これも連載に変えたからこそ出来る投稿の仕方ですよね。
バトルは後篇になるおは思いますが、今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
普段ならば、いつものベストスポットで一人、優雅に昼飯を食べているであろう昼休み。
今日から、本格的に戸塚の強化特訓を始める予定だ。
俺は不本意ながらも、四限目が終わると同時に素早く教室で、事前に買っておいたパンを食べ終え、男子トイレで適当にジャージに着替えて、俺はテニスコートへと向かう。
それにしても、普段の俺から見れば、何とも付き合いの良い事である。
まあ、戸塚の頼みという部分が大きいのは認めるが、俺がこうして部活に励んでいるという事実が、意外だとしか言い様が無い。
結局のところ、この奉仕部とは、俺にとってどういった存在なのだろう。
平塚先生が言うには、俺の性格を矯正する為と言っていたが、俺が現段階でホッパーゼクターの資格者である以上、これからも生き方を変えるつもりはないが、もし万が一にも下手に今の性格が矯正されて、綺麗な八幡君になったとしたら、もう変身出来なくなるかも知れないとは、考えなかったのだろうか。
そう考えるとどうも、それはただの建前にしか思えてならない。
だとしたら、何か他に納得の行く理由があると考えるのが妥当だが、平塚先生の裏にはゼクトという巨大な組織が存在している。
俺を奉仕部に居れた理由が、雪ノ下の護衛と、先生の個人的な考えからとしたものならば、俺の考えはただの杞憂で終わるだろう。
だが、平塚先生の意思だけでなくゼクトの組織としての意思がが大きく関係していたとしたら……。
もしかしたら奉仕部とは、俺が考えているよりも、色んな意味で厄介な部活なのかも知れない。
こうして、考えを煮詰めていても、答えが出る訳も無い。
それよりも、今は戸塚のトレーニングについてだ。
我が部のサディスト女王様が特訓の指揮を執るのだから、俺がしっかりとラブリーマイエンジェルを守らなくては!
しかし、こうして考えると、俺とは違ったベクトルで雪ノ下も難儀な性格である。
俺も人の事を言えた義理ではない、少数派の考え方だとは自覚しているが、もしもこんな俺の心の傷が癒えるとするならば、戸塚が女の子であった時だろうな。
今回のテニスを通して、もしもラブコメ展開にでも入れば、俺の中の何かが変わるかも知れない。
はっきり言って、俺が知る限りで最も可愛いと言えるのは、戸塚 彩加だ。
素直で愛らしく、何よりもこんな俺に優しい!
ゆっくりと戸塚と愛を育んでいけば、きっと俺が周りから良く比喩される死んだような魚の目は、活力溢れる輝かしい瞳となり、人間的に大きく成長出来る可能性は高いだろう。
……でもな、あの子は男の子なんですよ。
期待させてこんな結末を用意している辺り、ラブコメの神様が居たとしたら、俺は凄い嫌われているのだろうな。
いや、それすらも越えて真実の愛に辿り着けと、ゴッドは俺に告げているのだろうか。
戸塚と出会ってから、やたらと頻繁に、俺の心の中で囁かれる、ついていてもいいじゃないか、という言葉も、神からの啓示なのかも……いや、これはきっと悪魔の囁きだ!
それにまだ、戸塚が女の子かも知れないという可能性だって、ゼロとは言い切れないじゃないか。
俺は僅かな可能性かも知れないが、戸塚が女の子だという、僅かな希望を信じている。
そんな小さな希望を胸に抱き、テニスコートへと向かう俺だが、昼休みの校舎をジャージで歩くと、非常に目立つ。
殆どの生徒が制服姿の中で、ジャージを着用しているのだから、普段から影の薄いぼっちの俺でも、それなりに人の目を引いてしまう。
特に俺の学年のジャージは見た目にきつい、淡いブルーの蛍光色で授業や部活で以外、好んで着る生徒は殆どいない。
だからこそ、余計に目立ってしまう訳だが、それは厄介な奴にまで発見される結果となってしまった。
「ムハハハハ! 其処を行くは、我が盟友、八幡では無いか!」
「こんな廊下の真ん中で、高笑いを上げながら、俺の名前をよぶんじゃねえよ」
こんな馬鹿みたいな高笑いを上げながら、俺に話し掛けてくる奴は、総武高校広しといえど、目の前の材木座を置いて、他に居ないだろう。
居るとすれば、ゼクトの保護施設に居るであろう、擬態材木座くらいのもんである。
出来れば、このまま奴をスルーして先に進みたいところだが、材木座は廊下の真ん中で腕を組み、仁王立ちしている為に、このまま突破するのは容易ではない。
「ここで出会うのも我らが運命、ディスティニー! 実は新たなプロットが完成したのでな。これから渡しに行こうと思っていたところなのだ」
「あ~悪いな。これからちょっと用事があるんだよ」
俺は、そう言いつつ、プロットの書かれた紙を受け取る事もスルーして、廊下の隅から突破を試みたのだが、材木座は優しく俺の肩を掴んだ。
そして、何故か奴のメガネの奥の瞳が、やけに優しげだ。
「そんな悲しき嘘をつくな相棒……お前に予定なんて、少なくとも学校では無いだろう?」
「嘘じゃねえよ! というか、お前にだけは言われたくないわ!」
確かに、俺の学校での予定って、奉仕部の活動しか無い気もするが……えっと、他にも偶に学校内でもワームが出るから、そん時は忙しいから! 命懸けで戦ってるから俺!
