そして今更かも知れませんが、折角なので、この作品を短編から連載に変える事を決意しました。
ただ、既に連載が一本あるので、あくまでこっちは不定期連載という形にはなってしまいますが、今月中はこっちをメインに書こうかと考えておりますので、もう一本の連載の更新は、もう少々お待ちください。
それでは、今回も楽しんで頂ければと嬉しいです。
戸塚との意外な接点を知ってから、数日の時が過ぎた。
この期間、俺は毎日の様に夜中になるとホモじゃないホモじゃないという己の精神を戒める呪文を唱え、ついに昨日に至っては、妹の小町に煩いと蹴り飛ばされた程である。
確かに、俺も自分でどうかしているとは思うのだが、それも仕方が無い話だと理解して貰いたい。
だって、あの日から毎日、戸塚がやけに俺にフレンドリーに接するようになったのだが、その距離感が近過ぎるのだ。
本人にしてみれば、同性のクラスメイトに対しての、軽いスキンシップのつもりなのかも知れないが、戸塚みたいな、そこらの女子より可愛らしい奴が、軽く肩に触れて来たりとかしてみろ。
絶対に勘違いしちゃうからな。
もう、何度か無意識に告白しそうになったことか。
いや、きっと俺は無意識に何度か、戸塚に愛の告白をしている気もする。
こう、近くに来た時に、戸塚から何だか良い匂いがしてきて、意識が変な方向に向かって行くのだ。
その度に、俺の中に潜む誰かが、もうついてても良いんじゃね? と、囁いてくるのだが……本当にどうしたもんだろうか。
何だか開いたらもう二度と、後戻り出来ない新たな扉を前に、俺は心のライフカードを吟味する毎日。
そんな悩みを抱えていても、アルバイトの時間はやってくる。
俺は平塚先生から依頼を受けて、千葉駅の改札口近くへときていた。
珍しい事に、今回はワームと戦うのが目的では無く、単なるお使いだ。
いや、お使いと言っても、ちょっとした夕飯の買い出しとかじゃない。
将来は立派な専業主夫を目指す俺としては、そっちの方が、絶対に有意義ではあるが、残念な事にこのお使いは、もっと物騒な類に入る。
これは以前にも平塚先生から聞いたし、最近は俺自身も実感している事なのだが、ワームの動きがやけに活発になっているという事だ。
其処でマスクドライダーの戦力底上げを図るべく、俺のホッパーにも一度は廃止したマスクドフォームの採用と新武装が実装される事になったらしい。
他のマスクドライダーと違い、後からプットオンで任意に装着するタイプになるそうだが、前からキャストオフはしてみたかったので、寧ろ喜ぶべき事だろう。
しかし新武装ってのは、どんな感じになるのだろうか。
共通兵装のゼクトマイザーみたいな、使う時と場所を選ぶ必要がる、ピーキーな武器だったらどうしよう。
出来れば、ホッパーは今まで基本的に武器無しの、徒手空拳が基本スタイルだったので、白兵戦向けな近接武器か銃みたいな、爆弾より手軽に扱える長距離武器が欲しい。
後から聞いたのだが、同じ徒手空拳スタイルだと思っていたザビーですら、ゼクターからニードルを飛ばすんだとか。
なんか、ホッパーだけ武装が無さ過ぎだろう。
改めて思うと、俺はマスクドライダーの中ですら、今まで冷遇されていたのかよ。
こう考えると、戦力の底上げというよりも、今まで他のマスクドライダーが持ってた機能を、お情けで追加してやろうかという感じにも思えてくるわ。
それで、俺のお使いの内容なのだが、俺のベルトに、その機能をアップデートする為の、データメモリを受け取りに来た訳だ。
データメモリは、ベルトに読み込ませるだけで良いそうなので、俺でも簡単に出来るらしい。
