巫女と天パと超絶ラッキーガールが異世界から来るそうですよ?   作:ジャンヌ

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第十三訓 獣の末路

 弾幕ごっこ・・・妖怪と人間との対等な決闘方法であることは、言わずもがな。

 幾何学的な数々の弾幕の魅せる美しさにその真髄があり、それは敵の殺傷など全く念頭に置いてはいない。

 

 しかし。

 

 ズガアァァァァァァァァァンッッ!!!

 

 邸宅の堅固な壁を易々と、そのレーザーは突き破った。

 

 下手な物の怪など、一瞬で焼却されるほどの、莫大なエネルギー。

 その爪痕から少女が一人、二人と空へ飛び出す。

 

 一人は紅白の巫女服。

 一人は白黒の魔法使いの服。

 

 幻想郷の中でも著名な人間たち・・・博麗霊夢と霧雨魔理沙である。

 箒に乗ったまま、まだ硝煙の上がるミニ八卦炉を構え、スペルを口に唱える。

 

「魔砲”ファイナルスパーク”っ!!」

 

 先ほどよりも更に強力で濃密な魔力が、八卦炉に込められていく。

 だが、隙が多いのも事実。見逃さず、霊夢は予備動作もなしに多くの御札・・・隙間などない・・・を展開した。

 

「がっ・・・」

 

 余りの衝撃に、行き場のなくした魔力が、ポンッ!と小さく爆発し、消える。

 辛うじて空中で体勢を整えたが、その額には脂汗が浮かぶ。

 

「・・・魔力の込め過ぎよ。そんなんじゃ、すぐにガス欠になるわ」

「はっ・・・そんなの承知ずみ、だぜ・・・」

 

 強がっていても、簡単に彼女の状態は推し量れる。

 すなわち威力を高めようとするあまり、魔理沙自身の魔力容量が底を尽きかけているのだ。

 おまけに威力を高めるメリットなどゼロに等しい。範囲を広げたところで、勘で躱されるのがオチ。例えるならば、完全体と化したセロに筋肉の膨張だけで戦おうとするト○ンクスのように。

 彼女は生粋の幻想郷育ち、そして戦いと言ってもどっぷりスペルカードルールに浸かってしまっている。

 その弊害が、これだ。

 戦う、”覚悟”が足りない。

 

(意地張って・・・慣れもしていないでしょうに・・・)

 

 だからこそ、霊夢は少し落胆していた。

 このままなら相手の自滅で勝利は確定しているというのに、だ。

 

(いつもの貴女はどこにいったのよ・・・)

 

 霧雨魔理沙という人間、その短くも筋の通った生き様を、霊夢は少なからず認めていた。

 人外魔境、格などマリアナ海溝よりも隔たっている。それを理解しながらも数多くの妖怪、果ては神とまでも争って見せる。

 その姿勢は・・・霊夢が嫌いな、まさに努力。それだけに尽きる。

 馬鹿みたいに実直に。ひたすらに。がむしゃらに・・・勝ってみせる。

 それが、彼女の強さ。

 ・・・だからこそ、冷静になればわかる、こんな下らないミスなどするわけがないのだ。矛盾するようだが、そうであるはずだと霊夢は思う。

 

「ねぇ・・・魔理沙」

 

 それを意識したとき、自然と言葉が口に出ていた。

 

「貴女・・・勝ちたいの?」

 

 あざけりではない。上記の事を踏まえた、疑問。

 それを聞いた魔理沙の顔は、一瞬ポカンと呆け・・・ニヤリと笑う。

 

「ああ・・・当たり前だぜ」

「なら。なんでこんな馬鹿みたいな真似を」

「おおっと、みなまで言わなくて良いぜ。いいたいことは分かってる・・・無論、このままじゃあ、じり貧だ・・・魔符”スターダストレヴァイエ”っ!!」

 

 突如ばら撒かれた星の弾幕。彼女の基本ともいえるスペルカード・・・威力はそこそこ・・・だが完全に不意を突いた攻撃。問答にすっかり気を奪われていた霊夢は焦って臨戦態勢に切り替えた。

