【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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懲戒部門 セフィラコア抑制 支『赤い霧が帰ってきた』

『諸君、今回のセフィラコア抑制は今までとはずいぶん違っているようだ。我々はこれより、強大な壁に直面する』

 

『故にこの戦いには、万全を期する必要がある。そこで皆には、まず『T-09-i91』*1と『T-09-i96』*2で能力を強化してもらいたい』

 

『また、『T-05-i22』*3に作業して加護をもらい、ジョシュアとパンドラは『O-03-i07』*4へのイケニエ作業をしてすごいパワーをもらってきてくれ』

 

『そして、その後すぐに赤い霧、懲戒部門セフィラのゲブラーの鎮圧に向かってほしい』

 

『どうか、君たちの武運を祈る』

 

 ついにこの時が来てしまった。

 

 路地裏の伝説、ロボトミー創設時にこいつだけいればいいと本気で思われていた最強の女、赤い霧の二つ名を持つ者。懲戒部門のセフィラ、ゲブラー。彼女の異常さはゲームでも存分に発揮されている、具体的には初期の方の装備でも圧倒的な性能を発揮できるやばい奴だ。

 

「さて、行くぞ」

 

「はい、でもこんなに準備して大丈夫なんですか?」

 

「まぁ、そう簡単にはあの場所から動かない…… はずだ」

 

「あーあ、今ので一気に信用性がなくなりましたね」

 

「そういうなよ、それよりも万全を期する必要があるだろう?」

 

「まぁ、それもそうですけどね」

 

 『T-09-i96』の使用には時間がかかるため、その間に俺とパンドラは『O-03-i07』の作業を行うために中央第一に向かう。

 

 準備の時間があるのであれば、その時間を最大限に使うべきだ。これからの戦闘は、それでも安心できるものではないのだから。

 

 俺たちは準備に奔走する、絶対に生き残るために。

 

 

 

 

 

「ようやく来たか」

 

「あぁ、遅くなったな」

 

 可能な限りの強化は施した。加護も十全に行い、俺とパンドラはすごいパワーで強化されている。これ以上にできることなんて何もない、ならばあとは覚悟を決めて戦いに赴くべきだ。

 

 今回の戦闘は総力戦だ。ゲームでは少数精鋭で戦うほうがやりやすかったが、これは現実、職員それぞれが自分の意思で行動できる。仲間の死亡に対するパニックなど気を付けるべき点はあれど、それを差し引いても採用する価値はある。

 

 赤い霧、ゲブラー。

 

 黒を基調とした戦闘スーツには赤いラインが入っており、顔は岩石のような重量感のある黒い仮面で覆われている。

 

 そして、その手に持つのはE.G.O.だ。それも原作のような懺悔と赤い目ではない。

 

 右手に持つのは巨大な黄金色の宝石が先端に付けられたメイス、“琥珀”だ。TETHのW武器であるそれは、先端の結晶から液体を垂らしている。それがあのアブノーマリティーから出る美容液と同じであるとは、正直思えないくらい美しい。その美しさは、見るものが引き込まれそうな輝きをしている。

 

 そして左手に持つE.G.O.は、今までに見たことのないものであった。緑色の皮で包まれた棍棒は、おそらくはワニのものだろう。先ほどのE.G.O.とは打って変わって荒々しさを前面に押し出した野蛮な印象を受ける。その属性はわからないが、原作から考えるとRダメージの可能性が高い。そのほうが見た目にも合っているし、これがBやPではないように感じる。

 

「私が帰ってきた、苦痛より歩み出た赤い霧が」

 

 そういって、ゲブラーは前へ歩み出た。その瞬間、俺たちを強力なプレッシャーが襲い、何人か身動きが取れなくなる。

 

 そして一瞬意識をそらしただけだというのに、すでに彼女は俺たちの前にいた。そのまま緑色のメイスを振り上げ、そのまま……

 

「まずい、逃げろ!」

 

「えっ」

 

「弾けろ」

 

 その瞬間、ゲブラーの目の前にいたジェイコブが緑色のメイスによって弾け飛んだ。

 

 死体はひとかけらも残らない、ただその場に赤い霧が残るだけ。

 

「いっ、いやぁぁぁぁ!!」

 

 仲間が目の前で死ぬ、しかも跡形もなくただの赤い霧となって。その目の前の光景に俺たちは精神的なショックを受けたが、その中でもサラが一番大きな衝撃を受けたようだ。発狂まで行かなくても相当ダメージを受けたようで、E.G.O.を落としてしまう。

 

 そしてその隙を、彼女が見逃すはずがなかった。

 

「琥珀」

 

「えっ」

 

 その一撃を受けて、サラは発狂してしまった。恐怖のあまりその場に立ちすくみ、目の焦点は合っていない。そして独り言をぶつぶつと言って現実逃避を行うこの症状は、おそらく自殺性のパニックだろう。

 

 このままではゲブラーにとどめを刺されるまでもない、即急に何とかしなければならない。

 

「くそっ、W武器もちはサラの回復を、他はゲブラーの動きに注意してかかれ! 動作は大きい、絶対に飲まれるな!」

 

「喧噪」

 

 ミラベルに向かって放たれる緑色のメイスによる攻撃を、“墓標”ではじいて何とかそらす。たった一撃で武器を持つ手がしびれる、いったいどうしたらこれほどの力を引き出せるのか。

 

「ジョッシュン先輩すいません!」

 

「黙れ、そんな暇はないぞ!」

 

「甘い」

 

 マオが懐に入って“手”を叩き込む。ゲブラーがそれを“琥珀”で防ぎ、緑のメイスを横薙ぎにふるう。それをリッチが“簒奪”で下からはじいて軌道をずらし、マオがそのわずかな差でなんとか屈んでよけることに成功する。

