いえ、それというのも、今回はこの小説でのメインヒロインと言っても過言では無いあの方が登場するだけに、気合が入ってしまって、勢いで書いていたら、数時間で一話分の文章が書けていた訳でして……。
と言う事で今回も楽しんで頂けたらと思います。
そして、やっぱりまだこの作品は短編扱いでお願いします。
材木座に擬態したワームを、何とか無事に護送した後、何故か別件で材木座が再び奉仕部に依頼をしてきた。
何でも、自分が書いたライトノベルの評価を、俺達にして貰いたいという事だ。
そんなもんは、ネットの小説サイトにでも投稿すれば良いのでは、と思いもするが、依頼主である材木座いわく、ネットの皆さんの熱く激しいコメントに対して、本人のガラスの様な繊細なハートが耐えられないから無理らしい。
それを言ったら、我が部には批判させたら、ちょっと一家言あるのではと噂の、氷の女王様がいらっしゃるのだが、奴はそれを理解しているのだろうか。
もしかしたら、せめて同じ批判を受けるならば、美少女からの方が、ご褒美にでもなるのかと考えているのかも知れない。
だとしたら、材木座は、隠れた策士だと言える。
まあ、俺には分からない性癖なので、あまり突っ込んで考えるの止めておく。
しかし、思えばこの依頼が、俺にとって初めてのワームと関わりの無い依頼だというのだから、何とも言い難い。
最近は俺の、このぼっちという孤高の精神を改革する為に、奉仕部へ強制入部させたのではなく、ワーム関連の仕事を部活という形で送り込んで、給料をピンハネしようと目論んでいるのではないかと邪推してしまう。
実際のところ、由比ヶ浜の件の時は、俺が平塚先生に問い詰めなければ、俺が依頼とは無関係にワームた戦っただけとなり、タダ働きに終わっていたのだから、怖い話である。
勿論、その辺の話はちゃんと着けて、それなりの報酬は頂いた。
やはり、将来はりっぱな主夫を目指している手前、お金の管理はちゃんとしなくてはならない。
さて、話が少し横道に外れてしまったが、結果として材木座の書いたライトノベルの批判については、無事に解決した。
当然ながら、厨二病全開な酷い出来の小説で、相当の批判を食らい、本人も落ち込みはしていたが、また次の作品を書いたら読んでくれとと頼まれたから、奴は次も書いてくるだろう。
どうやら擬態材木座……弟と再会を果たした際に、自分の書いた最高のラノベを読ませてやりたいらしい。
と、最近はこんなわりと平和な毎日を送っている俺は、今日も朝の日課である食後のコーヒーを飲んでいた。
そんな俺を横目に、我が愛しの妹様は、リア充が読みそうなファッション系の雑誌を読みつつ、ジャムを塗りたくったトーストに齧りついている。
お行儀が悪いんだから、最近の若者は。
しかも先程から、雑誌の内容に、やけに共感していたりするが、お兄ちゃんには理解が出来ません。
俺も、もう若く無いって事だろうか。
最近の中学生女子の流行りなんて、ワームの生活習慣よりも、よっぽど大きな謎である。
そんな妹を見ながら、俺は時計に目をやる。
時刻は既に、七時五十分を回ろうとしていた。
「おい、小町。そろそろ時間だぞ」
そう言いながら我が妹である小町の肩を小突くと、雑誌を読んでいた小町は、はっとした様子で、時計の時間を確認した。
「やだなぁ、お兄ちゃんバイクで行くなら、まだ全然余裕な時間じゃん!」
そう返すと、小町はあろう事か、もう一度雑誌に視線を戻そうとしやがったので、俺は小町の読んでいた雑誌を取り上げて、強制的に朝の読書を終了させる。
「俺としては、自転車で行くつもりだから、この時間で良いんだよ」
「ええ~折角バイクの免許取ったんだし、乗せてってよぉ」
「お前は最近、そればっかりだな……」
