ずいぶんと質素で飾り気のない部屋に、この職場の皆さんから珍獣扱いされている不思議な生き物がいます。
さて、今日はそんな不思議生物、パンドラちゃんの生態を皆さんと一緒に観察していきたいと思います。
いったいなぜ彼女が珍獣なのか、皆さんで一緒に確かめていきましょう。
「ふわぁ、もう朝ですか……」
おやおや、ずいぶんベットから起き上がるのが遅いですね。もう皆さんお食事を始めている時間だというのに、職員としての自覚がないんでしょうね。
ほら、時計を見たのに全く焦る様子がありません。
「今日はジョシュア先輩も遅いですし、ちょっと位遅れても大丈夫そうですね」
そんなことを言っていますが、残念ながら今日の彼は例のあの人との逢引をするために早めに出社してますよ。目論見が外れて残念ですね。
「さて、それじゃあ今日も頑張るとしますか!」
元気いっぱいにそんなことを言っていますが、そういうには少し時間が遅いですね。どうやらパンドラちゃんは時間にルーズみたいですね。
「さてさて、今日は何を食べよっかなー」
「ようパンドラ、ずいぶんと遅い出社だな?」
「あっ、あれ、ジョシュア先輩? どうしてこの時間に……」
「今日はちょっと早めに来ていたんだ、そしたらお前が全然来ないから不思議に思っていたんだ」
「あっ、ちょっと待ってギャー!!」
あらあら、どうやらアイアンクローを受けているようですね。まぁ、彼らにとってはこれがあいさつみたいなものです。ほら、他の職員の皆さんも全く反応を示していないでしょう?
「まったく、これに懲りたら次から気を付けてくれよ」
「は、はい……」
ふふっ、ずいぶん楽しかったのかパンドラちゃんはすっかり疲れてしまったみたいですね。でもでもまだ今日は始まったばかりですよ? 頑張ってくださいね。
「それで、今日の作業はどうしたんだ?」
「うぅぅ、最初は『T-04-i13』*1です。そのあとは『O-02-i24』*2への作業です……」
「そうか、とりあえず『T-04-i13』への作業は慎重にな。あいつの誘惑には負けるなよ?」
「大丈夫ですよ、今までだって大丈夫でしたから」
「まぁ、そこらへんはちゃんと信頼してるからな」
どうやらお仕事においては信頼されていますね。きっとこの人の目は節穴なんでしょうね。
「ふっふっふっ、任せてください!」
「おう、頑張れよ!」
「はい、頑張ってきます!」
なるほど、どうやらパンドラちゃんを乗り気にさせるための詭弁だったみたいですね。パンドラちゃんは単純ですから簡単に騙されちゃったみたいです、この男やりますね。
「さて、作業も終わりましたね」
どうやら『T-04-i13』への作業が終わったみたいですね、何のトラブルもなかったので正直面白みに欠けましたね。
「さて、それじゃあ次は『O-02-i24』のところへ行きますか! ……あれ?」
おや、教育部門へ向かうために廊下を歩いていくと、目の前から何かが飛んできてますね? あれは何でしょうか?
「うわっ!? っとと、なんですかってこれは『O-05-i18』*3じゃないですか!? どうしてここに……」
パンドラちゃんが目の前から飛んできた手をキャッチしましたね。まるで吊り上げられた魚のようにぴちぴち逃れようとしていますが、青白い光をまき散らしているだけですね。熱くはないんでしょうか?
おやおや、どうやらアブノーマリティーが脱走したみたいですね。いったいこの会社の安全性はどうなっているのでしょうか?
「うーん、誰かが作業に失敗しちゃったんでしょうか? それにしてもこれは……」
「うん? そこにいるのはパンドラか? いったいここで何を……」
「あっ、リッチ君パース!」
「うおっ」
おや、いきなりリッチ君に手に持つ『O-05-i18』を投げつけましたね。そのまま『O-05-i18』はリッチ君のほうに飛んで行ってキャッチされてしまいました。
「おいパンドラ、いったい何を……」
「ふふっ、かかってきなさい」
なぜかパンドラちゃんは『O-05-i18』をリッチ君に投げつけて、手招きをしています。
突然のパンドラちゃんの奇行に、リッチ君はフリーズしてしまいました。なるほど、これが珍獣扱いされる理由ですか、確かにこれは常人には理解できませんね。アブノーマリティーで遊ぶとは何を考えているのでしょうか?
