俺の青春はマスクドライダー。   作:G-3X

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感想で連載を考えてみてはと、意見を貰いましたので、実験的に二話目も書いてみました。
次を書くかは完全に未定ですが、試験的なので御容赦くださいませ。



手作りクッキーの気持ち

「な、何でヒッキーがここにいるの!?」

 

 放課後の奉仕部の部室。

 普段ならば、俺と雪ノ下しかおらず、静かな放課後としか言い様が無い部活だというのに、この今時な派手な少女が部室に入ってきた瞬間、唐突な終わりを迎えた。

 

 というか、この派手な茶髪女、俺の事を見てヒッキーって言ったよな。

 その自宅警備員みたいなニックネームは、もしかして俺の俗称なのか!?

 つうか、誰だよ。

 シャツのボタンを三つ位、開けまくって胸元の微かな谷間まで見えそうなんですけど。

 何なの? こんな純情な高校生男子の俺の目の前で、そんな破廉恥な恰好をしやがって。

 ついつい目が行っちまうだろうが、このビッチめ! けしからん。 全くもってけしからんお胸様ですね! ありがとうございます!

 

「……死んだ魚の目が、性犯罪者の目になっているわよ。比企谷君」

 

 ただ、思春期の少年らしい思考をしていただけだというのに、先程まで文庫本を読んでいた雪ノ下から侮蔑の視線を向けられ……いや結構酷い言葉も、一緒に貰ってるなこれ。

 性犯罪者とか、辛辣過ぎるだろ。

 そんな氷の女王様のお言葉を頂いたおかげで、俺の中のビーストは、すっかりと縮み込んでくれたので、そろそろこのビッチに、ちゃんと対応するべきだろう。

 

「俺がここに居るのは、部員だからだよ」

 

 不本意ではあるがな。

 結局ワームの件があった後の、あの雰囲気で、退部届を出すなんて、空気を読む事だけが特技である俺には出来る筈もなく、何時の間にか部員として定着してしまった訳だが、平塚先生から後で聞いた話しによると、俺には退部する権利は無いらしい。

 世界はぼっちに、厳しすぎる。

 

「そ、そうだったんだ」

「つうか、何で俺の事を知ってるんだよ? ビッチ」

「ビッて、いきなり何言ってんのよ! この変態!」

「俺みたいな紳士を捕まえて変態とは何だ。それよりも何で俺の事を知ってるんだよ。ビッチ」

「またビッチって言ったああああああああああ!」

 

 見たままに言っただけだというのに、何を興奮しているのだろうか。

 やはりビッチの思考は、俺には理解出来ん。

 

「話しが進まないから黙りなさい。変態紳士」

「おい、その二つを合体させるんじゃない雪ノ下。俺は露出趣味の執事になった覚えはないぞ」

「同じ事を二度も言わせないでくれるかしら。それともこの腐った魚の目をした変態には、厳しい躾をしてあげないと、自分の立場すら理解出来ないの?」

「……すいませんでした」

 

 間に入った雪ノ下の、鋭い眼光によって、俺は黙る事にした。

 何、あの鋭い眼光。

 ワームが擬態してるより、よっぽど怖いんですけど。

 

「貴女は確か、二年F組の由比ヶ浜 結衣さんよね」

 

 と言いながら、雪ノ下は適当な椅子を引っ張り出して、ビッチ改め、由比ヶ浜に座る様に促す。

 え、というか、雪ノ下が言ってる事が正しいなら、このビッチって俺と一緒のクラスじゃねえかよ。

 全然気が付かなかったわ。

 いや、もう見た目からしてリア充な感じで、直視出来なかったから、仕方ないわ、うん、俺は悪く無い。

 

「あれ、私のこと知ってるんだ?」

「まあね」

 

 進められるがままに席に座った由比ヶ浜が、雪ノ下に問い掛け軽く応対する。

 

「ユキペディアさんなら、学校の全生徒の名前でも覚えてそうだからな」

「その不愉快な呼び方は止めてくれるかしら。それと私、直接会うまで比企谷君のことは全く知らなかったのよ。眼中に無かったと言って良い程にね」

「どうして俺の存在をディスるんだよ」

「あら、そんなことは無いわよ。ただ私の弱い心が、貴方の様な変態紳士の存在を本能的に居ないものと認識していただけなのだから、比企谷君は何も悪くないわ」

「良い笑顔で良い事を言ってる風にしつつも、俺を頑なにディスり続けるの止めてくんない」

 

 いい加減にしないと、俺泣くよ。

 ぼっちの心って、かなり繊細なんだからな。

 

「なんか……二人とも仲良いんだね!」

 

 突然何を言い出すんだ、このビッチヶ浜さんは?

