俺の青春はマスクドライダー。   作:G-3X

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思い付きで書いてしまいました。
軽い気持ちで読んでもらえればと思います。


俺の青春はマスクドライダー。

「……面倒だな」

 

 俺は周囲を取り囲む、緑色をしたデカい緑虫達を前に、溜息を吐いた。

 はっきり言って普段の高校生活からボッチである俺が、こんなにも注目を浴びるなんて事は滅多に無いというか、皆無な訳だが、残念な事に彼等からはお友達になりましょうという友好的な雰囲気は一切感じられない。

 その代わりに、怖くないからこっちにおいでよ的な、誘拐犯が幼児にお菓子をチラつかせるのに近い、雰囲気を感じるのだが、そんな怪しい雰囲気以前に、ビジュアル的に近くに行くのは無理。

 というか、メッサ怖いわ。

 まだ、俺の所属する部活の氷の女王様の方が、見た目が人間な分だけ、まだ話し易いと思うぞ。

 

「帰らせてくれって言っても無駄なんだろうな」

 

 持っていたバックを投げ捨て、制服のブレザーの前ボタンを外しながら、俺は愚痴ってみるが、奴等がそんな優しさを持ち合わせているのならば、最初からこんなに俺が困ることも無かっただろう。

 

「早く帰らないと、家の可愛い妹が心配するんでな」

 

 周囲の緑虫達が臨戦態勢を取り続ける中で、俺は慣れた手付きで、ブレザーの下に予め仕込んでいた武骨なベルトのバックル部分に手を掛けると、その前半分が、半分程だけ開閉される。

 それを合図にするかの様に、何処からとも無く、緑と茶色でカラーリングが半々に分かれた、掌サイズのメカメカしいバッタが飛び跳ねながらやってきて、俺の手の中へと飛び込んで来た。

 俺はそのバッタの緑色の部分を表面にして、先程バックルを半分開けたところに差し込む。

 

「変身……」

 

今では慣れてきた、このお約束の言葉も、過去の消し去りたい黒歴史を今でも思い出すので、少しだけ恥ずかしい。

 

『ヘンシン・チェンジ・キックホッパー』

 

 そんな俺の羞恥プレイはさて置き、バッタを填め込むと、これまた聞き慣れた電子音が響き、俺の身体を、プロテクターが覆うかの様に変化していく。

 主に上半身をカバーする、メタリックなグリーンカラーの装甲と、バッタの顔をモチーフにしたと分かる、二つの赤い複眼が特徴的なこの姿を、人はマスクドライダーと呼ぶ。

 マスクドライダーと一口に言っても、俺だけという訳では無く、複数の人が居るらしい。

 俺は直接出会った事は無いが、兎に角他にも居るという事だけは、聞いている。

 ちなみに固有の名称もあるらしく、俺が変身するこの姿は、キックホッパーという呼称だそうだ。

 

 律儀にも俺の変身を待ってから、襲い掛かって来る緑虫達。

 そんな武士道精神を持ち合わせているのなら、最初から俺を見逃してくれないだろうか。

 同じ緑仲間なだけに。

 

「まあ、言って分かれば苦労しないかっと!」

 

 襲い掛かる緑虫達に辟易としながらも、俺は最初に近くまで来た緑虫の攻撃を難なく避けて、蹴り飛ばす。

 それに怯む事無く、奴等は果敢に俺を攻め立てる。

 ちなみにこの緑虫達。

 俺の知る知識では、ワームと呼ばれているエイリアンだ。

 何を考えているのかは知らないが、こいつ等は人間を襲う。

 ここまで言えば、察しの良い人は気付くかもしれないが、そんなエイリアンに対抗する事が出来るのが、マスクドライダーである。

 何でこんなボッチな高校生が、そんな正義のヒーローみたいな似合わない事をやっているのかだって?

