巫女と天パと超絶ラッキーガールが異世界から来るそうですよ?   作:ジャンヌ

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第十二訓 オニとヨウカイ

 畜生というのは、結局、自然の中の有象無象な存在に過ぎない。

 虎としてこの世に生を受けた俺とて、例外じゃあない。ただ他者を喰らい、雫を啜って生きる、矮小なケダモノ。だが、獰猛さは他の獣共とは一線を画していた。

 飢えていた。生きる意味を、この世に生きる、ただ一つの生の形を。

 羨ましかった。一人一人自我を持ち、個があって社会を形成する人間が。

 そして彼らを導く神秘―――これぞまさしく理想―――修羅神仏、その神格が。

 ・・・いや、そんなモノを求めていた時点で、俺は。

 

 愚かな、愚かな”ヒト”だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・来たか」

 

 あの女が昨晩に用意した扉が開く音を聞きつけ、ゆっくりと、ガルドは腰を上げた。

 薄暗い部屋の中、唯一の光源である松明の光が、彼の相貌に映り、揺らめく。

 

「へえ・・・随分とイメチェンしてきたじゃない」

 

 開口一番、小娘はそうのたまった。

 成程、昨日のあの安っぽい恰好とはまるで変っている。

 あの白いタキシードはどこへやら、今の彼は黒い道着のようなものを着込んでいる。

 いや、それよりも特筆すべき点は、何よりもその体格だ。

 これでもかとその身に引っ付いていたあの膨大な筋肉の量は、幻だったかのように消え失せ、身長は変化なし、だがそれでも弱弱しさなどは微塵も感じられない。

 言うなれば・・・徹底的な、身体の洗練。

 

 不敵な笑みを崩さない市子。

 その眼を臆することなく見据え、ゴキリ、と指を鳴らす。

 

「・・・覚悟はいいか、桜市子」

「それはこっちの台詞よ!」

 

 ギフトカードから蘇民将来を取り出し、幸福エナジーの具現化―――竜、虎を顕現させる。

 対するガルドは、未だ自然体のまま。ピクリとも身動きを取らない。

 

「来ないの?なら・・・私からいくわよっ!!」

 

 地を、空を踏みしめ、一気に竜虎は距離を詰める。通常の畜生の身体能力とは比べ物にならないスピード、箱庭の獣化のギフトのどれにも引けを取らないだろう。

 だが、その爪は空を切る。

 

「っ!?」

 

 驚いたのは市子も同じ、瞬きなどしていない。だが陽炎のようにその姿が消え失せた。

 我に返って振り返るも、既に遅し。

 

「・・・まずは一発、もらったぞ」

 

 昨日の八方鬼縛陣の束縛にすら打ち勝てそうな、重い一撃に。

 市子はようやっと、目の前の人物の、真の変化に気づいた。

 

 

 

***

 

 

 日の光に照らされ埃が視認できるほどの暗さの染まる、大広間。

 天井、奥行き、どれもこの建物の中では最大級の部屋は、数多の光球で埋め尽くされていた。

 

「ちょい霊夢!!出会い頭に”夢想封印”はないだろ!?」

「うるさい、問答無用」

「理不尽すぎるぜ!?」

 

 箒を器用に操りながら紙一重でよける少女。その恰好は、絵本の世界から抜け出したのかと錯覚するほどに典型的な、魔法使いの恰好であった。金髪の髪、無邪気さに溢れたその眼・・・霧雨魔理沙。自称・普通の魔法使いである。第一訓からようやく再登場。

 

「あ~もうっ!!話を聞けっての――――恋符”マスタースパーク”!!」

 

 てのひらに構えた、鍋敷き程度の面積の六角形の物体、ミニ八卦炉を構え、唱えるスペルは、山をも一瞬で溶かす幻想郷内でトップクラスの火力を誇る魔法。

 極太レーザー、と傍目からしてそれ以外形容できないその魔法は、霊力の珠を悉く飲み込み、消し去った。

 ルールを無視するようなその暴挙、飛翔していた霊夢はしかめっ面とともに地に降りる。

 

「・・・いきなりそれはないんじゃない?」

「お前に言われたくないわっ!!」

 

 かすっちまったぜ、とボヤキながら帽子を確認する魔理沙。ジト目でそれを見る霊夢、予想していたとはいえ、まさか本当にいるとは思わなかった。そう言いたげな表情である。

 

「・・・あんたがここにいるってことは」

「お察しの通り。スキマ妖怪のおかげで、一刻くらいで箱庭入りしたぜ」

 

 ブイ、と満面の笑みでそう言い放った。こめかみを抑え、ため息をつきたくなった。

 

