魔法少女リリカルなのはA´s 《棄てられたクローンと新たな家族》   作:三咲ディア

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はやての誕生日前日

「んじゃはやて、行ってくる。」

「あんま遅うならんようにな?」

「ちょっとジョギングするだけだから、直ぐに帰ってくるよ。」

「そんなん言うて…昼まで帰ってこんかった阿呆は誰や?」

「イテキマース」

 

 

春の陽気も終わり、漸く夏らしい陽射しになってきた6月の6時頃。俺は朝食前の日課のジョギングへと出掛ける。以前朝食時間を過ぎ、帰ってきたのが昼過ぎになってしまった時の事を言われたが、華麗にスルーをして玄関を出る。後ろで何か聞こえたが、気にしないようにした。

初夏の空気に心が踊る。俺は心の弾みを歩に乗せて走り出した。

空は清み渡り、肌を撫でる風がとても心地よい。

俺が体を鍛え始めたのは探偵のお兄さんに出会ってからだった。あの日以来、俺ははやてを守るため、そしてその決断に迷わないために体を鍛え続けた。今でははやてくらいなら軽々と抱き抱えられる。一度試したが、魔法込みなら大人も抱えあげられた。

暫く走っていると、小高い丘の公園に辿り着く。

 

 

「先ずは軽く懸垂でもするか…っと。」

『マスター、怪我しないようにしてくださいね?はやてに何か言われるのは私何ですから。』

「わかってるって。」

 

 

胸元のバルディアスがチカチカと明滅し抗議をする。はやてと暮らし始めて少し経った頃に、バルディアスの紹介をした。最初は目を白黒させていたが、今では歴とした八神家の一員である。主に無理をする俺のブレーキ役として。

俺はバルディアスを鉄棒に掛けると、鉄棒に捕まる。腕力だけで体を持ち上げては下ろし、持ち上げては下ろしを繰り返して懸垂を続ける。

 

 

『それにしても、その細腕にどうやったらそんな力があるんですか?』

「此処にある。」

『ドヤ顔しないでください。』

 

 

バルディアスと話しながら懸垂を繰り返す。五十回ほど繰り返した後、大車輪をして着地した。小さく息を吐くと肩をぐるぐる回してクールダウンをさせる。

バルディアスを首にかけ直すと、ストレッチを始めた。暫くすると背後から聞こえたガサガサという音に振り向く。そこには、怪しげな仮面を着けた一人の男が立っていた。

 

 

「八神翼だな?」

「そうですけど、何か?」

「単刀直入に言う。八神はやてから離れろ。」

「…嫌って言ったら?」

 

 

ふざけたことを言う変質者に聞き返す。すると仮面の男は俺に対してバインドをかけてきた。どうだと言わんばかりに胸を張り、俺の頬を撫でる。

 

 

「…少し痛い目にあってもらう。」

「あっそ。」

 

 

男の言葉を興味無さげに一蹴するとバインドを瞬間的に解析、破壊をする。あまりの破壊の早さに仮面の男がたじろいだ。その隙を見逃さず、俺は仮面の男に腕ひしぎ十字固めをかけると折りかねない力で締め上げた。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!こ、このガキっ!」

「何の目的があるかは知らないけど、俺ははやてを守る。危害を加えるなら…絶対に許さない。」

 

 

締め上げる腕から、メキメキメキと嫌な音が鳴り響き始める。男は痛みにもがきながら俺を引き剥がそうと暴れるが、ガッチリと極っているので中々剥がれない。殴り付けられても力が全く入っていないためさして痛くはなかった。

少しの間痛め付けていたが、急に締め上げている感覚が無くなる。この痛みの中でどうやったのかは知らないが、転移魔法で逃げたようだ。

 

 

「腕の一本でもやってやれば良かったかな?」

『同感です。』

 

 

バルディアスが俺に同意をする。あの変質者…次会ったら只じゃおかないと心の中で小さく呟くと腕時計を確認する。現在6時40分。今から走って帰れば朝食には楽に間に合うと計算すると、俺はゆっくりと駆け出した。

 

 

 

 

朝食を済ませ、洗い物を手際よく済ませる。朝食ははやてが担当し、洗い物を俺が担当することになっていた。

茶碗を洗い、食器を洗い、箸を洗い、調理器具を洗う。この4年で俺の家事スキルもかなり上がっていた。

 

 

「お疲れさん、お茶でも飲む?」

「あ、飲む飲む。」

 

 

洗い物を終えると同時にはやてがお茶を淹れてくれる。これも毎朝の光景の一つだった。

 

 

「あぁそや、グレアムおじさんからメール来てたよ?」

「なんだって?」

「今度翼に会いたいわーって言うてた。」

「何だか気恥ずかしいな…」

 

 