 その意見には俺も同意だが、説明は少し後にして欲しい。

 今は戦闘中なので。

 

「ライダージャンプ」

 

 俺はワーム達に十分なダメージを与えてから、バックルに差し込んだバッタのレバーを反転させる。

 

『ライダージャンプ』

 

 瞬間的に跳躍能力が、強化され俺はワーム達の頭上へと飛び上るが、本番はここからだ。

 

「ライダーキック」

 

『ライダーキック』

 

 更にバックルのバッタさんを反転させると、今度はキック力が瞬間的に強化される。

 所謂、ヒーローお馴染の必殺技という奴だ。

 

「はっ!」

 

 短い掛け声と共に、適当なワームの顔面にキックを叩き込む。

 だがキックホッパーの蹴りはこれで終わりじゃない。

 キックホッパーの足には、ジャッキが付いているのだ。

 そして俺が放ったキックが、ワームに直撃すると同時に、そのジャッキが連動して動き、そのジャッキのパワーで俺は再び飛び別のワームへと次々に蹴りを叩き込んで、爆発四散させた。

 

「ふぅ……これで今日のノルマは終わりと」

 

 周りのワームを全て倒した事を確認した俺は、バックルの中のバッタさんを取って変身を解いて、愛しい妹が待つ、家路を急ぐ。

 

 こんなボッチで物騒な毎日を送るのが、俺こと比企谷八幡の日常である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は走る。

 それは何故か?

 理由は決まっている。

 己から逃れる為。

 しかしそれは抽象的な意味では無い。

 確かに少女は見たのだ。

 異形の怪物を……。

 その怪物が、自分となってしまった事を……。

 少女は力の限り、逃げ続けた。

 いつまでも、いつまでも。

 このままでは、永遠に差は縮まらないのでは?

 そう感じられた逃走劇であったが、予想外な一言によって、その均衡は脆くも崩れ去っていく。

 

「ねぇ、貴女は変わりたいと思わない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……不幸だ」

 

 どこぞの有名な、ライトノベルの主人公の様な台詞を言ってしまった俺だが、残念な事に俺には幻想を壊す右手も無ければ、ハーレムを形成出来る甲斐性も無い。

 それどころか、友達も居ないと言って良いだろう。

 いや、別に欲しいとも思わないが、いや寧ろここまで来ると、友達が出来た方が負けだと思っているからね俺は!

 あ、でも養ってくれるお嫁さんは欲しいです。

 俺ってば、良い主夫になりますから、お買い得ですよ奥さん。

 

「比企谷。別に私は、お前を取って食おうという訳では無いんだぞ。寧ろ今という青春を無下に浪費しようとしている君に、部活という素晴らしい舞台を提供しようというのだ」

「部活で青春って……」

 

 俺は文句を言おうと口を開くが、これ以上何か言えば、痛い思いをすると分かり切っていたので、余計な事を言うのは、止めておく事にした。

 そもそも、何で俺がこんな某ライトノベルのハーレム主人公の口癖を言ってしまったのか。

 全ての原因は、今も有無を言わさずに、俺を連行しながら学校の廊下を歩くこの女教師が原因だ。

 キリリと凛々しい黒髪の美人な先生ではあるが、結婚のチャンスには恵まれず……。

 

「ぶっ!?」

 

 何の脈絡も無く、頭を叩かれた!?

 しかもグーで!

 

「何か失礼な事を考えていただろう?」

「……いえ、そんな事は無いですよ。先生は何時も美人だなと思っただけです」

「そ、そうか。なら、良いんだ……そうか、美人か……ふふ」

 

 どんだけ、結婚という単語に敏感なんだよこの人は!?

 というか、俺みたいな干支が、一周近く違う年下のお世辞で本気で照れるとか……誰か早く貰ってあげてよ!