 

 そのまま“墓標”をゲブラーに突き刺し、前方からくる緑のメイスによる攻撃をすれ違うように避ける。

 

 そのまま振り向きざまの“琥珀”による振り下ろしを、シロが遠距離から“調律”で手元を撃って狙いをずらす。

 

 そしてパンドラが遠距離から“魔王”による斬撃を飛ばし、クロイーとミラベルが“信仰”で援護する。

 

 ゲブラーはそれらを両手のE.G.O.で防ぐが、背後に回ったメッケンナの“鬼退治”によって切りつけられる。

 

 そこで一瞬よろけたすきにもう一度最接近して“墓標”で足を突き刺す。これで少しでも動きが鈍ればいいが、そううまくはいかないだろう。

 

「猪口才な」

 

 その瞬間、ゲブラーは両手のE.G.O.をしまい、腕に新たなE.G.O.を装着した。

 

 それは、太陽のように輝く灼熱の籠手であった。

 

 赤を基調とした装いに、黄金の装飾がなされているその籠手は、燃え上がる炎を噴き出していた。その下手をすれば品を失いそうな色合いも、不思議と上品な雰囲気を醸し出している。まるで芸術品のような儚さを兼ね備えているそれは、戦いの場には不釣り合いなように感じる。

 

 だがそんなことは、この場において意味をなさない。問題なのは、この攻撃がおそらく即死級の攻撃であるということだ。

 

「全員よけろ! 可能ならこいつの背後に回れ!」

 

「遅い」

 

 次の瞬間、閃光が走った。

 

 必死に避けたにもかかわらず、その余波で吹き飛ばされてしまった。

 

 体を起こして周囲を確認する。先ほどまでゲブラーがいたところから一直線に、焼け焦げるどころか床の一部が溶けていた。それほどの攻撃を受ければひとたまりもない。周囲を確認してみんなの安全を確認する。できれば黒墨になっていないことを祈るばかりだ。

 

「みんな大丈夫か?」

 

「あぁ、俺は大丈夫だ」

 

「ボ、ボクも大丈夫だよ」

 

「いやぁ~、今の攻撃は奇跡的に皆さんよけられたみたいですね」

 

 どうやら今生き残っている奴は、みんな大丈夫なようだ。だがこうなるとほかの部門で待機していた職員たちが気がかりだ。さっきの攻撃はほかの部門にもワープしながら突進していく攻撃だ、だがこの攻撃が出たということはある程度は体力を削ることができたと考えてもいいかもしれない。何もかもゲームと同じと考えるのは危険だが、期待するのはタダだからな。

 

「とりあえず、無事ならいい。ゲブラーを追いかけるぞ」

 

『彼女なら今情報部門のメインルームだ、気を引き締めてかかれ!』

 

「了解、情報部門に行くぞ!」

 

「わかった」

 

 とりあえず、全員が動けるのを待ってから情報部門に向かう。そういえば、今日の『T-09-i96』当番の職員は大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

「ようやく来たか」

 

「悪いが無駄話に付き合う気はないぞ」

 

「それは私の台詞だ」

 

 その言葉を皮切りに、お互いに動き出した。

 

 まず最初に、ゲブラーはミラベルの目の前に移動して緑色のメイスを振り上げた。ミラベルはそれを予期してか、バックステップでその範囲から逃れる。ゲブラーがミラベルに気を取られているうちに、俺とリッチで接近して攻撃を仕掛ける。

 

 “墓標”と“簒奪”による斬撃を受けて、ゲブラーが少しよろめく。その隙にマオが懐に入り、“手”によるラッシュを叩き込む。

 

 ゲブラーが懐に入ったマオに緑のメイスを叩き込もうとするところを“墓標”で弾き、シロが顔に“調律”の弾丸を叩き込む。

 

 ゲブラーがシロに狙いを定めたところでパンドラが“魔王”による斬撃を飛ばして足元を狙う。

 

 ゲブラーは斬撃を跳んで躱すと、空中にいるその瞬間を狙って“調律”と“種子”、“信仰”による一斉掃射が待ち受ける。ゲブラーはそれらを両手のE.G.O.で弾き、そらし、身をよじってすべて躱す。だが着地の瞬間を狙ってマオと一緒に攻撃を仕掛ける。

 

 俺とマオの攻撃を、ゲブラーは両手のE.G.O.で防いで押し返してくる。その勢いのままバックステップして距離をとってから、再び遠距離組からの一斉掃射が始まる。それを食らいながらゲブラーはシロに接近してその緑のメイスを振りかざす。

 

「なっ!?」

 

「危ない!」

 

 パンドラがシロを助けようと、“魔王”で斬撃を飛ばす。ゲブラーもさすがにこの攻撃には耐えきれなかったのか、体がよろめく。

 

 もちろん、その隙を逃す我々ではない。長距離攻撃による援護射撃により、ついにゲブラーは膝をついた。

 

「……やったか?」

 

「いいや、これからだ」

 

 ゲブラーがその手に持つE.G.O.を放り投げると、その両手に新たなE.G.O.を持って立ち上がる。

 

 枯れ木のような大鎌と、筋繊維のむき出しの大剣。仮面は中央が赤く光り、全身から感じられる圧も、一段と重くなる。

 

「貴様らのような未熟者に私が倒せるとでも?」

 

 ここからが本番だ、赤い霧の本領がここから発揮される。

 

 

 

 

 

 俺たちとゲブラーとの第二ラウンドが、始まる……

 

*1
『七色の瓶』

*2
『黄金の蜂蜜酒』

*3
『慈愛の形』

*4
『でびるしゃま』

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