「それはお兄ちゃんも悪いんだよ。私に隠れて、何時の間にかバイクの免許を取っちゃうし、あんなカッコイイバイクまでバイト代で買っちゃうなんてさ! だからちゃんと有効活用しなくちゃ勿体ないって」
小町の言い分を聞き、俺はストレスが原因だと思われる、頭痛に襲われる。
俺だって、バイクの免許を何時取ったのか、分からない……そもそも秘密組織であるゼクトが色々と裏で、本人にすら秘密にして作ってしまったのだから、一介の中学生が情報をリークする何て、まず無理だろう。
そして問題は、以前の護送任務の時に、譲渡されたマシンゼクトロンだ。
これも免許と同様に、何時の間にか書類各種がゼクトの手によって作成されて、名実共に俺の所有するバイクとなってしまったのである。
しかもご丁寧に、学校への通学許可書まで、というオマケ付きだ。
なので仕方が無く、マンションの駐輪スペースに、置いてあるのだが、そんな便利な物を、小町が黙って見過ごす訳が無い。
ご丁寧に初バイク祝いと表して、何故か小町が親にお小遣いをねだり、その金でちゃっかりとバイクのヘルメットを二つ分調達してきたんだ。
俺の親って小町には、メチャ甘いから、仕方ないわ。
「ねぇ、お兄ちゃん。お願い……良いでしょ?」
「うっ」
そして残念な事に、そのおねだり殺法は、兄である俺にも有効なのだから、困ったものである。
上目使いでお願いとか言われたら、思わずうん良いよと、即答で答えてしまうだろうが。
「と、取り敢えず、さっさとパジャマを着替えて来い。待っててやるから」
「わーい。だからお兄ちゃんってば世界一大好き!」
「はいはい。俺も妹が世界一大好きだよ」
「うわっ気の無い返事……」
仕方なくバイクで送る事を承諾すると、小町がその場でパジャマを豪快に脱ぎ捨てていく。
ここで脱ぐなよ。
当然ながら、小町がパジャマを脱げば、俺の視界には小町の白い素肌と、中学生らしい白の上下の下着が飛び込んで来る。
しかし不思議な物で、どれだけ妹が可愛いからと言っても、特に思うところは無い。
まあ、リアルの妹なんて、そんなもんだろう。
俺は小町が学校指定のセーラー服に着替えるのを待ちながら、残りのコーヒーを胃袋へと流し込む。
やっぱりコーヒーは砂糖たっぷりの、ミルク多めの、甘い奴に限る。
「準備出来たよー!」
「おう」
兄の前で盛大なパンチラを披露しながら、ソックスを履き終えた小町の声に答えて、俺は食器類を流しのシンクに片付け、愛機のマシンゼクトロンに乗るべく、マンション下の駐輪スペースへと、小町と共に出陣する。
やはり自転車とは違い、バイクでの移動となると、かなりの時間短縮となったのは言うまでもない。
予定よりも遅い時間に家を出たにも関わらず、予想よりも早い時間に小町が通う中学校の前へと到着してしまった。
「それじゃ、行って来るね。ありがと、お兄ちゃん」
「おうよ」
元気に校門へと向かって駆け出していく小町を見ながら、朝から元気だと思いつつ、ふと俺は気付いた。
「あいつ、鞄を忘れて行きやがった」
当然ながらそれに気付いた小町が、もう一度戻って来るまで、俺がこの場に待機するはめとなった訳だが、予定よりも早く移動出来る様になったお蔭で、遅刻だけはせずに済んだ。
かなり強引に譲渡された我が愛機であるマシンゼクトロンではあったが、今後の通学事情を思えば、少しだけ得した様にも思えた。
だが、やはり普通のバイクと比べれば、割と目立つので、周囲からの視線に恥ずかし思いをするのには変わりなかったが……。
もうすぐ初夏を迎えようという頃の、晴れた昼休み。
ぼっちな俺にとっての、昼食のベストスポット。
特別練の一階。保健室横の購買部の斜め後ろで、丁度昼前の体育で使ったテニスコートの見える位置。
ここは人通りも少なくて、一人で落ち着いて食べるには、もってこいな場所である。
