またしても書いてしまいました。
もう、このまま連載にしてしまえば良いんじゃないかと言われそうな勢いで書いてしまっていますが、やっぱりまだ、短編ということで勘弁してください。
いや、この俺がいるのキャラって書いていて楽しいんですよね。本当に。
それではまた次回を書くかどうかは、完全に未定ですが、今回も楽しんで頂けたら嬉しい限りです。
今更ではあるが、俺が所属している奉仕部は、普段から何をしているのか、良く分からない部活だ。
端的に言えば、生徒の悩みを聞き、それを解消する為の手助けをするというのが、基本理念だと分かるのだが、雪ノ下は普段から読書をしているだけだし、俺に関しても、何故かワームと戦ってばかりと、この部活に対しての意義を疑問に思う事が多々としてある。
しかも、何故か以前の依頼から、由比ヶ浜が雪ノ下に懐いてしまったのか、今も部活では、どういう経緯を辿ってか、ラーメン談義をする始末。
だが、思い返してみれば、そんな事を考えていられる内は、平和だったのだと、改めて俺は実感する。
何故ならば、騒動の種はすぐ其処にまで、迫っていたのだから。
いや、もしかしたら、こんなくだらない事を考えていたから、変なフラグでも立ったのか知れない。
翌日の放課後。
何時もと変わらぬ、ぼっちとして輝かしい一日を過ごした俺が、義理堅くも部室に向かうと、珍しい事に、部室の前に雪ノ下と由比ヶ浜が、並んで部室のドアの隙間から、中の様子を覗っていた。
つまり今、部室の中には、二人の侵入を拒む何かがある、という事だろうか。
正直に言おう。
このまま、帰ってしまっても良いだろうか?
絶対に、碌な事じゃないだろう、これは。
しかし、奉仕部はへの参加は、俺のみ強制であり、もしも今日、何の理由も無くボイコットするれば、間違い無く雪ノ下達から、平塚先生へと連絡が回るだろう。
怒られるだけならば、まだ良いが、下手をすればまたシャドウとの、合同作戦に駆り出される可能性すらあり得る。
それならば、まだ目の前の謎を解き明かす事に従事しておいた方が、幾らかマシな筈だ。
俺は自分にそう言い聞かせながら、雪ノ下達の背後に立つ。
「何してんだ?」
「きゃうっ!?」
俺が声を掛けると、普段のクールな雰囲気とは掛け離れた、可愛らしい悲鳴を上げる、雪ノ下。ついでに由比ヶ浜の身体が一緒に跳ね上がる。
「ひ、比企谷君……びっくりしたわ」
「俺の方こそ驚いたっての」
予想外のリアクションに、声を掛けた俺の方が、よっぽど驚いたわ。
「そ、それよりもヒッキー。部室の中に、変なのが二人も居るんだよ」
「変なの?」
俺と雪ノ下の会話に割って入った由比ヶ浜が、涙目で俺に訴えかけてくる。
変なのって何なんだよ?
