巫女と天パと超絶ラッキーガールが異世界から来るそうですよ?   作:ジャンヌ

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第五訓 誤解は最大の敵

 蛇神。一介の爬虫類である蛇が神格を得て、この世に顕現した姿。

その多くは水神としての性質をもっており、土地神に近い守護者として、湖や滝に住み着いているのが大半。また相当な知恵をもつとも、人間に幸運の加護を与えるとも、様々な逸話が伝えられている。

 

ここ、"トリトニスの滝"を住まいとしている『白雪姫』も、その一柱。箱庭郊外に存在する幻獣としてはトップクラスの実力を有している。まあ、こんな辺鄙な場所故に、そうそう信仰する者も、蛮勇にも挑んでくる者もおらず、少し物足りなさを覚える今日この頃。

 

だが、これはどうかと思う。

 

 

 

空から落ちて、地面に突き刺さる人間というのは。

 

 

「…」

 

一体どういう経緯で空を飛んでいたのか、何の神格も感じられぬ人間にしか見えないため、自力で飛んでいた線はない。恐らく、第三者の手で吹っ飛ばされたのだろう。

 

もしや天人か、とも思う。"天女の羽衣"の男番、みたいな。

しかし、この世界に天界があるとは聞いたこともない。他の世界にはあるかもしれないが。神話として存在しているし。

 

 

何より、天人は、頭から突っ込んで、股をコの字に開く。そんな醜態は晒さないだろう。

 

 

てゆーか、これ、死んでない?

 

 

(何とも厄介な…これでは我が殺したみたいではないか)

 

誇り高き神の一柱として、そんな不名誉な濡れ衣は、丁重にお断りしたい。とにかく、慎重に処理せねば。

面倒だ、と思いつつも。自身の滝の高さに届こうかという巨体を、徐々に変化させる。

 

あとには、水面に優雅にたつ、和服の女性が立っていた。

 

「人化の術を使うのは実に久しぶりじゃの…」

 

彼女のみならず、大抵の力ある幻獣は人化の術を使える。もっとも、様々な事情から、普段から使う者はあまりいないが。蛇の姿では、作業に手間がかかると判断したのだろう。

ため息を吐きつつ、神にふさわしい、ゆったりと威厳を感じる所作で、件の人間に近寄る。

 

(しかし、神の私が、こんなボランティアの真似事とはな…)

 

相当に面倒に感じているらしい。

 

(もういいや、適当にどっかに墓でも作ってやるか)

 

そのせいか、随分と思考が乱雑になっていた。

そもそも単に目障りに感じたから動いただけのこと、死体をどう扱おうと、弔う意思があるだけ儲けものかもしれない。

何度目になるかとも分からぬため息をはき、彼の足に手をかける。

 

 

不意に、モゾッと、ソイツが動いた。

 

 

「っ!!?」

 

完全に予想外だったことと、振動がモロに手を伝わって全身に回ったせいで、反射的に湖の中央まで後ずさる。

恐る恐る焦点を戻す。その人間は、手をフラフラとさ迷わせた後、地面に強く手を突いた。

ググ、と動き、足の位置が段々高度を増してゆく。

 

不可解に思いながらも、未だに人化の術を解いていないことを思い出した白雪姫。あわてて元の大蛇にもどり、ため息をついた。

 

 

 

今日は厄日だな、と。

 

 

 

***

 

 

箱庭の内部は、何故か外と大差無かった。

「ねえ、ジン君。ここって天幕みたいのなかったっけ?」

「箱庭の天幕は内側からは不可視になるんですよ。主に太陽の光の恩恵を受けられない種族のためですね」

市子の疑問に答えるジン。やや緊張も解けてきたらしく、滑らかな口調で説明した。

「へぇ、まるで吸血鬼でもいるかのような口ぶりね」

「え、居ますけど」

「「「…」」」

人間にとっては大問題な回答に、三者とも無言になる。

 

(うわ、何よそれ…私なんか真っ先に狙われるわね)

(どうせ市子は『きゃ、市子美人だから危ないわ〜(笑)』とか思ってんでしょうけど…)

(レミリアが聞いたら喜びそうね…あ、フランも。逆に吸血鬼の誇りが何たらとかって言うかしら)

 

市子は傲慢に、紅葉は先読みし、霊夢は紅魔館の面々を思い浮かべた。

そして、そのどれもジンは予想できなかった。

 

「で、ではお食事でも…」

「あら、気にしなくてもいいわよ」

「そうですよ、ほらあそこのテラスとかでいいんじゃないんですか」

そういって"六本傷"があしらわれたカフェテラスへ歩を進める一同。

そういや看破されているんだった、と改めて思い出し、自分の不甲斐なさに、唇を噛み締めた。

 

 

 