……はい、それ以外では、特に予定なんて無いですね。
「なに、八幡の気持ちは、我にも痛いほどに分かる。虚栄が為に小さな嘘を吐く事は人の持つ業よ。しかしそれは逃れられぬ悪循環へと繋がるのだ。その先に待つのは、人間関係というぼっちには耐えられぬ社会との関係の悪化を招く……最後に待つのは虚無でしかない……案ずるな。我もお前には弟の命を救われた。今度は我が助ける番だ!」
材木座が最後に、男なら一度は言ってみたい漫画で良く見かけるランキングの上位に入るだろう台詞を口にした。
良い笑顔で、爽やかにサムズアップするのを見て、本気で蹴り飛ばしたくなった。
「だから、本当に予定があるんだって……」
何とかライダーキック張りの飛び蹴りを見舞う事を我慢しつつ、俺が何とか材木座を説得しようとしたその時だ。
「比企谷くん!」
後ろからエンジェルボイスが聞こえ、戸塚が俺の腕に飛びついてくる。
いきなりの不意打ちに、俺の心臓がやけに高鳴り、ふわりと揺れる戸塚の髪から微かに良い匂いが……はっ!?
駄目だ俺! 正気を保つんだ! でないと持ってかれるぞ! 新たな開けちゃいけない真理の扉に色々と。
「ちょうど良かった。これからテニスコートに行くんだよね。 一緒に行こうよ?」
「あ、ああ……」
戸塚の左肩には、テニスのラケットケースが引っかけられ、その反対の右手は何故か俺の左手を握っているのだが……小さくて温かい手なんですけども、このまま恋人繋ぎしても良いでしょうかね。
「は、八幡よ……その御仁は……ま、まさか」
材木座は、信じられない何かを見るかの様に、俺と戸塚を交互に見て、生まれたての小鹿並にプルプルと震えている。
何この、見るに堪えない生き物。
しかし、材木座は、メガネの中の瞳を怒りに染めて、俺に向かって叫ぶ。
「き、貴様っ! 我を、裏切っていたのだな!?」
「裏切るって何をだよ?」
「黙れっ! この半端イケメン! なんちゃって変身ヒーロー! ぼっちだからと甘い顔をしていれば色香に惑わされおってからにっ!」
「半端だとかなんちゃっては外せよ」
ぼっちに関しては否定出来ないから、反論のしようもないが。
材木座は、怒りを露わにしたまま、俺に威嚇を続けている。
「貴様だけは……絶対にユルサンゾ」
「おい、落ち着け材木座。なんか最後に至っては言語機能が片言になってきてるぞ。戸塚は女じゃない、男だ……きっと、いや、たぶん?」
「フ、フ、ザケルナァァァァァぁ! コンナカワイイコ、オトコ、ワケナイ! ウソイクナイ!」
俺の自信無さげな発言を聞き、材木座が叫ぶ。
それと同時に、言語機能の崩壊も更に進んだ様だ。
「確かに戸塚は可愛いけどさ、男だよ」
俺のラブリーマイエンジェルだとは、思うがな。
「そんな……可愛いなんて……こ、困る、かな」
隣で俺の台詞を聞いた戸塚が、頬を染めて顔を背ける。
個人的な要望としては、材木座と対峙しているよりも、戸塚の恥ずかしがっている顔を、ずっと眺めていたい。
「あの、この人は、比企谷くんのお友達なの?」
「いや、こんな奴は知らないな」