 俺と雪ノ下が、仲良く見えるだと。

 ここまで人を容赦無く攻め立てる女王様と、ぼっち紳士の会話は、この女にはSとMな性的趣向の者達でする一種のプレイにでも見えているのだろうか、流石はビッチ。

 

「いや、ほら、二人ともなんか遠慮しないで好きなこと言ってるし、ヒッキーはクラスだと誰とも喋らないのに、部室では凄いお喋りなんだなって! 教室だとなんか動きがキョドッててキモいし!」

 

 あっけらかんと言うが、雪ノ下は、初めて会った時からこんなもんだぞ。

 それと、お前も俺をディスるか。

 教室での俺って、其処までキモいの……ああ、きっとこうやってリア充ビッチが、言う分には世間様から見てもキモいんだろうな。

 

「……このビッチが」

 

 ついこの世界での俺への風当たりの強さに苛立ち、俺は口を滑らせていた。

 

「あああああ!またビッチって言ったあああああああ! キモい! ウザい! あり得ない!」

 

 はい。

 女の子から言われたら、男の子が凹む言葉、三連発を頂きました、やったね八幡君。

 というか、ビッチと言われたくないのなら、まず俺をヒッキーと呼ぶのを止めろ。

 そんな苛めとしか思えないニックネームを、スクールカースト上位の奴から言われたら、心の弱いぼっちは本気で引き籠るぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、ここは奉仕部のある特別棟からも程近い、調理実習室。

 どうしてそんな場所に居るかだって?

 それは、奉仕部の活動の為ですが何か。

 部室にやってきた由比ヶ浜は、平塚先生にアドバイスされて、やって来た今回の依頼主だった訳だ。

 そもそもこの奉仕部とは、どんな活動をする場所なのかというと、ぶっちゃけて言えば、生徒の為のお悩み相談室と言ったところだろう。

 教師と生徒では無く、生徒同士で、悩みを共感し、共有して解決に努める。

 まあ、何とも面倒な類入る、部活動だと言えるだろうなこれは。

 それこそ、こんなのは生徒指導の先生の領分なんじゃないのとか、生徒会が目安箱でも設置すれば何て思いもするが、平塚先生いわく、それじゃ生徒の方がまず尻込みしてしまい、相談にすら来ないだろうと言う。

 確かに俺もそう思うが、学校生活ってそんなもんだろ。

 話を戻すとしようか。

 俺と雪ノ下に、由比ヶ浜の三人で、調理実習室に居るのは、今回の依頼主である、由比ヶ浜の要望を叶える為だ。

 由比ヶ浜の依頼内容は、とある人物に、手作りのクッキーを渡したいとのこと。

 美少女の手作りクッキーをプレゼントとか、何処のラブコメだよ。

 あれって、フィクションの世界で言うとこの、現実の団体や人物は一切関係ありません的な何かじゃなかったっけ。

 まあ、由比ヶ浜が誰にプレゼントを贈るのだとしても、俺には何の関係も無いのだけどな。

 せめて一言だけ言わせてもらうとしたら、リア充は爆発しろ! いや、むしろ俺がライダーキックで爆発させてくれるわ! といった程度のものだ。

 

「というかさ、手作りのクッキーとか、友達にでも頼めばそれで良いだろうが」

 

 由比ヶ浜が言うには、料理に自信が無いから手伝って欲しいとの事なのだが、こんなのは他に料理の上手い友達にでも頼めば良いことだろう。

 

「それは、その……」

 

