!カズはボクにとって家族みたいなものだし!カズの近くにいると安心する」

「……!」

 

 菜月のその言葉に俺は思うところがあって押し黙る。菜月は黙った俺を見てにへらと笑うとまた酒に手を伸ばした。

 

 

 

「ふむふむ…………次の一面の内容は決まりですね。『東風谷一樹 不倫』と……」

「おいそこのクソガラス。なにメモってんだ」

「え?いやこんな美味しいネタメモらないって……ありえないですよね?」

「ぶっ殺すぞお前」

「なんですか!私なにもしてませんよ!逆恨みでぶっ殺すとか……程度が知れますよ!」

 

 もうこいつ死ねばいいのに。ここにつれてきたのも文なら酒を用意したのも文だし、極論言えばこの状況を作り出したのも文、お前だからな。

 

「……てへっ☆」

「よし、死ね」

 

 ひどいっ!?と文がショックを受けているのを尻目に俺は菜月に向き直る。すると──

 

「あ…………寝たか」

 

 俺の膝を枕がわりにすやすやと寝息をたてる少女の姿があった。

 

「あら、ホントですね。それじゃあ寝室につれていきますか 」

 

 その姿を見て、流石に真面目にそういった文は菜月をつれていこうとする。俺はそれを遮った。

 

「一樹さん?」

「ツキは……俺がつれてくよ。文はここら辺の片付けお願いしたい。後で俺も手伝うから」

「いいですが……襲わないでくださいよ?」

「するかそんなこと」

 

 こいつに襲われることはあっても、襲うことはない。いやほんとせめて逆じゃねーのかとは思うけど。

 

「それじゃおねがいしますね。私はちょっと袋とってきます」

 

 そう言って飛び立つ文。俺はそれを見送ってから菜月を持ち上げた。

 あれだけの酒を飲んでどういうことかまったく重くない菜月。こいつはこんな軽い体で長としての重圧に耐えてきた。俺は菜月にとって数少ない心休まる友なのだろう。こいつとそれだけの時間を重ねてきた自信はあるし、実際菜月に言われたこともある。

 

 だからと言うわけではないが……なぜだか、さっきの言葉を聞いて俺はこいつを怒る気力はなくなった。

 

「ったく……世話が焼ける」

 

 菜月の意外と綺麗な寝室にはいる、そして敷いてある布団の上に置いて上から毛布をかけた。

 奈月は幸せそうな顔で寝ている。

 

 今のこいつを見てると……調子が狂うな……

 

「ったく……俺は早苗を守んなきゃいけねぇのによ……」

 

 どうにも、俺はこいつのことを守ってやりたいと思ってるらしい。早苗と同じくらいに。

 けれど、けれど俺のこれは恋愛感情ではない。菜月はどうか知らないが俺は恋愛感情からこの少女を守りたいと思っているわけではないのだ。そしてそれは、早苗にも言える。

 

 俺は、人を愛するということがどういうことかわからない。

 

 原因は早苗達と出会う前の俺自身の境遇のせいだ。

 思い出したくもないし、語りたくもないのでなにも言わないけれど。

 

「まったく……俺がこの手で守れる範囲なんて……ちっぽけなもんなのにな」

 

 自分の限界はわきまえてる。けど、どうにも気持ちに整理がつかない。

 

「…………おやすみ、奈月」

 

 どうにもならない気持ちに一旦蓋をして、俺は菜月にそう声をかけその場を離れる。

 

 さて、文の手伝──早苗も帰ってくるし、早く守矢神社に帰らないと。片付け?知らん。

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