「……しかも全く同じ顔なのよ。あんな生き物が二人も居るなんて、まさか種として確立された存在なのかしら」
おい、止めろ雪ノ下。
それってきっと、双子だとか、そんなオチだろう。
幾ら自分の常識で測れない奴がペアで居たからって、初対面というか、まだ直接話してすら居ない人を、人類の枠組みというカテゴリーから、外しちゃいけません。
というか、雪ノ下に見ただけでそこまで言わせる何て、どんな奴等だよ。
関わりたくないと思いつつも、好奇心に負けて、俺はゆっくりと部室のドアを開け放つ。
途端に、海に近い、この地域特有の潮風が俺の頬を撫で、室内にあったプリントが風な中に盛大に舞う。
それはまるで、レトロなマジックショーでハトを大量に出したかのような光景だった。
だが問題は其処じゃない。
プリントの舞い散る奥に佇む、二人分の人影。
「「ククク……まさかこんなところで会おうとはな」」
ステレオで喋り始めた二人を前に、俺は素早く扉を閉めて、全てを無かった事にした。
俺は何も見ていない。
そして俺は、今日はお腹が痛いので帰る。これで完璧。
「ねぇ、何か教室の中から、比企谷君を呼んでる声がするけれども、知り合いじゃないの?」
「さあ? 少なくとも俺は知らないし、何も見なかったからな」
雪ノ下も変な事を言う。
あんな、材木座 義輝なんて生き物、俺が知る訳がないじゃないか。
それに、俺の見間違いなのか、奴は二人も居た様に見えたし。
きっと疲れてるんだな俺。
やっぱり早く帰って、今日はゆっくり休むとしよう。
「「おーい! 吾輩を無視するでないぞー! 比企谷八幡! いや、相棒!」」
部室の中から、幻聴が聞こえて来る。
やっぱり俺、疲れてるんだな。
「ヒッキーのこと相棒って言ってるけど……」
あれ? おかしいな。
幻聴の筈なのに、由比ヶ浜にも、聞こえてるっぽい。
というか、俺をあれの相棒とか、死ねば良いのにという目で見るの、止めてくれませんかね。
「……仕方ないか」
どうやら幻聴で済ませ、この二人をやり過ごすことは無理だと悟った俺は、非常に遺憾ながら、もう一度、部室のドアを開ける。
部室の中には、もうすぐ初夏だと言うのに、こってりとした汗をかきながら、コートを身に纏い、指貫グローブを装備した材木座が……どういうことか二人居た。
ここで断っておくが、材木座の様な、生物は人類上では一人しか居ない筈だ。
顔がそっくりな兄弟とか、双子という線は絶対に無い。
「おお! やっと話を聞く気になったか! 我が相棒よ」
「それでこそ、我と共に地獄の戦場を駆け抜けた同志!」
「だから、ステレオで喋るなっての! それに材木座。お前って単細胞生物だったんだな。分裂したんだったら、ちゃんと片方は処分しとけ。これ以上増えたら、地球に迷惑が掛かるだろうが。それに地獄の戦場って、ただ体育でお互いペアが組めなかったから、ぼっち同士で組んだだけだろう……」
「「あの様な地獄。ぼっちには過酷、という以外の何物でも無いわ!」」
その意見には賛成するが、ステレオで喋るのは本当に止めてくれ。
今度こそ、本当に幻聴でも聞こえてきそうだ。
まあ、ふざけるのもここまでにして、そろそろ本題に入るとしよう。
「で、何の用だ。材木座」
「「ふっ良くぞ聞いた! 我こそは剣豪将軍! 材木座……」」
ダブル材木座がメガネを光らせ、自分の脳内設定を口走り始めたその時、俺のブレザーの袖を、雪ノ下が軽く引っ張る。
「あの、比企谷君。 色々と聞きたいことはあるんだけど、彼ってもしかして……」
何処か言い難そうにはしている雪ノ下だったが、何を言いたいのか、大体の見当は着く。
曲がりなりにも、彼女は一度、同じ場面に遭遇していると言えるのだから。
その答えに行きつくのも、当然と言えるだろう。
「ああ、二人の材木座の片方は、きっとワームの擬態だろうな」
「やっぱり、そうなのね」