 

「ちょっと!?話の途中でしょうが!!」

「さっきのお返しだぜっ☆」

「あんたの方が性質が悪いわよ!?」

「勝てばよかろう、なのだッッ!!」

「なにその天才究極生物みたいな台詞!?」

 

 この間にも、霊夢はすいすいとよけていく。見慣れた弾幕だ、体が自然と覚えている。

 苛立ちが高まり、一発撃ち返してやろうか、とも思い。

 

「・・・覚えているか、霊夢」

 

 唐突に、魔理沙が口を開く。いつものふざけた口調でも、傲岸不遜な口調でもない。

 真剣な声音。

 

「私が、星魔法を使いだしたのは」

「・・・?4、5年くらい前でしょ?霖之助さんと貴女の三人でやった『流星祈願会』、だったかしら?」

「そう・・・初めて香霖から色々さ、星のこと教えてもらって・・・」

「あー、あんた馬鹿みたいにはしゃいでたわね」

 

 スペルの途中だというのに、世間話でもしているかのように、事実場違いなほど軽い調子で言葉を交わす。

 ハハ、と遠い目をしながら、魔理沙はつぶやき続ける。

 

「そーだな・・・外の世界の本と一緒にさ・・・星座とか、北斗七星とか・・・それぞれに精霊が宿っているって聞いた時には、もうワクワクしたもんさ・・・」

 

 帽子のつばに隠れて、表情がうかがえない。

 だが、徐々に違和感を感じ始めたのは、気のせいではないはずだ。

 

「・・・香霖に星をとってきて、っていったら大笑いされたっけ・・・霊夢にも馬鹿にされて・・・ああそうだ、まだ子供ねって。お前も子供だろうがって、でもなんか笑っちゃって・・・三人でわらって・・・」

  

 言葉が、震えている。

 嗚咽が混じり・・・不意に、弾幕がやんだ。

 ふっと力を抜き、彼女の正面に立って。

 

 ほほに、一筋の涙が、つたっていた。

 

「・・・まりさ?」

「・・・なあ、霊夢・・・」

 

 

 

 

「なんで・・・私たちを置いていったんだ?」

 

 

 

「っ!!」

 

 その言葉は、霊夢の心に、確かに刺さった。

 今まで気にしていなかった・・・いや、目を背けていた事実。

 

「別に異世界にいったっていい・・・だけど、それはさ・・・私たちを・・・なにもかも(・・・・・)置いてくほどだったのかよっっ!!」

 

 きっと魔理沙も見たのだろう・・・

 ”己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし”

 実際には本当にこれを守れ、というわけではない。そのくらいの意気込みで来い、という主催者の遊び心だ。事実そうなる、というだけ。

 だが、この少女にとって、到底看過できるものではなかったのだ。

 

「今まで楽しく過ごしてきたじゃんかっ!一緒に異変解決もしたじゃんかっ!酒だって一緒酌み交わしたじゃんかっ!・・・私だけじゃない、香霖もアリスも萃香も・・・紅魔館の奴らも・・・紫だって・・・!」

「・・・」

「みんなっ!!みんな・・・あの思い出も・・・生活も・・・どうでもいいっていうのかよっっっ!!!」

 

 嗚咽交じりに吐き出した魔理沙の、心からの叫び。

 傍目からみたら見苦しだろう、あまつさえ醜いともいえるだろう。

 

「・・・」

 

 そんなこと、思えない。

 霊夢の目には、彼女は・・・

 

「まりさ・・・」

 

 

 

 

 余りにも、眩しすぎた。

 

 

 

 

「・・・ごめんね」

「れ、霊夢・・・?」

「そして・・・ありがとう」

 

 俯いていた霊夢が、顔を上げる。

 

「っ!?おまえ・・・?」

 

 目を潤ませ、霊夢は語りだす。

 

「私、異世界に来て・・・色々見えたこともあるの。もちろん、幻想郷も大好きよ・・・捨ててなんかいない」

「でも・・・勘・・・いや、もっと違う何かで、感じているのよ・・・」

 

