これから先もプロットは既に出来ているのですが、暫く忙しくなるのと、宣言通りにもう一本の連載にも力を入れるので、次のお話からは不定期な更新となるかと思います。
月末にはライダーの新作映画に、来月は俺ガイルの新刊もでるので、そっちの方も楽しみたいなと考えていたりしますが。
そんな訳で今回も楽しんでいただけたら嬉しいです。
ではでは。
試合が始まってから、俺達は実力的には遠く及ばないが、プロも顔負けなラリーの応酬を繰り広げていた。
弱小とは言え、テニス部員に擬態したワームがそれなりの実力を持っているのは当然として、それに対抗出来ているのは、一人で黙々と壁打ちを極めた俺と、ずば抜けた運動能力を持った、葉山だからこそと言えるだろう。
試合が始まった当初は、ギャラリーの熱い雄叫びだったり、葉山に黄色い声の声援が送られたりと、賑やかだったが、延々と続くラリーに、何時の間にか息の詰まる緊張感が場を支配し、ラケットで球を打ち合う音だけが、やけに大きく聞こえて来る状態となっていた。
拮抗状態が続くのは、俺と葉山からすれば、願ったりという状況である。
どれだけ、この試合を長引かせていられたとしても、昼休みの終わりまでというタイムリミットは存在するが、最低でもその時間もでは、時間を引き延ばさなければいけないという事だ。
このラリーが続けば、簡単にその時間は稼げるだろうが、相手の方は本気で勝ちに来ている。
「このっ!」
拮抗したこの状況に、一石を投じる為か、ここで山内がこの試合で一番と言えるであろう強烈なスマッシュを繰り出す。
別に勝つ事がが目的ではないので、少し位のリードを許しても構わないのだが、運の悪い事に、この強烈なスマッシュは、俺のラケットに届くかどうか、微妙な位置に流れようとしている。
今回の様なケースは、かなり特殊な例になるのだが、ぼっちは稀にこうして、リア充とペアを組んで、何かしらのイベントに参加しなければならないという恐ろしい罠が、隠されているのだ。
他の相手であれば、特に目立つ事も無い。
しかし、それが周りの人間から見て、目立つリア充となると、嫌でも比べられるのだ。
そして、リア充の足を引っ張る結果となると、物凄い勢いで非難を受ける事となってしまうのである。
頑張ったんだからという、努力は認められない。
スクールカーストの最下位に位置する奴は、例えそれが理不尽だったとしても、ある程度は許容していかなければ、平和な日々を送る事すら困難なのだ。
ソースは俺。
特に女子の下す評価なんて、本当に怖いの一言に尽きる。
だって俺みたいなぼっちは、落としたハンカチを拾って、返そうとしたら気の弱い女子だと泣かれる上に、周りの女子からその件について、徹底的に攻められるのが常なのだから。
それを理不尽だとは、思わない、そう思ったところで、現状は変わらないからな。
だったら、どうすれば良いか、答えはシンプルだ。
「ちっ!」
俺は全力でボールへと食らいつき、際どいコースに打ち返す。
既に高田がフォローに入っていた為、これが決定打とはならなかったが、無理な姿勢で打ち返した為に、俺達のコートの中へと戻って来た球は、打ち返すには絶好球と言って良い程に弱い勢いしかない。
そんなチャンスボールを、相方であるイケメンリア充様が、お見逃しになる訳が無いだろ。
「はっ!」
予想通り、ネット付近まで駆け寄って来ていた葉山が、気合の入った掛け声と共に、鋭いスイングでスマッシュを放つ。
流石にこれには対応出来なかったのか、見事に葉山の放ったスマッシュが、コートに叩き付けられて、後方へと飛んでいく。
次の瞬間、先程まで静まっていたギャラリーが、溢れんばかりの歓声を上げる。
そして地鳴りの様に響く葉山コールと、女子生徒達の黄色い声援。
ちなみに俺への声援は特に無い。
「ナイスアシスト! ヒキタニ君」
「……どうも」
葉山が爽やかな笑顔で、俺に手を差し出してきたので、俺は軽くその手を叩くことで、返事とした。
こういった場面で、俺みたいなぼっちが、どう動くべきか。
それは、より目立つ人物を、檀上の上へと押しやり、引き立て役に徹する事だ。
現に今も、葉山が得点を決めた事によって、周囲の注目は、全て葉山へと向けられている。
全ては、計算通りという事だ。