しかも購買部から近いという事もあり、買ってから食べるまでに、さして時間が掛かる事も無い。
難点を挙げるとすれば、屋外なので雨の日は利用出来ず、気温が低くなってくると居るのが辛くなってくるという事で、天気と季節に左右されてしまうという事だろうか。
適当に買ったパンとお握りを食べて、お昼に自主練している女テニの練習風景を眺めるとか、すんごい安らぐわ。
臨海部に位置する学校な為に、俺の頬を常に潮風が撫でる。
丁度、朝から昼に掛けて、こんな天気の日はほぼ同じ時間に風向きが変わっていくのだ。
そんな風を一人で感じるこの時間を、俺は割と気にいっている。
だが、そんな時間は、長くは続かなかった。
「あれ? ヒッキーだ」
風に乗って聞こえて来た声の主は、由比ヶ浜だった。
思ったよりもここで吹く潮風は強く、由比ヶ浜はスカートを手で押さえている。
もう少し強く風が吹けば良いのになと、願うが俺みたいな奴にラブコメの神様が答えてくれる筈も無く、パンチララッキー的なイベントは発生しなかった。
改めて不思議に思うが、大好きな妹のパンチラは見えても何ともないのに、別に好きでもない美少女のパンチラに淡い期待を抱くのは何故なのだろうか。
見える物は対して変わらない、ただの布だというのにな……。
「もしかして、またワームが出たとか」
「そんなポンポンと奴等は出て来ないって、昼飯食ってただけだっての」
最近は、やけにワームと関わる頻度が戦った為か、由比ヶ浜が周囲を警戒するが、最近みたいにワームが間を置かずに出没するのは稀だ。
でも、平塚先生の話だと、最近はやけにワームの活動が活発になっているという話だから、あまり気を抜いてもいられないかも知れない。
「ふーん、ところで、何でこんなとこでお昼食べてるの?」
「俺は普段から、大体ここで食ってるだけだ」
「え、お昼なら教室で食べたら良いのに」
「……察しろ」
無言で返すのも、悪いとは思ったが、俺にはそう返すのが限界だった。
基本的にぼっちである俺には、昼休みという生徒達がフリーダムに移動出来る時間帯に、居場所は無い。
だから俺は気兼ね無く、飯が食える場所へと、退避しているのだが、由比ヶ浜にそんな事を言っても、まず理解出来ないだろう。
ならばここは、話題を転換してしまうに限る。
「そう言うお前は、何でここに居るんだよ?」
「あ、それがね……」
どうやら上手く話題転換に成功したらしく、由比ヶ浜が自分がこの場所に来た理由を語り始める。
話を聞くと、由比ヶ浜は、雪ノ下とのじゃんけんで負けた罰ゲームにここへと来たらしい。
俺と話す事が罰ゲームとか、これっていじめだよね。
まあ、それは冗談として、負けた方がジュースを買って来るという内容だったそうなのだが、由比ヶ浜は兎も角、雪ノ下がそんな勝負をするとは意外である。
しかし、由比ヶ浜が少し挑発したら勝負に乗って来たという話から、改めて雪ノ下らしいと思った。
何故か、勝負となると、目の色が変わるんだよな雪ノ下って。
生まれながらの、ギャンブラーかよ。
とまあ、こんな感じで話題を共通の世間話にシフトしていると、女テニの人が、自主練を終えたのかタオルで汗をぬぐいながら、テニスコートを出て、こちらへと歩いて来る姿が、何となく視界に入る。
「あ、おーい! さいちゃーん」
なんとあの女テニ部員の人は、由比ヶ浜の知り合いだったのか、元気良く手を振って声を掛ける。
「やっはろー!」
「や、やっはろー」
思うんだが、それは何処の民族の挨拶何だよ。
しかも律儀に返事をしてる、女テニの人、顔を赤くして恥ずかしがってるじゃねえか。
止めてやれよ。
「さいちゃん。お昼も練習してたの?」
「うん。前からお願いしてたんだけど、やっとお昼にも、練習になら使って良いって許可を貰えたんだ。ところで、由比ヶ浜さんと比企谷君はこんなところで何をしてるの?」