 微かに、微かに・・・笑う。

 きっと、今まで浮かべたことない。

 

「ここでやるべきことがあるって、ね・・・!」

「・・・霊夢」

「紫もどうせスキマで覗いてるんでしょ?丁度いいわ、あとできっちり話をつけるから。でも・・・もう少し、ここで生きてみたいのよ。それも・・・認めたくない?」

「・・・いや」

 

 帽子の鍔を握り、かぶり直す。そして、真っ向から霊夢を見据え・・・口が裂けそうなほど、開く。

 

 

 

「それだけきければ、十分だぜ!」

 

 ふたたび八卦炉を構える。今度は本気の本気、無駄などまるでない、最高の効率を図った最大級の火力のスペルだ。

 もう、一方的に叫ぶような撃ち方は、終い。

 これからは。

 

「憑き物晴れて、清廉潔白なド突き合いだぜ・・・っ!!」

 

 泣きはらした顔など気にもしない。子供のように無邪気に、これから待ち受ける大勝負に胸を躍らせ、八卦炉を胸の前に掲げる。

 

(・・・柄にもないわね。こんな、素直になるなんて・・・)

 

 ほんの、ほんの一日だが・・・

 やはり、あのバカたちの影響か。

 何かと子供扱いする少女。

 何かとメンドくさがる貧乏神。

 弄りがいのある、ウサ耳。

 白髪の、たぶんもっともバカな侍。

 

(・・・そんなわけないか)

 

 ゴシゴシと目をこすり、心機一転、お祓い棒を持ち直す。

 これだけ本音をぶつけてくれたのだ。恐らく、今までで一番・・・。

 だからこそ。

 

「真剣に、応えないとね・・・!!」

 

 視線が合う。

 お互いに一瞬固まった後・・・ニンマリと、笑う。

 これで、決める。

 その意思を、再確認するように。

 

 

 

 

 ラスト───スペル。

 

 

 

「夢符”夢想封印”っっっ!!!」

「魔砲”ファイナルマスタースパーァァァァク”!!」

 

 

 

 爆ぜろ、思いのすべてよ。

 もはや心は伝わった。

 最後に飾るは・・・少女の決闘。

 

 これが・・・理想の。

 ”スペルカードルール”なのかもしれない。

 

 夢と恋がひしめき、ひしめき、ひしめきあい。

 二人を、まばゆい光がかきけした。

 

***

 

 

 

式神、八雲藍は今現在、激しい頭痛に見舞われていた。

妖怪にしては余りにも生真面目過ぎる性分、やや大げさに物事を受け止める傾向があるが・・・やはり計画を乱す者に対してなら問題ないだろうと思う。

 

「全く、これだから古参の妖怪は・・・」

 

自分を棚にあげ、そう愚痴をこぼす。思わず手にした胃薬の瓶が、ギシリ、と軋んだ。

 

 

彼女のストレスの原因・・・言わずもがなであるが。

 

 

 

「"伊吹萃香"殿・・・本当に役割を理解しているのだろうな・・・!?」

 

 

四天王の一角とも表される彼女の能力・・・"密と疎を操る程度の能力"。密度を自在に変えるだけであるが、シンプルが故に余りにも応用範囲が広い。自身の身体を巨大化させることも・・・体を散らして、本拠全体を支配下におくことも。

 

「しっかり警備と監視は行っているのか・・・はあ」

 

キリキリ痛む胃を抑え、所定の位置に展開されていたスキマを潜る。

 

主も把握しているだろうが・・・報告せねば。律儀に職務を果たすため、異空間へ馳せ参じる。

 

「紫様、ご報こ・・く・・?」

 

 

 

目の前に広がる惨状・・・明らかに異常。

 

見たくなかった・・・まさか、式とあろう者が、こんなになるまできづかなかったとは・・・八雲藍は。

 

 

 

「れいむ〜♪あのツンデレいむが・・・私とっ!お話ぃ〜!?ウフフ、遂に私を気にかけてくれるようになったのね〜!!キャーーッ!!」

 

