「悪いな、心配かけて」
「本当にもう仕事に戻って大丈夫なのか?」
「一応な、これでも頑張ったんだ」
「だからって無理したら意味ないぞ」
「身に染みるな」
あの戦いでたくさんの仲間が倒れた。だが生き残ってくれたやつもいる。サラ、メッケンナ、マオ、ミラベル、シロ、そしてリッチ。……あっ、ついでにパンドラ。
あの戦いで下半身をすべてつぶされてしまったリッチは、何とか死ぬ間際に『T-09-i97』*1に浸かったことで命をつなぐことができたのだ。その代償は大きかったらしく、かなり衰弱して、体は治っても危うく餓死する可能性があったらしい。
それに、治ってからも大変だった。日々のリハビリに絶叫の木霊する地獄の機能回復メニュー、まぁ色々話を聞きたくないレベルで酷かったらしい。
「さて、それじゃあ俺はもう行くよ」
「そうか。ちなみに今日は何の作業だ?」
「今日はツール型だな、『T-09-i86』だ」
今日収容されたのはツール型の『T-09-i86』だ。ツール型は番号だけではヒントも得られないから面倒だ。
「それじゃあまたな」
「あぁ、また」
リッチと別れて収容室に向かう。できれば使っただけで即死するようなものでなければいいのだが……
「さて、ついたな」
『T-09-i86』の収容室の前につく。今日もツールということで乱雑に扉を開けて収容室の中に入る。どうせツールだから大丈夫だろう。
「なんだこれ、お札?」
収容室の中に入っていたのは、見たこともない言語の書かれたお札の束であった。見た感じこれで除霊でもするのだろうか? 単発使用…… いや、装着型か?
「とりあえず使ってみるか」
お札の束を手に取ってみる。すると、お札は俺の手から逃れて空を飛び始めた。
「うおっ、やっちまったか…… うん?」
しばらく空を飛んでいたお札は、俺の周りを囲むように空中で停止した。なんというか、守ってくれているようだ。
「装着型だな、攻撃から守ってくれるのか、それとも戦闘のサポートか……」
とりあえずデータが欲しいな。何となく作業ではなく戦闘のほうがいい気がする、試し切りに『F-01-i05』*2でも脱走させようか…… いや、でも面倒だなぁ。
「まぁいいか、とりあえず行ってみよう」
情報部門に向かって歩いていく。見た目に騙されがちだが、実は抽出部門と情報部門とは意外と近い。ただ気持ち的に面倒なだけだ。
「はぁ、なんかいい感じのやつが来ないかな」
もういっそ試練でもいい、だが次は深夜だからできればやめてほしいところではある。
『ジョシュア、ちょうどそっちに向かっているのなら『T-09-i96-1』の鎮圧に向かってくれ。今日の『T-09-i96』*3当番がさぼったらしい』
「なるほど、了解」
一体さぼったのは誰だ? パンドラ…… は今日じゃないか。しかしあいつ以外がそんなミスをするだろうか?
「まぁいいか、せっかくだし試し切りくらいはしておこう」
幸い『T-09-i96-1』は動きが遅いため、不意打ちでも食らわない限りは被害があまり出ない。数が出ればそれこそ『黄金の洪水事件』のようになるが、そうでなければ大丈夫。
「さてと、それじゃあ行きますか」
ちょうど目のまえに『T-09-i96-1』が現れたので、さっそく戦闘を始める。すると俺の周りを囲むように浮いていた『T-09-i86』は、横向きに取れて俺の上を通るようにアーチ状になった。
「すぐに終わらせる」
手に持っている“墓標”を構えて『T-09-i96-1』に向かって突き刺した。すると俺の動きと同時に『T-09-i86』が『T-09-i96-1』に向かって飛んでいき、張り付いた。すると『T-09-i86』は黒い炎をまき散らし、『T-09-i96-1』にダメージを負わせていく。
「なるほど、そういう感じか」
“墓標”で攻撃すればするほどお札が飛んでいき、『T-09-i96-1』にダメージを負わせていく。さらに、いつの間にかお札は補充されているので弾切れの心配もない。これは一気に戦闘が楽になったかな。
「これで終わりだな」
最後の一撃を『T-09-i96-1』に刺して戦闘を終了する。これで鎮圧完了だ、装備の整っていない時ならいざ知らず、今の状況でこいつに負けることなんてありえない。
「今回は早く片付いたな…… いてっ」
ふいに肩に痛みを感じてその場所を確認すると、肩に傷が入っていた。先ほどの戦いで傷はつけていないし、それ以前で傷ついたとも考えられない。となると……
「やっぱりこいつのせいだろうか?」
周囲に浮いている『T-09-i86』に向かって語り掛けるが、もちろん返事は帰ってこない。だが、何となく確信があった。
「……でもまぁ、戦闘が楽になるならいいか。とりあえず新人にだけは使わないように伝えておこう」
『T-09-i86』を返却するために収容室に向かう。だが、安全からでは結構遠いのだ……
この札はとても便利だ
相手が格上だろうとこいつがあれば戦える
俺たちが魔と戦うときにはいつだってこいつが助けてくれる
……だが、どうしても不安を感じる時がある
こいつを使っていると、魔を滅せよと声が聞こえる
それも、傷つけば傷つくほど、死に近づけば近づくほど声は大きくなる
それはいつしか、自分を飲み込んでしまうのではないかと思えるような、そんな感覚だ
確かにこいつは便利だ、こいつがない生活なんて想像もできなくなってしまった
だが、こいつを使えば使うほど、俺が俺でなくなってしまう
だから我々は、頼もしさと同時に、恐ろしさを感じる
T-09-i86 『破魔の札』