またしても書いてしまいました短編だというのに三回目。
まあ、今回は薄味の説明会みたいな感じですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
さしてこれも毎回となりますが、続きを書くかは完全に未定となっておりますので、アシカラズ。
偶然という言葉は、便利なものだ。
あり得ない出来事が起こったとしても、それは偶然だと片付けてしまえば、全ては丸く収まる。
しかし偶然が重なったとしたら、それは本当に偶然だと言えるだろうか。
確かに一度目は、俺も偶然だと思ったさ。
確率的には低いが、無いとは言い切れない。
だから一度目は、何とも思わなかった。
しかし、それがもう一度、続けて起こったとしたら?
それには、明確な意思が存在すると言えるだろう。
「そういう訳で、説明してくださいよ。平塚先生」
俺は職員室に呼び出されたついでに、質問をしてみた。
元々は、俺が熊を題材として、現在の忌むべき集団生活文化へと向けたアンチテーゼが、ちょっと過激だった為か、呼び出された訳だが、俺の完成されたぼっち理論が、この世界では認められていないのは、残念ながら俺自身も認めている部分があるので、半ば諦めている。
「何がそういう訳なのか分からないが、少なくとも反省する意思が無いことだけは理解した」
笑顔で答えてくれる平塚先生ではあるが、俺を頭を脇に挟んで、アームロックを仕掛けられていることから、笑顔に反して予想以上に怒っているのだけは理解した。
というか、この態勢だと俺の片頬が平塚先生のたわわなお胸様に、当ってしまっているのですが!?
なんという過酷な罰なんだ。
このままじゃ、俺は駄目になる。
いや、寧ろこのまま駄目になりたいです。
いい加減に俺を解放しないで……いや間違えた、解放してください! あ、でも、もう五分くらいはこのままでもと、俺の中に潜むお年頃な男の子というビーストが、囁いている気がしないでもない。
そして暫く、平塚先生のお仕置きを堪能、いや耐えた後、改めて俺はするべき質問を平塚先生へと問い質す。
「考えてみれば、最初からおかしかったんですよ。雪ノ下の近くに都合良く、俺を連れて来たのは先生でしたよね。その次に、相談者として由比ヶ浜を、奉仕部に送り込んだのも先生だった。流石にこれを偶然だと片付けるのには無理があると思うんですよね」
「……まあ、そろそろ隠しておくのも、潮時だとは思っていたしな」
ここは、あくまでも職員室。
当然ながら、他の先生達は勿論、俺の様に何らかの用事があって、職員室を訪れている生徒だって居る。
だからこそ、重要なキーワードを意図して出さずに話した俺ではあったが、平塚先生はさっきとは別の深みのある微笑みを浮かべ、俺の問いに肯定とも言える言葉を返す。
「しかしここでは、話辛いだろう。今なら生徒指導室が空いていたな……付いて来たまえ」
「うっす」
俺は周りから見れば、平塚先生に連行される様な形で、職員室から離れて、少し離れにある、生徒指導室へと向かった。
廊下を歩きながら、俺は少し前を歩く平塚先生を見る。
そう言えば、俺が奉仕部に初めて連れて行かれた時も、こんな構図だったな。
今を思えば、あれから俺の生活に、若干の変化が起きたのだが、そうだとすると、これから起こる出来事が、また俺の生活にこれ以上の変化をもたらすのではないかと、邪推してしまう。
離れていると言っても、同じ校舎の中。
辿り着くまでに、そんなに時間は掛からない。
誰も居ない生徒指導室に入り、近くの椅子に座る、平塚先生。
「長い話になるだろうからな。君も座りたまえ」
俺は平塚先生に促されるままに、席に着いた。
「さて、まずは何処から話そうかな」
「取り敢えず最初から、説明して貰えると嬉しいんですが」
「そうだな。こう言えば分かり易いか。君が学校に秘密で行なっているアルバイト。そのバイト先の君の直接の上司が私だとでも言えば、納得してもらえるかな?」
「……やっぱりですか」
「思ったよりも、驚かないんだな君は」
「ええ、何となく予想はしてましたから」