「は、葉山×ヒキタニとか、凄い萌えるんですけど……お互いに見詰めて手を触れ合わせちゃうとか……ハァハァハァ……これはもう、ヒキタニ君の誘い受けとしか……」
「ちょっ! 海老名ってば、ちゃんと擬態してろしっ!?」
……なんか若干一名だけ、俺に妙な視線が送られた上に、ワームとは別の意味の腐った擬態が本性を現せた気もするが、今は気にしないでおこう。
取り敢えずこれで、俺達の方が先制点を挙げたので、このまま昼休みが終われば、結果として試合そのものも、俺達の勝ちとなりそうだが、素直にそれを奴等が許容するとは思えない。
出来ればこのまま拮抗し続ければ、試合自体もうやむやにしたいのだが、きっと向うは何かしら仕掛けて来る筈だろう。
「はん! 少しはやるみたいだな。だが遊びはここまでだぜ」
「そうだね。そろそろ、僕達の本気を見せてあげよう」
俺の予想を裏付けするかの様に、山内と高田も、バトル漫画の敵が好んで言いそうな台詞を口走っている。
というか、まさか現実でこんな言い回しを聞く事があるとは、思いもしなかったが。
再び試合は再開され、暫くは先程と同じ様に、ラリーの応酬が続くという流れになっていたのだが、今度は早い内に変化が訪れた。
「これで決めます!」
高田がそう宣言して、打ち返すが球の威力は、ラリーの球筋と速度もほぼ変わらず、葉山ならばすぐに対応出来る範囲へと流れる。
その球を難無く打ち返そうとする葉山だったが、ここで予想外の出来事が、発生してしまう。
「「なっ!?」」
俺と葉山は、その現象に、思わず声を上げた。
何せ、葉山が確かに球をラケットで捉えたと思った、その直後、球がラケットをすり抜けてしまったのである。
そして、何事も無かったかの様にして、コートの中に落ちる球。
「あ、あの球は……魔球!? ステルスイリュージョンか!?」
材木座が一人、解説顔で何やら叫んではいるが、取り敢えず無視だ。
何だよ、そのステルスイリュージョンって。
俺ってば、何時から王子様的なテニス漫画世界にトリップしちゃったの?
あ、俺の隣の奴が、まだまだだねって呟いてたらなんかそれっぽいかもな。
「な、何なんだ、今のは?」
「……分からん。だがあいつ等が何かをやったのは、間違い無いだろうな」
実際に打とうとした、葉山が茫然としながら言うのも仕方ないだろう。
近くで見ていた俺だって、同じ意見だ。
しかし、相手コートを見れば、自信有り気にドヤ顔をする、高田と山内。
あの様子を見るからに、さっきの現象が、意図的に起こされた物だと想像するのは、容易である。
問題は、どういった手段で、あんな魔球みたいな真似をしてみてたのか、という事だ。
あの二人は、ワームの擬態な訳だが、高田と山内の記憶も有している。
つまり、高田は元からこんな魔球を使えるプレイヤーだった……いや、こんなプレイヤーが居たら、そもそも弱小なんてレッテルが張られる事は無いだろう。
だとすれば、ワームの能力か?
でも、あいつ等は擬態をした状態だ。
そんな状態で、碌な能力は使えはしない。
聞いた話によると、人間体のままでも、異常な強さを見せる個体は過去に居たらしいが、それならばこんなところに潜伏なんてせずに、もっと大々的に行動している筈……。
何かしらのカラクリはある筈だ。
だが、現状では情報が少な過ぎて、正解までの道筋が見えない。
この時、考えを一点に集中していた俺は、気が付かなかった。
不意にギャラリーがざわめき始め、コートまでの人垣が割れ、一筋の道が出来ている事に。
「これは一体、何の騒ぎなのかしら?」
現れたのは、とても不機嫌そうな顔をした、雪ノ下だ。
片手に救急箱を持っている事から、今しがた戻って来たのだろう。
「ゆきのん!」
「何があったのか、説明して欲しいところだけど、それは後で良いわ」
飛び付く由比ヶ浜を引き剥がしながら、雪ノ下は俺に対して、こっちに来いと指示を出す。
何故か葉山も一緒に来たが、この際それはどうでも良い話だ。
それよりも、説明だけならば、由比ヶ浜に聞けば良いだけだろうに、こうして試合中だという場面であるにも関わらず、俺を呼び付けるのだから、何か言いたい事でもあるのだろう。
これで、俺の事を罵倒しておきたかっただけとか言われたら、たぶん泣くぞ俺は。