俺は改札口から、近いコインロッカーを探し、平塚先生から預かっていたロッカーキーの番号を確認する。
「お、あった」
目的の番号のロッカーを見つけて、鍵を開け、俺は目的のデータメモリを無事に手に入れた。
しかし、この受け渡し方法って、完全に平塚先生の趣味だよな。
こんな回りくどい方法なんて使わずに、最初から先生が直接、俺に渡してくれれば済む話じゃないかこれ。
まあ、無事に手に入れた事だし、とっとと帰るとするかね。
それに、今回のアルバイトは、もう一つある。
違う日に予定されてはいるのだが、もしかしたらホッパーの強化も、そのもう一つの方に関係してるのかも知れないな。
「まあ、今から気にしてても仕方ないか」
ワームとの戦いは、前情報以上に、出たとこ勝負な面が大きいから、考え始めると、際限がなくなってくる。
そんな取り止めの無い事を考えながら、用を済ませて帰る途中、俺は最近気になっているクラスメイト、戸塚を発見した。
戸塚は、見慣れたジャージ姿だったのだが、問題は一緒に居る奴等だ。
同じジャージ姿な事から、きっと戸塚と同じテニス部の連中だろう。
戸塚だけならば、俺も話し掛けていたかも知れないが、あんな集団の中の一人に対して、話し掛けるとかハードルが高過ぎる。
でも、気のせいだろうか。
何だか戸塚の表情が、心無しか暗い気がした。
練習のし過ぎで、疲れてるのかもしれないな。
俺はそう結論を出して、再び家路を目指して、戸塚の視界に入らない様にステルスモードを展開し、若干だが歩幅を広くして歩き始めたのだった。
「今日も宜しくな」
平塚先生から頼まれた、ある意味で初めてのドキドキワクワクな、お使いの翌日。
体育のテニスで俺は、相棒である壁に向かって軽く挨拶を交わして、既に極めたと言っても過言ではない、壁打ちを開始しようとしたのだが……。
「ちょっと良いかな」
という、天使の様な綺麗な音色が俺の背後から聞こえてくる。
あれ、俺ってばもしかして壁打ちを極め過ぎて、天啓でも受けてしまったんだろうか。
そんな馬鹿なと思いながら、声のした後ろの方へと振り返ると俺の右頬に、何やら小さな一指し指が、ぷにっと突き刺さる。
「えへへ、引っかかった」
そして目の前には、悪戯に成功した子供の様に、無邪気な笑顔を浮かべる天使……じゃなかった! 戸塚だ。
ビックリしたわ。
本当に一瞬だけ、天使に見えたもの。
背中に純白の、穢れ無き翼が見えちゃったしさ。
そして、この高鳴る胸のドキドキは、本当に何なんだよ!
思わず、このまま告白を通りこしてプロポーズして、振られそうになったっての。
俺の過去の恋愛観から、こういう距離感の無いスキンシップは、別に俺相手じゃなくて、誰にでもやるレベルなんだから、勘違いしちゃいかん。
あれ? 戸塚は男だから、それ以前の問題だったか……普通に俺の思考が戸塚を恋愛対象に認識しようとしているんだが……駄目だ、予想外の不意打ちに、完全に混乱してるわ俺。
ジャージ姿だと、男女のデザインは同じだから、戸塚はもう完全に可愛い女の子にしか見えないんだよ。
そりゃ、胸は全くと言って良い程無いが、それは雪ノ下だって殆ど変らないし……何だろうか、急に悪寒がしたんですけど。
この場に居ない筈の何者かの、触れてはならない逆鱗に触れてしまった気がする。
だがそのおかげで、何とか冷静な判断能力が、戻って来た。
さっきまで俺だけの天使に見えていた戸塚も、今は俺のアイドル並にしか見えてはいない。
俺は冷静だ、クールだ、クールに行け。
「何か用か?」
「うん。良かったら、ぼくとペアで練習しない? 今日は普段組んでる子が休みなんだ。その……駄目かな?」