 何故か由比ヶ浜が、困った感じで俺を見る。

 そんな目配せされても、何を言いたいのか分かる訳が無いだろう。

 俺は他人と普通に会話でのコミュニケーションを取る事さえ、難しいぼっちなんだぞ。

 プロのサッカー選手みたいにアイコンタクトをマスターしてたら、今頃は綺麗な目をしてリア充の輪の中へ溶け込んでるだろうよ。

 ……いかん、想像したら、何だか気持ち悪くなってきたわこれ。

 きっと、雪ノ下に今の想像した架空の俺を話したら、優しげな瞳で現実を見なさいって止めを刺されるぞ、絶対に。

 今日のジュース代位だったら、賭けても良い。

 

「その、あんまりこういうのって、雰囲気的に友達に知られたく無いし、マジっぽいのってキャラじゃないかなって……」

「ふぅん、そうですか」

 

 アイコンタクトどころか、直接聞いてみても、良く分からなかった。

 強いて理解をしようと努めるのならば、普段からつるんでいる友達には、こういったタイプの悩みは相談しにくく、料理に関して努力している姿を見せたくないといったところか。

 

「それに平塚先生から聞いたんだけど、この部活って何でも生徒のお願いを叶えてくれるんだよね!?」

 

 瞳を輝かせながら、由比ヶ浜が言うが、奉仕部がそんな七つの玉を集めれば的な某名作、大人気少年漫画な訳が無い。

 

「いいえ。奉仕部は手助けをするだけよ」

 

 溜息混じりに雪ノ下が諭す。

 まあ、多少の誤解があった様だが、由比ヶ浜も雪ノ下の説明で、正しく奉仕部の活動を理解した事だし、これでやっと本題に入ることが出来るというものだ。

 

「そんで、俺は何をすれば良いんだ?」

 

 この調理実習室の中で、エプロンを装着していないのは俺だけ。

 つまり、RPGでいうならば、初期装備の布の服すら着ていないに等しい状態。

 素手で戦う職業の武道家だって、最低限の防具は身に着けるぞ。

 武器や防具はきちんと装備しなければつかえないのじゃぞ、という言葉は過去から未来に掛けてRPG業界に残る名言と言える。

 

「味見をして、感想を言ってくれれば良いわ。変態紳士でもそれ位なら出来るでしょ?」

「優しい笑顔で、俺をディスるの、本当に止めてくれませんかね」

 

 これが雪ノ下なりのフレンドリーな接し方だとしたら、その内、俺の胃に穴が空くぞ本気で。

 まあ、普段からのジャブに等しい俺と雪ノ下の会話はさて置き、雪ノ下による、お料理教室が始まったのだが……。

 

「……何故、あれだけの失敗を繰り返せるものなのかしらね。理解に苦しむわ……」

 

 全ての工程を終えて、完成したクッキーを見た雪ノ下が、眉間に皺を寄せる。

 俺は完成品の一つを摘み上げて、しげしげと観察してみた。

 

「えっと……今日のレシピは木炭作りだったか?」

 

 じゃあ、木炭を作った次は、炭火焼の焼き肉かな? 楽しみだわー。

 

「こ、これはクッキーだから! 木炭じゃないもん……あれ、やっぱり炭……これって食べられるのかな?」

 

 最初こそ俺の言葉に猛抗議する由比ヶ浜だったが、冷静に自分の作った食えば確実に発がん性物質の毒物を見て後半では、俺が言ったことよりも低い評価を自分で下した。

 

「さて、これからどうするべきかしらね」

 

 使った調理器具を整理しながら、雪ノ下がこれからどうするべきか、意見を募る。

 どうやらこの試作第一号となる、由比ヶ浜のお手製クッキーは、味見をする以前の出来であると早々に判断したらしい。

 これは素晴らしい決断だ。

 何故ならば、味見役である俺が、非常に助かる。

 なれば、俺もその恩に報いる為に、良い意見を述べるべきだろう。

 

「一番の解決策は、由比ヶ浜が料理をしないことじゃないか」

「それじゃ意味が無くなっちゃうじゃない!」

「駄目よ比企谷君! それは最後の手段だから」

「え、それで本当に解決させちゃうの!?」

 

 まあ、そんな訳で結局は努力という根性論に至り、クッキー教室リベンジ編、修羅の章の幕があがった。

 途中で諦め掛けた由比ヶ浜に対して、雪ノ下の辛辣な言葉が重なり、クッキー作りもこれで終わりかという雰囲気になりかけるが、意外な事に、雪ノ下の口から吐き出された強烈な毒とも言える言葉は、由比ヶ浜のカンフル剤となって、料理教室は続行される事となる。