「まったく、紫ったら・・・どんだけ必死こいたのよ」

 

 流石は妖怪の賢者、と褒めるなど奉納金をいくら積まれたってする気が起きない。

 例え彼女でも、そんな二時間で解析、箱庭入りを果たすなど急ピッチもいいところだ。昨夜、風呂場でシリアス目に「紫が来るわよ・・・」なんて言っていた時には、既に工作を終えていたというわけだ。今頃、スキマから高見の見物と決め込んでいるのだろう。ああ、腹の立つ。

 

「で、あんたがここにいる理由は?」

 

 大体予想はついている。大方、自分も箱庭で研究する、とかいうのだろう。未知の世界、彼女の興味など尽きるはずもない。

 

「・・・決まっているぜ」

 

 

 

 

 

――――――お前を、連れ戻しに来た。

 

 

 

 

 

 

 その宣告と同時に、彼女は八卦炉を構えた。

 

「勝負だぜ、霊夢・・・弾幕ごっこなんてキレイなモノじゃない。ここの世界の理に則った、荒っぽさ満点の決闘だぜ」

 

予想外の言葉に驚きながらも、魔理沙の顔色を伺う。

本気。たったそれだけ、読み取れた。

 

「・・・本気?」

「ああ、私はいつだって本気だぜ!」

 

 場に不釣り合いなほど、笑う魔理沙。

 無表情のままだった霊夢、自嘲するように、うっすらと、初めて口角を上げる。

 

「フフ・・・貴女らしいけど、一度でも私に勝ったことがある?」

「確かにな。今日がこの霧雨魔理沙、初の対巫女勝利記念だぜ!」

 

 

 

 手加減なしの、決闘。

 少女たちの、精一杯の、死合い。

 今、開幕。

 

 

 

***

 

 

「いくぞぉぉぉぉ!!」

「よし、来やがれ!!」

 

 てててててっ。

 ガシッ。

 ブンッ。

 

「まだまだぁ!!」

「おう来い!!」

 

 てててててっ。

 ガシッ。

 ブンッ。

 

「う・・・うああぁぁぁぁ!!」

「よし、その意気だぜ!!」

 

 て、てて、て・・・

 ガシッ。

 ブゥンッ。

 

 決して、手抜きなどではない。

 特攻する金髪幼女に、木刀を抜くことなく頭をムンズと掴みブン投げる銀髪の男。

 ただの幼女虐待と言っても、過言ではなかった。

 

「うう・・・なんで死なないのよーっ!!」

「バッカおめぇ、あんなんで死ぬわけね―だろ、そんなのスぺランカーくれぇだろーが」

「いや、妖怪を簡単に投げ飛ばすヤツもいないわよ!?」

 

 初めに妖怪だ、と自己紹介したにも関わらず、まるで信じないこの銀髪天然パーマ。

 あまりの動じなさに、焦りを覚え始めたルーミア。なんだか口調もいつもより年相応になってきているのを自覚していた。

 

「こうなったら・・・月符”ムーンライトレイ”!!」

 

 黄色い妖力弾が瞬時に形成され、動き出す。初歩的なものとはいえ、やはり妖怪の放つ弾幕。予備知識のない人間が見たら驚いて腰を抜かすのは必須。この男もただの人間、十分牽制になると考えた。

 だが、相手が悪かった。

 はぁ、と銀時はため息をつき、木刀を抜いて。

 

 ただ。無造作に振りぬく。

 

「は・・・?」

 

 緩慢とも見えるその動作で、弾幕は弾かれ、消滅した。かすり傷一つ負わず、気だるげにルーミアをみる。

 ただ者ではない、とは言われていた。だが、ここまで赤子みたいにあしらわれるほどなのか。

 霊力も全くもたない、弾幕も打てない、ただの人間に。

 

「あのなぁ・・・テメーは未熟なんだよ。青くせぇイチゴよりもな。ったく、ガキと戦えるわけねーだろーが・・・わかったらさっさと家に帰るなり何とかスタークさんに帰刃するなりしやがれ」

 

 ピキ、とルーミアの何かが切れた。

 恐らく口にした本人にとっては何気ない一言。

 

 未熟・・・?私が?

 

 なんで・・・食肉如きに。そんな偉そうな口を聞かれなきゃいけないのよっ!!