 再び俺の心の叫びが届いたのか、平塚先生から俺は第二の衝撃を頭にプレゼントされた。

 

 そもそも、どうして俺が平塚先生に言われるがままに、強制的に部活動なんて、面倒極まり無いリア充の巣窟へと足を運ばねばならないのか。

 納得は出来ないが、どうも俺がこの前、書いた素晴らしい作文に問題があったらしい。

 俺としては、ぼっちである事への素晴らしさと、リア充達へと警告をする素晴らしい文章が完成したと自負しているのだが、どうやら俺の感性は悟りを開きまくっている為に、まだ現代日本の考え方では理解出来ない様だ。

 悲しい事だが、世間一般的に、ぼっちは悪である、というのが大多数の意見なのだろう。

 平塚先生はそんな少数派意見の俺を矯正するべく、こんなぼっちというオオカミを、羊の集団といリア充の中に放り込む気らしい。

 絶対に止めた方が良いと、俺は思う。

 だってそんな事をしたら、オオカミ何て、一瞬でお腹の中に石を詰め込まれて、池の奥に沈められちゃうぞ。

 先生はリア充の、容赦の無さを知らないのか!?

 それに今の俺には、残念ながら、部活に興じている時間も無い。

 将来は立派な主夫を目指す俺ではあるのだが、今はとあるアルバイトをしているので、これ以上の時間の捻出は避けたいのである。

 しかもこのバイトは、かなり特殊なので、先生にも基本的に知られたく無い。

 そんな訳でどうやって断ろうかと考えていたのだが、不幸な事に俺と先生は、目的である部室の前へと着いてしまった。

 というか、今更なのだけど、この部活って何部なのさ?

 言われるままに暴力に耐えながら、こうして来た訳だけども、情報が少な過ぎて、現時点では全く想像が付かんわ。

 唯一この時点で分かっている事は、特別棟にこの部室がある事から、スポーツ系では無いという事だろうか。

 もしもこれが団体系の野球やサッカー部だとしたら、俺は入部してから、一時間で退部する自信があるぞ!

 自分で言うのも何だが、俺の目は死んだ魚の様な目をしていると、家族からも評判だ。

 そんな奴が、やっと纏まり始めた野球やサッカー何て、集団行動が何より大事な団体様の中に入って見ろ。

 絶対に団結の輪が乱れるぞ。

 家の学校が、どれだけ部活に力を出しているのか定かじゃないが、もしも甲子園や国立を目指しているとしたら、こんなスーパーの鮮魚コーナーを彷彿させる奴は居ない方が絶対に良いだろう。

 

「それじゃあ、入るぞ」

 

 俺がそんな事を、脳内でシュミレートしている間に、平塚先生は何の躊躇いも無く、教室のドアを開ける。

 もしかしたら、特別な設備とかがあって、すぐに部活の正体が分かるかもと淡い期待をしたが、残念な事に、普通の机と椅子があるだけで、特に変わった物は見当たらない。

 倉庫として使われているのか、積み上げられているが、他に普通の教室と、対して違いは無いと言える。

 いや、普通の教室には無いものが、一つだけ……正確に表すのならば、一人だけ居た。

 一人でひっそりと本を読む少女。

 まるでこの世界から、其処だけが切り離されてしまったかの様に感じて。不覚ながら俺はただその女の子に見惚れてしまっていた。

 だが、それ以上に、俺は頭の中で面倒くさい事になったと、偶然の間の悪さを呪う。

 俺は彼女の名前を知っている。

 二年J組、雪ノ下 雪乃。

 所謂、この学校の中でも偏差値が高い、エリート組に属する上に、黒髪の美少女と言えば、学内では知らない者の方が少ない事だろう。

 だが、俺が面倒だと感じているのは、そんなところじゃない。

 問題は俺のアルバイト先から、言われている仕事の内容だ。

 其処には、静かに文庫本を読んでいる、雪ノ下が大きく関わっている。

 

「平塚先生。入る時にはノックを……」

 

 俺と平塚先生が教室に入って来た事に気付いた雪ノ下が、文庫本から目線を外して、文句を言う。

 どうやら平塚先生は、毎度この教室に入る時は、ノックもせずに開けるらしい。

 何の前触れも無く、いきなりドアが開くのって、結構びっくりするんだよな。

 

「それで、その死んだ魚の目をした人は?」

 

 俺が共感していると、平塚先生との話しが一段落したのか、俺の存在に雪ノ下が気付いた様だ。

 というか、例え事実だとしても、初対面の相手に正面から死んだ魚の目って、酷くない?

