【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

11 / 335
路傍に転がり 誰かに気づいてもらうことを願う

ここにいるということ 存在の証明を


Days-05-1 灰塵の黎明『路傍』

『コントロール部門のメインルームにて、試練が発生しました。エージェントたちは至急鎮圧を行ってください』

 

 とある昼下がり、ようやくロボトミーでの職務に慣れてきて昼食を仲間たちととっていると、試練を告げるアナウンスが鳴り始めた。とはいえ初めてのことだったので、職員たちの動きは少々鈍かった。

 

「試練ってなんすか?」

 

 この中で一番の新参であるロバートが俺に訊ねてきた。正直俺も初めてだが、どんな奴かくらいは知っている。こっちの世界でも説明を受けている。

 

「試練ってのは、言ってしまえばアブノーマリティーのなりそこないだ。たぶん今日のは黎明だから、そこまで強くはないはずだ」

 

「なるほど、つまり脱走したアブノーマリティーみたいなものっすね」

 

「そうだ、今回は食われないように気をつけろよ」

 

「いつまでそのネタでいじるんすか!?」

 

 喚くロバートを無視して準備を始める。食事は鎮圧が終わってからにするしかない、時間内に終わればいいのだが……

 

 いつまでも喚くロバートと、デザートを食べていたシロを引きずってコントロール部門のメインルームへ向かう。シロは食べきれなかったチョコレートケーキを名残惜しそうに見つめていた。 ……そんな目をするなよ、後で買ってやるから。

 

「ほれ行くぞ、相手は待ってはくれないぞ」

 

「わかったから放してくださいよ」

 

 現場まで走りながら試練について考える。確か黎明でメインルームに現れるのは緑だけだったはずだ、やつならそこまで危険性はないはずだ。初期装備でもなければ集団で負ける要素はないはずだ。現実ではどうなるかはわからないが、集団で囲めば楽に倒せるはずだ。

 

 しいて言うならオフィサーが心配だ。ゲームでは生ごみ以下の存在であったが、現実では彼らは生きた同僚なのだ。ちゃんと彼らも助けないと。

 

「突撃するぞ、備えろよ!」

 

「はいっす!」

 

 三人でメインルームに入る、メインルームはアブノーマリティーの侵入も考慮されているので、広く障害物が少ない。ここに相手がいるならば、普通は見つかるはずだ。

 

「管理人、目標はまだメインルームにいるか?」

 

『あぁ、反応は移動していない。まだそこにいるはずだ』

 

「了解、みんな警戒を怠るなよ」

 

 周囲を警戒しながら胃袋を構える。緑の黎明であればもっと目立つはずだ、となれば予想はできる。3手に分かれて周囲を探索する、すると視界の端に灰色の何かが映った。

 

 胃袋を向けながら対象に近づき確認すると、石ころのようなものが落ちていた。だが、ここでそんなものが落ちているはずもない。ならば可能性は一つだ。

 

「管理人、不審な存在を発見した」

 

『こちらも確認した、目標はそれで間違いないだろう』

 

「了解、ただいまから交戦に入る」

 

『健闘を祈る』

 

「シロ、ロバート、援護しろ!」

 

 シロとロバートに指示を飛ばすと、二人ともショコラを構えて戦闘態勢に入った。俺は胃袋を振りかぶり石ころにたたきつけると、大きくかたいものがぶつかる音がした。明らかに石ころ相手に出る音ではない。

 

 俺がもう一度攻撃を加えようとすると、石ころが淡く光りだした。

 

「何か来るぞ、全員衝撃に備えろ!」

 

 胃袋で防御態勢に入ると、石ころが黒い波動を部屋全体に放った。防御しきれずにダメージを負う、肉体へのダメージと精神的な疲労、これはBダメージか。

 

「二人とも、一気に畳みかけるぞ!」

 

「了解!」

 

 相手の攻撃が終わり、シロとロバートの援護を受けながら石ころに胃袋を振り下ろす。頑丈ではあるが、動かず攻撃速度も遅いと苦戦する相手ではなさそうだ。

 

「ぶっつぶれろ!」

 

 全力で胃袋を振り下ろすと、石ころは砕け散ってしまった。念のため砕け散った石ころから距離をとって様子を見たが、特に爆発などをする様子も見られなかった。

 

『対象の反応、消失を確認。よく頑張ったな』

 

「ふぅ、特に苦戦はしなかったな」

 

 さすがに試練最弱の黎明だけあって、すぐに鎮圧することができた。ゲームのほうでも苦戦したのは数の暴力である琥珀だけだったので、ある意味こんなものなのかもしれない。

 

 だが、試練ですら知らないものであるということは、俺がまだ知らない試練がこれからも出てくるはずだ。気を抜かずに引き締めていかなければ。

 

「とりあえず食堂に戻ろう、飯の続きが楽しみだな」

 

「片付けられていないといいですね」

 

「悲しいこと言うなよ、もし消えてたらお前のおごりだぞ」

 

「えっ、理不尽すぎませんか!?」

 

 騒ぐロバートを無視して廊下を歩く、今日も誰も失わずに済んだ。

 

 ちなみにリッチたちが守ってくれていたせいで、ロバートのおごりにはならなかった。残念だ。

 




誰も気づかない 見向きもしない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。