「それで、何の用だよ。雪ノ下」
「実はここに来る途中で、平塚先生から伝言を頼まれたのよ」
「伝言?」
「ええ。目的は達成した……と言えば分かるだそうよ」
雪ノ下の言葉が意味するのは、十中八九、監禁されていた本物の山内が、見つかったという事だろう。
ならばもうこんな茶番は終わりにしても良いのだが……。
「ここまで派手に始めたからには、もう引っ込みが着かないんじゃないか?」
テニスコートで観戦する多くの生徒達を前に、ここでお開きですと言っても、納得する奴は居ないだろう。
「そう言えば、ここに来る時に、コート横の茂みからワームがテニスコートの様子を覗ってるのが見えたけど、またそれ絡みなの? 今回も……」
「え?」
「ちょっと待て、雪ノ下。今なんて言った?」
雪ノ下の予想外の言葉に、俺は思わず聞き返した。
あまりにも予想外な発言だった為に、後ろで俺達の会話を聞いていた葉山まで、驚愕している。
「だから、私はワームを見たって言ったのだけれど、今更そんなに驚くべき事かしら」
「そのワーム。前にも見た緑の奴だったか?」
「いいえ。背中に硬そうな甲羅みたいなものが付いたし、色は薄い紫色だったわね。あれって前に比企谷君が言っていた、成体のワームなんでしょう」
「……なるほどな」
雪ノ下の話を聞いて、俺は一人、静かに納得する。
そして、この現状を一般人を必要以上に巻き込まずに解決させる方法も、思い付く。
だからこそ、俺は高らかに宣言する。
「選手交代だ!」
「どうして、私がこんな事をしないといけないのかしら?」
「つーかさ。あーしはどうしてこの女と一緒に、テニスしないといけない訳なん?」
俺が選手交代宣言をしてから、数分後。
少し前までコートに立っていた俺と葉山の代わりに、不機嫌顔をした雪ノ下と三浦がテニスウェア姿で立っていた。
「こっちにも事情があるんだって。それにこっちの方がギャラリーも盛り上がるだろうしさ」
「その下衆な考え方は、流石というべきね」
笑顔で罵るのは、余計に怖いんで止めてくれませんかね。
こっちは、軽い冗談で、ちょっと場を和ませようとしただけだってのに、本気で殺られるかと身構えちまうじゃねえかよ。
「すまん由美子。でもさ、お前もテニスがしたいって言ってたよな。このまま俺とヒキタニ君が試合を続けると、どっちにしろ今日はテニスをする時間なんて無くなってたわけだし、今日のところは雪ノ下さんと組んで、一緒にやってくれ」
「……ふーん。まあ、隼人が言うんだったら、仕方ないけどさー今度はちゃんとあーしとテニスしてよー」
俺が雪ノ下から罵倒されている間に、葉山はビッチ婦人こと、三浦の説得に当たっていた。
それにしても、俺や戸塚には、高圧的に攻めていたというのに、葉山の言う事にはイエスガールなんだな、この金髪縦ロールは。
一体、俺と葉山の何が違うと……あ、イケメンリア充と、ぼっちの違いでしたね。
そして戸塚は、地上に舞い降りた天使だったけ。
兎に角、俺と葉山はテニス勝負を二人の女王に任せて、コートの裏へと引っ込む。
「分かってるな? 葉山」
「ああ。行くよヒキタニ君!」
だからヒキタニ君って誰だよという突っ込みは置いておくとして、俺は頷きながら、ジャージの上着のジッパーを下げて、中に着込んでおいたベルトの中央のバックルを開く。
「来い! ザビーゼクター!」
その隣で葉山が宣言すると、上空から機械の羽を振動させながら、蜂型のゼクターであるザビーゼクターが飛来し、ほぼ同時にホッパーゼクターも地面を飛び跳ねながら俺の他の中に納まる。
ザビーゼクターも同じく、資格者である葉山の手の上に着地した。
「変身!」
「……変身」
葉山は、左手のブレスにゼクターをセットし、俺もベルトにゼクターを茶色いカラーリング部分を表面にセットする。
『ヘンシン』
『ヘンシン・チェンジ・パンチホッパー』
音声が流れると同時に、俺と葉山の体に其々、茶色と黄色の装甲が展開されていく。
ワームと戦う為に作られたマスクドライダーシステム。
その要であるゼクターに選ばれた資格者だけが、なる事を許されるのが、俺と葉山が変身した、このマスクドライダーである。
「キャストオフ!」
『キャストオフ』