 これが普通の物語ならば、途中の経過は省かれて、努力の結果が実ってハッピーエンドとなるのが通例と言えるだろう。

 だが、現実はそんなに甘いもんではない。

 

「全然違うよ……」

「どう教えれば、ちゃんと伝わるのかしらね……」

 

 努力を続けた事で、完成したクッキーの山の前で、由比ヶ浜と雪ノ下は意気消沈としていた。

 主にクッキーの山は二つに分かれている。

 片方の山は、香ばしい食欲をそそる焼き菓子の香りを漂わせている。

 残るもう片方の山からは、焦げ臭い危険な香りが鼻を襲う。

 勿論、クッキーとして存在が確定している方は、雪ノ下が見本にと作ったものだ。

 基本的に由比ヶ浜のクッキーを味見するのが、俺の役割ではあるのだが、少しだけ食べさせてもらったところ、めちゃ美味い。

 作った本人があんなに毒舌なのに、そのお菓子がこんなにも甘くて美味しいなんて、あれ? これって新しいツンデレですかね?

 それに比べて、もう片方の戦場の香りを漂わせる山を形成した由比ヶ浜のクッキーは、そりゃあ酷いものだった。

 度重なる雪ノ下先生の、厳しいまでのスパルタ特訓によって、最初の試作一号と比べれば、どうにか食べられる範疇にまではなっているものの、口に入れた瞬間に広がるのは、何処までも広がり続ける苦味だけ。

 良薬は口に苦しなんて言うが、これは間違い無く、ただの毒だと断言出来る。

 しかし、俺は落ち込む二人を見て、あえて言いたい。

 

「あのさ、何でお前等は美味いクッキーを作ろうとしてんの?」

 

 俺の問い掛けに、消沈していた二人が起き上がる。

 

「はあ?」

「何を言っているのかしら?」

 

 その反応は、二人とも、意味が分からないという感じだった。

 どうやら、この二人の美少女には……いや、だからこそ男心というものが、理解出来ないらしい。

 

「10分後にもう一度……」

 

 俺はこの依頼を完遂する為に、作戦通りの行動を開始しようとした。

 だがその途中で、気付いてしまった。

 本当は気が付かない方が良かったのかも知れない。

 しかし、気付いた以上は、放っておく訳には、いかないだろう。

 この調理実習室を覗く、二つの影。

 その影の片方は、なんてこと無いが、もう片方の影から、一つの可能性が浮き彫りとなる。

 

「……今から俺が呼ぶまで、奉仕部で待っててくれ。そしたらお前らに本物のクッキーて奴を教えてやる」

 

 俺はそれだけ告げて、二人を調理実習室から追い出して、念の為に由比ヶ浜が作った苦味マックスクッキーを幾つか小皿に分けた。

 出来れば、これからの行動で、このクッキーの出番が無い方が良いとは思う。

 だけど、それは俺の願望であり、由比ヶ浜の努力と想いを汲むのであれば、我ながら最低な選択をしたとしか考えられないが、こうする他に無い。

 二人が調理実習室を離れたのを見計らい、俺も調理実習室を出る。

 その際に、こう言っておく事も忘れない。

 

「おい。隠れてないで出て来いよ。取り敢えず裏庭で話そうぜ」

 

 俺の言葉に二つの影が、小さく動きを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少女は、来た道を戻っていた。

 目的の場所は、先程まで居た調理実習室。

 その理由は、何てことは無い。

 ただ単に、料理をする際に、万が一が無い様にと置きっ放しにしてしまったケータイを取りに来ただけである。

 運命の悪戯か。

 それとも必然だったのか。

 この行動が、少女が本来であれば、知らずに済んだ筈の現実を目撃する事となってしまう。

 

「おい。隠れてないで出て来いよ。取り敢えず裏庭で話そうぜ」

 