 泣いちゃうぞ俺。

 ぼっちはこういう風に、直接言われるのに、弱いんだからね。

 

「彼は比企谷八幡。入部希望者だ」

 

 平塚先生の紹介を受けて、俺は軽く雪ノ下に会釈する。

 本当ならば、何かしらの理由を付けて、こんな部活は早々にオサラバするつもりだったが、残念な事に事情は変わってしまった。

 俺はアルバイトの為にも、無条件でこの部活に一時的にとは言え、身を置く必要が出来てしまったのである。

 だから俺は、更に続く平塚先生から紹介という名の、俺に対しての謂れの無い罵詈雑言を黙って耐え続けた。

 しかも最後には、雪ノ下まで参加して、俺を殴る蹴るという躾で、矯正するべきなのではないかと提案してきたのである。

 この瞬間、俺の中で雪ノ下のイメージは、読書の似合う美少女から、氷のサディスト女王様へと変換された事は、言うまでもない。

 更には、俺の目を見て、身の危険を感じるとか……何様のつもりだよ!?

 あ、女王様でしたか。

 まあ、その辺りは平塚先生がフォローしてくれたのだけれど、小悪党呼ばわりはどうかと思います。

 これから一緒に部活動しようという話し合いの筈なのに、このままじゃ俺の性格が矯正される前に、心が折れて不登校児になるぞ、おい。

 

「なるほど……そういうことでしたら」

 

 しかも、これで納得しちゃったよ雪ノ下さん。

 凄い嫌そうな顔で、虫けらを見るみたいな目で、俺を見てるけどさ。

 

「そうか。では後は頼むぞ」

 

 この雪ノ下の顔と態度の何処に、安心出来る要素があったのか。

 平塚先生は、満足そうな笑顔で、教室を出て行ってしまった。

 いや、せめてこの空気を、もう少し明るくしてから出て行ってくれよ。

 むしろ、俺も一緒に連れて行って欲しいわ!

 

「……座ったら」

「え、はい」

 

 流石に俺が立ったままでだんまりしているのをみかねたのか、雪ノ下が適当な席に座る様に促す。

 言っておくが、俺にこんな絶対零度の視線を放ち続ける女王様と、対面で座る度胸なんて無い。

 だから俺は、少し離れた席で、腰を降ろしやっと一息吐く。

 俺が座った事で、興味を失ったのか、雪ノ下は再び文庫本を読みだす。

 その様子をなるべく雪ノ下に気付かれない様に、軽く観察した後で、俺はこれからどうするべきか考える事に時間を費やす事にした。

 

 結局、俺の入部した部活は何なんだろうかという疑問は残るが、それは後から平塚先生にでも聞けば良い。

 どちらにせよ、用事が済めば退部するのだから、知るのが早いか遅いかの違いだ。

 それよりも、問題は雪ノ下である。

 現状でも俺は、かなりの警戒心を雪ノ下に持たれていると自覚しているが、今回のアルバイトの内容状、このままでは厄介な展開となるかも知れない。

 

「……ねぇ」

「ん、どうしたよ?」

 

 何か突破口は無いかと考えていた、その矢先、意外な事に雪ノ下の方から俺に話し掛けて来た。

 ここは乗っておくべきだろう。

 そう考えて、俺は雪ノ下の次の言葉を待つ。

 