元を正せば、俺がアルバイトを始めた経緯は、とても理不尽で、唐突な出来事だった。
思い出すのは、去年の一年生の頃。
まだ俺が初々しい、一年生ぼっちをしていた時である。
ただでさえ、知らない人と話す事に、抵抗があり苦手だというのに、入学式の初日で事故に遭い、入院していた俺に、ぼっちとしての隙は無かった。
まあ、俺の最強ぼっちロードは、またの機会にでも語ろうと思う。
肝心なのはアルバイトを始めた、経緯だったな。
去年の事故から退院して、足のギブスから解放され、遅ればせながら高校に通い始め、一週間が過ぎた頃だったか。
その日は夕飯が愛する妹の作るクリームシチューになる筈が、残念な事に冷蔵庫の中の牛乳が切れてしまっていた。
無理をすれば、カレーにメニューを変更する事だって出来たのだが、あの時の俺の口は既にクリームシチューを欲していたのである。
そんな訳で普段は遅くまで外を出歩かない俺ではあるが、急ぎ最寄りのコンビニに牛乳を買いに行く事にした。
今を思えば、この時の選択が、間違いだったのかも知れない。
俺は帰りの人通りが少ない、夕暮れの町中。
ワーム達に襲われたのである。
現実とは信じられない、怪物の登場。
その怪物が、一瞬で俺とそっくりな姿に変わり、再び怪物となって詰め寄る。
恐怖によって足が竦みながらも、何とか逃げる為に走る事が出来た当時の俺を、今更ながら褒めてやりたい。
どれだけ逃げても、ワームから逃げる事は出来なかった。
少しずつ、疲弊して俺は追い詰められていく。
我武者羅に走り、何時しか走る体力よりも前に、未知への恐怖によって、先に気力が尽きかけたその時だ。
今では俺の相棒として長いホッパーゼクターが、普段から俺が身に着けているベルトと、一枚のメモ用紙を括り付けて現れたのである。
メモ用紙には、ベルトとホッパーゼクターの使い方が書かれていた。
俺はその時、張り詰めた恐怖で、まともな思考など出来る筈も無く、藁にも縋る気持ちで、メモに書かれた内容を実行に移し、ワームと戦い……そして生き残ったのである。
その後も、ホッパーゼクターは変身する為に俺が呼ぶ時以外にも、定期的に姿を現した。その時は毎回、メモ用紙を携えて現れ、俺が知るワームについての知識の殆どは、そのメモから知った事だった。
最初の頃は、変身する事を拒否して、ベルトを手放そうともしたし、誰か大人に相談するか、最後は警察にでも預けようかとさえ考えていた訳だが、結局俺は最後には戦う事を選択して、今へと至る。
何よりも決定的だったのは、お給料がでるから、というのもあるが。
だって、桁が普通のアルバイトとは桁が軽くゼロが二つは違っていたんだもん。
命を賭けている割には安いかも知れないが、労災が降りそうに無いし、その分を弾んでくれているのだろう。
それにどっちにしても戦うのには、給料を抜きにしても理由があるので、貰えるものは貰っておくべきだ。
貯金しておけば、老後は安泰だし、将来は立派な主夫となるのだから、若い内に自由に使えるお金を作るのも悪くない。
こうして思い出してみると、マスクドライダーとしての生活を受け入れたのが、何だか昔の様にも思えてくる。
実際は一年程度。
されど、もう一年。
どんだけ、この一年が濃密だったんだよと、今更ながら、自分に突っ込みの一つでも入れてやりたくなるわ、本当に。
さて、昔を思い出すのもここまでにして、改めて平塚先生の話を聞かなくては。
「私は高校教師であると同時に、ワームの侵略から人類を守る組織、ゼクトにも所属している」
「それがバイト先の会社名ですか」
何だか、アウトソーシング系な会社名っぽいな。
いや、実際に俺もこうやって、アウトソーシングな感じで、マスクドライダーをやって、金を稼いでいるのだから、あながち間違ってもいないのか。
だとしたら、どんだけブラックな企業だよ。
高校生が、危険労災手当も出されずに、危険度の高い仕事をさせられて、正社員は同時に公務員としての職を兼業してるとか。
もしかして、俺が知らないだけで、今の世の中って、ここまで身を粉にしないと、まともなお給料にすらならないの?