 次の角を曲がれば、目的の調理実習室のところで、少女の耳に、聞き覚えのある声が響く。

 しかし、その声には多少の違和感があった。

 普段は覇気の無い、感じの声だというのに、何処か真剣味を帯びた声。

 何があったのかと思い、少女は曲がり角の死角となる場所から、こっそりと覗き見る。

 少女は目撃した。

 少年が居たことは、声が聞こえていたから、分かっていた……問題なのは、少年が声を掛けた対象。

 一人は、少年と同じ学校のブレザーを着た同年代の男子生徒。

 それだけならば、特に何の問題もなく、少年の知り合いだと思っただろう。

 しかしその場に居たのは、少年と男子生徒だけではなかった。

 今、目の前に広がる光景を、少女は、現実だと受け止める事が出来ない。

 何故ならば、少年の目の前には、異形の怪物が居たのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は放課後、人気の無い裏庭で、同学年の男子生徒と対峙していた。

 だが、対峙しているのは、その男子生徒だけではない。

 というか、その存在を隣に従えている事から、男子生徒とて、本当の意味でこの学校の男子生徒とは言えない存在だろう。

 男子生徒の隣に居る存在。

 虫に酷似した造形を持つ、人型の異形の緑の皮膚を持つ怪物、ワームである。

 

「それで、僕に話しって何かな?」

 

 まず最初に口を開いたのは、黒髪の優顔の男子生徒。

 表面的には、優しげな態度だが、何処か嘘くさい。

 それも、奴等の持つ特殊な能力のせいだろう。

 

「単刀直入に聞く。お前等の目的は何だよ」

 

 本当は聞かなくても、何となくだが分かる。

 こいつ等の目的を考えるなら、胸糞悪い事だと。

 それでも俺は、こいつの口から聞かなくちゃならない。

 俺の考えが事実だと、確認する為にも。

 

「君は、驚かないんだ」

「良いから話せよ」

「……せっかちだな君は」

 

 俺への気遣いだとしたら、そんなもんは要らない。

 そもそも、そんな間柄では無いのだから、互いに気遣う理由も無いだろう。

 

「僕は由比ヶ浜さんが好きなんだ」

 

 優男の真摯な愛の告白。

 由比ヶ浜という今時の美少女が、慣れないながらに必死で作った、焦げまくりの苦いクッキー。

 単純ではあるが、こんなワードが揃えば、大衆受けのするラブストーリーの一つも完成する事だろうな。

 だけど、俺は知っている。

 現実はそんなフィクションみたいに、甘くは無い。

 何時だって現実には、残酷な結末が待っている……。

 

「だから、彼女にも、僕達の仲間になって貰いたい」

 

 そう言いながら、男子生徒は隣に従えるワームを見て微笑む。

 変わらぬ笑顔を保ち続けてはいるが、その笑顔には、嫌悪感しか抱く事が出来ない。

 

「お前は……そいつに由比ヶ浜を擬態させるつもりなんだな?」

「……へぇ。君って僕達に詳しいんだね」

 

 俺の問い掛けに、若干だが男子生徒の雰囲気が変わる。

 それと同時に、奴が俺の問いを否定しなかった事から、俺の予測が、最悪の形で現実となってしまった事に気付く。

 本当に胸糞が悪くなるが……。

 だけども、だからこそ、これだけはやらなければならない。

 俺の自己満足でしかないが、せめて由比ヶ浜の努力を意味のある物にしたかったから。

 

「食え」

 

 俺は男子生徒に由比ヶ浜が作ったクッキーを突き出す。

 

「これは?」

「由比ヶ浜のお手製クッキーだ。食ったらちゃんと感想を言えよ」

「……分かったよ」

 

 男子生徒は、皿のクッキーを受け取り、黒焦げのクッキーを口にして味わって食べる。

 

「……うん。美味しかったよ」

 

 俺は、ついさっきまでクッキーの味見役をしていた身だ。

 御世辞にも美味いなんて、言えない味なのは、良く分かる。

 それでもこいつは美味いと言った。

 ただのお世辞か、それともこいつの中にある本物のこいつの気持ちか。

 しかし、この言葉で、少なくとも救われる気持ちがある。

 それならば、きっとこの行動にも意味はあると、俺は信じて残酷な選択を実行出来るんだ。

 

「さてと、それじゃあここからはお仕事の時間だ」

 