 

 

・・・いずれ腸捻転になるかもしれないと、ガチめに、切実に思った。

 

 

 

「えぇ〜どうしよっかな〜?やっぱりここは大人らしくカリスマをもってして〜、それで"そうよ・・・だから全て私に委ねなさい・・""ゆ、ゆかり・・・だ、ダメ−−−ッ!!"そ、そうよいい子ね・・・これで私達は一蓮托生よ、なんて・・・ハァ・・・♪」

「・・・私の主がこんなにイタイわけがない」

「失礼ね、誰がイタイ子ちゃんですって・・・アレ?ラン?」

「いつからそこに、なんてベタなのは無しで・・・」

 

藍は懐から清潔な白いハンカチを取り出す。主の口元をそっと拭いてやり、相対的に紫の顔は恥辱に、赤く染まっていった。

その顔に、ある種のサディスティックな快感を覚えたのは、きっとストレスのせいだと思いたい。

 

 

 

 

「・・・ゴメンね、藍。こんな主で失望した?」

「いえ、霊夢が生まれてからなので、まだ許容できる水準です」

 

 

数分たち、早くも回復した八雲紫。やはり大妖怪ともなれば精神もそうヤワではない。

ようやく本題に入る。

 

「それで、紫様・・・」

「ええ、分かっているわ。萃香のことね?」

「はい。如何様に致しますか?」

「ん〜・・・監視だけなら元々余剰ともいえますし・・・そうね、問題無いわ」

 

扇子を広げ、いつもの調子で告げた。

それに、と呟き、小さなモニター程度の大きさのスキマを開く。

 

「っ!?これは・・・!?」

 

 

もうもうと立ち込める土煙のせいで、よく確認できない。

だが、徐々にはれていき・・・

 

 

 

 

 

『なんだい、もう終わり?こりゃ、見立て以下だったな〜残念〜』

『・・・』

 

 

「もう、終わってしまったんですもの」

 

 

チーン。と鐘の音が聞こえてきそうなほど無様に、銀時は地に刺さっていた。昨日と似たような、いや地面がクレーターのように陥没している。まさに天変地異の一歩手前ともいえる豪快な爪痕。

 

 

「まあ、当然でしょうね・・・」

 

 

開始して五分も立たず瞬殺された訳だが、むしろそれだけ凌げれば大したもの。博麗の巫女ですら実力及ばずの相手なのだ、生きているだけで儲けものだと思えばいい。

いや、もしかしなくとも死んでいそうだが。

 

「では、この件は処理済みということで・・・」

「ええ。彼についてはまだまだデータをとりたいところだけど・・・優先すべき案件は、コレね」

 

また似たようなスキマを開くが、映し出すのは別の光景である。

元々、紫が処置を施す前のガルドの手で荒れ果てていた森林だったが。

今や、跡形もなく消えていた。

生々しい戦禍の地表に、倒れ込む二人の少女。

ピクリ、ピクリとお互いに力を込めているのが分かるが、立ち上がるまでには至らない。

 

「これは・・・むう、残念ですが引き分けで」

「いえ。まだよ」

 

力強い主の声に、ハッと見つめ直す。

 

グ、ググ・・・

 

立ち上がったのは・・・

 

「博麗霊夢―――文句なしの勝ち星よ」

 

バサバサと服に付着した土を払ってる様は、今しがた激戦を制した者とは思えなかった。

 

「最後は確かに何の小細工もない、純粋な力のぶつけ合いだったわ・・・」

「つまり、霊夢が紙一重で霧雨魔理沙のスペルを押さえた、と?」

「ええ、その通り。ですが、決め手はきっと・・・」

 

 

そこで口を閉じ、再び二人の少女に視線を戻す。いつのまにか魔理沙も起き上がり、にこやかに、後腐れなく談笑する彼女たちは・・・紫にも、藍にも、胸に暖かい何かを感じさせた。

 