頼むから、上目使いで俺を見ないでくれ。
やっと、落ち着いて来たのに、このまま開いたら戻って来れない何かに目覚めちゃう気がするから。
俺の中で誰かがもう、ついてても良いよねとか、囁き出してるからね、本当にさ。
「ああ、良いぞ。俺も一人で練習するとこだったからな」
なるべく平静を装いながら、俺は戸塚に答える。
そしてすまん壁よ。
俺はお前とのコンビよりも、恋を選ぶ。
「良かったぁ。断られたらどうしようって緊張しちゃったよ」
俺の答えを聞き、ホッと胸を撫で下ろす戸塚。
寧ろ、俺の方が、緊張して、テンパり続けていたがな。
可愛すぎだろ。
これは由比ヶ浜から聞いた話なのだが、戸塚は一部の女子からは、「王子」と呼ばれているらしい。
そこらの女の子では太刀打ち出来ない程に、女の子な戸塚の可憐な容姿と振る舞いを思えば、その呼び方も納得と言える。
この王子という単語には、護ってあげたいという意味も、込められているのだろう。
そして、俺達の初の共同作業である、ラリーが始まった。
やはりテニス部なだけあって、戸塚のラケット捌きは、壁打ちを極めた俺から見てもさまになっている。
暫くラリーを続けていると、戸塚が話し掛けてきた。
「やっぱりー比企谷君はーテニス上手だねー」
「まあー壁打ちは極めたと言って良いからなーテニスも極めたと言えるだろうー」
「それはーテニスじゃなくてースカッシュだと思うんだけどー」
ラリーを続けながら、お互いの距離がそれなりにあるので、間延びした感じの会話となってしまうが、俺はこの時間が少しでも長く続けば良いのにと思いながら、ラリーを続けた。
「そろそろ休憩しようよ」
「おう」
名残惜しくはあるが、ラリーの最後に戸塚がボールをキャッチし、合図を送るので、俺は頷き近くのベンチへと腰を降ろす。
そして、何故か戸塚も俺の隣に座る。
何故!?
そんな事よりも、近い! 距離が近い!
普通、男同士が近くに座る時って、対面とか少し斜め気味とかじゃないのかよ。
同じ事を材木座にされたとしたら、問答無用で蹴り飛ばす、戸塚にこんなことされたら、色々と我慢出来なくなっちゃうだろうが! 主に俺の理性がな!
「あのね、実は比企谷君に相談したい事があるんだ」
戸塚は真剣な眼差しを俺に向けて、口を開いた。
そうか、やけに距離が近いと思ったのは、俺と話したい事があったからなんだな。
これで謎は解けた。
そうで無ければ、こんな近い距離になる筈が無い。
……じゃないと、俺の理性が持たないから。
「それで、相談ってのは?」
「うん、あのね……」
俺が促す事で、話始める戸塚。
その内容を簡単に要約すると、戸塚が所属するテニス部を強くしたいという事だった。
何でも、今でも我が校のテニス部は、弱小というレベルに居る実力しかないそうなのだが、今年の大会が終わり、今の三年生が抜けてしまえば、今の一年生と二年生は例年よりも更に人数が少ない為に、今よりもずっと弱くなるというのだ。
戸塚は既に上級生から、キャプテンの座を引き受けたという事もあり、何とかしたいと考えているのだそうな。
昼休みに、一人でテニスコートの使用許可まで取って練習していたのも、キャプテンである自分が、少しでも強くなって、部員達を引っ張って行こうと考えていたかららしい。
良くも悪くも、人数が少ない勝負関係の部活では、何の苦労も無く試合に出れるとなると、モチベーションが、低くなりがちになる。
だって真面目にしていようが、サボり続けていようが、部活に所属していれば、それだけで公式の試合に出れてしまう場合だってあるのだ。