 俺はそう言いながらブレザーのボタンを外し、下に仕込んでおいた武骨なベルトのバックル中央を開く。

 そうする事によって、出番を待っていたとばかりに、ピョンピョンと飛び跳ねながら俺の相棒であるホッパーゼクターが姿を現し、最後の一飛びで俺の手の中へと納まる。

 これ以上にやる気の起きない仕事も、中々無いと言えるだろう。

 今から俺がしようとしている事は、誰かの一途な気持ちを無へと返す事と同義。

 だが、躊躇する事は出来ない。

 俺が迷えば、それはまた別の悲劇を一つ増やすだけなのだから。

 

「……変身」

 

 全ての気分が悪くなる、言葉に表す事が出来ない気持ちを飲み込んで、俺は言葉を紡ぎ、ホッパーゼクターを、バックルへと差し込んだ。

 

『ヘンシン・チェンジ・キックホッパー』

 

 俺の身体が変化を起こし、上半身はメタルグリーンの装甲に覆われ、バッタを模した仮面に、赤い二つの複眼を持つ、戦う戦士の姿に変わる。

 宇宙から来た、人類を狙うエイリアン。

 ワームに対抗する為に作られた、マスクドライダーシステム。

 そのシリーズの一体が、今の俺、キックホッパーだ。

 

「へえ。やけに僕達に詳しいと思ったけど、そういう事か。それじゃあ、僕も本気を出さないとね」

 

 俺の変身を見た男子生徒は、変わらぬ笑顔のまま、人としての姿を捨て去り、異形の怪物へとその身を変化させる。

 通常の緑のワームでは無い。

 若干細身の白い肉体に、蜘蛛の様な顔の造詣と背中から延びる、六本の虫の様な細い脚。

 間違い無く、奴はワームの成体だ。

 つまり、奴はワームとしてかなりの成長を遂げた存在だということ。

 

「お前の擬態した本物はどうした?」

「本物? もしかして人間だった時の僕かな? それならもう一年位前に僕が消しちゃったよ。この世に僕がもう一人居ても仕方が無いからね」

「……そうか」

 

 どんな答えが返ってくるのか、予想は出来ていたんだ。

 それでも、一縷の望みに賭けて、聞きたかった。

 だからこそ、もう迷わない。

 

「はああああああああ!」

 

 俺は、自分自身に最低限の気合を入れる為に、叫び地を蹴る。

 向かう先には、二体のワーム。

 だが、俺が辿り着くよりも早く、成体のワームの姿が掻き消えてしまった。

 その直後に、俺の全身を不可視の衝撃が襲う。

 ワームの能力の一つに、擬態がある。

 しかし、ワームの能力は、それだけではない。

 成体となったワームだけが、持ち得る能力、クロックアップ。

 本来の時間軸から外れ、超高速の時間に身を置くという。

 通常の時間しか認識出来ない者では、視認する事すらも出来ない。

 一見すると無敵とも思えるこの能力であるが、決して攻略不可能という訳では無いのだ。

 

「これ以上、好きにさせるかよ! クロックアップ!」

 

 俺は不可視の攻撃を受けながらも、ベルトの側面のスイッチを押す。

 

『クロックアップ』

 

 同時に流れる音声と、確実に変わる時間の感覚。

 クロックアップへの対抗策。

 それは、同じ立場に立つ事で、クロックアップで得るメリットを、完全に中和してしまう事である。

 マスクドライダーは、ワームに対抗する事を目的として作られたシステムだ。

 それはクロックアップですら、例外ではない。

 だからこそ、マスクドライダーもクロックアップが出来る様に、設計されている。

 

「これ以上、好きにさせるかよ」

 

 俺がクロックアップした事によって、再び視認する事が出来たワームに、俺は全力で駆け寄る。

 近付かせまいと、ワームは蜘蛛に似た口から、太い糸を吐き出して動きを阻害しようとするが、俺はその糸を軽いフットワークで避けて、拳を叩き付ける。

 その際に生まれる砂埃などが、まるで空中で止まっている様な現象が起こっているが、それは俺達がクロックアップという違う時間の流れの中に居るからこそ、体感出来る現象だ。

 しかし、その時間も終わりが近い。

 だからこそ、俺はここで一気に勝負へ出る。

 

「はっ!」

 

