黒い戦闘用スーツを身にまとう赤髪の女戦士、『赤い霧』ゲブラー。
先ほどまで持っていた二振りのメイスたちはどこかへ消え、代わりにその手の中に収まっているのは恐ろしい二振りのE.G.O.。
右手に握られているのは枯れた木のような大鎌のE.G.O.“簒奪”。ALEPHクラスのWダメージ武器であり、相手に与えたダメージの半分を回復できる強力なE.G.O.だ。さすがに回復することはないだろうが、その威力は、先ほどのTETHの“琥珀”とは比べ物にならないはずだ。
そして左手に握られているのは、筋繊維の脈動する大剣のE.G.O.“エンゲージリング”。こちらもALEPHクラスのRダメージ武器であり、攻撃性能はかなり高い。先ほどでもランクの低い職員は一撃で終わりを迎えてしまうほどだったが、ここからは俺たちでも危険だ。
「貴様らのような未熟者に私が倒せるとでも」
俺たちを踏みつぶさんとでもするかのように、力強い一歩を踏み出す。ピリピリとした感覚が肌を焼き、周りの空気も変わった。
「さあ、仕切り直しだ」
ゆっくりとしていたその動きは、徐々に速くなっていき、気が付けば一瞬で間合いを詰められるほどであった。
「くっ」
「永遠の誓い」
“エンゲージリング”による薙ぎ払いを屈んで下からずらすようにはじいてよける。そのまま“墓標”で足元を攻撃するが、“簒奪”で簡単に防がれてしまう。
「おらぁ!」
「甘い」
マオの背後からの攻撃も、振り終わった“エンゲージリング”で防がれ、そのまま回し蹴りをうけてマオが吹っ飛んだ。
ミラベルやクロイーの攻撃も、簡単に見切られて最小限の動きでよけられる。シロの攻撃は“簒奪”ではじかれ、ルビーの“種子”による砲撃も破壊された。
「ならば!」
リッチが“簒奪”によってゲブラーに攻撃を加えるが、それを同じ“簒奪”で防がれる。力押しに負けそうになっているリッチに加勢すべく“墓標”をふるうと、それも“エンゲージリング”によってはじかれてしまう。
「そこっ」
その瞬間を狙ってシロが“調律”を放ち、その弾丸がゲブラーのマスクに当たる。顔がのけぞって体勢が崩れた瞬間を狙って、“墓標”をゲブラーの胸に突き刺す。
さらにその“墓標”の石突部分をマオが殴り、より深く突き刺さる。
「ラヴァーズ」
武器を手放した俺に一撃を加えようと、ゲブラーが“エンゲージリング”をふるう。俺はすれ違うように背後に回り、マオのさらなる一撃で貫通して出てきた“墓標”をつかんで引きずり出した。
「マオ、助かった!」
「てめぇの礼なんていらねぇんだよ」
ゲブラーの斬撃が飛んできたので、退避して体勢を立て直す。その瞬間を狙ってシロの攻撃が飛んでいくが、またもやはじかれてしまう。
パンドラが“魔王”で斬撃を飛ばして接近するも、“エンゲージリング”の斬撃で吹き飛ばされてしまう。何とかE.G.O.で攻撃を防いだが、衝撃でふらついている。
「まったく、ちょこまかと……」
ゲブラーは“簒奪”と“エンゲージリング”を地面に突き刺し、どこからか一本の槍を取り出した。
それは、灰色の結晶で作られた原始的な槍型のE.G.O.だった。くすんだ灰色だというのに、どこか透き通って見える不思議な結晶はなぜか心を惹かれるものがある。
「静寂の世界をここに……」
「まずい、全員射線上から逃れろ!」
ゲブラーはその槍を右手で持つと、逆手に持ってこちらに向かって構えた。投擲の準備が整うと、一瞬のため、その間に音もなくゲブラーの足元から灰色の結晶が生えてくる。
「その細動を逃さない」
その投擲に、音は一切なかった。槍の投擲の後を追うように結晶が生えていき、パンドラに向かって飛んでいく。一切音がなかったことで気づくことに一瞬遅れてしまったのか、パンドラはその光景を見ているしかなかった。少し遅れて“魔王”で抵抗しようとするも、間に合いそうにない。
「くっ、何のっ!」
「パンドラ先輩、危ない!!」
今にも灰色の槍がパンドラを突き刺そうとしているその時、クロイーがパンドラを突き飛ばした。
「ぐっ、」
「クロイーくん!」
クロイーがパンドラをかばったことで、槍がクロイーに突き刺さる。そのまま槍は勢いを落とすことなく突き進んでいき、クロイーを貫通していった。
「ぐっ、があぁぁぁぁ!!!!」
最初は貫かれただけで何の変化も見られなかったが、クロイーが叫び声をあげるとともに体中からものすごい勢いで何かが飛び出してきた。
それはくすんだ灰色の結晶だった。先ほどの槍と同質と思われる結晶が、クロイーの体の肉を内部からえぐり出しながら生えてくる。そして内側から結晶に覆われたクロイーは、もはやそのほとんどが原形などとどめてもいなかった。
「糞、クロイー……」
「簒奪」
たとえ仲間の死であっても、一瞬の隙すら許されなかった。
ゲブラーの振り下ろす“簒奪”を“墓標”で何とか受け止める。だがそのあとの“エンゲージリング”まではどうしようもなかった。
