【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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さぁ 目を開けて伸びをしよう

今日は素晴らしい出会いがある予感がする


Days-05-2 苺の黎明『始まりの予感』

「だから、私も嫌になっちゃったの」

 

「なるほどな、そりゃあひどい話だ」

 

 ルビーの恋バナに相槌を打ちながら廊下を歩く。ルビーには恋の悩みが尽きないらしい、こんな職場で恋愛について考えられるのは心に余裕のあるいいことなんだろうけどな。

 

「あっ、ジョシュアさん、ルビーさんおはようございます」

 

「おっ、Π029ちゃん。どうしたんだ?」

 

「いえ、ジョシュアさんにこの前のお礼を言いたくて。助けていただいてありがとうございます」

 

「お礼って、別にいいのに……」

 

 廊下を歩いていると、オフィサーのΠ029ちゃんが話しかけてきた。小っちゃくて動きがいちいちかわいく、ポニーテールのためなんだか小動物っぽい子だ。どうやらこの前脱走したアブノーマリティーから助けたことのお礼を言いに来たらしい、律儀な子だ。

 

「それで、よかったら今度一緒にご飯を食べませんか?」

 

「別にいいぞ、また時間が合うときにご一緒しようか」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 それだけ言うと、彼女は顔を赤めながらパタパタと走り去っていった。本当に可愛らしい子だったなぁ。

 

「あらぁ、ジョシュアちゃんも隅に置けないわねぇ」

 

「茶化すなよ……」

 

 こんな職場だ、恋人なんて作って殺されようものなら発狂間違いなしだ。特に俺は一番死にやすいところにいるのだから、そういうことに手出しする気力はないな。

 

 ルビーに一通り茶化されながらメインルームへ向かう、とりあえず休憩したい。

 

「おぉ、ジョシュアさん、ルビーさん。ご無沙汰です」

 

「あれ、Λ494、どうしたんだ?」

 

「いえ、この前来たアブノーマリティーの資料についてなんですが……」

 

 今度話しかけてきたのはΛ494だ、彼はまじめな男で自分たちの作る資料が原因でトラブルが起きないように、たびたびエージェントにそのアブノーマリティーのことを聞きに来る。今回はこの前来たアブノーマリティーの特殊能力について引っかかることがあったらしい、第三者からの気づきでないとわからないこともあるから結構ありがたい。

 

「おーい、ジョシュアさーん」

 

 Λ494との話が終わると、またオフィサーに話しかけられた。

 

 なんだか今日はよくオフィサーたちに話しかけられるなぁ、普段は遠巻きに見ているだけなのに……

 

『コントロール部門『F-02-i06』*1の収容室前で、試練が発生しました。エージェントたちは至急鎮圧に向かってください』

 

 そんなことを考えながら何人も対応していると、試練が発生した。前回と同じやつならいいが、出現場所が収容室前ということで正直嫌な予感しかしない。

 

 ルビーと一緒にE.G.O.を持って現場に向かうと、途中でリッチと合流したので一緒に鎮圧に向かう。もしもピエロみたいなやつなら最悪だ。急いで鎮圧に向かわなければ……

 

「よし、突入するぞ!」

 

「さぁ、張り切っていくわよ」

 

「さっさと終わらせるぞ」

 

 三人で『F-02-i06』の収容室のある廊下に突入する。すると、廊下の真ん中に花が一輪咲いていた。 ……いや、あれは花ではない。

 

 茎は髪の毛、葉は皮、花弁は肉でその中央に目玉がある。まるで人間で作った不気味なオブジェのような試練とみて、思わず戦慄する。ロボトミーにおいて植物はやばい、そう思い急いで攻撃しようとするとやつが淡く光り始めた。

 

「何か来るぞ、全員気をつけろ!」

 

 胃袋を盾にして様子を見ていると、やつの光はすぐに収まった。攻撃ではない? なら余計なことが起こるはずだ。

 

「ルビー、リッチ、何か異常はないか?」

 

「えぇ、私は大丈夫よ」

 

「こちらも異常はない」

 

「なら、とりあえずこいつをつぶすぞ」

 

「「了解!」」

 

 ルビーがショコラで援護しながら、俺とリッチで攻撃を加える。すると、どうやら本体はだいぶもろいようで一瞬で崩れてしまった。

 

「退避!」

 

「了解」

 

 念のため、鎮圧後の爆発も予想して退避する。しかし爆発もなくそのまま汚い花は散ってしまった。

 

 これほどあっさり終わるということは、確実に何かやばい能力を持っている。さっきの光でもしかしたら『F-02-i06』のクリフォトカウンターが下がってしまったかもしれない。あるいは、俺たちでは気が付けない変化が起こっているかもしれない。

 

「おい、念のため『T-09-i97』*2を使用しに行くぞ。もしかしたら自分たちでは気が付かない異常があるかもしれない」

 

「そうね、なんだか気味が悪いわ」

 

「……ちょっと待て、あそこであのオフィサーは何をしているんだ?」

 

「えっ?」

 

 リッチの指さす方向を見ると、Λ494が歩いてきていたが明らかに様子がおかしい。目はうつろで足取りもおぼつかず、そして手にはバールのような物をもってそれを『F-02-i06』の収容室の扉に向かって振り上げると……

 

「なっ、あいつ『F-02-i06』を脱走させる気だ! 管理人!」

 

『まずい、彼は魅了されている! こちらで呼びかけて正気に戻すから、君たちは彼を止めてくれ!』

 

「了解!」

 

 Λ494を取り押さえるべく俺とリッチで接近するが、一足遅くΛ494はバールのようなものを扉に振り下ろす。すると収容室の扉が開いて『F-02-i06』が脱走し、そのままΛ494を飲み込んでしまった。

 

「くそっ、失敗した。ルビーはショコラで『F-02-i06』の気を引き付けておいてくれ、俺とリッチは背後に回って殴りつける!」

 

「わかったわ、私が飲み込まれる前に間に合わせなさいよ」

 

「もちろんだ!」

 

 結局『F-02-i06』は簡単に鎮圧することができたが、これがこれから収容するアブノーマリティーが増えてからだと恐ろしいことになる可能性がある。俺の中で警戒するべき試練第一位はこの試練に決定した。

 

 ちなみに、Λ494に魅了されている間の記憶はなかった。最後の記憶はΛ494に向かってきた綿毛のようなものに当たったというものだった。その報告を聞いて職員全員に注意喚起が行われた、これで少しでも被害が減らせるといいが……

 

 とにかく、黎明とはいえ油断できないということを身をもって知ることとなったのだった。

 

 

*1
『吊された胃袋』

*2
『極楽への湯』




結局はなにもない

ただ待つことは無意味である
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