「なるほど、そういうことか。いいだろう、受けて立つ」
「ふっふっふっ、そう簡単に勝てるとは思わないでくださいね!」
あらあら、どうやらこの子も同類だったみたいですね。二人でアブノーマリティーを使ったキャッチボールを始めてしまいましたよ、いったいどうしてこんなことになってしまったんでしょうね。
「くっ、なかなかやりますね……」
「ふっ、お前こそな……」
なんだがいい勝負みたいな展開になっていますが、そもそもこの子たちは何でキャッチボールをしているのでしょうか? これは私がおかしくなったわけではないですよね?
「さて、お前たちは何をやっているのかな?」
「「あっ」」
あーあ、ジョシュア君に見つかっちゃいましたね。私知ーらないっと。こってりと絞られちゃってくださいね。
「さて、今日はジョシュア先輩に迷惑かけっぱなしですし、先輩の苦手な『T-02-i29』*4の収容室の中に蚊取り線香でも置いておきますか。確か次の作業はジョシュア先輩でしたもんね」
「ふふふっ、ジョシュア先輩きっと喜んでくれますよね」
どうやら迷惑かけた分、ジョシュア君に媚を売ろうとしているみたいです。パンドラちゃんはやらしいですね。
ですがその恩返しはどうなんでしょうか? ちょっと発想がどこかに飛んでいますね。
「おいジョシュア、さっきの鎮圧はなんだ?」
「なんだって、効率よくやっただけですよ?」
「げっ」
おや、何やら向こうでもめていますね?
どうやら、ジョシュア君と懲戒部門のセフィラであるゲブラーともめているようですね。どうしたのでしょうか?
「どういうつもりだ、やつらを鎮圧するのに、あれほど苦痛なくする必要がどこにあるというのだ?」
「いや、わざわざそんなことする必要がありますか? そんなの戦力の無駄ですよ」
「ふざけるな! 貴様も懲戒部門のチーフなら、私の流儀に従ってもらうぞ!」
「俺が従うのは管理人だけです、それはあなたも同じでしょう?」
「……貴様、わかってて言っているな?」
「いえ、今のは失言でした。それでは失礼します」
どうやらもめごとは終わったようで、ゲブラーも去っていきますね。あっ、ジョシュア君がこっちに来ますね……って、あれ? なんでパンドラちゃんは隠れているのでしょうか?
「あれ、どうしたんだパンドラ?」
「あっ、いえ何でもないです。ジョシュア先輩はどうしたんですか?」
「うん? 今から『T-02-i29』への作業に行こうと思ってな」
「ところで、そのおしゃぶりはどうしたんだ?」
「あっ、これは『O-01-i01』*5に作業してたらもらえました! 赤ちゃんだからおしゃぶりなんですかね?」
「赤ちゃん? あれは胎児だろう?」
「いやいや、完全に赤ちゃんでしたよ! 嘘だと思うなら確かめに行ってくださいよ!」
「そうか? わかったよ」
「あっ、そういえばシロちゃんが先輩のことを探してましたよ!」
「本当か? わかった、ありがとう」
おやおや、さっきのいらない善意を押し付けるための行動だったみたいですね。ジョシュア君が去っていくのを見てさっそく『T-02-i29』の収容室に向かっていきましたね。ろくでもないことになりそうな気がします。
「はぁ~、ようやく終わりました~」
何とか作業も終えて、またこの巣に戻ってきましたね。どうやら帰巣性の動物だったみたいですね。
「もー、ジョシュアさん、ジョシュア先輩がひどいんですよ! 今日もお説教ばっかり、そりゃあ私も悪いところもありますが……」
おやおや、部屋の中においてある紫色の大きな花に話しかけていますね。気密性の高い容器に入っており、一切内部の空気が漏れないようになっています。よく見たら、この紫色の大きな花の根元には、五本の大きな根っこが張っていますね。もしかしてこんな見た目で木なのでしょうか?
「さて、それではおやすみなさい」
そういって今日もベッドで横になって目を閉じます。いつも通り、この前ジョシュア君が来たときに忘れていった上着を抱き枕にしていますね。
もう一日も終わるので、パンドラちゃんの生態観察はここまでです。
それでは皆さん、またいつかお会いしましょう。