「・・・失策では、なかったのですね」

「・・・たかが勝負に過ぎない、されど今この瞬間に・・・幻想郷の未来《・・・・・・》は決定されたのですわ」

 

 

それは吉か、凶か。

賢者の頭脳をもってしても断言できぬ難問だ。

だが、例え先が曇天に曇ろうとも、彼女は・・・彼女たちは、何でもないように吹き飛ばす。

 

思わずその様を思い浮かべ微笑した紫は、また新たな終局を映し出した。

 

 

 

***

 

 

 獣に身を堕とした時を”死”と形容するならば、生前は群を抜いて自己顕示欲が強かった。

 当時の私は漢の役人であり、生来の才能もあってかエリートコースを悠々と歩んでいた。道行くものすべてを見下し、自身が天より選ばれた人物だと信じてやまなかった。

 だが・・・それが廻りまわって、魔が差した。

 もっと名声を・・・そう願い、私は最高の職とされていた”詩”の世界まで手を出したのだ。

 今となっては素数を数えるより容易く気づくが・・・人は誰しも万能ではない。

 滑稽、実に滑稽。私は、自身が天才だと疑いすらしなかったのだから。

 

 無論、それからは生き地獄もいいところだった。

 最高傑作だと自負して出版した詩集はさっぱり売れず、どこからも声はかけられない。

 妻子に急かされいやいや役人に復帰したのだが・・・最早、地位も名誉も、信用すらもなかった。当然だろう、そもそも私は他人には傲慢かつ横柄でいたのだから。

 

 結局、妻子を置き去りにし、私は山にこもった。詩を、ひたすら書くために。

 なぜ気づかぬ、この私の”才能”を。

 誰もいらぬ、何にも頼らぬ。自分、自分こそが至高、神に選ばれた”天才”・・・。

 

 心の奥底で、吠えた。

 竹林の隙間から覗く望月に、半月に、三日月に、果ては新月の日にも。

 気づけ、振り向け。称賛しろ。称えよ。畏怖しよ。

 

 ”私は、ここにいる”。

 

 

 悲しきかな、誰にも届くことのないその嘆き。

 人間としての”霊格”・・・欲を曝け出した”ケモノ”に、それは宿らない。

 いつしか・・・心も。体も。

 

 虎となる。

 

 

 そして”ヒト”に戻ったところで・・・何も、本質は変わらない。

 自分に救いの好機が来たことなど、まったく自覚しないままに。

 俺は、この箱庭で。

 

 遂に、”外道”と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は、数分前より大分拮抗し始めていた。

 ガルドも強化されたとはいえ、そう特殊な異能を手にしたわけではない。彼自身もそれを理解しているからこそ、人間の反応を超える、ただそれだけに重点を置いていた。

 だが・・・”人間”相手でなければ、その戦法も大幅に効力を失う。

 

「チっ・・・なんだ、そのデカブツ(・・・・)は!?」

 

 天井にぎりぎり届くか届かないかという桁違いな背丈。人間を象るソレは、ちょうど桜市子の容姿と寸分違わぬものだった。

 

「どう?流石にこの大きさじゃアンタもキツイでしょ?」

 

 当の本人は蘇民将来を振り回すだけ・・・だが、その動きの通り、精密に巨人は駆動する。

 そう・・・これは、桜市子の”幸福エナジー”そのもの。

 以前も干支の動物たちに具現化していたが、その数、十二。

 ならば、一つ(・・)に集約したらどうなるか?

 

「ぶっつぶせぇぇぇぇぇぇええ!!」

 

 強大なエネルギーの塊、鈍重さなどまったく感じさせず、巨人はその拳を振り上げる。

 神にも等しきエナジー量・・・威力は折り紙付き。

 

「・・・フン。慢心するなよ・・・?」

 

 しかしガルドは、恐れの表情を引っ込める。

 腰を低く落とし、フウ、と呼吸を整えた。

 

「ウオォォォォォォォオオ!!」

 

 怒号とともに、その小さな拳は・・・巨人の鉄槌を真っ向から受け止めた。

 