部内に試合の選手に選ばれる為の、競争相手が居れば張合いも出るのだろうが、それも無いとなれば、人間は楽な方を選択して、やった気になり、頑張ったつもりとなって、其処で全てを完結させてしまう。
勝てなくても、参加が出来たのであれば、それで良いと考える奴は、決して少ないとは言えない筈だろう。
強くなれない部活に、強くなろうという者は集まりはしない。
もしも、それを可能にする何かがあるとすれば、部員全員の意識改革か、取り巻く環境の変化くらいだろうか。
「それで……もし良かったら、比企谷君にテニス部に入って貰えないかなって」
「……はい?」
相談の最後に、予想外の台詞を言われて、俺は思わず驚きの声を上げる。
一体全体、戸塚の中で、どんな経緯を経て、そんな答えに辿り着いたのだろう。
俺がどうしてだという視線を向けると、戸塚は、縮こまりながら体育座りの姿勢になって、すがる様な視線を俺へと向ける。
だから、その視線で俺を見ないでくれ。
本当に辛抱出来なくなるから。
「あのね。比企谷くん、テニスが上手だし、もっと本格的に練習したら、今よりずっと上手くなると思うんだ。そうすれば、他の部員の皆にも、良い刺激になると思うし……ぼくも比企谷くんとなら、頑張れると思うし……へ、変な意味じゃなくて、比企谷君と一緒に頑張れば、ぼくも、今よりもっと強くなれると思うから……」
「戸塚は弱くても良いよ……俺が、お前を守るから」
「え?」
「あ、いや、その間違えた」
だってあの表情と台詞は反則だろう。
つい、俺の人生を全て賭けて、戸塚を守ろうとしちゃって、言うべき台詞を間違えた。
もう、俺の脳内では既に、二人が式を挙げて、白く大きな家で大型犬を飼って、二人の子供が居て、仕事で疲れた俺を、ピンクのフリルエプロンを装着して、お玉を片手に持った戸塚が、お帰りなさいあなたって出迎えてくれるところまで、再生されてたからな。
俺の将来は、専業主夫なのに、おかしい話だ。
でも、そんな未来も悪くないと思ってしまった俺は、もう大切な何かが、手遅れなのだろうか。
「その、悪いな。俺はテニス部に入ってやる訳にはいかないんだ」
幾ら俺の愛して止まない、ラブリーマイエンジェル戸塚の頼みでも、聞いてやれない事もある。
いや実際は、二つ返事で争うが如くOKを出しそうになったし、ちょっと手違いでプロポーズしてしまったが、俺は既に強制ではあるが奉仕部に所属しているし、例のアルバイトだってやらにゃならない。
確かに戸塚と長い時間を共に過ごせるというのは、面倒な部活に入るリスクを負ってでもメリットがある
かも知れないが、物理的にこれ以上の時間の浪費は無理なのだ。
「……そっかぁ。残念だな」
本当に残念そうな表情をする戸塚に、これでもかという程の罪悪感を覚えるが、俺としても譲れない事はある。
こればかりは仕方が無いと言えるだろう。
「その、なんだ。部活には入ってやれないけど、他に何か無いが俺の方でも考えてみるよ」
「……ありがとう、比企谷くん」
俺の言葉に、戸塚は笑って答えてくれるが、こんな言葉はただの気休め以外の何物でも無い。
ただそれで、戸塚が少しでも元気を取り戻してくれるなら、それでも良いかと、俺には思えた。
「やっはろー!」
頭の悪い挨拶が、奉仕部の中に響く。
あの体育の後の放課後。
一足早く、部活に来ていた雪ノ下に、俺が戸塚の件で何か良い案は無いか、知恵を借りようとして、無理だと一蹴されながらも、それでも何とかしようと説得をしてたら、何時の間にか物騒な雪ノ下の考え方に旋律したところで、由比ヶ浜が部室に顔を出した。