「流石に我も、その対応は傷付くぞ」
何気に言語能力が回復した材木座ではあったが、完全に拗ねている。
面倒臭過ぎるだろこいつ。
気持ちは分からないでも無いのだが、もう色々と面倒だから、このまま無視して行ってしまっても良いだろうか。
「戸塚……行くか」
「う、うん」
俺はそのまま、材木座をスルーして行こうとするが、戸塚はその場を動こうとしない。
「あの、材木座くん、だっけ」
戸塚に話し掛けられた材木座は、シドロモドロになりながらも、何とか頷いて見せる。
「比企谷くんとお友達なら、ぼくともお友達になれるかなって……その、そうしてくれると嬉しいな。ぼくって男の子の友達が、そんなに多くないから」
そう言って天使の微笑みを浮かべる戸塚。
「フ、フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! 如何にも我は八幡の友! 盟友! 相棒! そ、そこまで言うのであれば仕方が無い! 貴公とも、友としての盟約を結ぼうではないか! いや、な、なんなら恋人でも」
「うん、それは無理かな。友達で良い?」
「う、うむ。そうか。……おい、八幡。もしかして我にも春が来たのではあるまいか!? これは天が我にラブコメをしろと囁いているのではあるまいか!?」
材木座は、急に俺にすり寄って小声で耳打ちしてくる。
本当に蹴り飛ばして良いだろうかこいつ。
さっきまでの俺への態度は何なんだよ。
美少女と仲良くなれるかもしれないと思ったとたんに、ここまで手の平を返してくるとか、きっと今回は俺が蹴っても、誰も怒らないと思うわ。
「……戸塚、早く行こう。遅れると雪ノ下に殺され……怒られるからな」
「む、それは不味いな。急ごうではないか。あの御仁は、本当に怖いからな……」
そう言って材木座は、先程とは違って意味合いで小鹿の様にプルプルと震えだす。
気持ちは痛いほどに理解出来るが、どんだけ雪ノ下が怖いんだよ、お前は。
というか、着いて来る気かよ、おい。
「……ふう……ん、んん……あぅ……はあ」
「うう……くっ……あっんんっううううんっ!」
結局、材木座を仲間にテニスコートに来た俺達だったが、雪ノ下の指導の下に戸塚の特訓は開始された。
そしてダイエットに効果があるという言葉に惹かれ、急遽として由比ヶ浜も特訓に参加しているのだが……。
「なあ、八幡」
「どうした? 材木座」
「我は今、何だか幸せな気分なのだが、お主はどうだ?」
「……ああ。俺もそんな感じだな」
俺と材木座は、戸塚と由比ヶ浜が並んで腕立て伏せをしている光景を見て、世界の誰よりも優しい気持ちに包まれていた。
戸塚は、あまり筋力が無いのか、腕立てをする度に、切なげな声を出して、縋る様な視線で俺を見上げて来る。
その光景を見ていると、何だかいけない気分になって来る。
その隣で同じく腕立てをする由比ヶ浜だが、腕を曲げる度に、襟元の辺りから、普段は見えそうで見えない汗粒に濡れる、肌が露出してこれまた、凄い光景となっていたりする訳で……。
これは、たまらんです。
本当にありがとうございました!