店内はそこそこ客入りもよく、歓談するにはうってつけの環境だった。

全員が席に着いたのを見計らったのか、猫耳の店員がメモ片手にやって来た。

「ご注文は何にいたしますか?」

「えっと、じゃあ私は紅茶で」

「緑茶をお願い」

「私には日本酒を」

「僕は紅茶で」

『俺にはコーヒーを』

「はーい、紅茶二つに緑茶一つにコーヒーに日本酒…って。申し訳ございません、うちに日本酒は置いてないんですよ〜」

「…なん、だと…!」

 

はい〜、と猫耳をしおらせながら謝る店員。紅葉は明らかに気落ちしていた。

「あんた、昼間っからアルコールってなに考えてんのよ…」

『俺もそう思う』

「それより、紅葉さんの年齢で飲酒はどうかと思いますが…」

「曲がりなりにも神なんだから、年齢は相当なもんでしょう。年齢詐欺なんてざらよ」

「か、神様っ!?と、とんだご無礼を…」

「あ−、しがない貧乏神ですから畏まんなくとも…仕方ありません、ほうじ茶で」

「は〜い!」

 

猫耳をピョコンと動かし、奥に引っ込む店員。隠しているつもりだろうが、背中に「面倒だった…」と疲れた雰囲気を出していた。

テーブルでまだ文句を言っている紅葉をみながら、霊夢は熊谷を指差す。

「さっきから思ってたんだけど…、あんた、何?」

「何とは失礼な。熊谷は熊谷ですよ」

「いやそうじゃなくて…」

 

こめかみを押さえる霊夢。どうにも、元いた世界の住人に似ているせいか、紅葉たちに関して妙な気分を抱いていた。

特に、あの熊の人形。付喪神にしては、なりが奇妙だ。腹には無数のアイテムかあるとかいっていたし。実のところ、正体が察せないでいたのである。

「あ−、なるほどね。熊谷が何なのか、生き物なのか、とかそういうことでしょ、霊夢ちゃん?」

 

見かねた市子が助け船をだす。それを聞いて考え込んでいた紅葉。

熊谷の腹に、手を突っ込む。

もし店員が品を運んでいたら、有り難くないトッピングがダイビングしていただろう。

困惑する一同をよそに、アイテムらしき小槌を取り出した。

「熊谷、いきますよ」

こくり、と首肯する、熊谷。

 

スパコン、と熊谷の後頭部をぶん殴った。

 

「え、ちょ…」

熊谷から飛び出すなにか。吹き出す白煙。

咳き込みながらも、何とか、霊夢は眼をあける。悪態の一つでもついてやろうかと思った。

 

 

目の前にたたずむ、ナニを見るまでは。

 

 

「………え?」

 

 

数多の異変を解決してきた霊夢でも、いまここでおきた、起きている、目の前のよくわからんものを前に思考するのは不可能だった。

「え、その………え?」

かろうじて、でた言葉。回りを見回しても、市子は赤面して手を覆っているし、ジンはポカンと口を開けたまま微動だにしない。

全員が、言葉を失っている。

 

 

「ふむ、ヒトガタに入るのもいつぶりか…」

「で、霊夢さん。何かわかりました?」

「……」

 

 

その後、数多くの色とりどりの光弾がカフェテラスを、広場をえぐったという。ついでにピチピチのタキシードを着こんで様子をうかがっていた男も被弾したらしいが、些末なことだ。

 

 

***

 

 

ズボッ、と地面から頭を引っこ抜く銀時。穴をもう一度みれば、その深さからどれだけの威力だったか自ずと分かった。

 

「オイオイ……ただのガキかと思えば、とんでもねぇ鬼巫女じゃねぇか…」

 

くわえて、あの顔。銀時を殴る直前の、あの表情。すっかり脳裏に焼き付いたソレを思い出すと、なぜだか既視感が背中を伝う。

よく生きていたな、とつくづく自身の悪運の強さを思い知る。多分、新八ならグニャ、と曲がってその生を終えていただろう。

ちなみに新八とは万事屋の一員で、ツッコミ担当として確固たる地位を気づいたメガネ。第一訓参照。

 

「つぅか…ここ、どこだ?」

土地勘もなにも無い銀時、当たり前だが。仕方ない、と呟いて、目の前の森へと歩をすすめる。

その時、背後から、地の底から震えるような大声が鼓膜を揺さぶった。

 

『そこの人間…まさか、この我を無視するつもりではあるまいな?』

 

ん?と振り返り、大蛇を視界にとらえた銀時。

まず、でかい。一度ペットの定春が、なんやかんやで巨大化したが、それに匹敵するだろうか。

そして、体に巻き付くしめ縄。いやがおうにも、本能で目の前のものが神聖な生き物であることを認識した。

だが、臆する必要はない。

 

 

「なんだよ、ギャーギャー吠えて。何様ですかコノヤロー」

 

 

