ここにいるということ 存在の証明を
『コントロール部門のメインルームにて、試練が発生しました。エージェントたちは至急鎮圧を行ってください』
とある昼下がり、ようやくロボトミーでの職務に慣れてきて昼食を仲間たちととっていると、試練を告げるアナウンスが鳴り始めた。とはいえ初めてのことだったので、職員たちの動きは少々鈍かった。
「試練ってなんすか?」
この中で一番の新参であるロバートが俺に訊ねてきた。正直俺も初めてだが、どんな奴かくらいは知っている。こっちの世界でも説明を受けている。
「試練ってのは、言ってしまえばアブノーマリティーのなりそこないだ。たぶん今日のは黎明だから、そこまで強くはないはずだ」
「なるほど、つまり脱走したアブノーマリティーみたいなものっすね」
「そうだ、今回は食われないように気をつけろよ」
「いつまでそのネタでいじるんすか!?」
喚くロバートを無視して準備を始める。食事は鎮圧が終わってからにするしかない、時間内に終わればいいのだが……
いつまでも喚くロバートと、デザートを食べていたシロを引きずってコントロール部門のメインルームへ向かう。シロは食べきれなかったチョコレートケーキを名残惜しそうに見つめていた。 ……そんな目をするなよ、後で買ってやるから。
「ほれ行くぞ、相手は待ってはくれないぞ」
「わかったから放してくださいよ」
現場まで走りながら試練について考える。確か黎明でメインルームに現れるのは緑だけだったはずだ、やつならそこまで危険性はないはずだ。初期装備でもなければ集団で負ける要素はないはずだ。現実ではどうなるかはわからないが、集団で囲めば楽に倒せるはずだ。
しいて言うならオフィサーが心配だ。ゲームでは生ごみ以下の存在であったが、現実では彼らは生きた同僚なのだ。ちゃんと彼らも助けないと。
「突撃するぞ、備えろよ!」
「はいっす!」
三人でメインルームに入る、メインルームはアブノーマリティーの侵入も考慮されているので、広く障害物が少ない。ここに相手がいるならば、普通は見つかるはずだ。
「管理人、目標はまだメインルームにいるか?」
『あぁ、反応は移動していない。まだそこにいるはずだ』
「了解、みんな警戒を怠るなよ」
周囲を警戒しながら胃袋を構える。緑の黎明であればもっと目立つはずだ、となれば予想はできる。3手に分かれて周囲を探索する、すると視界の端に灰色の何かが映った。
胃袋を向けながら対象に近づき確認すると、石ころのようなものが落ちていた。だが、ここでそんなものが落ちているはずもない。ならば可能性は一つだ。
「管理人、不審な存在を発見した」
『こちらも確認した、目標はそれで間違いないだろう』
「了解、ただいまから交戦に入る」
『健闘を祈る』
「シロ、ロバート、援護しろ!」
シロとロバートに指示を飛ばすと、二人ともショコラを構えて戦闘態勢に入った。俺は胃袋を振りかぶり石ころにたたきつけると、大きくかたいものがぶつかる音がした。明らかに石ころ相手に出る音ではない。
俺がもう一度攻撃を加えようとすると、石ころが淡く光りだした。
「何か来るぞ、全員衝撃に備えろ!」
胃袋で防御態勢に入ると、石ころが黒い波動を部屋全体に放った。防御しきれずにダメージを負う、肉体へのダメージと精神的な疲労、これはBダメージか。
「二人とも、一気に畳みかけるぞ!」
「了解!」
相手の攻撃が終わり、シロとロバートの援護を受けながら石ころに胃袋を振り下ろす。頑丈ではあるが、動かず攻撃速度も遅いと苦戦する相手ではなさそうだ。
「ぶっつぶれろ!」
全力で胃袋を振り下ろすと、石ころは砕け散ってしまった。念のため砕け散った石ころから距離をとって様子を見たが、特に爆発などをする様子も見られなかった。
『対象の反応、消失を確認。よく頑張ったな』
「ふぅ、特に苦戦はしなかったな」
さすがに試練最弱の黎明だけあって、すぐに鎮圧することができた。ゲームのほうでも苦戦したのは数の暴力である琥珀だけだったので、ある意味こんなものなのかもしれない。
だが、試練ですら知らないものであるということは、俺がまだ知らない試練がこれからも出てくるはずだ。気を抜かずに引き締めていかなければ。
「とりあえず食堂に戻ろう、飯の続きが楽しみだな」
「片付けられていないといいですね」
「悲しいこと言うなよ、もし消えてたらお前のおごりだぞ」
「えっ、理不尽すぎませんか!?」
騒ぐロバートを無視して廊下を歩く、今日も誰も失わずに済んだ。
ちなみにリッチたちが守ってくれていたせいで、ロバートのおごりにはならなかった。残念だ。
誰も気づかない 見向きもしない