俺の答えに、雪ノ下は以前の事を思い出したのか、一歩だけ後退りつつも納得した。
さて、ここから先、問題となるのは由比ヶ浜だ。
まだ、雪ノ下は、ワームの存在を知っているから良いとして、何も知らない由比ヶ浜をそのまま、この先の話に付き合わせるのは忍びない。
どうにかして、由比ヶ浜には、この場から退場してもらうのが、本人の精神衛生上でも良いだろうからな。
だが、俺のそんな紳士的な気配りとは裏腹に、由比ヶ浜が俺に予想外の発言をぶつけてくる。
「あれって、この前、校舎裏でヒッキーが変身して戦ってた怪物の仲間……何だよね? 倒さなくて良いの?」
「は? え? お前……見てたの?」
「うん。ヒッキーて、変身ヒーローなんでしょ!」
今、明かされる驚愕の事実。
俺の勘違いから始まった、あの戦いを当人である由比ヶ浜に全部見られていたらしい。
いや、結局は、由比ヶ浜が狙われていた訳だし、最初から何時ばれてもおかしくは無い状況だったのかも知れないけれど……。
というか俺は、アルバイトでマスクドライダーをやってるが、あれはただの仕事で、別に正義の味方じゃないから! 本当のヒーローは葉山みたいな奴を言うんだろうよ。
俺は何だかやるせない気持ちになりながら、二人の材木座にもう一度向き直る。
「そんで、もう一回聞くが、何の用だ」
「おおっと、そうであったな!」
「ゴラムゴラムっ! 平塚教諭にここが奉仕部だと助言頂いたのだが、相違無いか八幡!」
またしても平塚先生の差し金かい。
こりゃもう、決定と言っても良いだろうな。
「ええ、ここが奉仕部で間違い無いわ」
材木座は俺に質問を投げ掛けたが、返事をしたのは雪ノ下だった。
すると二人の材木座は、ちらっと雪ノ下を見るがすぐに俺の方へと視線を向ける。
何がしたいんだよ、お前等は。
「ムハハハッ! ならば八幡よ! お主には我が願いを叶える義務があるということだな!」
「吾輩の願いを叶える為に尽力するが良いぞ八幡!」
「別に奉仕部は、貴方達の願いを叶える為の部活じゃないわ。ただ手助けをするだけ。貴方達の願いが叶うかどうかは、本人の努力しだいよ」
「「……」」
またしても俺に振った話題に、返答したのは雪ノ下だったが、二人の材木座は、何かを訴える様な視線を、俺へと向けてくる。
だから、本当に何がしたいんだっての。
「そ、それでは八幡!」
「ふ、再び我と手を組み世界を……」
「私が話しているのだから、ちゃんとこちらに顔を向けなさい」
またしても、材木座達が俺に話題を振ろうとするが、これを雪ノ下が、完全にシャットアウト。
マジで雪ノ下さん怖いわ。
この氷の女王様は、喋れば毒をまき散らす癖に、礼儀作法には凄く煩い。
おかげで、俺も部活の時は、必ず挨拶する様になったもの。
「「……む、ムハハハ! モハハハッ! これはしたり」」
「その話し方もやめなさい。気持ち悪いから」
「「……」」
俺、思うんだ。
時に言葉って殴る以上の暴力になるんじゃないかってさ。
何か由比ヶ浜は、ゆきのん逃げてーって言ってるけど、もう哀れ過ぎて、俺は材木座逃げてーっと言いたい程だわ。
それにこのままでは収拾が着かないので、俺は一旦、意気消沈したダブル材木座から雪ノ下を離して、材木座が患う厨二病という、とても厄介な奇病についてレクチャーした。
その際に、俺までが同類とみなされて、雪ノ下と由比ヶ浜から、死ねば良いのにという、視線を向けられて、思わず自殺してしまいそうな感じになったが、何とか俺は踏み留まり、明日も元気に生きて行こうと、死んだ魚の様な目に、希望を宿す。
「つまり、貴方達の願いはその病気を治したいということで良いのね?」
「「あ……いえ、特に病気という訳では無いので」」
今までにない優しい笑顔を浮かべつつ言い放った雪ノ下に対して、ダブル材木座は、既に気力を使い果たしたのか、俯き加減で素に返してしまっている。
普段の将軍だなんだのと高いテンションで騒いでいる姿は、まるで見る影も無い。