「比企谷君……あなたは宇宙人が居るって言われたら信じる方かしら?」

「宇宙人ねぇ」

 

 雪ノ下のこの問い掛け。

 一見すれば、誰もが一度はするかも知れない、宇宙人談義の切り出しにも聞こえるが、僅かながらに、今回のアルバイトで事情を知っている俺には、別の意味に聞こえた。

 

「そう。宇宙人よ。比企谷君は、本当に宇宙人は居ると思うの」

「……宇宙人は居ると思うけど、雪ノ下が言う宇宙人はどんなタイプなんだ?」

「私が居ると思う……」

「本当に居るかどうかは兎も角として、宇宙人って色んなタイプが居ると思うんだよな……例えば虫みたいな奴とかさ」

 

 俺の最後の一言に、雪ノ下は肩を震わせた。

 この反応は、確定と言って良いだろう。

 

「もしも……もしも、本当に比企谷君が言うような虫のエイリアンが居たとしたら、どんな存在なのかしらね」

 

 明らかに恐怖の入り混じった表情を見せながらも、気丈に振る舞う雪ノ下。

 聞かなければ、知らなければ、怖がらずに済んだかも知れない。

 だけど、雪ノ下には、真実を知る権利がある。

 そして本人が、それを知りたいと望むのならば、真実の一部だけでも語るべきだろう。

 

「今、この地球には、確認出来る範囲で人間以外にも、一種類だけ、高度な知性を持った生命体が居る。それは遠い宇宙からやって来た……ワームと呼ばれるエイリアンだ」

 

「……ワーム?」

 

「ワームは高い知性を持ちながら、地球の昆虫に近い上に、更に驚愕するべき能力を持ってる……それは擬態だ」

 

「擬態って、昆虫が自然に溶け込む方法の?」

 

「確かに地球の昆虫の擬態はその程度だけど、ワームの行う擬態はその種類も危険度も大きく違う。奴等は人間に擬態して人間社会の中に身を隠す」

 

 雪ノ下が思わず息を飲むが、それでも俺の話を聞き続ける姿勢を崩さずに居るので、俺は更に続きを話す為に口を開く。

 

「ワームは人に姿を変えるだけじゃなく、擬態した人物の記憶まで全てをコピーして、完全にその人物へとなり替わるんだよ……回りの隣人が気付かない間に、ゆっくりと確実に……そして最後は人類という種を自身の中に全て取り込み、この地球の支配者になろうと企んでいる」

 

 俺が其処まで話したところで、教室の扉が唐突に開かれる。

 扉を開けた人物は、この学校の女子生徒。

 二年J組、雪ノ下雪乃、本人と瓜二つの姿だった。

 

「ひっ!?」

 

 もう一人の自分の来訪に、雪ノ下の表情が恐怖に歪む。

 ……そう。

 ワームとは人間に擬態し、擬態した人物の記憶すらも完全にコピーしてしまう。

 そうすれば、された人間はどうなる?

 同じ記憶を持つ人物が二人。

 そんな事はあり得ない。

 だからこそ、人としての記憶すらも補完したワームは、こう考える。

 同じものは二つと要らない、ならば消してしまえば、己が唯一無二の本物となる筈だと。

 

「本当に私は困ったものね。往生際が悪くって」

 

 この場の沈黙を破り、先に言葉を発したのは、突如として部室へと乱入してきた雪ノ下だった。

 

「わ、私がもう一人……」

「そう、私は貴女。貴女は私。だから迎えに来たのよ」

 

 恐怖に震える雪ノ下に、もう一人の雪ノ下が微笑むが、その微笑みは何処か薄ら寒い。

 

「行くな雪ノ下、行けば殺されるぞ」

 

 俺は二人の雪ノ下の間に立ち塞がり、進路を妨害するが、薄ら寒い微笑みを浮かべる雪ノ下の方は、俺を見て脅威と感じなかったのか、更に俺の後ろで怯える雪ノ下へと語り掛ける。