シロやルビーの攻撃もものともせず、ゲブラーが“エンゲージリング”を振り下ろす。少しでも逃れようと後ろに下がるが、“エンゲージリング”が俺の胸を切り裂き、激痛が走る。
「ぐっ、ごほっ」
かすっただけだとは思えないほど、傷が深い。動くことはできるが、これ以上食らえば確実にやられるだろう。
「馬鹿野郎が!」
「ジョシュア!」
“エンゲージリング”の腹の部分をマオが“手”で殴って軌道をずらし、シロが“調律”で手元を狙ってE.G.O.を握る力を少しでも緩める。
「くらえっ!!」
地面に突き刺さる“エンゲージリング”を蹴ってリッチがゲブラーに切りかかる。ゲブラーがもう片方の腕を振るって“簒奪”で攻撃を仕掛けようとするところを、俺の“墓標”とマオの“手”で下からかちあげてスイッチする。
「ここで仕留める!」
リッチの斬撃がゲブラーの肩を切り裂き、パンドラが背後から切りかかる。ゲブラーが体をひねって地面に突き刺さった“エンゲージリング”を引き抜いて、そのままの勢いでパンドラにたたきつけようとする。そこをシロが再び手を狙ってあてると、そのまま“エンゲージリング”はゲブラーの手から離れて天井に突き刺さる。
「貫け」
「くっ、気をつけろ!」
片方だけとはいえ獲物がなくなった瞬間を狙わない理由はなかったが、ゲブラーがあの灰色の槍を取り出したことで回避体勢に入る。
音もなく結晶がゲブラーの足元に広がり、気が付けば放たれている。
次は、俺のほうに飛んできた。とっさに“墓標”ではじこうとするも、勢いが強すぎる。E.G.O.による抵抗をあきらめ首をひねって何とか最悪の状況だけは避けることができたが、一瞬でも判断が遅れていたら俺の頭は胴体とおさらばしていただろう。
そしてこちらの陣形が崩れたことで、ゲブラーは跳躍して天井に突き刺さった“エンゲージリング”を回収すると、そのまま音もなく着地した。
「くそっ、バケモンかよ!」
「無駄口をたたくな!」
「孤独な歌を」
余計な口をたたくマオに“簒奪”による斬撃が飛んでくる。マオが転がるように横によけるが、追撃が飛んでくる。
なんとか俺が“墓標”ではじいてずらすも、少しかすってしまった。
先ほどの威力を考えれば、かすっただけでもかなりの威力のなはずだ。事実、マオの顔色は一気に悪くなった。
「無様な愛」
「くっ」
マオが離れられるまで少しでも時間を稼ぐ。“エンゲージリング”による横なぎを、“墓標”を床に突き刺して耐える。あまりの衝撃に吹き飛ばされそうになるも、何とか踏みとどまる。
「血の霧となれ」
「させるか!」
再び“エンゲージリング”による斬撃が襲い掛かる。それをリッチがはじいてルビーが“種子”による砲撃を足元に放って体勢を崩しにいく。
ゲブラーが飛びあがったところを、シロとパンドラ、ルビーの攻撃が襲う。ゲブラーは“簒奪”と“エンゲージリング”で攻撃をはじいていくが、さすがのゲブラーも全てはさばききれずいくつかは攻撃が当たった。
「まだだっ!」
「甘い」
着地した瞬間を狙って、“墓標”を突き刺す。腹部に墓標が突き刺さるが、“墓標”の柄の部分をつかまれて動かせなくなってしまう。
「なっ、まず……」
「収奪」
「させるか!」
“簒奪”を振るわんとするゲブラーの横腹に、マオの“手”が突き刺さる。横腹を殴られたゲブラーはくの字に曲がるが、その両足は地についたままだ。
だが、体勢が崩れたことにより手が緩み、“墓標”をひねって抜き取ることに成功する。そのままついでに“墓標”で薙ぎ払うが、体をのけぞらせて避けられてしまう。
そこをさらに“墓標”を振って追撃して意識をこちらに向けさせ、シロの銃弾が再びゲブラーに襲い掛かる。
「うらぁぁぁぁ!!」
さらに、懐に入ったマオのラッシュがゲブラーの腹部をえぐる。それに負けじと“エンゲージリング”が振るわれるが、マオがバックステップで俺と入れ替わって反撃をする。
「……まだ、足りない」
「……なんだ?」
「まずい気がする、みんな離れろ!」
ゲブラーが“簒奪”と“エンゲージリング”を放り投げる。
「ぐっ」
「パンドラ!」
突然の行動に反応できず、“エンゲージリング”によってパンドラの右足が吹っ飛んだ。俺はパンドラをかばうように前方に立ち、E.G.O.を構える。
戦いにほとんど参加できなくなっていたミラベルがパンドラを引きずって部屋から出ようとする。ゲブラーはそんなことなど興味も示さず、新たなE.G.O.を取り出した。
それは、死を纏った白濁の槍だった。夥しい怨念を抱えた白く濁った骨の塊、それが一本の槍の形を成している。
もう片方の手には、これまた白色のハンマーが担がれていた。それは先ほどとは違って気味の悪い青白い色をした触手の塊であった。眺めるだけで気持ちの悪くなる不快な見た目、しかしどこかで見覚えもあるような、そんな気のするものであった。
「さあ、E.G.O.の本当の使い方を見せてやる」
戦闘はさらに激化する。俺たちは覚悟を決めて、次の戦いに立ち向かう。