だとしたら、やっぱり俺は専業主夫を目指すわ。
ぼっちにこの世界の荒波は、少しばかりきつ過ぎるので。
「会社か……まあ、君からすれば、仕事を請け負って、賃金を受け取っているのだから、そういう見方をしてもおかしくは無いか。それに隠れ蓑として株式会社も運営しているから、その見解でも正しいとは言える。しかしゼクトは一応は秘密組織だ。どうだ、昔のヒーロー特撮みたいで格好良いだろう?」
「……いや、現実で秘密組織とか、すんごく人間関係とかドロドロとしてそうなイメージしか湧かないんですけど」
知らずにいた方が、良かったかも知れない。
俺はまた、選択を間違ったようだ。
でも、きっとここで知らなければ、もっと後悔するかも知れない事態が待っているのではと、俺は考えている。
だからこそ、これまではお互いに必要以上の干渉を極力避けて来た間柄に、ぼっちである筈の俺が、あえて一歩を踏み込み、現状を知らなければならない。
「俺が聞きたいのは、そういうことじゃないんですよ。何が起こっているのか……それが知りたいだけです」
「ふむ、組織以外の事なら、どういうことを聞きたいんだ?」
「俺の予想だと、平塚先生は、それを俺に話したいから、あんな露骨な誘いをしてきたんじゃないですか」
俺は質問に対して、質問で返す。
今までは、頑なに俺に正体を隠しながら、上司として仕事を提供してきた平塚先生が、最近になって、これだけ派手に動いたのだ。
護衛対象である雪ノ下に、近付き易い様に俺を奉仕部に入部させ、ワームの標的とされた由比ヶ浜に、奉仕部を訪れる様に促したりと、疑ってくれと言っている様なもんだろう。
雪ノ下の時は、まだ半信半疑だったが、由比ヶ浜の時は、先にメモで指令を出す事もせず、本人を送り込んだので、確定したというのが大きいが。
「……実を言うとな。ここ最近、どうもワームの行動がこの近辺で活発になって来て、人手が不足している」
「秘密組織何ですから、人員は沢山居るんじゃないんですか?」
「そう言うな比企谷。どれだけ人を集めても、ワームに通常兵器で相手をするのは難しいというのは、君も知っているだろう」
「ええ、先生のくれたメモを見ましたから」
俺が使っている、マスクドライダーシステム。
これを量産して、ゼクトで戦える人を増やせば、何も問題は無いだろうと思うだろうが、それが出来るならば、こんな一介の高校生でしかない俺が、戦い続ける訳が無い。
お給料が良いからと言って、こんな命賭けな事に、首を突っ込もうなんて思いもしないわ。
あくまで俺の将来の夢は、専業主夫なのだから。
マスクドライダーは、複数のタイプが存在するらしいのだが、共通の機能として、変身には必ずゼクターと呼ばれる。俺の相棒でるホッパーーゼクターと同様の存在が、必ず対で存在しているというのだ。
問題はここからである。
マスクドライダーには、ゼクターが必要だ。
だが、ゼクターはただの機械じゃない。
自身の意思を持ち、行動している。
そしてゼクターは、選ぶんだ。
共に戦ってくれる人間、適合者を。
俺はホッパーゼクターに選ばれたらしい。
だから変身が可能なのだが、その定義はとても曖昧であり、適合者を増やそうと思っても、増やせる訳では無いそうなのだ。
俺みたいなぼっちが適合できるなら、それこそ誰でもなれそうな気もするのだが、今の時点でホッパーゼクターが適合者だと認めているのは、俺だけらしい。
それだけ、ゼクターに選ばれる要素とは、謎に満ちている、と言ってしまえばそれまでだろうか。
しかしそれ以前の問題が一つ。