 

「私と一緒になれば、貴女は変われるのよ。新しい自分に……それってとっても素敵な事じゃないかしら」

「新しい自分……」

「そうよ。私に貴女の残りの全てを頂戴。そうすれば私は、新しい貴女になれる。貴女は新しい私に生まれ変われるの」

 

 言葉だけ聞けば、まるでこうすれば幸せになれるのだと、導いている様にも聞こえるその言葉……。

 だけど俺には、ぼっちとしてその言葉は、ただの逃げの様にしか聞こえなかった。

 

「……なあ雪ノ下。何でそんなに変わんなきゃいけないって思うんだよ?」

 

 俺はあえて、両方の雪ノ下へと質問を投げ掛ける。

 

「だ、だって私は……変わらなくちゃ、今よりもっと……」

「そうだよ。私は変わらなくちゃいけない。だってそうしなくちゃ、私が私で無くなってしまうもの」

 

 俺の質問に答えた二人の雪ノ下は、態度こそ違うが、言っている意味は同じに思えた。

 これは雪ノ下に擬態したワームまでもが、雪ノ下の強過ぎるその信念に引かれていると言えるだろう。

 だからこそ気に食わない。

 

「何で変わる必要があるんだよ?」

「え? だって……変わらなくちゃ、前に進めないわ……」

 

 確かに変わる事は、必要かも知れないな。

 だけど……。

 

「変わらなくたって、この場で踏みとどまって、自分のまま頑張れば良いだろうが! 自分じゃなくなったら、それはもう雪ノ下雪乃じゃねぇんだぞ!」

「貴方に何が分かるのよ! 私の気持ちなんて、私以外の誰が分かるって言うのよ!?」

 

 何が雪ノ下を、ここまで変わる事に、固執させるのか、それは俺には到底分からない事だった。

 もしかしたら、その気持ちを本当に汲んでくれるのは、彼女に擬態したワームだけなのかも知れない。

 

「そんな寂しい事を言うなよ。まだ出会ったばかりだけどさ。俺達は部活仲間だろうが」

「……比企谷君?」

 

 俺が友達になってやるなんて、ぼっちの俺には言えた義理じゃない。

 だけど、頼りなくたって、雪ノ下がその場で踏ん張ろうとするなら、傍で見守ってやる位の事なら、俺みたいな死んだ魚の目をした奴だって出来る事なんだ。

 

「比企谷君だっけ……君すごく邪魔よ」

 

 僅かに怯える雪ノ下に変化が生まれたと感じたのか、もう一人の雪ノ下が薄ら寒い笑みに加えて、その視線に鋭い殺気を宿し、身体を変化させていく。

 丸みを帯びた外郭と、全身が緑の巨大な二足歩行の昆虫と思わしき姿。

 それこそが、俺が雪ノ下に話した、ワームの姿だ。

 

「なあ、雪ノ下。さっきの話にはさ、実は続きがあるんだ」

「え?」

「確かにワームは人類にとって脅威だった。でも人類は対抗組織を作り、ワームと戦う為のシステムを完成させたんだよ」

 

 俺は普段は閉じている制服のブレザーの前ボタンを開け、中に普段から着込んでいる武骨なバックルの中心部分を開けた。

 それを合図に、何処からか、軽快なステップ音を響かせて、メカニカルな掌サイズのバッタが俺の手の中に納まる。

 

「これがそのシステム……マスクドライダーだ!」

 

 俺はそう告げると同時に、バッタさんを何時もの様に、バックル中央へと宛がう。

 

「変身」

 

『ヘンシン・チェンジ・キックホッパー』

 