更に葉山が変身を果たしたザビーは、続け様にゼクターを反転させ、装甲の一部をパージさせ、マスクドフォームから、ライダーフォームへと速攻で変わる。
それというのも、これから俺達がしようとしている事は、ライダーフォームの時にのみ使う事が出来る、クロックアップが必須となるからだ。
『チェンジ・ワスプ』
装甲が吹き飛び、ザビーがライダーフォームとなった事を確認した俺は、身を潜めながら、テニスコートの様子を確認する。
どうやら、俺達が変身している間に、既に試合は再開されていた様で、激しいラリーが展開されていた。
そして、狙うべき瞬間は、すぐにやって来る。
三浦が返した球を、高田がスマッシュで打ち返し、雪ノ下がフォローに向かおうとした瞬間。
そう、さっきの魔球が放たれた時の焼き回しの様な状況となった、この時こそ俺達が待っていた瞬間なのだ。
「行くよ、ヒキタニ君!」
「おう!」
俺達、二人のライダーは互いに合図を送り、ベルトに手を掛けて叫ぶ。
「「クロックアップ!」」
『『クロックアップ』』
クロックアップによって、通常とは違う時間の中へと身を投じた事によって、世界の見え方までもが変わる。
全てが停止したのではないかと、錯覚してしまいそうになるまで、遅い動きの中で、一体だけ我が物顔でコートの中央へと歩いていく、薄紫色をしたダンゴ虫みたいな背中をしたワームが其処に居た。
「やっぱり、そういう事だったんだな」
俺はそのワームがしようとしている事を見て、自分の想像が正しかった事を確信した。
やはり、あの高田が放った魔球は、ワームのクロックアップによって演出されたインチキだったのである。
俺は最初に提示された逃げたワームは二体だったという情報で、目の前で擬態していた二人だけに注意が行き、その他の可能性を考えようともしなかった。
確かにこの付近のワーム、かなりの数を一網打尽にした後だったが、それで全てのワームが倒された訳ではないのは、当然の事だ。
それこそ、難を逃れた成体のワームが、一体でも新たに仲間に加えていたとしてもおかしくない。
「なるほど。俺の時も、ああやってクロックアップしてる間に、ボールを移動させてたわけか」
「まあ、そういう事だな」
そうだと分かった以上、何度も同じ事をさせる訳にもいかない。
俺はザビーと、雪ノ下の近くに近付こうとするワームに駆け寄り、拳を振り被る。
流石に俺達の接近に気付き、身構えるワームだったが、奇襲に成功した形になっていたおかげで、先制の一撃をザビーが決め、俺も追撃となる拳を叩き込む事が出来た。
しかし、ここで予想外な事態が発生してしまう。
「こいつ、思った以上に硬いぞ!?」
「俺とヒキタニ君の攻撃が効いてない?」
拳を決めたからこそ、その当事者である俺達はワームの強固なまでの防御力に、驚愕した。
だがこのままコートの真ん中で暴れさせれば、被害は拡大してしまう。
「葉山は右側を持て!」
俺はワームの左腕を引っ張りながら、ザビーに協力を求める。
不本意ではあるが、今は猫の手も借りたい状況だ。
何よりも、俺のプライドなどよりも、戸塚の大切なコートを傷つけるのだけは、避けなくてはならない。
「このまま引っ張り出して、コートの裏に行こう!」
言われなくても、最初からそのつもりだ。
ザビーが右腕を押さえた事を確認し、俺達は抵抗を続けるワームを無理やり押さえつけて、コート裏へと引きずる事に成功するが、ついにワームの振り上げた腕の力に耐え切れず、吹き飛ばされてしまう。
俺よりも一足早く、体勢を立て直したザビーが、もう一度ワームに攻撃を仕掛けるが、やはりただの打撃は効果が薄い様だ。
通常のワームは、単純な防御力だけならば、幼生ワームの方が高い場合すらあるのだが、このワームは逆に防御が高くなっているらしい。
その代わりなのか、動きは幼生のワームに比べても、少しどんくさいという印象を受ける。
「素手で駄目なら、獲物を使って再挑戦といきますか!」
俺はゼクトクナイガンをハンドアックス状態で手に持ち、横から斬りかかった。
流石にこの攻撃は、それなりに効いたらしく、斬撃を受けたワームは踏鞴を踏むが、この攻撃がワームの逆鱗に触れてしまったらしい。
ザビーの攻撃を無視して、ワームは俺に殴りかかって来た。