マスクドライダーシステムは、現代の日本の科学力から見ても、有り得ない程に高度な技術が使われていると分かる。
そんな物が、幾ら得たいの知れない謎のバックボーンがあったとしても、簡単に量産出来る物だろうか。
答えは否。
そんな物がホイホイと作れるなら、それこそこんな誰が使えるか分からない不安定システムに頼るなんて事もしないだろうし、ならば、やっぱりぼっち高校生の俺に、出番なんてくる訳がないという話に戻ってしまう。
だからこそ、平塚先生が、俺にゼクトの名を明かした意味を考えてみる。
いや、考えるまでもない。
既に答えは出ている。
要は人が足りないから、もっと仕事をしろって事だろう。
でも、それだけならば、態々こんな回りくどいやり方で正体を明かす真似なんてせずに、今まで通りメモのやり取りだけで、事足りていた筈だ。
ならそれには、絶対的な理由がある筈だ。
きっとそれは、俺にとって歓迎出来る類の話じゃない。
「この近隣の担当には、ゼクトでは遊撃として扱われている比企谷の他にもう一人、マスクドライダーが居るんだ」
「そうなんですか」
今までここを担当してるのって、俺だけだと思ってたんだが、もう一人居たのか。
つうか、ライダーが別々に活動してるとしても、二人も居て人手が足りないって、相当な数のワームが居るんじゃないだろうか。
「もう一人のライダーは、シャドウという対ワーム用の特殊武装隊のリーダーもやっている。君には今後、彼等とも協力して、これからも戦い続けて欲しい」
「仕事は、これまで通り続けますけど……その人達と仲良くやっていける自信がありません」
ぼっちに求めるハードルが高過ぎるでしょ、平塚先生。
そんな命賭けのチームに俺みたいなのが入ったら、速攻で全滅するだろうよ。
俺みたいな集団行動に適さない奴を、集団の中に放り込んだとしたら、どうなると思う。
まずは、気を使われる。
それも腫物に触るかのごとく、めっさ気を使われるのだ。
その後は、気に入らないと、一部から、若しくは大多数から敵視される。それも親の仇なんじゃないかという程に。
俺ってば、あなた方に一切の敵対意識何て持ってませんよと主張してみたところで、全くの無駄。
それどころか、俺に対して気を使っていた面子とも、反発しだして内部分裂を引き起こす。
もしくは、最後は皆が和解して俺という異物の排除に掛かる。
ソースは俺。いじめかっこ悪い。
「あのな、比企谷。君を戦いの渦中へと送り込んだ私が言えた義理では無いかも知れないのだが、私は心配なのだよ」
「心配ですか?」
「君は何時だって一人で無理をし過ぎる。今、ワームの動きは以前よりも活発になりつつあるんだ。このまま戦い続ければ、君はきっと……」
平塚先生は、最後の部分だけ言葉を濁すが、何を言いたいのかは分かった。
そして最近の、急とも思える雪ノ下の護衛や、由比ヶ浜の依頼。
これには、俺に平塚先生が組織の関係者だと気付かせる以外に、もう一つ意味があったのだろう。
ワームの脅威が、俺が思った以上に、身近に迫ってきているのだという事に。
「……ふぅ」
俺はどうするべきか、考えた上で、溜息を吐く。
「分かりましたよ。取り敢えず、そのシャドウってチームと一回だけなら一緒に仕事をします。それで上手くいかなかったら、この話は今回限りって事でいかがですか」
この提案が、俺に出来る最大の譲歩。
不吉な事を言ってしまうと、最初の仕事が下手をすれば、最後の仕事になってしまう危険性を孕んでしまうが、それは今まで一人で戦った時と変わりはしない。