 

「・・・もう、いーや」

「あ?何だって?」

「・・・だから。殺す(・・)って。言ってんの」

 

 刹那、ルーミアの姿が掻き消えた。

 いや・・・周りの、何もかも。消え失せた。

 ネオンで彩られた歌舞伎町の生温い夜が忘れてしまった、完全な闇。ひんやりと、首筋に刃を突き付けられたような。

 すなわち・・・恐怖。

 

「・・・こいつが、妖怪ってか」

 

 例え、どんな外見であろうと、妖怪は人間の畏れそのもの。

 それを、銀時は理解した。

 天人(あまんと)とは、根本から違うのだと。  

 

「そうよ・・・理解した?なら死ネっ!!」

 

 幼女の声のままなのに・・・底冷えするような宣告とともに弾幕が放たれる。

 スペルなどではない、正に喰らうための弾幕。闇に紛れ、四方八方から銀時を襲う。

 

「チィ・・・!」

 

 目が利かないせいで、木刀はただ数発弾くだけしか能がなかった。

 いつ当たったかも視認できず、肉を焼く痛みが全身に奔る。

 

「がぁ・・・!」

「フフ、無様ね。大人ぶってたクセに」

 

 闇が晴れ、冷笑浮かべてフヨフヨ浮かぶルーミア、全身から出血しても力強く二本足で踏ん張る銀時。

 どちらが優勢かなど、考えるまでもない。愚かな人間など、既にまな板の上の鯉。

 せいぜい足掻くことしか許されぬ、悲しき定め。

 ああ、どんな残酷な手で殺してやろうか。ルーミアの興奮した脳内は、それだけに思考を費やしていた。

 

「まずは闇で包んで~、足にしようかな、それとも手?うん、股間は後回しで。バッチイし。すぐ噛み切るんじゃもったいないわ、亀よりも遅く、じっくりと歯を突き立ててやろう。そして鼻をそいで~首をもいで・・・」

「よそ見してていいのか?」

 

 ハッと気付き、体を後ろに反らす。

 眼前を、木刀が通り過ぎた。きっと当たりはしなかったろうが・・・妖怪の目にも止まらぬスピードで、壁に突き刺さる。

 髪に隠れて表情は伺えないが・・・突進して髪が揺れている、銀時がそこにいた。

 形容できぬ、圧倒されそうなオーラを纏って。

 

(な・・・何アレ!?)

 

 殺気だとかそんなものではない。

 文字通り、黒いオーラを纏って。銀時はそこにいた。

 

(よ、妖力も霊力も持たない人間が・・・でも、私たちのソレに酷似している・・・!?)

 

 それを知ってか知らずか、銀時は口を開く。

 

「ああよーく分かったぜぇ・・・妖怪って奴がよ。確かに俺のような人間如きじゃ、敵いはしないだろうさ」

「そ、そうよ・・・それが何?」

「でもよ・・・それでも。テメーは。未熟だ」

「・・・まだ。それをいうかっ!!」

 

 ドゥッ!!とルーミアの妖力―――ここでは霊格と称するべきか―――を解放する。

 何年、何百年、何千年と人を食らってきた彼女は、何千もの怨嗟を背負うも同義。妖怪に未熟などない、あるのは上下関係のみ。人間如きが簡単に断じられるものではない。

 しかし、そんなこと、銀時が恐れるには絶望的に足りない。

 何故なら、この男は。

 

「・・・何千、何万。同族を殺したか(・・・・・・・・)?」

「っえ・・・?」

「テメーが何の意地にすがってんのか知らねーが・・・どうせテメーのやってきたことは家畜を屠殺してんのとかわりゃしねー。生き物として当然の生存本能じゃねーか・・・こちとら、信念のためだけに人を殺し続けた”白夜叉”だコノヤロー!!」

 

 ユラリ、と立ち上がる。憑りつかれたように、グラリと。不気味に。

 ようやく、ルーミアは、彼の言葉の意味を察した。

 

「・・・なら、私は今日から大人になってやるわ。ただの快楽のために。貴方を、殺して、ねっ!!」

 

 距離を取り、再び能力を発動。自分も相手も深淵の闇に閉ざす。

 ボウ、と弾幕を出現させ・・・乱発射。

 二度目だが・・・自分にも軌道の読めぬ嵐。ましてやあの男に対処する術はない。

 

 ブゥンッッ!!!!

 

 だから、ソレが弾幕も闇も斬り裂く(・・・・)など、予想だにもしていなかった。

 

「は・・・?」

「よう・・・さっきぶりだな」

 

 ニヤリ、と口をゆがめた顔を見たのを最後に。

 ルーミアは壁に叩き付けられ、崩れ落ちる。

 

(ま、負けた・・・いやそれより・・・闇を斬った・・・!?)

