【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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もう気が付けば、この小説も100話になりました。

何か記念小説でも書いたほうがいいかと思いましたが、正直余裕がなかったのでいつも通り投稿します。

ここまで続けられたのも、本当に皆さんのおかげです。

これからもこの小説をよろしくお願いします。


Days-34 T-09-i87『ここは笑顔の絶えない場所です』

「まったく、パンドラのやつはもう少しおとなしくできないのか?」

 

「またパンドラか、あいつも懲りないな」

 

「本当だよ……」

 

 今日もまたパンドラのやらかしに苦労しつつ、リッチに愚痴を聞いてもらっている。最近はつらいこともたくさんあったが、あいつのせいで悲しむ暇もない。

 

「そうだ、この前食堂に追加されたデザート、なかなかよかったぞ?」

 

「へぇ、どんなんだ?」

 

「あぁ、季節のフルーツを使ったものでな。こんな場所だろ? 季節を感じることができて味もうまい、まさに一石二鳥という感じだな」

 

「なるほど、どんな系統だ?」

 

「それはな……」

 

「ジョ、ジョシュア!」

 

 リッチがいい情報をつかんだようで、話がそっちにそれた。こいつ自身は甘いものがそこまで好きではないが、たまに気になったものを頼んで俺に情報を教えてくれる。普段頼まない分気に入ったもののおいしさは保証されている。俺は甘いものが好きなのもあって、そういう話は非常にありがたい。

 

 そんな話をしているところに、シロが割り込んできた。もうそろそろ仕事の時間だろうか?

 

「あの、いったい何の話をしているの?」

 

「あぁ、おいしいデザートがあるって話をしていたんだ」

 

「デ、デザート……」

 

 デザートと聞いて、シロは目を輝かせた。こいつも結構甘いものが好きらしく、食堂でよく食べているところを見かける。そういう話は好きなのだろう。

 

「シロ、お前も甘いものが好きなのか?」

 

「…………まぁ」

 

「……はぁ」

 

「ははっ」

 

 シロは俺と話すことには慣れてきたが、まだまだ他人と話すことは苦手らしい。とはいってもリッチとは最初からいるのだから、もう少し慣れていもいいように感じる。まだルビねえのほうが話せている気がする。

 

「せっかくだし、お前も聞いていくか?」

 

「…………うん」

 

「そうか、そのデザートはな、ベリー系のさわやかな酸味と……」

 

 リッチと話すときは緊張気味だったシロも、デザートの話になるとだいぶ表情も柔らかいものになってきている。

 

「ジョシュア、ジョシュア、後で行こ!」

 

「そうだな、せっかくだし三人で行くか」

 

「…………うん、そうだね」

 

「それなら、今日の業務を早く終わらせないとな」

 

「そういえば今日のツールをまだ使ってないな」

 

「そうか、せっかくだし俺もついていこう」

 

「わ、私も一緒に行く!」

 

「そうだな、せっかくだし頼むよ」

 

 二人ともついてきてくれるようなので、一緒に作業に向かうことにした。

 

 今日収容されたツールは、『T-09-i87』だ。最近のツールはまだましなものが多いが、今回はどんな感じだろうか?

 

「さて、ついたな」

 

「ジョシュア、頑張って!」

 

「おう、頑張ってくるよ」

 

 『T-09-i87』の収容室の前までたどり着くと、俺は手を収容室の扉にかけて、乱雑に開く。収容室の扉は、やけに軽い気がした。

 

 

 

「さて、こいつが新しいツールか」

 

 収容室に入ると、内部には黒いスーツケースが置いてあった。そのスーツケースは真新しく、傷も汚れも見当たらない。鞄を開く留め具の部分には、なぜか歯車が付いており、常に回っている。どうやら開くことはできなさそうだ。

 

「一見変わった部分はないように見えるが……」

 

「ど、どうするジョシュア?」

 

「うーん、とりあえず使ってみるか」

 

 そういって俺は、『T-09-i87』の取っ手をつかんで持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……シュア ジョシュア!!」

 

「はっ」

 

 ふと我に返ると、もう業務時間は終了して純化が始まっていた。手元にはさっきまで使っていた『T-09-i87』はすでになく、いつの間にか返却されているようだ。

 

「ジョシュア、大丈夫か!?」

 

「えっ、大丈夫だけど、どうしたんだそんなに慌てて」

 

 ふと周りを見れば、リッチもシロも、みんなが泣きそうになりながら俺を見ていた。今日も無事に業務が終了したというのに、どうしたというのか?

 

「お前、自分がどういう状況かわかっているのか?」

 

「どういう状況って、何事もなく業務が終了してるじゃないか」

 

「その体の傷はどうした?」

 

「これか? これは業務中についたものじゃないか、いつものことだろ?」

 

「くっ」

 

 俺の返答を聞いて、リッチは苦々しい表情になった。周りのやつらも驚いたような表情をしている。確かにいつもより傷ついているように感じるが、そんなに驚くことだろうか?

 

「ジョシュア、本当に心配したんだよ! 止めても止まらないし、傷は全然治らないし、『T-01-i12』*1の回復も、『T-09-i85』*2の精神汚染回復も、全く意味がなかったし、『T-09-i97』*3にも入れれなくって、それで……」

 

「おいおい、そんなに泣くなよ。ほら、今日話していたデザートを食べに行こうぜ」

 

「ジョシュア……」

 

 なぜかはわからないが、みんなが悲しそうな顔をしている。

 

 ……だめだ、さっきから頭がふわふわしていてよく考えがまとまらない。いったん休んだほうがいいかもしれない。

 

「ジョシュア、もう今度から『T-09-i87』を使用するのはやめろ。これ以上は危険だ」

 

「だが、これは……」

 

「いいか、絶対だ」

 

「……わかった」

 

 結局この後、俺は体の検査のためみんなで一緒にデザートを食べることはできなかった。いや、それがなくても食べれる雰囲気ではなかったが。

 

 ともかく、あれほど素晴らしい『T-09-i87』をこれから使えないのは、少々残念である。

 

 

 

 

 

 

 

 この時代において、労働は幸福です

 

 まともな労働を行うことのできる人間は、この都市において限られています

 

 皆様外郭になんて行きたくはないでしょう?

 

 労働できることは、とてつもない幸運なのです

 

 ここにいる皆さんはとても運がいい

 

 なんせ、幸福には労働が欠かせないからです

 

 労働は幸福です、幸福には笑顔がつきものです

 

 

 

 

 

 故に、ここは笑顔の絶えない場所です

 

 

 

 

 

T-09-i87 『搾取の歯車』

*1
『蕩ける恋』

*2
『次元超越機構』

*3
『極楽への湯』

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