それに俺としても、気になっては居たのだ。
通常、ぼっちは集団の中で選択権等は持ち得る筈もなく、与えられた役割に準じて、なるべく影を薄くして状況に流されるだけ。
だが、それでは済まされない、何かが起ころうとしているなら、俺は知るべきなのだろう。
「……君の提案を受け入れよう」
数瞬の間、平塚先生は顎に指を添えて、考える仕草をした後に、俺の提案を受け入れてくれた。
いや、元から俺がこの提案をしてくるのも、予測していたのかも知れない。
「それじゃあ早速、今回の仕事だ。今夜七時、このメモ用紙の場所に来るように」
「うす」
俺は平塚先生から、メモ用紙を受け取り、そのまま生徒指導室から出ていく。
何て事は無い。
普段の仕事と、やる事は何も変わらないのだから。
平塚先生から受け取ったメモに従い、俺は夜の六時半過ぎ。
指定場所となっていた公園に来ていた。
流石にこの時間となると、公園に人の気配は無く、薄暗くなった為に街灯がチカチカと中央のベンチをほのかに照らしている。
「やあ」
そんな人気の無い筈の公園で、やけに明るい男の声が響く。
普段ならば、俺に話し掛けて来る人間なんて、学校ならば一部を除き、皆無と言えるのだが、この声は明らかに俺に向けて発せられていた。
だから俺は、勘違いだったら、軽く会釈でもしてやり過ごそうと思いつつ、俺は声のした方に振り向く。
其処に居たのは、見覚えのある、俺と同じ制服のブレザーを着たイケメン。
見覚えがあるのは、当然だろう。
このイケメンの名前は、葉山 隼人。
俺と同じ2年F組のクラスメイトであり、成績優秀、スポーツ万能でイケメンで、性格良いと、それ何処の少女漫画の王子様設定だよと言いたくなる程のリア充振りであり、当然ながらぼっちの俺とは違い、スクールカーストの頂点に位置する。
イケメンリア充なんて、爆発してしまえば良い。
思えば、今日の昼休み、俺が直接関係した訳では無いが、葉山グループの中で、由比ヶ浜が三浦という葉山と同じくスクールカーストの頂点に君臨する女王と、ちょっとした一悶着あったので、余計に印象に残っていた訳だが、お前は確か最初、三浦にアイスを食べに行こうという誘いを、用事があるからと言って断っていなかったか?
どうしてこんな、人気の無い夜の公園に居るんだよ。
「同じクラスのヒキタニ君だよね?」
誰だよヒキタニ君って。
そんな奴、クラスにいねぇっての。
「ども」
だが同じクラスに居ながら、俺と葉山の住む世界は地獄と天上界並に違う事が、俺のDNAレベルにまで刻み込まれたぼっち力が感じ取ったのか、名前を訂正する事も出来ず、腰を低くして挨拶をするしか出来なかった。
悔しい! でも感じちゃう! 何て事実は存在しない。
ぼっちにとっては、当たり前の反応と言っても良いだろう。
「平塚先生から話は聞いたよ。今日は宜しく頼む」
俺が格差の違いに、世界の理不尽を感じている時に、葉山が何気に告げた言葉によって、俺の中の疑問が一つ解決する。
この時間帯に、公園に居て平塚先生が話題に出て来るとしたら、答えは一つしかないだろう。
「知ってるとは思うけど、俺がシャドウの隊長の葉山 隼人だ」
いや、何も聞いてないから。
でも、何となく予想で出来てたわ。
「そして、彼等が俺の部下である、シャドウの隊員達さ」
葉山の号令の下、さっきまで人気の無かった筈の公園に、黒尽くめで虫っぽいマスクを付け武装した10人程の集団が姿を現す。
なに、このテロリスト集団。
超怖いんですけど。
何気に入っている金色のラインとか、それ何のオシャレポイント?