「……性犯罪者の目をしてる、そこの二人。暇ならあなた達も一緒に運動して、その煩悩を振り払ったらどうかしら?」
雪ノ下の俺と材木座を見る、心底蔑んだ視線が、メッサ怖い。
仕方が無く俺達は、女王の冷淡な視線から逃れる為に、腕立て伏せを開始する。
「そうやって見ていると、何だが斬新な土下座を見ているみたいね」
俺と材木座が、腕立て伏せをするのを見て、雪ノ下が楽しそうに笑う。
ドS過ぎるだろ、この女王様。
雪ノ下の特訓方針としては、まず身体能力の底上げを図るとの事なので、こういった基礎トレーニングが続く事になる。
暫くは地味なトレーニングが続き、少し息が上がって来た頃。
「ん?」
俺は視界の隅に、平塚先生が居た事に気付く。
しかも、平塚先生は、こっちに来いと指で合図を送っている。
「どうしたの? ヒッキー」
「悪い、俺ちょっと抜けるわ」
俺の様子に気付いた由比ヶ浜に、そう告げて、俺はテニスコートを出て、平塚先生の居たテニスコートの裏へと急ぐ。
しかし、このタイミングで呼ばれるとは、きっとアルバイトに関しての事だろうな。
それに、今回はまた厄介な事になりそうな予感がする。
「忙しいところをすまんな、比企谷」
「いえ、それより何の用ですか? 平塚先生。それと……葉山」
何故ならば、平塚先生後ろには、葉山まで居たのだから。
これで何もない、と思うのは無理があるだろう。
暫くは基礎練習を繰り返す日々が過ぎ、今度はラケットやボールを扱う練習も開始された。
最初の内は、指示を出す雪ノ下以外は、一緒に練習に参加していた俺達であったが、テニスの本格的な練習となると、初心者である俺達には、そんなに出来る事は多くない。
俺は手伝いを頼まれた時以外は、基本的に地面の蟻の観察をする毎日。
出来ればラブリーマイエンジェルの練習姿を見ていたいが、あんまり見ていると、雪ノ下や由比ヶ浜から、死ねば良いのにという意思の込められた視線を向けられる結果となるので、仕方が無い。
基本的に練習の指揮をする雪ノ下ではあるが、反復練習が殆どなので、偶に戸塚の様子を見て激を飛ばす以外は、近くの木陰で読書をしている。
由比ヶ浜も練習に飽きたのか、読書をする雪ノ下の近くで寝息を立てていた。
材木座に至っては、戸塚の練習の邪魔にならない場所で、必殺技の練習に励んでいたりと、何だか傍から見ていると何の集団なのか、分からない感じになってきていたりする。
だけど、そんな平和? と言える時間は長くは続かなかった。
「あれ、テニスしてんじゃねー」
珍しくも、いつもの奉仕部メンバープラス材木座が、珍しく全員で戸塚の練習に対して、手を貸していた日。
ちなみに今は、雪ノ下は練習中に擦り傷を負った戸塚の為に、保健室へと救急箱を取りに向かっている。
俺と由比ヶ浜と同じクラスの、金髪縦ロールこと、リア充女王の三浦が、俺達の傍へと、他のリア充集団がやって来たのである。
何だ? これから戦争でも始まるのか。
「あ、ユイたちだったんだね……」
三浦の隣に居た、メガネの地味目な子が、由比ヶ浜の存在に気付いたらしく、小声で呟く。
続いて三浦は、俺と由比ヶ浜を一瞥だけするが、露骨に無視して戸塚に話し掛ける。
材木座? あいつの存在は、最初から三浦の眼中にない。
リア充の気持ちなんぞ、分からないし、分かりたくも無いが、出来る事ならば材木座の存在を意識の中に留めて置きたくないという気持ちだけは、少し理解出来る。
だって、まともに相手すると面倒だもんな。
普段は普通に由比ヶ浜とも、仲の良い三浦ではあるが、奉仕部の一人である雪ノ下とは、敵対していると言っても過言では無い。
だからこそ、由比ヶ浜が雪ノ下と仲良くしているのは、三浦としては気に食わないのだろう。
リア充の女王と、氷の女王は相容れない関係の様だ。
「ねえ、戸塚ー。あーしらもここで遊んでいいよね?」
「み、三浦さん。ぼくは遊んでる訳じゃなくて……テニスの練習をしてるんだけど……」
「は? なに? 全然聞こえなかったんですけど!?」
戸塚が何とか三浦に、反抗の声を上げるが、三浦の返しの声によって押し黙ってしまう。
俺のラブリーマイエンジェルを脅すとか、何をしくさってるんだこの糞ビッチが!
これ以上の狼藉を働くなら、藁人形と五寸釘を持って、丑三つ時に呪いを掛けるぞおらぁ!
直接、あんなのと口論するとか、俺には無理ですから。
「れ、練習だから……無理……なんだ」
それでも、戸塚は勇気を振り絞って、再び口を開いた。
「でもさ、テニス部と関係無いのだって混ざって遊んでんじゃんよ? だったら、あーしらだっていくない?」
「そ、それは、ぼくの練習を手伝ってくれてるだけで、別に遊んでるんじゃ……ないんだけど」
「別に少しくらいなら良いじゃんよ。ねぇ?」
「……う、うう」
話の通じない三浦に、返す言葉を無くした戸塚が、助けを求める視線を俺へと向けて来る。
俺なのか?
この状況で!?