がむしゃらに殴りかかろうとするワームに対して、俺が出来る事は、次の一撃への確実な布石を置くこと。
「受け取れ葉山!」
俺は手に持っていたゼクトクナイガンを、ザビーに向かって投げ放ちながら自ら後ろに倒れる。
今、俺達が出来る通常の攻撃で確実にダメージを与える事が出来そうなのは、ゼクトクナイガンによる攻撃だけ。
それを投げ渡した意味をザビーも、すぐに理解したのだろう。
だからこそ、俺は更に先、勝利の為への、新たな布石を置く為の行動に移る。
「たあああああっ!」
受け取ったゼクトクナイガンで、ザビーはワームの背中へと斬り掛かる。
当然ながら、俺に気を取られている間に、背中から強烈な一撃を見舞われバランスを崩したワーム。
前のめりに倒れるワームの前には、自ら地面に待機していた俺が居る。
既に俺は、ベルトのゼクターのレバーを反転させていた。
「ライダージャンプ」
『ライダージャンプ』
強化された脚力によって、俺は倒れこんで来ようとするワームの腹を蹴り、垂直に飛ばす。
その様子は、まるでロケットを発射したかの様にも思える。
「これで決めるぞ葉山!」
「一緒に決めるよヒキタニ君!」
俺は立ち上がり、もう一度ゼクターのレバーを反転させて、ザビーも腕のゼクターのニードル部分を突き出してスロットルを指で押す。
「ライダーパンチ」
「ライダースティング!」
二人のマスクドライダーが、上空から落ちて来るワームを見据えて必殺の一撃を放つ準備を整えて、身構える。
『ライダーパンチ』
『ライダースティング』
其々の腕にエネルギーが集約されていくのを感じながら、同時に突き出された俺とザビーの一撃がワームの硬い防御力を貫く。
『クロックオーバー』
ワームの腹を二つの拳が突き抜けた瞬間に、クロックアップの制限時間が過ぎ去り、ワームは爆発し無に返り同時にコートからギャラリーの大きな歓声が上がった。
どうやら、ワームが爆発した音は、この歓声に掻き消されて、周囲には聞こえなかったらしい。
そして歓声が上がった理由だが、どうやら雪ノ下が強烈なリターンを放ち、見事に勝ち越しとなる得点を挙げたからだろう。
昼休みも、もう終わりだ。
つまり、試合も俺達の勝ちという訳だ。
テニス勝負も上手い事に決着がつき、昼休みも終わりという事もあって、ギャラリー達は、我先にと、校舎の中へ戻っていく。
だがそれに納得出来ない奴が、二人程……。
「こんなの、納得出来ませんね」
「そうだぜ。こうなったら……」
ワームが擬態した高田と山内が、人間の皮を捨てて、ワームとなって凶行に及ぼうとするが、既にシャドウが本物の山内を保護し、試合が終わった事で、皆の注目から外れた奴等に、遠慮をする理由はない。
だからこそ、俺と葉山は後ろから二人の背後に近付き、軽く肩を叩いてやる。
不意に肩を叩かれた事で、振り向く二体のワーム。
当然ながら俺はワームの表情の変化なんて、分かる筈もないが、今だけは何となく分かる気がする。
これは凄く、驚いているんだろうなと。
そして、俺達の存在に気付いたワームは、数秒の硬直の後に、幼生のワーム特有の少し不自由そうな腕を無理に横に回し、顔の近くを掻く素振りを見せる。
きっと、こりゃあ参ったな、とでも言いたいのだろう。
だから俺は仮面の下で、最高の笑顔をしつつ拳を振り上げてやった。
今回は色々と、厄介な問題が多発したりと、普段にも増して難儀な仕事だったが、どうやら無事に仕事を終えられた様だ……。
先日の件で、全ての問題が解決されたと思っていたが、それはただの勘違いだった。
確かに昨日の勝負で、部外者とテニス部の因縁には勝負が付いたと言えるだろう。
いや、正確に言えば高田達に擬態したワームが居なければ、そもそもあの勝負すら成立していなかった筈だ。
それよりも今、問題となっているのは、それよりも以前の衝突。
部外者同士の、亀裂である。
ここで完全調和、パーフェクトハーモニーが信条だと信じているであろう葉山ならば、なあなあにしてみんなでテニスをしようとでも提案するだろうが、あの金髪縦ロールのビッチ婦人がそんな緩い提案に納得する訳がない。
まあ、葉山が言えばイエスガールとなって、納得してくれる可能性も無きにあらずだが、我が部には頼もしくもルールにはとても厳しき氷の女王様が居る。