「う、嘘っ!?」

 

 思わず声が漏れる市子。当然だ、並の成年男性程度の体躯なのであるのに、ものともせず押しとどめたのだから。

 だが、それも一瞬の事。

 ググ、とガルドの体は後退し、そのまま数メートル押し飛ばされた。壁に叩き付けられる。

 巨人は、元の姿勢に直る。

 

「よ、よしっ!マズって思ったけど、何とか勝ったわね」

 

 勝負は決した、そう思い込み、巨人を見上げる。つくづく自分にそっくりだなあ、とのんびりした感想を抱き。

 その目が見開かれた。

 

 ピキッ・・・パキ・・・

 

 ガラス細工のヒビを思わせるような音が鼓膜を震わす。何が起こっているのか理解できないままに。

 パリィィンと、その巨躯は砕け散った。

 

「え・・・?何、コレ・・・?」

「だからいっただろう・・・慢心するな、と」

 

 口から血を吐きながらも、悠々と戻ってくるガルド。ダメージは受けたのだろうが、そこまで酷いものとは思えない。いや容体はともかく・・・彼の余裕の表情は、見るこちらを不安にさせる。事実、幸福エナジーの顕現は当分不可能だ。止む無く、ギフトカードに蘇民将来をしまう。

 

「簡単だ。俺はただ、殴りつけた瞬間に自身の霊格を流し込んだだけの事・・・やはりその辺の知識は疎いと見えたからな、楽に乗っ取れた」

「・・・何それ、霊格ってそんな風に操れるの・・・?」

「いや、コレは特別だ。なにしろあの女から・・・っと、これは口外できないな。とにかく、俺は今までそうやって戦ってきたわけだ」

 

 イメージするならば、毒やウイルスでも思い浮かべればいいのだろうか。

 境界の力も恐ろしいものだ、とつぶやく。そのおかげで自分の望む戦い方(・・・)が出来たのだから。

 そこまで考えが及んだのだろう・・・市子がハッとした表情を浮かべ、ガルドに向き直る。

 

「・・・もしかして、霊格を流し込むってアンタ、自滅・・する気?」

「まさか。命を代償にして戦いたい、それだけだ」

「同じじゃないの、ソレ・・・!」

 

 蘇民将来を握る手に力が入る。命を懸けていることはどうでもいい・・・だが、それをして何の得がある?憂さでも晴れるのか?

 まさか、既に・・・?

 

「なによ、今更聖人面すんの?私はただ反省してほしいだけなの、そんな自己満足で終わってほしくない!!」

「・・・贖罪、と言ったら笑うか」

「当り前よ、何?自分も同じように死ねば済むって?それでゴメンナサイって?ただ逃げただけじゃないそれっっ!!」

 

 青筋をたてて、叫んだ。

 だが、心の裏では、戸惑いもある。

 ああ、いっそもっと悪人面してくれていたらよかったのに。罪などドブに捨てたと言わん顔でニタニタと笑い、それならどんなに迷いなく行動を起こせたことか。

 扉を開けた時から感じていた違和感が、表面に浮き出てくる。

 

「・・・思い出したんだよ、昔のことを」

 

 不意にポツリ、と漏らしたその一言に市子は口を止めた。

 

「笑ってもいい、俺は生まれた時からこうでなあ・・・そうそう、前は人間だったんだよ。どうしようもなく名声に強欲。救いようがねえよ。挙句の果てに・・・家族を放ってよ」

 

 ガルドの口調は変わりはしない。だが・・・初めて、ここに来て初めて、彼は表情を浮かべた。

 自嘲するよな、寂しい笑み。

 それを目にしたとき、訳も分からず怒りは熱を失っていった。

 

「そして俺は、獣となった。その辺の記憶は無いが・・・そうだな、一瞬だけ、虎退治に来た旧友と話したのを覚えている。家族と自分の詩の遺稿を頼んだっけなぁ・・・いつしか悪魔の霊格をえて、人間の霊格も復活して、俺は”ガルド=ガスパー”となった」

 