完全な素だ。
何だかこれ以上は、流石に材木座でも酷過ぎると思った俺は、さっさと現状を打破するべく、ある秘密兵器を借りに、部室を出ようとしたのだが。
「待ちなさい。何処へ行くの比企谷君」
「ああ、これからちょっとアンチミミック弾でも借りてこようかと」
待ったを掛けた雪ノ下に俺はそう言って、部室を出ようとするのだが、今度は二人の材木座に、腕を掴まれて、このまま置いて行くなと泣きつかれる。
本当に勘弁してもらいたい。
ちなみにアンチミミック弾とは、この前、公園でのシャドウとの合同作戦の時に、葉山から聞いたのだが、擬態したワームの正体を暴く事が出来る、特殊弾なのだそうだ。
これさえ、あればどっちがワームかすぐに分かる。
「ま、待つのだ八幡! 我が兄弟は悪い奴では無いのだ!」
「はい?」
しかし俺がそのままこの巨漢二人を振り切ってでも部室から脱出しようとしたその時、材木座の片方が、予想外な発言をしだした。
「確かに我の方が、ワームの擬態である! しかし我に人類と争う気は無いのだ……」
そして、もう片方の材木座が自分がワームであると自ら告げた。
この問答で、俺は平塚先生が、俺に何をさせたいのか、概ね把握する。
全くもって……本当に最近は厄介な仕事ばかりが回って来るな……。
「ヒッキー。何がどうなってるの?」
「ちゃんと説明してくれるんでしょうね」
俺と材木座のやり取りを見て、由比ヶ浜と雪ノ下が、説明を求めてくる。
まあ、この二人も、ワームとは無関係とは言い難いし、説明しても良いだろう。
きっと平塚先生も、それを踏まえた上で、材木座に奉仕部へ行くように言ったのだろうし。
「ああ、今説明する。その材木座に擬態したのはな。ワームの大きなグループに属していない、言わば俺達の言い方でいうぼっちだ」
「「は?」」
俺の説明に対して、雪ノ下と由比ヶ浜の目が点になっているが、俺は構わず説明を続ける。
「ワームって一口に言っても、一枚岩じゃ無いらしくてな。殆どは人間を襲う為に徒党を組んでる奴等ばっかりなんだが、稀に自分の意思で群れに属さず、単体で行動する奴が居るんだよ」
無論、そのタイプのワームも大抵は人を襲う。
だが稀に、擬態をする事によって、大きな変化をもたらす場合も実際にあるのだ。
「ワームの擬態は、その擬態した相手の容姿に限らず、その記憶の全てもコピーするって言ったよな」
「ええ」
「そ、そうなんだ」
俺の確認に、雪ノ下は頷き、由比ヶ浜は視線を擬態した材木座へと向ける。
「つまり、人間一人の全てを丸々取り込むって事だが、そんな事をすれば当然ながらワーム自身の方にも何かしらの形で影響が出てくる」
つまり、ワーム自身の行動や考え方が、擬態した人物に引っ張られるという事だ。
殆どの場合は、趣味嗜好や細かい癖等が、無意識に出てくる程度で、ワームの考え方自体に変わりは無いのだが、例えば、擬態しようとした人物が擬態をした時点で、そのワームに強い憎しみを抱いていれば、記憶の統合が図れずに、完全に人間とワームの姿の時に記憶が別となったり、強く高い目標や、生き方、我の強い人物に擬態するとワームの性格や行動は更に人間側へと引っ張られていく。
「この材木座に擬態したワームは、材木座の生き方、その物を吸収した訳だ」
「それは……不憫ね」
「何だか可哀想」
俺の下した結論を察してか、雪ノ下と由比ヶ浜までもが、擬態材木座に、同情の念を送る。
「あれーッ!? 其処でしんみりされると、吾輩の存在意義が非常に危ぶまれる気がするんですけどもっ!?」
心配するな材木座。
危ぶまれるも何も、雪ノ下に至ってはお前の存在を、人類のカテゴリーから除外して考えてたから、そんなもんは今更だ。
「我は、我が兄弟に擬態する事によって、人類の素晴らしさを知ったのだ。世に広がるエンターテイメントの数々。これはワームでは生まれない至高の存在だ。例え、全人類がワームに擬態されたとしても、ワームの世界では、やがて存在ごと消えてしまう……そんな事になれば、我はもう生きてはいけぬ!」