あの三浦に、ぼっちである俺が、どう戦えと……。
だが、今は雪ノ下は居ないし、由比ヶ浜も気まずげに顔を逸らしているし……まあ、材木座が役に立つ事は無いだろう。
ならば、もう俺が行くしか無いだろうな。
「えっと、悪いんだけどこのコートは戸塚が頼んで使わせて貰ってるから他の奴は使えないんだよ。俺達は部活の依頼で手伝ってるから居る訳でさ」
「はぁ? 何言ってんのこいつ、マジキモイんですけど」
あ、駄目だわ。
このバカビッチ、最初から人の話を聞く気がねえよ。
言葉が通じないとか、人間としてどうなんだよ。
まだワームの方が、会話に応じてくれるんじゃないか、これ。
「まあまあ、そんなに喧嘩腰になることないだろ」
険悪なムードの中、リア充集団の中から抜け出して、発言したのは葉山だった。
一瞬だけ、俺と葉山の視線が交差する。
「ほら? みんなでやった方が楽しいし、そういうことで良いんじゃないか?」
本来ならば、葉山の言葉はぼっちである俺にとって許し難い、弱者を顧みない、強者の言葉だ。
みんなでやった方が楽しい? そのみんなって誰だよ。
そんな経験無いから、俺には分からねえっての。
でも、今はこの言葉で、すぐに噛みつく訳にはいかない。
もしも、奴等がこの誘いに乗って来なければ、このまま俺が噛みつき、場を持たせる必要があるが、それはこれからの流れ次第だ。
「そんなの僕達から言わせれば、迷惑なだけなんですけどね」
「どっちもテニス部からみれば、部外者な事に変わり無いだろうが」
テニスコートに、奉仕部でもリア充集団の誰でも無い、第三者の声が響く。
声のした方を見れば、俺達と同じジャージを着た二人組の姿が在った。
一人は細身のメガネを掛けた男子。
そしてもう一人は、同じく細身ではあるが、長身の茶髪の垢抜けた男子だ。
「た、高田くんに山内くんも!?」
二人のジャージ姿の男子を見て、戸塚が声を上げる。
この二人は、俺にも見覚えがある。
戸塚と同じテニス部の部員だ。
以前に街で、戸塚と一緒にテニスラケットのケースを担いで歩いているのを、見た事もあるし間違い無いだろう。
そしてこの二人が現れたという時点で俺の……そして葉山の目的は果たされた。
実はこの騒動。
事前に平塚先生と、俺、葉山で仕組んだ計画だったのである。
以前に俺がビルの建設地でワームの集団を倒した後、ゼクトが調査に入った結果、今、目の前に居る家の一人、メガネを掛けた方の高田が保護された。
そして保護された高田の証言から、山内を連れて二体のワームが逃げて行った事が、明らかになったのである。
何で擬態をした後なのに、まだこの二人が生かされているのか分からないが、下手に見捨てる訳にはいかない。
強硬手段を取れば、すぐに山内は始末された上に、別の誰かに擬態される恐れがある。
そうすれば再び見つけるのは、困難になる可能性は高いだろう。
だからこそ、俺達は一芝居打った。
今の奴等は、テニス部員に擬態している事から、何らかの形で、そのテリトリーを刺激してやれば、釣れるかも知れないと考えたのである。
葉山が三浦を連れて誘導すれば、こうなるだろうとは、予想出来ていた。
流石は金髪ロールなだけあり、中学時代は、かなり本格的にテニスをやっていたらしく、大会でも上位に入る実力を持っていたらしい。
そんなビッチ婦人ならば、目の前でテニスをしていれば、突っかかって来るのは自明の理。
まあ、ここまで事が上手く行くとは、思っていなかったが、作戦が上手く行ったならば、それは御の字という奴なので、俺としては別に構わない。
「戸塚部長。こんな部外者達を、僕達のコートに入れるべきじゃ無いですよ」
「そうだぜ部長、こんなふざけた奴等とテニスするなら、俺達と練習しようぜ」
「そ、そんな……比企谷くん達はテニス部の為に、ぼくの練習に付き合ってくれてるのに……」
案の定、あの二人は俺達に対して敵対意識を持っている。
ならば、交渉は思ったよりも簡単に出来そうだ。
俺は心の中でほくそ笑みながら、葉山を見る。
「それなら、君達テニス部員と部外者の俺達二人で、ダブルスを組んで勝負して決めないか? 君達が勝てば、俺達は大人しく出ていくし、俺達が勝ったら、みんなで仲良くテニスをするってのはどうかな?」
全くもって気に入らない、葉山の言い分ではあるが、相手の土俵で勝負をすると言っている以上、あっちも無下にはし難いだろう。
「良いぜ。その勝負に乗ってやるぜ」
「それで、君達は誰を選手として出すんだい?」
どうやら、交渉するまでも無く、奴等は勝負に乗り気な様だ。
問題は誰が勝負をするかだが、まず葉山が出るのは言いだしっぺである本人なのだから、確定だろう。
後一人は、経験者だという三浦辺りだろうか?
