【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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激流に身を任せて そうすれば私たちの愛は永遠となるの


Days-35 苺の深夜『永遠の愛』

 作業も終盤に近付き、今日もまた最後の時間が来ようとしている。エネルギーも順調にたまってきており、業務の終了も間近だ。

 

「ジョシュア先輩、この後はどうするんですか?」

 

「あぁ、この後はな……」

 

「あっ、ジョシュア!」

 

「ジョシュア、そろそろ次の作業か?」

 

 メインルームでパンドラと話をしていると、作業を終えたのかシロとリッチがやってきた。

 

「リッチか、そうだな、そろそろ行こうと思っている」

 

「ジョシュアジョシュア、収容室までついていってもいい?」

 

「い、いや、さすがにダメかな?」

 

「だ、ダメ?」

 

「……リッチ、どうにかしてくれ」

 

「自分でどうにかしてくれ」

 

 最近シロが随分と俺に積極的に行動してくる。ちょっと前までは成長した娘を見ているような感覚だったが、今では捕食しようとしてくる肉食獣にも見えてくる。

 

「なら私が一緒に行ってあげますよシロちゃん!」

 

「……あれ、無視はひどくないですか?」

 

 最近俺には普通に話せるようになってきたシロだが、パンドラにだけは異様に冷たい。まぁ、こいつが今までやってきたことを考えれば妥当でもある。

 

「ジョシュアさん、何をしてるんですか?」

 

「りっちん先輩とシロちゃん先輩、それに珍獣ちゃんまでいるじゃないですか」

 

「おっ、メッケンナにミラベルじゃないか」

 

 今度はメッケンナとミラベルがやってきた。なんか今日はタイミングがいいな、こういうことはあまりないからな。

 

「ちょっと話をしていたのさ、今から作業に行くから……ッ!?」

 

 メッケンナに話しかけると同時に、大きな振動を感じた。この施設に随分となじんできた俺たちは、その異変に対応すべくすぐに武器を構える。だが、それもすぐに無意味なものとなった。

 

 メインルームの中心に、天井を覆うほどの大樹がそびえたった。それは肉の塊、骨の柱、臓物の塔。ところどころ骨のむき出しになっている肉塊でできた太い木の幹に、臓物の枝垂れる頭上の光景。すべての枝の先には口が垂れ、醜い液体を滴らせている。

 

 大樹が歌い、臓物をまき散らし、枝を振りまわしながら踊り狂う。その光景は我々の精神を狂わせるほどのおぞましい何かであり、正気を保とうにも、歌とともにまかれた目に見える胞子になすすべがなかった。

 

「あっ、あぁぁぁぁ!!??」

 

「あっ、あっ、あっ」

 

「あぁぁあぁぁあぁぁ!!」

 

 脳を震わされ、思考を犯される。すべての優先順位が書き換えられ、最も優先すべき行動が決定づけられる。

 

『福祉部門のメインルームにて、試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 あぁ、そうだ。俺たちは幸せにならなければならないのだ。

 

「あぁそうだシロ! 一緒に幸せになろう!!」

 

「ジョシュア!! うれしい!」

 

 シロと向かい合うと、彼女も嬉しそうに笑顔を向けてくる。互いにE.G.O.を構えて、お互いの感情をぶつけ合おう。

 

「愛しき僕のミラベル! 今日ここで一つになろう!」

 

「メッケンナさん、この日を待っていたわ!」

 

「くっ、とりあえずパンドラ、お前でいい!!」

 

「えっ、普通に嫌なんですけど!?」

 

「あぁ、愛しきあなた! 一緒にいきましょう!」

 

「マイハニー、これで僕たちの愛は永遠だ!」

 

 周囲の仲間が、オフィサーたちが、みんなが互いの愛を確かめる。E.G.O.を、拳銃を、おのれの拳をもって愛を確かめ、永遠とする。あぁなんて素敵なのだろうか!!

 

「あはははは!!」

 

「あははははははは!!!!」

 

 互いが互いを傷つけ合い(愛し合い)、お互いの体に己を刻み受ける。このすべての愛が永遠へと至るためのプロセスなのだ。

 

「えっ、えっ、みんなどうしたんですか!?」

 

「はははははっ!!」

 

「うふふふふっ!!」

 

 愛はすべてに勝るのだ。もうそれ以外なんていらない。ほら、彼女も祝福してくれている。この頭に響く歌こそが、我々のためのラブソングなのだ。

 

「よ、よくわかりませんがなんかみんな仲間割れしてるみたいなので今のうちに日ごろの恨みぃぃぃぃ!! ひでぶっ!!」

 

 羽虫が邪魔をしてきたが、“墓標”の一振りでどことかへ飛んで行った。そんなことよりもシロと愛を確かめなければ!!