「えーっとね。お喋りしてたんだよ」
由比ヶ浜がそう答えつつ、俺に同意を求めて来る。
確かに、世間話をしていたのは事実だが、俺は昼を食べていただけだし、お前はお使いの途中じゃなかったのかよ。
今も雪ノ下が、帰りを待ってるんじゃないか。
「そうなんだ。仲が良いんだね」
俺と由比ヶ浜を見比べて、そのさいちゃんという女テニの人が、人懐っこい笑顔で笑う。
「さいちゃん。部活だけじゃなくて、授業でもテニス選んでるのに、お昼休みも自主練なんて、大変だね」
「そんな事無いよ。うちの部って弱いから、いっぱい練習しなきゃだし。あ、そう言えば比企谷君って、テニス上手だよね」
予想外にもさいちゃんという方から、話題を振られた訳だが、このさいちゃんって何者だよ。
さっきから、俺の事を知ってるみたいだしさ。
俺がテニスが上手い何て、情報は何処発信だ!?
「へーそーなの?」
「うん。構えとか凄く綺麗なんだ」
俺が迷っている間にも、何故か俺の話題で盛り上がる二人。
普段から話題の外に居る筈の俺が、珍しく話題の中心に居るのに感じるこの阻害感は何なんだろうか。
取り敢えずハッハッハッと笑って誤魔化しつつ、俺は小声で、由比ヶ浜に、彼女が何者なのか、説明を求める事にする。
「それで……誰?」
なるべくさいちゃんという女性に失礼が無いように、小声で由比ヶ浜に聞いたのだが、そんな俺の細かい配慮を、こいつが気付く筈も無い。
「はあああああああああああああ!? 同じクラスでしょ!? 何で知らないの!?」
「バカ! 俺みたいなぼっちが、クラスメイトだからって、名前を憶えてる訳が無いだろうが!」
悲しい事実だが、普段から会話をする機会が多かったり、学校内でも有名な奴の方が、ずっと覚えてたりするからな。
俺が精々、フルネームで覚えてる名前何て、同じクラスの奴じゃ、イケメンリア充に加えて遺憾とは言え、一緒に仕事をした事もある、葉山ぐらいだ。
後は目立つ容姿の雪ノ下や、体育でペアを組む事が多い、材木座程度のもんである。
「……そっか、ぼくの名前、戸塚 彩加っていうんだけど、覚えてないんだ」
これは非常に不味い。
少しだけしか会話をしていないが、さいちゃんは凄く優しい良い子だ。
だって俺みたいなぼっちにまで、優しく接してくれるんだもの。
だからこそ、傷付き易く、ナイーブな面があるのだろう。
既に、少し涙目だし。
何だか、小動物みたいにフルフルと震えちゃってるから。
思わず抱きしめたくなるけど、そんな事をしたら、速攻で捕まりそうだから、しませんけどね。
「いや、あのな。クラス替えしてから、まだそんなに時間が経ってなかったしさ」
「一年生の時も、同じクラスだったんだけど」
「あ、えっと、俺ってば女子と話す機会とか、殆ど無くて……」
「ぼく、男の子だよ」
「……え?」
色々と、場を和ませる為に、必死に言い訳を並べていた俺だったが、予想外過ぎる一言に対して、全ての思考能力が、一時的に断絶してしまう。
まさか、嘘だろうという、それだけの願いを込めて、由比ヶ浜に視線を向けるが、由比ヶ浜は、黙って頷くのみ。
そんな俺の考えを察したのか、さいちゃん改め、戸塚は、先程まで涙目だった事に加えて、頬を赤くしながら、ゆっくりと手をハーフパンツへと伸ばし、上目使いで俺を見詰める。
何だかその光景は、健全な青少年には、いけない物を見てしまっているかの様に思えてならない。
「……その、証拠、見てみる?」
戸塚の、言葉に俺の野生のビーストが目を覚ます。
きっと、この場に由比ヶ浜がいなければ、土下座してでもお願いしていたかも知れない。
それ程の魔性の魅力を、戸塚は放っていた。
え? というか、本当に戸塚って男なの?