 

 この世に顕現して初めての現象に理解が追いつくよりも早く。

 ルーミアは、気を失う。

 ヒュッと風切り音を鳴らして木刀を振った銀時は、目を閉じている彼女に近づき、そっと抱きかかえる。

 

「・・・大人とか、そういうことじゃねーよ。道を踏み外したか・・・それだけだ」

 

 銀時の呟きは、だれにも聞かれることは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あった。

 

「っ!!?」

 

 ただの勘だけで、銀時は横に跳ぶ。

 

 ドガアァァァァァァアン!!!

 

 人知を超えた暴力が、隕石の如く広大なクレーターを生み出した。

 土煙とともに、姿を見せる、ソレ。

 

「・・・なんだ、テメェは・・・?」

「なに、ちょっと腕試ししたくなっただけさね」

 

 飄々と立つ、彼の姿。

 銀時は、彼女の頭頂部に生える、二本の角にばかり注視していた。

 

「だ、荼鬼尼か・・・?」

「ん?違う違う、そうだね私は・・・」

 

 

 ――――ただの、鬼さ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 人を食って、食って、食って。

 人間の畏れと怨嗟をただその身に受けて。

 俺は、悪魔の霊格を得ていた。

 ・・・獣としての本能に、悪魔の畏れ。

 悪名の高まりは、天井知らずだった。暴れた。暴れた。暴れまくった。

 だが・・・はたと気づく。

 

 飽きが、来ていたのだ。

 

 ただ力に身を任せて。限界が肉体にも精神にも、感じていた。

 そして次に感じたのは・・・恐怖だった。

 自分の”個”が埋もれるという、恐怖。

 それに気づいたとき・・・俺は、月に向かって、咆哮を繰り返していた。

 焦りをぶつけるかのように。

 

 ・・・叫び疲れ、岩の上にうずくまる。

 獣としての本分に疲れ・・・翌朝。

 二本足で、一糸まとわず立っていた。

 

 おぼろげながら、思い出す。

 

 自身が、昔は”ヒト”であったことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 市子は左腕を押さえ、その場に蹲っていた。幸福エナジーの顕現も、最早体力の消耗によってままならない。

 キッと目の前の敵を睨む。ガルドは、ただ冷静に彼女を見下ろす。

 

「・・・無様なものだな」

「はは・・・私も、そう思ってるわよ」

 

 事実、ガルドの実力はどんな手を使ったのか、凄まじいものだった。

 腕力、脚力、跳躍。どれをとっても、所詮人間の範疇を出ない市子にとっては絶望的にレベルに溝があった。顕現した干支も競り負ける。

 一発も、ぶん殴れない。当初の目的を果たせず、いやそれだけではない。目の前の相手に勝てない、ただその事実が、市子を徒に焦らせる。

 

「なぜ、お前は俺に拳を向ける?」

 

 不意に、ガルドは口を開く。絶好の機会であるにも関わらず。

 

「アイツと同じことを・・・もちろん、ぶん殴りたいからよ」

「・・・俺が餓鬼どもを殺したことを、咎めないのか?」

 

 納得いかないのか、さらに質問を重ねる。

 昨日ならば、彼は、同じ言葉を口にしただろうか?

 何が、彼を変えたのか。いや、例え変わろうが、やるべきことは変わらない。

 自分を奮い立たせ、何とか立ち上がる。

 

「そりゃ、勿論・・・でも、責めたところで何が変わるわけじゃない。だから・・・」

 

 蘇民将来を、正眼に構える。

 

「だからっ・・・私が殴って。殴って。自覚させてやるわ・・・自分の罪を。あの子たちの思いを!!」

 

 たとえ傲慢だと言われようと、彼女は変えない。

 何故なら、それが・・・桜市子であるから。

 自分の正義を、徹底的に貫くのだ。

 

「・・・悪いが、俺にも引けぬ理由がある。本気で行くぞ」

 

 初めて・・・ガルドは、構えた。

 決心がついた、とでもいうように。

 

「そう・・・それじゃ、第二ラウンドとっ!!行きますかっ!!」

 




今回は銀時メインの話でしたね~。最初の方、何をパロったか分かりますか?
妖怪に人間が打ち勝てるのか?という疑問はありますが、やはり対ルーミアならこんな感じかな、と。妖怪よりかなりの業を背負っているということは、今後の話においてかなり重要な手掛かりとなります。

霊夢と魔理沙との戦いは次で!
あとガルドのなんちゃってオリジナル独白、実は高校の教科書に載っている文献から着想いたしました。書いとかないと、え何これ?と思うと思いますんで。パクリとか言わない。

さて次回は遂に決着が着きます!最早一つの長編が終るくらいの達成感を感じそうです(笑)
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