【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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抽出部門
Days-36 O-01-i40『もうすぐ暖かくなりますね』


 今日収容されたアブノーマリティーは『O-01-i40』だ。前回の戦闘が激しかった分、できれば優しい部類の相手であればいいのだが……

 

「さて、それじゃあ今日も頑張りますか」

 

 いつものように扉に手をかけて、お祈りをしてから開く。

 

 どことなく、暖かい風が吹いてきた気がした。

 

 

 

「ええっと、これが今回のアブノーマリティーなのか?」

 

 収容室の中には青みがかった大きな卵が置かれてあった。青白い殻に青色のまだら模様、さらにタマゴの中心に横向きの罅が殻を一周するように入っていることから、おそらくは中に何か入っていて、そこから何か出てくるのだろう。

 

「……絶対何かあるな」

 

 何となく嫌な予感がして少し離れて観察する。ホラー耐性はそこそこあるが、びっくり系の耐性はあまりないんだ。

 

「……うーん」

 

 しばらく観察していると、罅の隙間から何かがこちらをのぞき込んでいることに気が付いた。

 

 しかし、こちらの油断した瞬間を狙っているとか、何かのタイミングを狙っているとかそういう感じはしない。なんというか、純粋な好奇心で観察されているように感じる。

 

「ふーむ……」

 

 別に油断しているわけではないが、そうじろじろ見られているとなんだかむず痒い。こうなったらこっちから近づいてみるのもいいかもしれない。

 

 そう思って近づいてみる。すると殻の中から覗いていた何かはびっくりしたのかしっかり殻を閉じてしまった。

 

「もしもーし」

 

 仕方がないので殻にノックをしてみる。しかし反応がないのでもう一度ノックをしてみると、なんだが殻の中が騒がしい。

 

 何となく、もう一度ノックをしてみると、なんだかくすくすと笑い声が聞こえてくる。なんというか、楽しんでいるようだ。

 

 すると、今度は内側からノックが帰ってくる。くすくすと笑い声が聞こえてくるので、もう一度ノックをしてやると少し笑い声が大きくなった。

 

 その後も何度もノックをしてくるので、こちらもノックをし返す。まるで子どもが覚えたての遊びを何回も繰り返すのように、何回も飽きることなくおこわなれる。

 

「さて、それじゃあそろそろ帰るわ」

 

 しばらくして、時間が来たので収容室から出ようとする。

 

 すると、殻の中からひょこっと小さな頭が出てきた。

 

 それは、青色の髪色をしてサンゴのような形をした小さな角を持った少女であった。顔だけを出しているため服装は確認できないが、角が生えている以外は特に何の変哲もない普通の少女でしかなかった。

 

 彼女は控えめにふりふりと手を振るので、俺も手を振り返す。彼女は微笑むと、すぐに殻にこもってしまった。

 

 少し微笑ましい気持ちになって収容室から退出する。

 

 そのまま抽出部門のメインルームまで戻るが、やはりどこか静かでさみしさを感じる。部門が増えたことと、前回の戦いで人員が少なくなってしまったことで、ただでさえ広いこの施設がさらに広く感じる。

 

 今まで、一度の戦闘でここまで人数が減ることはなかった。さらに、今までずっと一緒にやってきた仲間でさえ、あっさりと死んでしまったのだ。

 

 すこし、壁に背中を預けて座る。何となく、休憩したくなった。

 

「……ジョシュア、隣いい?」

 

「……あぁ」

 

 しばらくすると、シロがやってきた。あの戦いでも何とか生き残り、ともに今日を迎えることができた大切な仲間だ。

 

「あ、あのさ、昨日は大変だったね」

 

「……そうだな」

 

「で、でもさ、思い詰めたらさ、大変だよ?」

 

「……だよな」

 

「ジョ、ジョシュア……」

 

 シロが頑張って話しかけてくれるが、今はあまり話したい気分ではなかった。シロには悪いが、そばにいてくれるだけでいいんだ。

 

「……いっぱい死んじゃったもんね」

 

「そうだな」

 

「ルビねえも、死んじゃったんだよね」

 

「お前も、なんだかんだで仲良かったもんな」

 

「うん……」

 

 話をしていると、少ししんみりしてしまった。何とかしないといけないよな……

 

「大変だ! パンドラのやつがまたやりやがった!」

 

「『O-02-i24』*1が脱走したぞ! いったいなにしたんだ!」

 

「だっておいしそうだったんですもーん!」

 

「それで僕に依頼したんだね、もしかして僕も食べる気かい?」

 

「あっ、いえあなたはおいしそうじゃないんで別にいいです」

 

「ガーン」

 

 しばらく静かな時間が流れていたが、それを吹き飛ばすくらい強烈な出来事が来た。なんというひどい出来事だ、全く厄介な奴だ。

 

「ふふっ」

 

「あっ、ジョシュア、笑った?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「胸のもにゅもにゅ、無くなった?」

 

「そうだな、あいつがいたら悲しむ時間なんてないな」

 

「すこし、元気出た?」

 

「もちろんだ」

 

 立ち上がって、前を向く。

 

 これからあのバカを捕まえなければいけない。

 

 あいつらの犠牲をなかったことにはしたくない。

 

 でも、ちゃんと前を向いていかなければいけないだろう。

 

 ここで立ち止まるのは、彼らも望んではいないだろう。

 

 だから、ちゃんと歩き続けるんだ。

 

 

 

 

 

 もしかしたら、つらいことがあるかもしれません

 

 どうしても悲しくて、前を向けないことがあるかもしれません

 

 でも、そんなに悲しまないでください

 

 冷たい冬が来ても季節が廻り、暖かい春が来るように

 

 凍える空に、風が温もりを運んでくるように

 

 悲しいことがあっても、いつか必ずその時は過ぎ去ります

 

 だから、そこにずっといてはいけませんよ

 

 

 

 

 

 ほら、もうすぐ暖かくなりますね

 

 

 

 

 

 O-01-i40『青き東風の春姫』

*1
『鋏殻』

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