物凄く深刻そうに、語ってくれた擬態材木座ではあったが、要は強烈なまでの厨二病な材木座の記憶に当てられて、ワーム自身もオタク化したという事である。
そして、このオタク文化はワームが世界を支配すれば廃れてしまうと、分かったからワームの最も大きな派閥に対して、反旗を翻したという訳だ。
「稀に、こうやって人間の側に寝返るワームも居るんだよ。本当に数は少ないけどな。そんなワームは、組織に保護されるんだけどな……」
当然ながら、それはワームの大多数に対しての反逆行為。
相手に多くの情報が渡る可能性があれば、どうするか。
それは人間の歴史を見ても、明らかだろう。
「つまり、彼は仲間である筈のワームに命を狙われていると言う事かしら?」
「だろうな」
「そ、それって凄く危ないんじゃないの!?」
だからこそ、俺のところに来たのだろう。
本来は、組織が保護して、安全な場所に移されて、護ってもらう代わりに、ワームの研究対策に協力するというのが、こういったケースのセオリーではあるのだが、その護送準備には、それなりの時間が掛かる。
そうなると、それまでは常にワームに襲われる危険性が付き纏う。
今、この街に常駐しているマスクドライダーは、俺と葉山の二人。
だが、葉山はシャドウの隊長を兼任している上に、今も何処かに潜んでいるワームに目を光らせていなければならないだろう。
そうなると、今この街でワームと対抗する力を持っていて、ある程度は自由に動ける存在は俺だけとなる。
「そんで、俺は何処までこのバカの片割れを護衛すれば良いんですか? 平塚先生」
分からない事は、分かる人に聞けば良い。
俺は説明の途中から、音も無く奉仕部へと近付き、後ろで聞き耳を立てていた、我が奉仕部の顧問へと質問を投げ掛けた。
「それはな……」
「平塚先生……いつも言いますが、入る時はノックをしてください」
俺の質問にキメ顔で答えようとした、平塚先生であったが、我らが氷の女王様の厳しいお叱りの言葉によって、見事に遮られてしまう。
何の事前説明も無く、こんな厄介な厨二病ワームを送り込んで来た、罰だなこれは。
「それで、これは何なんですか?」
「何がって、どう見ても君の専用バイクじゃないか。何が不満なのかね」
俺の質問に、ドヤ顔で答える平塚先生。
これぞヒーローの乗り物だと言わんばかりの、黒を基調とした中型のオンロードタイプで、フロントカウルには、ホッパーゼクターを模した紋章がプリントされているという徹底振り。
特撮番組の中でヒーローが乗るなら、素直に格好良いと思えるかもしれないが、リアルで乗ってたらこれって、ある意味、オタクの痛車の亜種だよねと、思ってしまうのは、俺だけだろうか。
奉仕部から、というか学校の敷地外から出て、人通りの少ない裏路地へと平塚先生に案内された俺は、其処に置かれていたバイクに、憤りを感じていた。
「ちなみにバイクの名は、マシンゼクトロンだ。これから君の愛機となるのだ。大切にしたまえ」
「あの、そもそも俺はバイクの免許を取った覚えが……」
「ゼクトに抜かりは無いぞ。これが君の免許だ」
何とかこの痛車が譲渡されるのを回避しようと試みるが、俺が言い終わるよりも先に、平塚先生が俺が取った覚えの無いバイクの免許証を渡してくる。
「これって偽造じゃ……」
「大丈夫。君もゲーセンでバイクゲームを良くするだろう。あのゲームはマシンゼクトロンの操縦用シュミレーターに改造してあるし、その際のデータを基に君専用にこのバイクは設計しているから、問題無く乗りこなせる」
「いや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて」
つうか、俺の通ってるゲーセンに、何を仕込んでるのゼクト!?