もしも、生物学的に戸塚が女じゃないなら、もう性別が戸塚 彩加で良いんじゃないかな。どこぞのラノベキャラみたいに。
俺は自らの内に解き放たれた、ビーストを、この場には居ない鋭い氷の女王の眼光を思い出しながら沈めつつ思う。
こういった性別不詳なキャラというのは、神聖な存在なのだ。
そんな聖域を、俺みたいな奴が、土足で荒らす事は許されない。
知らないでいる事も、きっと必要なのだと、俺はまた一つの真理へと悟りを開く。
俺の理性が、野蛮な内なる獣に勝利したからこその選択だと言えよう。
「その、悪かったな。知らなかったとは言え、気分を害させちまってさ」
「ううん。それよりも、こんどはぼくの名前、ちゃんと覚えておいてよ」
俺の謝罪によって、何とか機嫌を直してくれた戸塚は、そう言いつつ、俺の鼻先に軽く人差指を当てて微笑む。
やだ、何この可愛らしい生き物。
男だって分かってる筈なのに、凄くドキドキするんですけど。
「そ、その良く俺の名前を知ってたよな。直接話した事なんて無かっただろ」
俺は何とか、心の動揺を悟られまいとして、話を続ける。
「え? ぼく、一回だったけど、比企谷君と話した事があるんだけど」
「あ、あれ。そうだったっけ……」
こんな可愛らしい生き物と遭遇して、忘れる何て事があるだろうか。
はっきり言って自慢じゃないが、俺が他人と会話をする機会は、決して多くない。
だからこそ、ここ近年ならば、特に印象に残っていると思うのだが……視界の端に見掛けたり、一言程度ならばもしかしたら、業務上の何かで言葉を交わしたかも知れないが、本格的に戸塚と会話をしたという記憶は俺の中には存在しなかった。
いや、それよりもまず、俺は先程まで戸塚を女テニの生徒だと思い込んでいたから、記憶の検索に上手く引っかからないという可能性も高い筈だ。
「まあ、覚えてないのも仕方無いよね。あの時は非常事態だったし」
「……非常事態。あ、もしかして!」
戸塚の言葉に、俺の中で一つだけ合致するエピソードが思い浮かぶ。
それは、もう半年以上も、前の話だ。
思い出すのは、去年のクリスマスの日……。
俺が恒例となっているアルバイトで、少しだけ関わったとある女の子との淡い思い出。
「こんなリア充どもが、浮かれてる日にアルバイトとか、本当に勘弁して欲しいわ」
クリスマスを鮮やかに彩る、ライトアップされた夕方の繁華街を歩きながら、俺は通り過ぎるカップルという名のリア充達を見て、静かに溜息を吐いた。
本当ならな、今頃は言えの中でゴロゴロとしつつ、クリスマスで幾らか普段よりも豪勢な夕飯と、食後のデザートにホールサイズのケーキが食べられるという素敵イベントを迎えていた筈なのだから、文句の一つも出るという物だろう。
アルバイトというのは、当然ながら組織からの指令だ。
内容はクリスマスの当日。
今から約30分後に、とある人物が、ワームに襲われる可能性があるから、それを阻止しろという物だった。
指定された場所は、繁華街に位置する少し大きめな広場で、大きめな木がクリスマス仕様にライトアップされて、聖夜の夜の待ち合わせ場所となっていたりと、今、俺が居る場所はぼっちにとって本来ならば凄く近付きたく無い場所、ベスト10に入る、魔窟と化している。
誰か、この魔窟に住む、クリスマスという日に勘違いして異常繁殖したバカップルを退治しに、勇者でもやって来ないもんだろうか。
俺ってば、今年は結構、人類の為にワームと戦って来たりした訳だし、それくらいのクリスマスプレゼントが用意されてても良いんじゃないかな。
そんな事を考えながら、俺は指令のメモと一緒に、ホッパーゼクターが持ってきた一枚の写真を見る。