まあ、平塚先生から渡されたメモに書かれていたので、多少は知っていたのだが、この武装集団は、ゼクトルーパーという、マスクドライダーとは別の対ワームの戦闘要員だ。
「ど、どうぞ宜しく……いひ」
初対面という事もあり、俺なりに笑顔で挨拶してみたが、何か同時に変な声が出た。
恥ずかし過ぎる。
「それじゃあ早速、今回の作戦を伝えるよ」
挨拶もそこそこに、葉山の指揮の下に、簡単な作戦の打合せが開始された。
今回の仕事は、集団のワーム討伐となるのだが、確認されている成体のワームが二体と幼体のワームが五体の計七体の殲滅。
この公園で夜にダンスをしている近くの大学サークルの半数が、ワームの擬態と既に成り代わっているのだそうな。
基本的に成体となったワームのクロックアップに対抗出来るのは、同じくクロックアップが使えるマスクドライダーだけだ。
なので戦術としては、成体のワームを、ライダーが引き受け、その間に幼体ワームの相手をシャドウがして倒すという流れである。
まあ、最初はどうなるか不安だったが、この作戦なら、そんなに俺がシャドウと関わる事も無さそうなので、安心と言えるかも知れない。
「そろそろ時間だ。作戦を開始するよ」
葉山の号令に従い、シャドウの面々が、公園の木の影等に隠れ、今は制服姿の俺と葉山だけが、公園の真ん中に居るという状況だ。
全ての準備が終わり、七時を少し過ぎた頃、動き易い服装をした若者達が公園を訪れる。
「……あれか?」
「うん。少し予定と違うけど、手筈通りに行こうか」
俺と葉山の役割は、簡単に言えば囮だ。
本当ならば、ワームとそれ以外の人の選別をする予定だったのだが、公園に入って来た人数は丁度7人だけ。
つまり、今回の仕事にあったワームの数と人数が一致しているのだ。
なので、俺と葉山は真っ直ぐにワーム達に向かって歩いていく。
流石に俺達に気付いたのか、いや、ワームの五感は人間を遥かに上回る。
ならば既に、この公園に潜んでいるシャドウの隊員達の、不穏な気配にも感付いているのかも知れない。
その証拠に、一言の言葉すら交わす事も無く、彼等は人間としての姿を捨てて、ワームとしての本性と姿を露わにする。
まあ、色々と手間が省けたのは、良かったと言える。
情報通り、ワームの内、五体は見慣れた緑の幼体。
そして問題の成体ワームの二体は、カマキリの様な細身で両腕に鋭い鎌を持つ姿をしていた。
違いと言えば、赤い表皮と青い表皮の違い位だろうか。
俺はブレザーのボタンを外していき、中に身に着けて置いたベルトのバックルを開く。
その隣では葉山の奴が袖を捲り、ゴツイ腕輪を露わにする。
「来い! ザビーゼクター!」
葉山は声高らかに叫ぶ。
なにその掛け声。
まるで今時の、イケメンヒーローみたいなんですけど。
葉山が叫んだ直後、蜂型のゼクターが飛来して葉山の手の中に納まり、その間ホッパーゼクターも地面を跳ねながら俺の手の中へと飛び込んで来る。
「変身!」
「……変身」
隣で格好良く変身と叫び、ゼクターを腕輪に嵌める葉山の隣で、俺は横で静かにゼクターをベルトにセットした。
何て言うか、葉山の隣で変身するのは、何だか居た堪れなくなる。
だって、葉山の奴、どう見たって正義のヒーローなんだもん。
その隣で似た事をしてる俺ってば、比べられたらきっと、すんごくみすぼらしく見えている自信があるぞ。
『ヘンシン』
『ヘンシン・チェンジ・キックホッパー』
其々に音声を響かせて、俺の身体には、緑のプロテクター、葉山は黄色をベースとしたプロテクターが、その身に纏われていく。
俺が変身したキックホッパーよりも、更に武骨で大きなプロテクターと顔を覆う六角形がまるで蜂の巣を連想させる、葉山の変身したマスクドライダーは、ザビーというらしい。