やけに難しくて、逆に嵌ってやり込んでたんですけど、あれってそういう事だったのかよ!
そもそも、この免許だって、出自が怪し過ぎるでしょうが。
でもきっと、この免許も、法的には問題無いで通ってしまうのだろう。
改めて思うと、秘密組織って怖いわ。
俺は諦めと共に、深く溜息を吐き出す。
「なかなか、良いデザインだと思うわよ。比企谷君らしくて」
「ほ、ほら! ヒッキーはヒーロー何だし、に、似合うよ!」
「「専用バイクとか羨ましいぞ八幡! 我も自らに相応しい愛機が欲しいぞおおおおおおおおお!」」
バイクを前に黄昏る俺に、雪ノ下達が、励ましとも、止めとも言える生暖かい声を掛けて来るが、ダブル材木座は、本気で羨ましがっているから、本当に困る。
俺だって、バイクは格好良いと思うよ。
だけどな、それはこんなんを普段から乗りまくって違和感なく居られるかどうかだって事だ。
葉山みたいなイケメンが乗ってれば、まだ絵にもなるし、周囲の反応だって、あれ? これからドラマの撮影でも始まるのかな、何て思うだろう。
だがこれが俺の場合は、どんな反応が来るか。
うわ、あれ、オタクって奴でしょ? いやぁねぇ~と近所のおばちゃん達に噂される事、必至だ。
そんな苦行に毎日、耐えろとか、この世界の神はドSで間違い無い。
さて、どうして俺が神のあらゆる方面からの痛すぎる試練に、耐えなければいけないこんな状況となったのか。
それは、奉仕部にやって来た平塚先生から、正式に依頼された仕事をする為である。
今回のバイトの内容は、材木座に擬態したワームを安全な範囲まで移動させる護衛任務。
既に、俺の愛機となった、痛車なマシンゼクトロンの脇には、偽装したマイクロバスにゼクトルーパーの皆さんが待機してくれている。
俺はこれから、護送中に襲って来るであろう、ワームからこのバスを守りきるという事だ。
「これで、我が兄弟ともお別れなのだな……」
「兄者よ。我は感謝している。我が兄に擬態しなければ、このような素晴らしき世界が在ったのだという事に、気付く事が出来なかったかも知れぬのだからな」
「弟よ……何時かまた、共に天下統一の夢を共に果たそうぞ!」
「フフッ、それまで暫しの別れ。我は待っておる。再び兄者と、共にラノベ談義が出来るその時を!」
ダブル材木座は、感極まったのか、別れの時を惜しみ、涙し暑すぎる抱擁を交わす。
いや、感動の別れのシーンだって分かっては居るんだけど、本当にもう熱いんじゃなく、ただ見た目的に暑苦しい。
見ろよ。
雪ノ下と由比ヶ浜何て、本気でドン引きしてるからな。
「さて、そろそろ時間だな」
平塚先生が、そう告げると、最後にまた会おうとお互いに誓いを立てて、擬態材木座がバスの中へと乗り込む。
それじゃあ、俺もそろそろ準備をするとしますか。
バスのエンジンが掛かったのを確認してから、俺はブレザーのボタンを外し、中に身に着けたベルト「のバックルを開く。
何処からともなく飛び跳ねて来たホッパーゼクターを掴み、俺は、もう一度、これから長い付き合いとなるであろうマシンゼクトロンを見て、溜息を零しつつ、ベルトにゼクターをセットする。
「……変身」
『ヘンシン・チェンジ。キックホッパー』
音声が流れ、俺の上半身を緑のプロテクターが覆い、無事にキックホッパーへと変身を果たした俺は、ゆっくりとマシンゼクトロンのシートに跨り、エンジンを起動させる。
初めて座った筈なのに、やたらと座りなれた感じがするという違和感を感じつつも、俺は頭を仕事に切り替えた。
「比企谷。後は頼むぞ」
「帰りを待ってるわ」