「それじゃあ勝負するのは俺と……ヒキタニ君で良いかな?」
「はぁ?」
葉山は何故か、俺を指名してきた。
というか、ヒキタニ君はこの場に居ないと言いたい。
この辺りの采配は、全て葉山に任せてしまっていたが、唐突に何を言い出すんだこいつ。
「隼人ー、そんなヒキオに任せるくらいなら、あーしが出たいんですけど」
当然ながら、俺に良い感情を持っていない三浦が、反抗の声を上げる。
言っている事は気にいらないが、俺も試合に出たいとは思わない。
良いぞバカビッチ。
もっと葉山にアピールしてやれ。
「流石は金髪縦ロールだな。テニスへの執着は中々のもんだな」
「……あれ、ただのユルフワウェーブなんだけど」
リア充イケメンとリア充女王のやり取りを見て、頷く俺に由比ヶ浜が呆れた様に呟く。
「いや、由美子。今回は俺とヒキタニ君で組ませてくれ。そうしないと公平じゃないからさ」
「えー」
納得はしていない様だったが、三浦は葉山の言葉に渋々と頷いてしまった。
いや、諦めるなよ!
さっきまで戸塚と俺に対しては、話を聞く気すら無かったじゃねえか。
もっと自分の欲望に忠実になれよ。
それでも金髪縦ロールか!
「そういう訳で、宜しく頼むよ。ヒキタニ君」
「何がそういう訳なのか、分からないんだがな……」
何が悲しくて、俺はこんな公共の場所でイケメンリア充と、テニスなんてしなくちゃならないいだっての。
だが悲しい事に、既に周りは俄かに盛り上がりを見せ始めており、俺が辞退するのは難しい状況たなっていた。
「……はあ、仕方ないか。戸塚、審判は任せるな」
「う、うん」
複雑な表情を見せつつも、戸塚は審判をする事を、承諾してくれる。
まあ、戸塚からすれば、どちらの味方もし辛い状況と言えるだろうから、仕方が無い事だろう。
出来れば戸塚には、いつだって可愛い笑顔でいてほしい。
ならば、俺もいつまでも渋っては居られないだろうな。
俺と葉山は、ラケットを片手に、コートの上に立つ。
「隼人ー頑張れー負けんなしー!」
三浦を手始めに、周囲のギャラリーから、盛大な葉山コールが巻き起こる。
比企谷コールは当然ながら無い。
ヒキタニ君コールすら無いですからね。
「ヒキタニ君。俺達があの二人のワームの相手をしている間に、シャドウの別働隊が山内を探してる」
「……ああ。なるべく試合を長引かせて、時間を稼ぐぞ」
コートの中で、葉山が小声で打合せをしてきたので、俺もそれにならって小声で答えを返す。
こうして、擬態して学校に来ているという点と、俺がビルの建設地で殆どの仲間のワームを倒している事を考えると、この学校の付近に山内が監禁されている可能性は高い。
しかし、冷静に考えてみると捕まっている山内は、俺達……ゼクトに対してのていの良い人質なのだろうな。
名乗りはしなくても、奴等は既に自分達がワームの擬態である事をばれていると、気付いているだろう。
それでも、堂々と学校にまで来ているのは、いつでも山内を始末できるという脅しに加え、別の誰かに擬態をする事が出来るという意思表示に他ならないのでは無いだろうか。
「頑張れヒッキー!」
「行け! 八幡! 貴殿の隠されし力を見せるのだああああああああああああああああ!」
これから試合が始まるという時に、盛大な葉山コールに交じり、僅かではあるが俺を応援してくれる声も聞こえて来た。
「そ、それじゃあ試合を開始します」
審判席に座った戸塚が、声を張り上げる。
その声を合図に、俺を含む四人が、コートの中で身構えた。
最初のサーブ権はテニス部だ。
試合最初のサーブを放つ高田。
弱小とは聞いていたが、それでもテニス部なのだろう。
思ったよりも、スピードの乗った球が、俺達がわのコートへと迫り来る。
「ヒキタニ君!」
「おうっ!」
葉山の声に、短く返事を返しつつ俺はボールを力強くラケットで打ち返す。
何とか無事にリターンを返すが、既に山内がフォローに入って、打ち返す姿勢に入っている。
こうして、イケメンリア充と、ぼっちの異色タッグのテニス勝負が始まった。