相変わらずポケポケとした、頭が悪いだけが悩みですとでも言いたそうな顔をした由比ヶ浜であるが、その後ろには対照的に、何処か沈んだ表情をした顔をした人物が一人。
「……戸塚か」
「あ……比企谷くん」
しかし、その人物、先程までの俺と雪ノ下の話題の中心となっていた戸塚が、俺の存在に気付くと、沈んでいた表情が一転して明るくなり、花が咲く様な素敵な笑顔を見せる。
とてとてと、俺の方に来ると、嬉しそうに俺の袖口を掴む戸塚。
これは反則だろう。
思わず抱き締めて、キスしてしまいそうになりました。
でも男なんだよな。
何だか泣きたくなってきたよ。
「比企谷くんは、ここで何をしてるの?」
「何って、俺は部活だけど、お前は……」
「それはあたしが、さいちゃんを連れて来たからだよ!」
俺と戸塚が互いの疑問を口にしていると、由比ヶ浜が自慢げに言う。
何故、そこでお前が答えるんだよ。
俺はラブリーマイエンジェル戸塚の口から、答えを聞きたかったというのに。
「やーほら、あたしだって奉仕部の一員だし。偶には部員らしくしなくちゃと思ってさーそしたら、さいちゃんが悩んでるみたいだから連れて来たんだよね」
「由比ヶ浜さん」
「お礼とか良いよ、ゆきのん。部員として仕事をしただけだからさ」
「いえ、由比ヶ浜さん。あなた、別に奉仕部の部員では無いのだけれど……」
「え、あたしって部員じゃないのっ!?」
違ったんだっ!? 毎日部活に来てるし、材木座が相談しに来た時も、普通に参加してたから、てっきりあれからなし崩しで部員になったと思ってたんですけど。
「ええ、入部届は出してないし、顧問の平塚先生から許可が出た訳でも無いから、由比ヶ浜さんは部員では無いわね」
我が部の女王様は、とてもルールに厳しかった。
「書くから! 入部届ちゃんと書くから仲間に入れてよ!」
由比ヶ浜は涙目で言うと、ルーズリーフにひらがなで、にゅうぶとどけ、と書き始めた。
それくらいは漢字で書けと言いたいが、今はこんなお馬鹿さんに構ってる場合じゃない。
「それで、戸塚君だったわね。何かご用かしら?」
にゅうぶとどけを書いている由比ヶ浜を尻目に、雪ノ下は戸塚に鋭い視線を向けた。
雪ノ下の眼光に、戸塚の俺を袖を掴む手に、力が籠る。
そりゃ、あんな野生の肉食獣と、遭遇した様な視線を向けられれば、誰だって怖くなるだろうな。
俺だって、メチャ怖いもん。
マジで怖いわ、雪ノ下さん。
「あ、あの、テニスを、その強くしてくれるん……だよね?」
最初の内は雪ノ下の方を見ながら話していた戸塚だったが、その鋭い眼光に耐えられなかったか、最後は俺にすがる様な視線を送る。
最初から視線を合わせる事すら出来なかった、ダブル材木座と比べれば、頑張ったと言って良いだろう。
そして、上目使いで俺を見るのは、止めてほしい。
俺を見ても、答えようが無いし、ドキドキしちゃうから。
戸塚のサラサラの髪を撫でたくなってきちゃうんですけども。
すると、俺の葛藤を察して、助け舟を出した訳では無いのだろうが、雪ノ下が戸塚の疑問に答えた。
「由比ヶ浜さんが、どういう風に言ったのかは知らないけど、奉仕部は、あなたの手伝いをするだけよ。目標を達成出来るかどうかは、あなた次第ね」
「……そ、そうなんだ」
雪ノ下の答えに、戸塚は肩を落とす。
毎度、思うのだが、奉仕部に来る依頼者って必ずこの手の誤解をしているよな。
まあ、今回に限っては、どこぞのお馬鹿さんの説明が悪かっただけだろうが。
ハンコは何処だったかなと言いながら、鞄の中をガサガサと探る由比ヶ浜を睨んでいると、その視線に気気付いたのか、由比ヶ浜が顔を上げた。
「へ? 何かあったの?」