「無茶しないでねヒッキー」
「我が弟の命……友に託す!」
平塚先生を始めとして、ここに残る奉仕部の面々から出掛けに言葉を貰い、俺は片手を挙げて答え、改めてバイクでバスに追従する形で、護衛を開始する。
比較的に表通りを走るが、案の定人通りは無いに等しい。
それというのも、ゼクトが、俺達が通る予定の通行ルートに対して、人払いを行った為である。
基本的に、護送中は安全な範囲に辿り着くまで、何処で戦闘になるか、予想が付かない。
護送の為に準備が掛かるのも、この人払いを徹底させる必要がある為だ。
そして、人払いをした意味は、そう時間を掛ける事無く発揮する事となる。
「来たか」
バスの前方に、屯する緑の怪物の集団。
間違い無く、裏切者である擬態材木座を狙ってきたワーム達だ。
このまま強引に突っ込むというのも、一つの手ではあるが、もしもそれでワームの何匹かがバスに取り付きでもしたら、厄介だ。
ならば、ここはあれで蹴散らしておくべきだろう。
俺はマシンゼクトロンに、あらかじめ積んでおいた、ある武器を取り出す。
丸みを帯びた形状に四つの射出口のある、この武器の名前は、ゼクトマイザー。
簡単に言えば、マスクドライダー専用の追尾型爆弾製造器と言ったところだろうか。
「これでも喰らっとけ!」
俺は一度、バスの前に出てゼクトマイザーを起動させる。
中央上部のタッププレートを押す事によって、小さなホッパーゼクターの形をしたホッパーボマーという、追尾能力を持った、小型爆弾が大量に射出され、飛び跳ねながら、ワーム達へと向かって行き、辿り着いた傍から、どんどん爆発していく。
おかげで、ワーム達の包囲網は、既に壊滅状態だ。
俺はゼクトマイザーを使い、安全圏までバスを運んだ後、後方から諦め悪く追って来るワームを迎え撃つ為に、バイクを止めた。
「さてと、ここからは俺が相手をしてやるよ」
俺はバイクを降りて、そのままワームの残党の中へと飛び込み、地面にしゃがみ込み、右足を伸ばした状態で円を描く。
その範囲に入ったワーム達は、一斉に尻餅を着き、すぐには起き上がれないだろう。
「ライダージャンプ」
『ライダージャンプ』
この機を勝機と見た俺は、ゼクターのレバーを反転させ、強化された脚力で、大きくジャンプして、まだ態勢を整え直せていないワーム達の頭上を制する。
「ライダーキック」
『ライダーキック』
更にゼクターのレバーを反転させて、強化された必殺の一撃となる蹴りを、起き上がろうとしていたワームの一体へと叩き込む。
ワームにキックを叩き込んだ瞬間に、足のジャッキが稼働して、俺の身体は再び宙へと舞い上がり、別のワームへと強烈なキックを放つ。
まるでそれが連鎖反応かの様に、何度も繰り返され、俺がもう一度地面に足を着けた瞬間、周囲のワームは一体残らずに、盛大に爆発した。
周りを見渡すが、既にバスの姿も無く、ワームの残党も居ない。
それはつまり、俺の仕事が終わったのだという事を意味していた。
俺は、バスが通り過ぎて行った方向を見ながら思う。
確かにワームは人類にとって、恐怖であり、畏怖するべき存在だ。
でも中には、材木座に擬態した様な、共存を望もうとする奴だって居る。
本当に戦う事が正しいのか。
そう考えるがそれは、もう何度も自分の中で繰り返した問答で、今更答えを変えるつもりはない。
ただ、もしも神様が試練を与えるドSなだけじゃなくて、ちゃんと願いも叶えてくれるなら、せめてもう一度、あのむさ苦しい、兄弟がもう一度再開して、ラノベの妄想談義でも出来る世界にして欲しい限りだ。