キックホッパーは、マスクドライダーとしては後期に開発されて、機能がオミットされたらしいのだが、初期から設計されたマスクドライダーには、マスクドフォームと、ライダーフォームという二つのフォームを使い分けるのが仕様だったのだそうな。
葉山が変身するザビーも、その例に漏れず、今の姿は通常での戦闘と防御力に適したマスクドフォームなのである。
そして、俺と葉山が変身したのを合図に、シャドウの隊員達が、一斉に公園の茂みから飛び出て来た。
「ワームの成体は俺とホッパーで対処する。お前達は幼体と距離を取りつつ、遠距離から射撃で分断し、各個撃破だ。無理だけはするな!」
葉山はシャドウの隊員達に、命令を下すとすぐに成体ワームの赤い方へと飛び掛かって行く。
任された以上、俺も黙っている訳にはいかないので、急いでもう一体の青い方の成体ワームに向かって駆け出した。
「はっ!」
ザビーは基本的に、ボクシングスタイルを得意としているのか、軽いフットワークで、ワームの両腕の鎌による攻撃を避けながら、タイミング良く、拳を喰らわせ確実にダメージを与えていく。
「ほっ! はっ! とっ!」
俺もそのすぐ隣で避け様に蹴りを喰らわせる。
上半身に攻撃するのは、鎌の反撃を受けそうなので、主にローキックで足を攻め落とす。
シャドウの皆さんも、危な気無く連携してワーム達と戦っているので、これなら無事に戦いを終わらせる事が出来るかも知れないと思えたが、そんな簡単に決着がつくならば、何の苦労も無い……。
俺とザビーが相手をしていた成体のワーム二体の姿が急に、掻き消えたのだ。
「ぐわ!?」
「おうっ!?」
次の瞬間、シャドウの戦闘員達が何の前触れも無く、吹き飛ばされていく。
これは間違いなく、成体ワームによるクロックアップが原因だろう。
「総員、しゃがんで防御態勢に入れ!」
状況は素早く判断したザビーは指示を出すと同時に、腕輪のゼクターを斜めに傾ける。
そうすると、上半身の装甲が次々と浮き出ていった。
「キャストオフ!」
『キャストオフ』
更にザビーが叫びながら、ゼクターを反転させると、音声が流れ、浮かび上がっていた装甲が勢い良くパージされて、幼体ワーム達に弾丸の様に降り注いでいく。
『チェンジ・ワスプ』
装甲がパージされたザビーの姿は、よりスマートな体躯となり、頭部の仮面の形状も、蜂を模した物へと変化している。
何か良いな、キャストオフ。
どうして、ホッパーではオミットしたんだよ。
俺だって格好良く、キャストオフとかしてみたかったわ。
まあ、何時までも羨ましがっている訳にもいかないので、俺も行動に移す事としよう。
さっきの戦いからも気付いていたのだが、どうもああいう獲物? 持ちで動きが素早い相手には、キック主体の攻撃はし辛い。
ならば、こっちとしても、手数を増やせる拳を主体として戦法にした方が効率的である。
俺は、ベルトにセットしていたホッパーゼクターを一時的に取り外す。
だが、別に変身を解除するつもりではない。
そのまま、緑側の部分を表面に使っていたのを、反転させて、茶色いカラーリングの方を表にして、再びベルトへとセットする。
『チェンジ・パンチホッパー』
音声を合図に、緑を主としたプロテクターのカラーリングが茶色へと変わり、二つの複眼も赤から白へと変わる。
そして一番の変更点は、今まで足に付いていたジャッキが腕に再形成された事だ。
ホッパーゼクターには、他のゼクターと違い、マスクドフォームは無いが、その代わりに、状況に応じてキック主体とパンチ主体の姿を切り替えるリバーシブル能力が存在している。