きょとんとした反応を見せる由比ヶ浜に、俺と雪ノ下は、同時に溜息を吐く。
「何かあったでは無いわ、由比ヶ浜さん。あなたの無責任な発言で、一人の淡い少年の希望が打ち砕かれてしまったのよ」
雪ノ下が鋭い刃の様な言葉を雪ノ下に突き刺すが、本人は首を傾げるだけで、特にダメージを受けた様子すら無い。
「えー? でもゆきのんとヒッキーなら、なんとか出来るんじゃないの?」
のほほんと言い放つ由比ヶ浜。
本人には他意は無いのだろうが、その言い方だと小馬鹿にしてるか、それくらい出来るだろうと挑発している風にも聞こえるんだが……。
「……ふぅん。あなたも言う様になったわね、由比ヶ浜さん。其処の死んだ魚の目をした変態紳士は兎も角、私を試す様な事を言ってくるなんてね」
ほら、生粋の勝負師に、変なスイッチが入ったよこれ。
完全にさっきの言葉を、雪ノ下は挑戦状と受け取った様だ。
「良いでしょう。この依頼受けましょう!」
雪ノ下の鶴の一声によって、奉仕部の参加は決定となった。
ちなみに、俺は最初から拒否権も無いので、特に思うところは無い。
それに、今回は他の誰でも無い戸塚の頼みだからな。
ちょっと、普段よりも、頑張ってみようと思う。
奉仕部の活動方針として、まず部長である戸塚を鍛える事に決定し、明日から本格的な鍛錬が開始される事となり、本日は解散となった。
本当なら俺は、戸塚を誘って、下校デートをしたいなと考えても居たのだが、残念な事に外せない用事があったので、今は一人、とあるビルの建設地の前まで来ている。
これは平塚先生から、お使いの時に頼まれた、もう一つの依頼。
今日は工事が休みとなっている為に、俺の他に人気は無い。
そもそも、この休みだって、裏でゼクトが何かした可能性が高いのである。
「しかし、こんなところにワームが、本当に居るのかね」
依頼の情報では、この建設地が休みの日。
擬態して街に潜んでいるワームが、仲間と情報交換をする際に利用しているらしい。
しかし、その場所も、もう間も無く別の場所へと移す予定だという情報を得た為、集まったワームを一網打尽にする様にとの事だ。
本当ならこういうタイプの依頼は、集団戦に特化したシャドウの方が適任なのだろうが、残念な事に似た内容の依頼が被り、シャドウは別の場所で戦っている。
そこで俺にお鉢が回って来たのだ。
前のお使いで、ホッパーの機能をパワーアップさせたのも、今回の案件に対応させる為の布石だと見て間違いないだろう。
いや、もしかしたら平塚先生が、気を回して手配してくれたのかも知れない。
あの先生は、心配性なところがある……何でそんなにも、子供想いな人なのに、結婚出来ないんだろうか。
「お、早速出て来たか」
建設地に来たばかりの時は、全くと言って良い程に人の気配がしなかったが、奥に行くに従って、ワーム特有の、嫌な気配が増えていくのを感じていた。
そして、俺を排除するべき、侵入者と判断したのだろう。
物陰からワラワラと、大量のワームが姿を現す。
「こりゃ、予想以上の団体さんだな」
思った以上の数のワームが出て来た事に、冷や汗を流しつつも、俺はブレザーのボタンを外し、中に仕込んでおいたベルトのバックルを開く。
それを合図に、ワームの隙間を抜けて、ホッパーゼクターが飛び跳ねながら俺の下へと辿り着き、最後に回りながら一飛びして、俺の手の中に納まる。
「……変身」
『ヘンシン・チェンジ・キックホッパー』
バックルにゼクターをセットする事で、俺の全身は緑のプロテクターに覆われ、バッタを模した仮面と赤い複眼が特徴的な、マスクドライダーシリーズの一つである、キックホッパーへと変身を果たす。