 

「ジョシュア、ボクのジョシュア!!」

 

「シロ、お前をだれにも渡してなるものか!!」

 

「「あはははははっ!!」」

 

『ジョシュア、そこまでだ』

 

 シロと一緒に愛を確かめ合っていると、唐突にその声が聞こえてきた。

 

 この声は、聞き覚えがある。確か、とても頼りになる声だった気が……

 

『このままだとみんな死んでしまう、そうなれば今までのお前の努力がすべて水泡に帰す』

 

『まずはお前から目を覚ますんだ、お前はそんなことをしている暇なんてないぞ、ジョシュア!!』

 

「ぐっ、なっ、何が……」

 

 霧の立ち込めるような思考の中で、暗雲を晴らすように管理人の声が鳴り響く。それと同時に今までの行動がすべて異常であったと自覚した。

 

『ジョシュア、他のやつらはこっちで声をかけ続ける。お前はやつの討伐に全力を注いでくれ!』

 

「あぁ…… わかった、了解した!」

 

 まだ霞む思考を何とか働かせ、自分のやるべきことに集中する。みんなを救ってもこいつがいる限り同じことの繰り返しだ。

 

「すぐに対象を鎮圧にかかる!」

 

「待ってよジョシュア、どこに行くの!?」

 

「すまんシロ、すぐに助けてやるからな」

 

 迫りくるシロの攻撃をよけながら、苺の深夜に向かっていく。とにかくやつを倒さなければ。

 

「す、すまない、どうにかしていたみたいだ……」

 

「すいません、ちょっと寝てました」

 

「ジョシュアさん、いったいどうなって……」

 

「ぐっ、あいして……」

 

「あははははっ、これで私たちの愛は永遠に……」

 

 何人かは正気に戻すことができてきたが、管理人の努力も虚しくついに死んでしまったやつが出てしまった。

 

 すると、死んだ彼の首から苺の夕暮れが生えてきて、それに続いて彼を殺したオフィサーの女性も自らの首をへし折って自殺し、その首からも苺の夕暮れが生えてきた。

 

「くそっ、急いでこいつをぶっ潰すぞ!」

 

 苺の深夜に攻撃を加えれば、苦痛から逃れようとするのか大樹がめちゃくちゃに暴れ始めた。それと同時に巨大な幹を振り回して俺たちに攻撃を加えようとしてくる。今までは直接的な攻撃をしてこなかったことから油断していたが、こいつも深夜だ、自分での攻撃の一つや二つあってもおかしくはない。

 

「戦えるやつは先にこいつからやるぞ!」

 

 苺の深夜に全員で総攻撃を加える。攻撃こそしてくるものの、その動きは大ぶりなものが多く、気を付ければ何とか避けることができる。

 

 おそらく当たれば致命傷は避けられないだろうが、当たらなければどうということはない。そのまま攻撃を続けながら苺の深夜の攻撃をよけ続ける。するとしばらくして、苺の深夜が震え始めた。

 

「まずい、何か来るぞ!」

 

「全員、警戒しろ!」

 

 先ほどの洗脳の可能性も考え、逃げられるやつはメインルームから避難する。俺は間に合わないため形だけでも防御の姿勢をとると、苺の深夜は地面に引っ込んで消えてしまった。

 

「なっ、どこに行った!?」

 

『今度は情報部門のメインルームに出現した! 今すぐ鎮圧に向かってくれ!』

 

「了解した!」

 

 苺の深夜を鎮圧するために情報部門へ向かう。この後も攻撃を行い、逃げられ追いかけて攻撃するを繰り返していく。

 

 攻撃を加え続ければ、苺の深夜はどんどんその身を削られていき、ボロボロになっていった。そしてついに、その時は訪れた。

 

「これで、終わりだ!」

 

 苺の深夜に“墓標”を突き立てると、ついに苺の深夜は崩れ落ちた。その巨体が倒れると同時に、あまりにも大きな振動が地面を揺らす。苺の深夜はしばらく痙攣していたが、やがてピクリとも動かなくなってしまった。

 

 

 

「これで、ようやく終わったな」

 

「そうだな、全く面倒な奴だった」

 

 そう、苺の試練はどいつもこいつも面倒なやつばっかりだった。その中でもこいつはかなり強い奴であった。

 

 できれば、もう二度と相手にはしたくないくらいには。

 

「……ねぇ、ジョシュア」

 

「うん、どうしたんだシロ?」

 

「さっき言ってたことって、本当?」

 

「……何のことだかわからないな」

 

「いや、だってあれってたぶん本音だったよ? そういうことは……」

 

「さて、それじゃあ最後の作業にでも行こうかな」

 

「えっ、まってよジョシュア~!」

 




最期の最期で 裏切るなんて……
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