 ピクリ、と市子の眉が動く。家族を旧友に頼む・・・また、それも市子の気に障った。だが、気にしても仕方がない・・・不安定な自分の心を、抑える。

 

「そのあとはあの戯けたガキに指摘された通りだ。目的のため、欲望のため・・・自分自身を強く見せる為だけに、どんな手段も厭わなかった。ハッ・・・何が人間だ。過去の自分に戻ってみたらよ・・・情けなくて仕方がねえ」

 

 そこまで言ってガルドは手の甲で両目をぬぐった。

 沈んだ雰囲気が、何か覚悟を決めた、荒々しいものへと変わる。

 

「俺はっ!もはやこの穢れに穢れ切った、この罪の償いなんかできねぇ!!だが・・・この”ガルド=ガスパー”の人生を、最後に華々しく輝かせることなら出来るっ!!」

「・・・ガルド」

 

 市子が初めて(・・・)彼の名を呼んだ。

 予想もしない言葉に、そして彼の答えを理解した。

 

「なるほど、ね」

 

 どこまでいっても、やはり小物のような考えだ。自身の背に重荷を背負うことも出来ぬ、情けない答え。結局、自分のことしか考えないような決意に、反吐さえ出そうになる。

 

「もう好機なぞ逃してしまっているが、せめてあいつらに」

「・・・アハハ」

「顔向・・・な、なんだ?」

 

 口に手を当て、市子は突然笑い出した。目じりには涙さえ浮かべている。

 

「ハハハ・・・アハハハハハハハッ!!ハハ、ハ・・・ふぅ」

 

 馬鹿みたいな答えだが、それを聞き、ようやく彼の覚悟が理解できる。独り善がりのような、今までの言動も。

 

「やっぱアンタ、サイテーね」

「・・・その割に、笑ってるじゃねぇか」

「そう?もうなんか、馬鹿らしくなってきたからかしらねぇ?」

 

 確かに、自分が思い描いていた結末とは違う。むしろ、とても苦々しいものだ。

 そして、こちらの結末のほうがいい、と思ってしまうのは、きっと。

 

「そんであんた・・・サイコーだわ」

 

 あまりにも真っ直ぐな、彼の思いのせいだろう。

 

 

 

 両者とも打ち合わせなどせず、同時に地をける。

 振りかぶった右腕が交差し、お互いの頬を打ち抜いた。獣と人・・・パワー差もこのときだけはなぜか感じさせない。

 凄まじい痛みだろうに・・・ニィ、と笑う。

 理屈もごっそり抜けおち、たった今。

 二人が理解しあった、瞬間だった。

 

「ああ、素晴らしいな。素直に自分を・・・曝け出せるというのは」

「そうでしょ?だから安心して・・・会ってきなさい」

 

 その一言ともに・・・また市子は構える。その拳に・・・小さな炎()が灯った。

 無防備なガルドの腹を、渾身の力とともに殴る。

 人間の力を超えた重さ。だが、ガルドは倒れない。血を吐きもしない。

 

「・・・ハァ。これで、ようやくこの世から、お役御免だ」

「ちょっと、その体・・・!」

「ああ。もう、限界(・・)だ」

 

 市子の今の一撃が引き金となったのだろう、そもそも多量に霊格という命を削ってきたのだ。

 ガルドの体は―――小さな粒子へと、分解されていった。

 

「最後にお前と茶でも酌み交わしたかったがな・・・」

「ちょっと、まだ紳士面しちゃうの?ま、前より似合うけどね」

「そりゃあ有難いな」

 

 かなりのスピードらしく、もう両足は消えている。

 もうすぐ死が訪れるというのに・・・その顔は、夢見る少年のように輝いていた。

 

「ありがとう・・・これで俺も、ようやく本望を達成できた」

「お礼なんて言いわよ。お望み通りちゃあんと名前を残してあげるから。”稀代の外道ガルド=ガスパー、ここに眠る”って」

「・・・もう少し何かないのか?」

「却下♪」

 