俺がキックホッパーになった瞬間に、近くに居たワーム達が一斉に飛び掛かって来る。
「このっ!」
俺は最初に飛び込んで来たワームを蹴り飛ばし、手始めに正面に陣取るワーム達に駆け寄り接近戦を仕掛ける。
だが、普段から相手にする数とは、桁違いにその数は多く、俺が見える範囲だけでも、20体は居そうな勢いだ。
このまま肉弾戦オオンリーだと、全て倒すまでに、どれだけ時間が掛かるか分からない。
「それなら、早速あれを試してみるか」
俺はそう言いつつ、ゼクターのレバーを半分だけ起こす。
「プットオン」
『プットオン』
一連の動作を行う事によって、ライダーフォームの上に、新たな装甲が形成されていく。
鋭角なライダーフォームとは違い、丸みを帯びた緑のアーマーと、赤い複眼の上に被せられた四角いバイザー、そして更に背中にはバッタの羽を模した二対の羽状のバックパック。
この姿こそが、ホッパーに新たに追加された簡易式のマスクドフォームである。
そして、新たに追加された機能はこれだけでは無い。
「はあっ!」
俺は新たな武器を手に、ワームへと斬り掛かる。
形状は小型の斧、ハンドアックスとでも言えば良いだろうか。
更に取っ手を持ち替えると、その先にはトリガーがあり、その先端は銃口となっている。
当然ながら、トリガーを引くと、光弾が発射され、命中したワームに対して、大きなダメージを与えた。
これこそが、俺の新たな武器、ゼクトクナイガン。
元は、他のマスクドライダーの万能武器として、使用されていたものと同類らしく、今も新たに開発中のマスクドライダーに、量産版を基本兵装として持たせようという動きがあり、そのテストタイプが、俺の装備として、送られて来たのだ。
ある程度の攻撃を無視出来る防御力を誇るマスクドフォームと、遠近両方に対応出来るゼクトクナイガンのおかげで、ワームの数はみるみる内にその数を減らしていく。
だが、ワームとの戦いは長引けば、それだけ不測の事態が発生する可能性が高くなる。
ワームの内の一体、幼生の緑のワームが、動きを止めて、茶色に変色したのだ。
「不味い!」
俺は急いでそのワームの下に向かおうとするが、残り僅かとなった他のワーム達が、俺の行く道を遮る。
「邪魔だっての!」
俺はハンドアックス状態のゼクトクナイガンで、そのワーム達を薙ぎ払うが、残念な事にその僅かな時間が、あの変化を始めたワームの目的を果たさせてしまう結果となってしまう。
茶色いワームの皮膚は解ける様に消え去り、中から灰色の表皮を持つ、蟻に似た大きな顎を持つワームが誕生する。
ワームには基本的に幼体と、成体の二種類が居て、基本的に成体の数は少ないとされているのだが、幼生のワームは何かがキッカケとなって、成体へと進化するのだ。
その現象は、俺達の間では、脱皮と呼ばれている。
今、まさに俺の目の前で起こったワームの変化こそが、その脱皮と呼ばれる現象だ。
そして、成体となったワームは同時に厄介な能力に目覚める。
俺が認識するよりも早く、ワームの姿が、忽然と消失した。
だが、それは文字通り、俺の目の前から消えた訳では無い。
俺の認識している時間から、クロックアップによって、違う時間の流れにワームがその身を置いてしまった為だ。
ならば、俺がするべき事は一つ。
中央まで立てていたゼクターのレバーを、再び下へと戻す。
「キャストオフ」
『キャストオフ』
そうする事によって、プットオンで追加でされた装甲がパージされ、再び俺の姿は見慣れたライダーフォームのキックホッパーへと戻った。
『チェンジ・キックホッパー』