この写真の人物が、今回の護衛対象だ。
一言で言うならば、可愛い女の子の写真。
テニスをしている最中の写真な為、少しピントがぼけているのだが、ラケットを片手に球を追いながらも、笑顔を絶やさない、この写真の女の子には、素直に好感が持てた。
ショートカットで快活なイメージはあるが、スポーツをしている割には体の線も細い感じで華奢な印象を受ける、所謂、護ってあげたくなる典型のタイプだと言える。
まあ、そんな子がワームに狙われているというならば、護るのもまた、マスクドライダーである以前に男の務めって奴かもしれない。
どっちかというと、俺は将来、主夫を目指しているので家庭を内から守る存在となりたい訳だが、今はこの依頼を無事に達成する事が重要だ。
俺もクリスマスの独特な雰囲気に当てられたのか、普段は思いもしないそんな決意を胸に、待機し続けていると、やがて写真に写っていた女の子が姿を見せた。
テニスをやっているという事が写真から分かるので、動き易いボーイッシュな格好に身を包んだ彼女は、誰かと待ち合わせでもしてるのか、白い息を手に当てながら、暫く同じ場所で佇んでいたのだが、10分もすると、数人の男達が現れて、何やら彼女に話し掛けて来たのである。
おそらくナンパだろうか。
こんな聖夜の待ち合わせスポットに一人で居る可愛い女の子なんて、ほぼ彼氏待ちで確定だと思うのだが、ナンパ男達には、それが分からないのか、若しくはそこまで切羽詰まっているのだろう。
見た限り、俺や彼女よりもナンパ男達は若干年上という感じではあるが、年齢的には同じ学生に見える。
俺の任務は、ワームから彼女を守る事だが、この場合どうするべきか。
男としては、助けに入るべきなのだろうが、俺がそのまま素で言っても、返り討ちに遭う危険性の方が高い。
アルバイトのせいで、随分と荒事には慣れたが、相手は複数だ。
変身すれば確実に助ける事は出来るだろうが、それは幾ら何でも過剰防衛に他ならない。
あ! 取り敢えず彼女が本気で嫌がっている素振りを見せて、男達が乱暴な手段に出そうなら、通報すれば良いんじゃないだろうか。
だけど、そんな俺のグッドな作戦は、意味の無い物だったのだと、次の瞬間に実感する。
彼女を囲むナンパ男達は、総勢で四名居たのだが、そいつ等が全員、人間としての皮を捨て去り、ワームとなったのである。
当然ながらこれを見ていた、周囲の人達は、突然の事態にパニックを起こす。
それは目の前で人間がワームの姿となるのを目撃してしまった、彼女も例外ではない。
急いでベルトのバックルを開くが、今から変身して向かうという段取りをしていたら、間に合わないかも知れん。
「頼むぞホッパーゼクター!」
だから俺は咄嗟に変身する事を止めて、走りながらゼクターに指示をだす。
ホッパーゼクターは、その意図を正しく理解して、俺を飛び越え、彼女を襲おうとしているワームの上で激しくジャンプして、場をかき乱す。
「こっちだ!」
「え? うん」
俺はその混乱に乗じて、彼女の手を引き、ワームから引き離した。
「大丈夫だったか?」
「あ、ありがとう。えっと君って同じク……」
「お礼は良いから、俺の後ろに隠れてろ」
彼女はお礼の言葉の後にも、何かを言い掛けてはいたが、今はそれ処では無いので、会話を強引に切って四体のワームを見据える。
幸いにも、四体のワームはどれも幼体のワームで、戦いにそれ程の時間は掛からないだろうし、クロックアップで不意を突かれる心配も無さそうだ。
そして、十分に役目を果たしてくれたホッパーゼクターが、俺の手の中に納まり、俺はそのままゼクターをバックルへとセットする。