グレアムおじさんとは、はやてのお父さんの古い知人らしい。親戚に引き取って貰えないはやてに、資金援助をしてくれているおじさんだ。この人のお陰で俺達は生活出来ていた。

俺は恥ずかしさに背中をむず痒くさせながら差し出されたお茶を飲む。今朝の出来事が洗い流される様な気がした。

 

 

「はやて、今日は図書館?」

「それもええけど、買い物もせなあかんなぁ…」

「じゃ、両方行こうか?時間は沢山あるし。」

「そやね。ほな、9時辺りにでも出よか。」

 

 

御互いに本日の予定を相談すると、ジョギングでかいた汗を流すためにシャワーを浴びに行こうと立ち上がる。はやては俺の行動を察したのかタオルを投げ寄越して来た。手慣れた動作でそれを掴むと、ポニーテールをほどく。

 

 

「翼、背中流したろか?」

「結構です。」

「遠慮せんでええんで?」

「だったらその手をワキワキさせるのを止めてくれ。つか、俺に胸は無い。」

「むぅ、手強いなぁ…」

 

 

このじゃれ合いも何時ものこと。二人してカラカラと笑い、俺は風呂場に行き服を脱ぐ。染み一つ無い珠のような肌は、はやての主治医、石田先生をも驚かせた物だ。

シャワーで簡単に体を流し、体を拭く。ついでに風呂掃除もしておいた。帰ってきた時に楽なのだ。

さっぱりしたところで新しいシャツとパンツを履き、ズボンとYシャツを身に纏う。はやてが似合うから、と買ってくれたこのYシャツは、俺のお気に入りとなっていた。

 

 

「よし、完了っと。」

『マスター、髪はどうされますか?』

「いつも通りポニーテールで。そっちの方がしっくり来るし。」

『ツインテールの頃が懐かしいです…』

「あれ、しなくなってもう3年か…」

 

 

バルディアスと昔を懐かしむように話しながらリビングへと戻る。はやてが居ないところを見るとどうやら着替えに行っているようだ。

俺ははやての部屋に歩を進めると、はやての部屋の扉を数回叩いた。

 

 

「はやて、着替え大丈夫か?」

「うーん…下着替えるのがちょい厳しいなぁ…。翼、手伝ってくれへん?」

「わかった、入るよ?」

 

 

ガチャッと扉を開け中に入る。はやては車椅子からベットに一人移り、着替えようと悪戦苦闘していた。俺は直ぐに近寄るとはやてを支えてスカートを履かせる。その手付きは最早手慣れたものとなっていた。

 

 

「ん…ありがとうな?」

「どういたしまして。」

 

 

そのままはやてを抱き上げて車椅子に乗せる。はやての貴重品等をバックに入れて肩にかけてやると、俺達は家を出た。

帽子を持ってきた方が良かったかなと一瞬考えたが、まだ大丈夫だろうと自己判断すると図書館に向かって歩き出した。

 

 

「ポカポカ陽気で気持ちえぇな?」

「今に暑いって思うくらいに気温が上がるさ。」

「私、動かれへんから暑いの苦手や。ずーっと春やったらええのに。

「ははっ、年中花見が出来るな。」

 

 

他愛の無い話で盛り上がりながら、俺達は図書館への道中を進んで行った。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

図書館の帰り道、少し大きめのデパートに寄る。少し買いたい物があるからと言って寄って貰ったのだ。何時ものスーパーと違って配置が違うので少し戸惑ったが、無事に買い物を済ませる事ができた。

帰りの道すがら、目についたアクセサリーショップへ入る。はやては何故こんな所に入るのかと首をかしげていた。

 

 

「翼がこんなアクセサリーショップ覗くなんて珍しいな?何か買うん?」

「まあちょっとね。少し待ってて。」

 

 

人が通るのに邪魔にならない場所にはやてを待たせ、俺は片翼を模した白と黒のペンダントを買う。今日の為に無駄遣いをせず、コツコツと小遣いを貯めて居た。明日ははやての誕生日。そのプレゼントを買うためにこの場所へと寄ったのだ。

購入したペンダントをカウンターで丁寧に包装してもらい、俺ははやての元へと急いだ。

 

 

「お待たせ、はやて。」

「別にそんな待ってへんからええよ。それより、何買うたん?」

 

 

興味津々だと言わんばかりに詰め寄るはやて。俺ははやてのそんな顔に堪えきれず、先程買ったペンダントの白い方を渡す。

はやては店を出ながら包装を開け、珍しそうにペンダントを見ていた。

 

 

「翼のペンダントなんて可愛えなぁ。」

「…ホントは明日渡したかったけどな。」

「明日?明日って…あ…」

 

 

はやてが俺の意図を察すると小さな声を上げる。

 

 

「…一日早いけど、誕生日おめでとう、はやて。」

「翼…ありがと…」

 

 