 見下すような態度をとっていた市子が、不意に表情を消す。

 訝しむように見たガルドだったが・・・目を見開かせた。

 

 

「バイバイ、ガルド=ガスパー。最後にアンタのことを許せて・・・良かったわ」

 

 

 まるで聖母のような、その暖かい笑み。

 言葉を失うガルド。いよいよ首まで消滅しかけた時・・・フッと口元を緩ませる。

 

「ああ・・・じゃあな。桜市子」

 

 

 そして・・・塵も残さず、消え去った。

 

 

 もう誰もいないというのに虚空を見続けていた市子だったが、くるりと扉に向かって振り返る。

 

「・・・終わった、のか・・・ってあれ?なんで私の名前を知っていたのかしら?」

 

 考えてみれば、不可解な点はかなりあった。

 霊格云々の下りの時、なぜ彼はあそこまで自由に操れたのか。

 境界の力とはなんだ。”あの女”とは誰だ。

 記憶を復活させたのも、そいつなのか。

 自分自身にも・・・あの時出てきた炎()はなんだ?

 

「ま、いっか。まずは帰って、みんなに戦勝報こ、くを・・・?」

 

 ぐらり、と景色が揺れた。

 

(あ、あれ・・・?)

 

 そのまま右、左とゆれ・・・遂には天井へと変わった。

 

(・・・そっか。私も、限界だったか)

 

 やけに冷静に頭は回る。体と脳とのシナプスが切れたかのようだった。

 今更ながら傷跡から血が漏れ出る。指先も、口すら動かない。

 ハッ、と、他人事のように笑う。

 

(みんな・・・勝ったよ・・・あと銀時、あとで思いっきり自慢してやるんだか、ら・・・)

 

 プツンと、意識は途切れた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 ふよふよと浮かぶ、自身の体。いまや魂のようなものだが・・・。

 存外、死後の世界は寂寥としていることに驚く。

 まあ、行先は地獄なのだろう。そこに不満はない。

 もしあのまま吸血鬼に鬼化されたままだったとしたら・・・今でも怨嗟をグチグチぶちまけ、”外道”として魂は完全に堕ちていただろう。

 話によれば、あの八雲紫とかいう妖怪は、霊格と肉体の境界を弄り、任意の操作を可能にしたのだとか。短時間で慣れたこともあり、記憶も戻せるとはどこまであの女は規格外なのだろうか。

 どうせ、利用されただけだが、結果は十分。

 

(・・・あなた)

 

 不意に聞こえた、女の声。

 

(パパ。久しぶり)

 

 子供の声・・・かつての自分とともにいた家族の声。

 

(・・・悪かったな。こんなに待たせて・・・)

(いえ。こうして会えただけで、十分幸せでございます・・・!)

(なんか、かっこよくなった?)

(はは・・・さて、どうだかな)

 

 三つの魂、優しく寄り添う。

 彼らの周りには、何十という子供の霊が・・・笑顔とともに、取り囲んでいた。

 

(おまえらも・・・悪かったな)

 

 返答は無い。だが、その顔から、気持ちはひしと伝わってきた。

 魂であるのに、老人のような笑みを浮かべる。

 彼岸と此岸の境界へ向かい、進む。

 

 

 

 最後の最後の最後で、俺は救われた。

 情けないままだったが・・・きっと俺なりの、最善のケジメのつけ方だった。迷いなく、そう答えられる。

 桜市子・・・。

 あと他の小娘どもも。

 願わくば、彼らの未来に、幸あらんことを・・・!

 

 

 




今回は賛否両論あるかと思います。批判は受け付けます。

特に市子のセリフですが、不快に思われたらすみません。彼女なりの正義感とガルドの印象とが乖離していて苛立ちを覚えていたのですが、最終的に彼の覚悟を理解したと。

総論。ジャンヌの文章力は拙い。うう、自分が情けないです・・・。

あとタグ編集したので確認お願いします。

次回はガルド編のエピローグ&ペルセウス編始動です。
たぶん、ぶっ壊れ度が加速していくと思います。
お楽しみに!
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