 そのままバッタ……俺専用のゼクターを差し込む事によって、俺の全身が劇的な変化を起こす。

 上半身を中心にして、メタリックグリーンの装甲に覆われ、その頭部もバッタを模した造形の仮面と特徴的な赤い二つの複眼によって覆われていく。

 ワームに対抗する為に製作された、マスクドライダーシリーズの一体、キックホッパー。

 それこそがこの姿である。

 俺の変身を前にして、我武者羅に襲い掛かって来るワーム。

 それに対して、俺は教室をなるべく荒らさない様に注意しつつ、この放課後ならば、人気も少ない筈の校舎裏へと誘導していく。

 主に両腕の鋭利な爪で応戦してくるワームに対して、俺は避け様にカウンターで蹴りを返す。

 そして、そのまま相手のワームがよろめき大きな隙を作った時、俺はこの戦いに勝機を見出した。

 

「ライダージャンプ」

『ライダージャンプ』

 

 ワームの隙を突き、ゼクターのレバーを反転させて、俺は大きく跳躍する。

 

「ライダーキック」

『ライダーキック』

 

 更にゼクターのレバーを反転させる事で、俺はワームに対して必殺とも言える、強力な蹴りを叩き込む。

 必殺の一撃は容赦無く、ワームに決まり、跡形も無く爆発させて、この世からの痕跡すらも、全てを絶つ。

 

「……ふぅ」

 

 俺は戦いが終わった事を確認して、この戦いを最後まで見届けていた雪ノ下へと視線を送る。

 今更であるが、今回はワームに狙われた彼女を守る事が、アルバイト先からの指令だった。

 だけど、彼女にとってこうする事が、本当に良かったのだろうか。

 雪ノ下雪乃では無い俺には、幾ら考えても答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪ノ下を狙ったワームを倒して、今回のアルバイトも無事に終えた俺は、頭を捻りながら、放課後の教室で一人、退部届と睨み合いを続けていた。

 

「そう言えば俺って、あの部が何部なのかすら知らなかったんだよな」

 

 確実に知っていそうなのは、平塚先生か雪ノ下ではあるのだが、先生は生憎と出張で居ない。

 残るは雪ノ下だが、ただでさえ話し掛け辛いタイプだというのに、昨日の一件も相まって非常に聞き辛かった。

 

「本当にどうするかな……」

 

 いっそこのままボイコットするのも手だが、それだと後が怖過ぎる。

 

「さっきから何を悩んでいるの?」

「いや、部活名を聞くのを忘れてだな」

「あら、そう言えばまだ教えていなかったかしら」

「そうなんだよ……ん?」

 

 さっきから誰と話してるんだと思ったら、意外な事に雪ノ下の顔が隣にあった。

 本気でびっくりしたわ。

 つい何時もの妄想独り言大会だと、勘違いした。

 まあ、俺程のレベルとなれば、脳内で妄想が生み出した俺自身と最近の政治について語るのも訳ないがな。

 消費税増税に断固反対!

 

「そんな事より、さっさと部活に行きましょうか」

「へ? な、何で?」

 

 俺は予想外にもさっぱりとした雰囲気を纏う雪ノ下に、思わず驚愕の声をあげてしまう。

 だってそうだろうよ。

 あんな事があった後だっていうのに……。

 

「比企谷君……あの時はありがとうね……その、助けてくれて。後、その部活仲間だって……」

「え? は?」

 

 雪ノ下が何かを言っているのは分かるのだが、あまりにも小さな声で言うので、何を言っているかまでは聞き取れない。

 ここでラノベの主人公ならば、フラグが立ったりしそうなもんだが、俺と雪ノ下の間ではまず有り得ない話だ。

 そんなどうでも良い事を考えながら、雪ノ下に手を引っ張られて、連れて来られたのは昨日も来た、部室。

 すると雪ノ下は、其処で振り返る。

 

「ようこそ、奉仕部へ」

 

 初めての出会いの印象は、まるで切り取られた世界の住人の様な少女。

 そして今の印象は、一枚の名画にも勝る、雪解けの春を告げる笑顔の少女だった。




連載では無いのでアシカラズ。
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