昨日の共闘によって友情が芽生えるという事は、二人の両極端な女王様には無かった様だ。
売り言葉に買い言葉という台詞を、あそこまで体言している存在を、俺は見た事が無い。
ここだけの話、ワームと戦う以上の恐怖を感じたぞ。
そんな紆余差曲を経て、戸塚を指導する、つまり昼休みにテニスコートを使う権利を賭けた勝負は、翌日へと持ち越された。
「どうしてこんな事になったんだろうな……」
昼休みも終わりに近い時間。
俺は疲れきった体を引き摺りながら、溜息を吐く。
結局、その勝負も最後は、ボールを追ってテニスコートのフェンスにぶつかりそうになる三浦を、葉山が庇いギャラリーの強烈な葉山コールを受けながら、お姫様抱っこしながら消えて行くことによって終息してしまった。
日を改めてまで、勝負をして貴重な昼休みを二日も続けて潰したという事実が残ったのだから、疲れもする。
でも、一つだけ、意味のある事があるとしたら……。
「あの、比企谷くん。ありがと……」
戸塚が恥ずかしそうに頬を染めながら、俺にそう言って微笑んでくれた事だろうか。
その後、すぐに恥ずかしさからか、顔を背けてしまったところが、実にいじらしい。
もうこれは、王道的に言って抱きついてキスをする流れなのではないかと思うのだが、残念な事に、目の前にいる俺のラブリーマイエンジェルは、男の子なんだよな。
既に何度目か分からない程に、俺の心の中で囁かれ続けている、ついていてもいいじゃないか、という禁断の果実的なあれな言葉に、思考が傾きかけるが、俺はその邪なる心を鉄の意志によって封印する。
俺の天使を汚すなど、大罪を許す訳にはいかん。
こんなラブコメを、俺は求めてもいないし、戸塚の性別も間違っている。
世界は何時だって辛くて、正し過ぎて、そして間違いだらけだ。
「俺は大したことはしてないって。お礼を言うならあいつ等に言え……」
そう言って周りを見回すが、肝心の奉仕部メンバーの姿が見当たらない。
いや、正確に言えば少し先の廊下に、奉仕部の部室の中へと入って行く見覚えのある後姿が、視界の内へと入る。
何時の間に、あんな先に行ってたんだあいつ等は。
礼の一つくらい、俺からも言っておく方が良いか。
そう考えた俺は、急ぎ部室の前へと行き、ドアを開け放つ。
「なあ、雪の……あ」
思い切り、着替え中でございました。
はっきり言って、普段から見慣れている小町の胸よりも、成長が遅いと人目で分かるライトグリーンのブラから覗く、雪ノ下の胸元。
下はテニスのスコートを着用した状況なのだが、このアンバランスがたまらない。
当然ながらその隣には、由比ヶ浜の姿。
同じく着替え中でした。
ブラウスの上からでも分かる程に成長した、由比ヶ浜の胸がピンクのブラに包まれている。
それはまさに、女性の神秘を体言した象徴と言えよう。
更に由比ヶ浜は既にスカートも脱ぎ去っており、同じく上とセットなピンクの下着が、黒のハイソックスと合わさり、見事なコントラストを形成している。
これぞ芸術だと言うべきだ。
そして、改めて言っておこう。
ありがとうございました!
本当に、ありがとうございました!
大事な事なので、二回言わせてもらいましたが、それが何か?
「この変態っ!」
俺が脳内ライブラリに、この素晴らしき瞬間を、永久保存していた最中に、芸術を……アートを楽しむだけの俺を、由比ヶ浜が変態呼ばわりして、ラケットを顔面目掛けて投げ放った。
見事に顔面にラケットの直撃を受けて、倒れながら俺は思う。
普段は俺を嫌っているであろう、ラブコメの神様ではあるが、偶にはサービスしてくれるらしい。
俺の青春はマスクドライダーな毎日だけど、やっぱり少しくらいは、良い思いもしたい訳で、つまり何が言いたいのかと言うとだな。
「……偶には良い仕事をするじゃないかよ……ラブコメの神様……」
俺は心配そう様子を伺う、戸塚という名の天使に笑顔で大丈夫だと目で合図を送りながら、意識を手放した。
次回の更新は、取り敢えず未定ですのでアシカラズ。
何気にこっちも話数が貯まったので、いっそ、番外編としてヘタレ転生者とぼっちのダブルライダーコラボ編でも書いてみようかな……とちょっと思ったりしました。
もしも書いたら、読んでみたい人、居ますかね?