「変身!」
『ヘンシン・チェンジ・キックホッパー』
音声を合図に俺の身体をメタルグリーンの装甲が覆い、バッタを模した仮面に赤い二つの複眼の戦士となる。
キックホッパーに変身を終えた俺は、ワームに先制攻撃となる跳び蹴りを放ち、乱戦へと巻き込む。
一体目のワームは跳び蹴りで吹き飛ばし、更にもう一体のワームも、混乱に乗じて蹴りを叩き込んで無力化してやったのだが、思ったよりも、残りのワームの対応は素早く、戦い慣れて居るのか俺の動きを抑えてこようとして来る。
このまま、戦っていたら、折角一時的にとは言え、無力化した二体のワームが戦線に復帰する危険性があるかも知れない。
ならば、その前にこの二体だけでも、片を着けておくべきだろう。
俺はわざと態勢を崩し、倒れ込むが、それはフェイク。
俺の誘いに乗って、片方のワームが俺に伸し掛かろうとするが、俺はその時を待っていたのだ。
「ライダージャンプ」
『ライダージャンプ』
狙い澄ませた様に、俺はゼクターのレバーを反転させて強化された脚力で足をワームに対して突き出す。
本来ならば、これは相手の上を制する為に、使用するのが一般的なのだが、それでも通常の状態では考えられない程の威力となって、ワームに襲い掛かる。
俺の代わりに大ジャンプをする結果となったワームを尻目に、俺は立ち上がり再びゼクターのレバーを反転させた。
「ライダーキック」
『ライダーキック』
続いて強化されるのはキック力の強化だ。
そして俺はそのまま襲い掛かろうとする残った一体のワームに対して、必殺の蹴りを繰り出す。
キックの反動によって稼働する、足のジャッキ。
そのジャッキの反動で飛び上り、先に蹴り飛ばしていた二体のワームへも飛び移る様にキックを決めていく。
「これで最後だ!」
そしてライダージャンプの反動を受けて、上空へと舞っていた最後のワームに向かって大きく跳躍して最後の一撃を決める。
この一連の攻撃によって、彼女を襲った四体のワームは見事に爆散した。
つまり、これで俺のクリスマスのアルバイトは終了という事である。
「あ、あの」
だけど、一つだけ問題が残っていた。
俺とワームの戦いを、彼女が見続けていたという事実である。
言っておくが、俺のアルバイトには、被害に遭った人へのアフターケアは含まれていない。
それに依頼には彼女が何処の誰かも書かれていなかった事から、もう会う事も無いのだろう。
なら、余計な情報を与えて、悪戯に怖がらせるのも気が引ける。
そして今日はクリスマスだ。
ならば、せめてこの言葉で締め括って、終わりとしよう。
「メリークリスマス」
俺はまだ何か言いたそうにしている彼女に、それだけ告げて、クロックアップで、この場から離脱した。
普段の俺には似合わない、何処か正統派ヒーローの様な行いをしたクリスマスの思い出である……。
「もしかして、あのクリスマスの時の!?」
「うん。あの時は助けてくれてありがとう。比企谷君」
俺と彼女……いや、あの時の少年、戸塚は、こうして思い掛けない再開を果たしたのである。
「なんか蚊帳の外って感じなんだけど」
戸塚と俺の共通の思い出に疎外感を感じたのか、由比ヶ浜がジト目で見てくるが、俺だって驚いているんだから勘弁して欲しい。
「そういう訳だから、今度こそ宜しくね。比企谷君」
そして、改めて笑顔で戸塚に笑顔を向けられた、俺の胸の高鳴りの正体は何なのか。
俺は、この夜、薄暗くした自室の中で、ホモじゃないホモじゃないと徹夜で唱える事となったのは、言うまでもない。
ちなみに、完全にお使いを忘れていた由比ヶ浜が、部活で雪ノ下に怒られたのは、完全に自業自得だろう。