「はぁ、ご迷惑をおかけしてすいません」
「気にするな、お前がいない分はパンドラにやらせた」
「……あの子はなんであんなに元気なんでしょうか」
右腕がようやく動かせるようになり、メッケンナが復帰した。いくら『T-09-i97』*1によって治療ができるとはいえ、無くなったものを治療できても動かせるかは別だった。とはいえこんな数日で職場復帰できるようになるのは、技術と本人のやる気のおかげだろう。
「あいつのことは気にしたら負けだ、たぶん人間よりゴキブリとかのほうが遺伝子レベルが近いんだろう」
「おかしいですね、人間以外の知的存在は都市にいないはずなのですが……」
メッケンナに真顔で人外扱いされるパンドラ、なんだか哀れになってきた。それにこいつ、パンドラに対しての感謝もない。礼儀正しいメッケンナにすら礼を欠かせるなんて、あいつは何をしたんだ……
「あっ、ジョシュア先輩、メッケンナ君、何してるんですか?」
「うわっ、パンドラさん」
「ようパンドラ、どうした」
「いやぁ、なんか話をしているので気になりまして…… あれ?」
メッケンナが思わず露骨な態度をとってしまうが、パンドラにはぎりぎりばれていないようだ。
仕方がないので助け船を出すとするか。
「そういえば、この前食べさせたいものがあるって言ってなかったか?」
「あっ、そういえばまだ渡していませんでしたね……」
パンドラが鞄から包みを出すと、シンプルなランチボックスが出てきた。パンドラがふたを開けると、中からはなぜかステーキが出てきた。
「いや、入れ物に対して入っているものがおかしくないか?」
「どうせこの子にはそんな区別はつきませんよ」
「……お前結構パンドラに辛らつだな」
「……今まで何をされてきたか教えましょうか?」
「いや、いい……」
いったい何をされたらそんな虚無の目をすることになるんだ。
だが、何かをした張本人であるパンドラは、そんなこと素知らぬ素振りで準備をしている。本当にこいつはなんなんだ。
「それでですね、せっかくだから皆さんに食べてもらおうかと……」
「あっ、僕は遠慮します」
「さっきからメッケンナ君酷くないですか!?」
あっ、ついにパンドラが突っ込んだか。さすがに自覚はあったんだろうか。
「……まだあのことは許してませんよ」
「うっ、すいません……」
「えぇ……」
パンドラが素直に謝るなんて、すごい気になる。だがメッケンナの名誉のためにも聞かないほうがいいだろう。
「それじゃあ僕はそろそろ行きますね」
「あっ、またミラベルさんのところですか?」
「仕事です!!」
パンドラの余計な一言で、メッケンナは怒って帰ってしまった。だがなメッケンナよ、お前とミラベルの仲はみんなに知れ渡っているぞ。
「あーあ、行っちゃいましたね。ジョシュア先輩は食べますか?」
「うーん、やっぱりやめとくか。腹いっぱいだし」
「えぇ~、食べましょうよぉ。私のお肉」
「別に後でもいいだろう?」
「ジョシュア」
「うおっ」
パンドラと話していると、シロが話しかけてきた。なんか机に顔を乗っけててかわいいな。
「シロちゃん、よかったら一緒に食べますか? まだまだいっぱいありますからね!」
「ジョシュア、もう時間だし行こう」
「そうだな」
「うぅぅ、みんなが冷たい……」
悲しむパンドラを放っておいて、収容室に向かう。今日収容されたアブノーマリティーは『F-01-i26』だ。ずいぶん久しぶりのファンタジーカテゴリのアブノーマリティーだ。
シロと一緒に収容室まで歩いて行く。今日は変な奴でなければいいのだが……
「……で、なんでお前までついてきてるんだ?」
「別にいいじゃないですか!」
そして、なぜかパンドラまでついてきている。まったく、冷やかしだろうか……
「さて、ついたな。それじゃあ……」
「おっじゃまっしまーす!」
「おいパンドラ!?」
突然の行動に対応できず、パンドラはそのまま収容室に入っていってしまった。
「……いや、どういうことだよ」
「ジョシュア、あれは気にしたらダメ」
「……そうだな、でもなんか納得できない」
「それはわかるけど、ダメだよ」
「うん、そうだな……」
もう彼女を理解しようとするのはやめよう、時間の無駄だ。管理人に確認すると、なんか今回は作業を交代するらしい。なぜだ?
吹雪の吹く収容室の中に、彼女は立っていた
美しい初雪のように白く、柔らかそうな肌に氷のように薄水色の髪。その瞳は薄氷のように美しく、儚く見える。
彼女はここで、哀れな獲物を待つ
己の秘密を守れる、良き者を
待っているんですけど
全然来ない、なんでぇ……
あなたのことは助けてあげましょう
しかしこの雪山で私にあったことは忘れなさい
この場所であったこと、出会ったもの、手に入れたもの
それらすべては他言無用です
これは約束です、契約です
だから、決して誰にも話してはいけませんよ
F-01-i26 『吹雪の約束』