だって、この男は。

はなから神など、信じていないのだから。

 

 

『な……我を愚弄するか、人間!!』

「オイオイ、俺には坂田銀時っつぅ名前があるんですけどぉ〜。それともなに、挨拶も無しに怒鳴るとかマナーがねーんじゃねーの、うなぎヤロウ?」

『貴様…言わせておけば……!』

 

 

相も変わらず、バカにしたようにニヤツク銀時に対し、わなわなと体を震わす。

元来、白雪は人間など歯牙にもかけていない。威勢よく挑み、あっさり負ける様を見てくれば、なおさらだ。

だが、ここまで息をするように神をコケにしたこと。それだけで、彼女の冷静な思考は失われた。

 

 

ドン、と数多の水柱が上がる。

 

 

『小僧…それは、我に最も過酷な試練を挑むということだな…?』

 

ギロリ、と睨み…ふと、気付く。

 

 

坂田とか名乗ったソイツの足は、小鹿より震えていた。

 

 

(え…なにあれ。今のなに?パフォーマンス?だよねーまさか人外魔境とはいえ、こんなとこにカミサマなんて…)

 

「あのぉ〜、お名前は…」

 

冷や汗をトリトニスの滝のように額から流す銀時。

幾分か落ち着いた白雪は、先ほどの威勢はどこへやら、と呆れながら答える。

 

 

「……白雪姫。ここら一帯を支配する、蛇神にして水神だ《・・》」

 

 

ガサッ!!と茂みに頭から飛び込む銀時。その様は、つい先刻までのソレと瓜二つだった。

 

『な…プクッ、何をしてお…ククッ』

 

「……ちょっと魔女の鏡を探しに」

 

必死に笑いをこらえる白雪。手足のない蛇では大変なのか、大分漏れている。

怒りが、嘘のように消えていくのを感じていた。

 

(不思議なやつだ…)

 

人を食ったような態度をとったり、見た目のわりに子供みたいな行動をとったり。

自分を神と、認識しないとは。

腹立たしくもあるが、それよりも好奇心がまさった。

 

人化の術を再度かけ、魚のようにバタバタうごかしている、銀時の足を掴む。

ヒョイとあげてみれば、呆気にとられたような表情を浮かべていた。

 

「おわっ…」

「フフン、驚いたか?神とあろうもの、貴様を引き上げることも…ん?」

 

ポタリ、ポタリと水滴の垂れる音がする。服の裾でも濡れていたか?いぶかしみ、足元をみやる。

 

真っ赤な液体。ポタポタと。

 

 

閃光のように、邪推が脳を駆け巡る。

 

 

刹那、彼女は銀時をぶん投げていた。

 

 

「貴様……ミタ、ノカ…」

 

「うぉったあ、せっかく見えそうだった……え?ちょ待って!?あんた誰だか知らねーけど、なにそのシャボン玉!?」

シャボン玉ではなく、水弾である。

数多の高水圧の水弾、渦潮が白雪の回りに顕現する。

 

「死ネ…!!」

 

「ちょ待って、多分それ誤解だから、俺まだ何も…ぬぅおああああ!!!」

 

容赦なく襲いかかる、死の濁流。必死に避けながら、銀時は感じていた。

 

 

これが、神かと。

 

 

確実に触れれば即座に地獄から使者が来そうな、怒濤な攻撃。黒ウサギの説明からはピンとこなかった、箱庭のレベル。

 

「……はっ、上等じゃねぇか」

 

思わず、口角がつり上がる。

理解していないわけではない。あの神との、実力差くらい。

だが。

 

 

「売られた喧嘩は……買うのがマナーってもんだぜぇ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あてもなく銀時を探し、さ迷っていた黒ウサギであったが、たまたま出会ったユニコーンから衝撃の事実が伝えられた。

曰く、「トリトニスの水神が、人間相手にあらぶっている」と。

オマケに、その人間は白髪でテンパの、木刀を手にしていた男だったという。

「銀時さんっ……!」

全速力でユニコーンが差した方角へ駆け出す黒ウサギ。彼女の脳裏には、銀時が血まみれで倒れ付している姿しか、そればかりが浮かんでくる。

 

(どうか、無事でいてください……)

 

もはや、祈ることしかできない。

 

『黒ウサギ殿、もうすぐですよ!!』

 

光が、視界を埋め尽くす。目をこすった黒ウサギが見たのは…

 

 

奇しくも、渦潮が銀時を飲み込む、まさにその瞬間だった。

 

 

 

「……そんな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

膝が、手が、地面に吸い寄せられる。

 

 

罪という名の暗闇が、黒ウサギの視界を覆った。




なんとか一週間以内に投稿できたぁ~!

ちなみに市子は指の隙間からそっと覗いていたそうな。


白雪姫の口調がちょいちょいブレる気が・・・精進せねば。
では次回!
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