はやての前に立ち、祝いの言葉を捧げる。はやては慌てたりにやけたり涙を浮かべたりしながら、俺を抱き締めてきた。

周りの人間が俺達を見てきて居心地が悪いが、俺ははやてを抱き付かせたまま、少しの時間を過ごした。

 

 

 

 

「翼から誕生日プレゼント貰うん、初めてやな。」

「いつもは少し豪華なご飯で済ませるだけだし、たまには良いだろ?」

「うん…嬉しいわ…」

 

 

帰路に着きながら上機嫌にペンダントを見つめるはやてに頬が弛む。暫く歩いていると

我が家に到着。車椅子の車輪に着いた土や石を綺麗に拭き取り、俺達は中へ入った。

 

 

「翼、今日お風呂入らせてほしいんやけど…」

「わかった。近所のおばさんに頼もうか?」

「いや、翼が入れてくれればええやん?」

「了解。飯食ったら入ろうな?」

「はーい。」

 

 

小さな笑みを浮かべながら言うと風呂を沸かしに行く。余談ではあるが、後の魔導士仲間にこの事を話して色々巻き込んだ鬼ごっこが始まるのだが、それはまた別のお話である。

水を必要量入れ、ロストドライバーを装着する。そしてジョーカーのメモリを手に取るとボタンを押してバックルに差し込む。

 

 

『Joker!』

 

 

何時もの黒のライダースーツのバリアジャケットに変身し、赤色のメモリ、ヒートを腰のスロットに挿す。

 

 

『Heat! MAXIMUM DRIVE!』

 

 

高らかな機械音が鳴ると右手に熱が集まる。俺がその右手を湯船に浸けると、浴槽に溜められた水は、一瞬でお湯となった。

 

 

『こんな使い方するの…マスターくらいですよ。』

「節約節約。環境にも優しいだろ?」

『それはそうですが…小遣いの節約からここまでになるとは思ってませんよ。』

 

 

体があれば呆れたような顔をしているであろうバルディアスに苦笑いを浮かべる。はやてのプレゼントを買うために小遣いの節約をしていたら、日常生活にも節約が出てしまっていた。

スロットからヒートのメモリを抜き、バックルのジョーカーのメモリも引き抜く。一瞬の内に普段着へと戻った俺は風呂に蓋をして冷めないようにし、台所へと戻った。はやてはちょうど夕飯の支度を始めたところだった。

 

 

「風呂、沸いたよ。」

「その力便利やなぁ。」

『本来の使い方とは程遠いのですが…』

「バルディアスも堅いこと言わへんの。お湯が一瞬で沸かせる何て、素晴らしい魔法やん。」

『それはそうですが…』

 

 

話し始めたはやてにバルディアスを渡し、俺は手早くサラダを作る。簡単で栄養も取れるとても優秀な料理だと感心しながらサラダを盛ると、鮭に小麦粉と塩コショウをまぶす。熱したフライパンでバターを溶かし焦がさぬように鮭を焼いていき、鮭のバタームニエルを作り上げた。

 

 

「よし、後は簡単な汁物っと…」

『相変わらず手際が良いですね。』

「翼やもん。これくらい朝飯前やで?」

『意味がわかりません。』

 

 

はやてとバルディアスの会話をBGMに、俺はニンジンのとジャガイモの皮を剥き、火が通り易いように小さめに切ると鍋に放り込む。鍋に水を入れてコンソメスープの素を入れて煮込み、カレールゥを入れて一煮立ちさせ簡単スープカレーを作った。

 

 

「はい、お待たせはやて。」

「おおきに。ほんま、翼は料理うもなったなぁ。」

「はやてのお陰さ。」

『くっ…私に肉体があれば…っ!マスターの料理が食べれたのに…!』

 

 

只でさえお母さんなバルディアスが肉体を持ったら…と想像する。何故だか俺の生活が脅かされそうな気がした。

そんな落ち込むバルディアスを励ましながら、俺達は食事を済ませて入浴をした。

風呂上がりの後、はやてはペンダントを大事そうに抱き締めながら着けては笑っていた。本当に喜んでもらえて何よりだ。

はやてを寝室に寝かせると、俺は自室へと戻り黒色のペンダントにはやての写真を入れる。

満足げにそのペンダントを眺めると電気を消してベッドに入る。

明日の御馳走の献立を考えながら、俺は睡魔に身を任せて意識を手放した。

 

 

この時…俺はまだ知らなかった。はやての病気の原因を…。そして、俺達がかなり不味い事件へと関わっていくことを…

 

 




と言うわけで第一話、はやての誕生日前日を御送り致しました。如何でしょうか?作者のディアです。

知り合いの絵師、ねねさんにイラストを依頼したところ、快く書いて頂けましたので載せちゃいました!
如何でしょうか?
ご御意見御感想、誤字脱字の指摘など受け付けていますので、どうぞよろしくお願いします!
作者のディアでした!
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