何か記念小説でも書いたほうがいいかと思いましたが、正直余裕がなかったのでいつも通り投稿します。
ここまで続けられたのも、本当に皆さんのおかげです。
これからもこの小説をよろしくお願いします。
「まったく、パンドラのやつはもう少しおとなしくできないのか?」
「またパンドラか、あいつも懲りないな」
「本当だよ……」
今日もまたパンドラのやらかしに苦労しつつ、リッチに愚痴を聞いてもらっている。最近はつらいこともたくさんあったが、あいつのせいで悲しむ暇もない。
「そうだ、この前食堂に追加されたデザート、なかなかよかったぞ?」
「へぇ、どんなんだ?」
「あぁ、季節のフルーツを使ったものでな。こんな場所だろ? 季節を感じることができて味もうまい、まさに一石二鳥という感じだな」
「なるほど、どんな系統だ?」
「それはな……」
「ジョ、ジョシュア!」
リッチがいい情報をつかんだようで、話がそっちにそれた。こいつ自身は甘いものがそこまで好きではないが、たまに気になったものを頼んで俺に情報を教えてくれる。普段頼まない分気に入ったもののおいしさは保証されている。俺は甘いものが好きなのもあって、そういう話は非常にありがたい。
そんな話をしているところに、シロが割り込んできた。もうそろそろ仕事の時間だろうか?
「あの、いったい何の話をしているの?」
「あぁ、おいしいデザートがあるって話をしていたんだ」
「デ、デザート……」
デザートと聞いて、シロは目を輝かせた。こいつも結構甘いものが好きらしく、食堂でよく食べているところを見かける。そういう話は好きなのだろう。
「シロ、お前も甘いものが好きなのか?」
「…………まぁ」
「……はぁ」
「ははっ」
シロは俺と話すことには慣れてきたが、まだまだ他人と話すことは苦手らしい。とはいってもリッチとは最初からいるのだから、もう少し慣れていもいいように感じる。まだルビねえのほうが話せている気がする。
「せっかくだし、お前も聞いていくか?」
「…………うん」
「そうか、そのデザートはな、ベリー系のさわやかな酸味と……」
リッチと話すときは緊張気味だったシロも、デザートの話になるとだいぶ表情も柔らかいものになってきている。
「ジョシュア、ジョシュア、後で行こ!」
「そうだな、せっかくだし三人で行くか」
「…………うん、そうだね」
「それなら、今日の業務を早く終わらせないとな」
「そういえば今日のツールをまだ使ってないな」
「そうか、せっかくだし俺もついていこう」
「わ、私も一緒に行く!」
「そうだな、せっかくだし頼むよ」
二人ともついてきてくれるようなので、一緒に作業に向かうことにした。
今日収容されたツールは、『T-09-i87』だ。最近のツールはまだましなものが多いが、今回はどんな感じだろうか?
「さて、ついたな」
「ジョシュア、頑張って!」
「おう、頑張ってくるよ」
『T-09-i87』の収容室の前までたどり着くと、俺は手を収容室の扉にかけて、乱雑に開く。収容室の扉は、やけに軽い気がした。
「さて、こいつが新しいツールか」
収容室に入ると、内部には黒いスーツケースが置いてあった。そのスーツケースは真新しく、傷も汚れも見当たらない。鞄を開く留め具の部分には、なぜか歯車が付いており、常に回っている。どうやら開くことはできなさそうだ。
「一見変わった部分はないように見えるが……」
「ど、どうするジョシュア?」
「うーん、とりあえず使ってみるか」
そういって俺は、『T-09-i87』の取っ手をつかんで持ち上げた。
「……シュア ジョシュア!!」
「はっ」
ふと我に返ると、もう業務時間は終了して純化が始まっていた。手元にはさっきまで使っていた『T-09-i87』はすでになく、いつの間にか返却されているようだ。
「ジョシュア、大丈夫か!?」
「えっ、大丈夫だけど、どうしたんだそんなに慌てて」
ふと周りを見れば、リッチもシロも、みんなが泣きそうになりながら俺を見ていた。今日も無事に業務が終了したというのに、どうしたというのか?
「お前、自分がどういう状況かわかっているのか?」
「どういう状況って、何事もなく業務が終了してるじゃないか」
「その体の傷はどうした?」
「これか? これは業務中についたものじゃないか、いつものことだろ?」
「くっ」
俺の返答を聞いて、リッチは苦々しい表情になった。周りのやつらも驚いたような表情をしている。確かにいつもより傷ついているように感じるが、そんなに驚くことだろうか?
「ジョシュア、本当に心配したんだよ! 止めても止まらないし、傷は全然治らないし、『T-01-i12』*1の回復も、『T-09-i85』*2の精神汚染回復も、全く意味がなかったし、『T-09-i97』*3にも入れれなくって、それで……」
「おいおい、そんなに泣くなよ。ほら、今日話していたデザートを食べに行こうぜ」
「ジョシュア……」
なぜかはわからないが、みんなが悲しそうな顔をしている。
……だめだ、さっきから頭がふわふわしていてよく考えがまとまらない。いったん休んだほうがいいかもしれない。
「ジョシュア、もう今度から『T-09-i87』を使用するのはやめろ。これ以上は危険だ」
「だが、これは……」
「いいか、絶対だ」
「……わかった」
結局この後、俺は体の検査のためみんなで一緒にデザートを食べることはできなかった。いや、それがなくても食べれる雰囲気ではなかったが。
ともかく、あれほど素晴らしい『T-09-i87』をこれから使えないのは、少々残念である。
この時代において、労働は幸福です
まともな労働を行うことのできる人間は、この都市において限られています
皆様外郭になんて行きたくはないでしょう?
労働できることは、とてつもない幸運なのです
ここにいる皆さんはとても運がいい
なんせ、幸福には労働が欠かせないからです
労働は幸福です、幸福には笑顔がつきものです
故に、ここは笑顔の絶えない場所です
T-09-i87 『搾取の歯車』