まあ、基本的な戦闘能力は、殆ど変らないので、単に使い分けるという意味でしか無い訳だが、こういった時には有効と言える機能だと言えなくも無い。
「「クロックアップ!」」
『『クロックアップ!』』
そして準備を終えた俺と、ザビーは同時にクロックアップで、通常では至る事の出来ない時間の流れの中へと飛び込んでいく。
通常では有り得ない程の遅さで進む時間の中、予想通り先にクロックアップをしていた二体の成体ワームがシャドウの隊員達に襲い掛かっている姿があった。
「止めろおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ザビーは叫びながら、ワームへと突貫していく。
その後に続き、俺もザビーが向かって行ったワームとは、別の方のワームに向かって走り出す。
俺とザビーの接近に気付いたワームが、臨戦態勢を取るが、同じクロックアップという土俵に上がった今、今度は簡単に逃がしはしない。
迫り来る鎌が、俺を切り裂こうと迫るが、難なく避けて俺はカウンター気味に拳を叩き込む。
それはザビーも同様で、怒涛のラッシュでワームを吹き飛ばした。
更に俺とザビーは行き掛けの駄賃とばかりに、幼体のワーム達にも、致命傷となる威力の攻撃を叩き込んでいく。
クロックアップの残り時間も、後僅かといったとこだろうか。
決着を急ぐ必要がある。
ザビーもそれを分かってか、俺に視線を向ける。
別に以心伝心という訳では無いが、何を言いたいのかは大体分かったので、俺は適当に頷きながら、ゼクターのレバーを反転させた。
「ライダージャンプ」
『ライダージャンプ』
一時的に強化された脚力によって、俺は夜の公園の空へと大きく跳躍して、再びゼクターのレバーを引く。
「ライダーパンチ」
『ライダーパンチ』
今度は右腕にエネルギーが集約され、俺は上空から右拳を振り上げて、ワーム目掛けて急降下していく。
「ライダースティング」
『ライダースティング』
その間に、ザビーもゼクターのスロットル部分に指を押し当て、必殺の一撃を放つ準備を整える。
攻撃のタイミングは、ほぼ同時。
俺の放ったライダーパンチとザビーのライダースティングという、ゼクターの蜂を模したニードル部分を突き刺す攻撃が二体の成体ワームを貫き、時間は再び通常の流れを取り戻す。
『『クロックオーバー』』
次々と連鎖的に、爆発を引き起こしていくワーム達。
それはまるで、俺達の勝利を祝福する、花火の様にも思えたが、俺はどうにも気分が晴れなかった。
こんな団体行動何て、気を遣う以外の何でも無い。
やっぱり俺は、何をするにも一人でやる方が向いているのだと、改めて実感した。
「という訳で、俺はこれからも一人で戦います」
「そうか……実は葉山から、君を正式にシャドウに入隊させたいと打診があったのだがな」
「丁重にお断りします!」
公園での戦いの翌日。
俺は生徒指導室で、平塚先生に、改めてお断りの連絡をしていた。
何やら、今回での戦いでは妙な評価を受けてしまった様だが、あれはそんなに連携を必要とはしない戦いだから、上手くいったというだけで、次回も上手く行くという保証は、何処にも無い。
それに、あれ以上は絶対に俺という存在が、上手く纏まっていた輪を乱す事になると判断出来たので、これ以上はなるべく関わらない方が良いだろう。
「……まあ、そういう約束だったからな」
「今回みたいに、助っ人が必要だって時は手を貸しますから、その時はまた声を掛けてください」
俺はそれだけを告げて、生徒指導室を出て、一人、廊下を歩く。
結論、ぼっちは慣れないグループの中に居ると、それだけでかなり疲れる……。