 俺は強烈な蹴りで、成体ワームを吹き飛ばし、すぐさまホッパーゼクターのレバーを反転させる。

 

「ライダージャンプ」

『ライダージャンプ』

 

 瞬時に脚力が強化された事を確認して俺は、空高く跳躍した。

 そのまま空中で、俺は更にゼクターのレバー部分をもう一度、反転させる。

 

「ライダーキック」

『ライダーキック』

 

 続いて強化されたキック力を武器に、俺は必殺の蹴りをワームへと叩き込む。

 狙うはクロップアップの効果によって、本来の時間軸に取り残された幼生のワームだ。

 ワームにライダーキックを叩き込んだ事によって、脚部のジャッキが稼働して、俺は再び宙へと舞い上がる。

 次に狙うは、成体のワーム。

 

「はあああああああああああああっ!」

 

 俺は叫び、そのまま、二回目となるライダーキックを叩き込み、ほぼ同時に、クロックアップの制限時間を迎える。

 

『クロックオーバー』

 

 ベルトから聞こえる音声を合図に、再び時間は俺の知る、通常の時間へと戻っていく。

 二体のワーム同時に爆発して最後の時を迎え、舞った砂埃も瞬時に風に流れて消えていった。

 俺は勝利したと実感するが、喜びよりも、全てが終わったのだという現実に気付き、空しさを覚える。

 そして一つの決心をする。

 せめて彼女に、希望となるかも知れない、彼の残した最後の言葉を伝えようと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奉仕部に行く途中。

 本来ならば、部室の中に居る筈の奴が居た。

 

「こんなとこでどうしたんだよ。由比ヶ浜」

「あ……ヒッキー」

 

 由比ヶ浜は廊下の壁に背を預けながら、俺の顔を覗き込むが、何処か様子がおかしい。

 

「何かあったのか?」

「えっと、あのさクッキーの事なんだけどさ」

「ああ、それなら、今から迎えに行こうと思ってたんだよ」

「別にそれは良いんだけどさ……」

 

 言いたい事があるのだろうとは分かるのだが、何を言いたいのかまでは分からない。

 別に由比ヶ浜が何を言おうとしているのか、無理に知ろうとも、俺には思えなかった。

 なら、俺の言いたい事を言って、それで自己満足して、これで話は終わりにしよう。

 

「なあ、由比ヶ浜。お前って、手作りのクッキーを渡したい奴が居るんだよな」

「え、う、うん」

「実はその相手だと思う奴が、調理実習室に来てだな。お前が作ったクッキー、美味かったって言ってたぞ」

「そ、それはちが……えと、違わないかも……でもさ、あのクッキーって凄く不味いって私も分かってるからさ。変に気を遣わなくて良いよ」

「いや、あのクッキーは確かに美味かった。それは間違い無いぞ」

「へ?」

「男ってのは単純なんだよ。好きな女の子が、自分の為に作ってくれたなら、何だって美味いんだっての」

「……ヒッキーもそうなの?」

「ん、ああ。そりゃ俺だって男だからな」

「そっか……そうなんだ」

 

 何だろうか。 

 さっきまで、やけに沈んでいたのに、急に元気になって来たぞ。

 

「それじゃあさ、今度はユキのんと、ヒッキーにも作って来てあげるね」

「おいちょっと待て。そのユキのんってのは、まさか雪ノ下の事か!?」

 悪い事は言わないから、止めておけ。

 絶対に氷の女王の逆鱗に触れるぞ。

 それと、いい加減に俺をヒッキーというのも、勘弁してくれ。

 しかし止める間も無く、由比ヶ浜は、廊下を走り去っていく。

 せめてエプロンは、外して行けと思うが……。

 それにしても、思ったよりも、動揺しなかったな、由比ヶ浜。

 もしかしたら、元から俺の勘違いで、由比ヶ浜がクッキーを渡そうとしていた相手は、あの男子生徒では無かったのかも知れない。

 ……だとしたら、俺のした事ってなんなんだよ!?

 そう考えたら、急に恥ずかしくなってきたわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 孤独を愛する少年は気付かない。

 一人の少女の秘めたる想い。

 その想いは、まだ小さなつぼみだが、未来へと続く夢に満ちている事を。

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