ご丁寧に音声が流れるが、ここまではただの下準備に過ぎない。
クロックアップに、対抗するには、この姿に変わる必要があったのだから。
そして気付けば、建設中のビルの上から、大量の鉄骨が俺に向かって降り注ごうとしていた。
誰がこんな事をしようとしているのかは、大体の見当は着く。
だからこそ、俺は急いで次の行動へと移った。
「クロックアップ」
『クロックアップ』
ベルトの側部のスイッチを押して、俺もワームと同様に、通常とは違う時間の中へと飛び込む。
俺以外の全ての音と動きが、限り無く低速になった世界。
その時間の中で、俺に降り注ごうとしていた大量の鉄骨は、まるで重力を無視して、空中で静止したかの様に固定されている。
実際は今も、時間は進み、動いてはいるのだ。
ただ、今のクロックアップした、俺が感じる感覚の中では、止まって見えているだけ。
そして、上を見上げれば、案の定、俺に向かって鉄骨を投げ捨てている先程のワームの姿。
「そこか!」
俺は空中の鉄骨を足場に飛び移り、ワームの居るビルの上へと向かう。
「ライダージャンプ」
『ライダージャンプ』
更に中間の距離まで飛んだところで、ゼクターを反転させ、強化した脚部を活かして、更なる高さへと跳躍して、一気に距離を縮めていく。
そして手にしたゼクトクナイガンの、アックスとなっているケースをパージして、中から鋭利に伸びる刃で、ワームへと斬り掛かる。
これが、ゼクトクナイガンの、アックスとガンモードに続く、第三のモード、クナイモードだ。
ライダーフォームの素早い動きに合わせた、小回りの利く白兵戦の武器と言えるだろう。
この攻撃は完全に不意打ちとなり、見事にワームをビルから落とす事に成功する。
だが、俺の攻撃は、まだ終わらない。
このまま、決着をつけてやる。
「ライダーキック」
『ライダーキック』
もう一度ゼクターのレバーを反転させて、キック力を強化し、ビルの下へと落下するワームに対して、必殺の一撃を放つ。
キックを叩き付けた反動でジャッキが起動し、ワームを地面へと押し込み、俺だけがジャッキの反動で再びビルの上へと着地した時点で、クロックアップの制限時間を迎える。
『クロックオーバー』
同時に俺は通常の時間の流れへと戻り、大量の鉄骨が落下する音と、ワームが爆散する音が、耳に響く。
上から見渡せば、既にワームの影は無く、それは今日の俺の仕事が無事に終わったという事を意味していた。
「さてと、今日はいつもよりも派手に暴れたからな。誰かが来る前に、撤退しますかね」
俺は誰に言うでも無く、そう呟きこの場を後にした。
しかし、俺は見落としていたのだ。
この戦いの場から、二体のワームが逃げ延びていたという事実に。
そして、そのワームとの戦いは、近い内に意外な形となって行われる事になる事を、俺はまだ知らない。
今回は色々と詰め込み過ぎた上に、連載化に伴い、次回を彷彿させる終わり方となってしまいました。
そして個人的にはホッパーのマスクドフォームって、どうなのというのもあったのですが、これからも戦い続けていくなら、演出を増やす意味も込めて、追加させて貰いました。
ちなみにゼクトクナイガンは劇場版カブトであの人達が使っていたアレです。
設定上は劇場版のライダーは全員、装備品として持っていたそうなので、流石にこれからも主人公だけ、無手で遠距離武器が一切無しはきつ過ぎる為、追加しましたです。
これで暫くは追加の装備とかは、する予定は無いですが、何か要望でもありましたら、気軽にメッセージでもお送りください。
採用するかどうかは、分かりませんが、後に反映はさせて頂くかも知れません。
ではでは。