【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

120 / 335
Days-39 T-09-i86『頼もしさと同時に、恐ろしさを感じる』

「悪いな、心配かけて」

 

「本当にもう仕事に戻って大丈夫なのか?」

 

「一応な、これでも頑張ったんだ」

 

「だからって無理したら意味ないぞ」

 

「身に染みるな」

 

 あの戦いでたくさんの仲間が倒れた。だが生き残ってくれたやつもいる。サラ、メッケンナ、マオ、ミラベル、シロ、そしてリッチ。……あっ、ついでにパンドラ。

 

 あの戦いで下半身をすべてつぶされてしまったリッチは、何とか死ぬ間際に『T-09-i97』*1に浸かったことで命をつなぐことができたのだ。その代償は大きかったらしく、かなり衰弱して、体は治っても危うく餓死する可能性があったらしい。

 

 それに、治ってからも大変だった。日々のリハビリに絶叫の木霊する地獄の機能回復メニュー、まぁ色々話を聞きたくないレベルで酷かったらしい。

 

「さて、それじゃあ俺はもう行くよ」

 

「そうか。ちなみに今日は何の作業だ?」

 

「今日はツール型だな、『T-09-i86』だ」

 

 今日収容されたのはツール型の『T-09-i86』だ。ツール型は番号だけではヒントも得られないから面倒だ。

 

「それじゃあまたな」

 

「あぁ、また」

 

 リッチと別れて収容室に向かう。できれば使っただけで即死するようなものでなければいいのだが……

 

「さて、ついたな」

 

 『T-09-i86』の収容室の前につく。今日もツールということで乱雑に扉を開けて収容室の中に入る。どうせツールだから大丈夫だろう。

 

 

 

「なんだこれ、お札?」

 

 収容室の中に入っていたのは、見たこともない言語の書かれたお札の束であった。見た感じこれで除霊でもするのだろうか? 単発使用…… いや、装着型か?

 

「とりあえず使ってみるか」

 

 お札の束を手に取ってみる。すると、お札は俺の手から逃れて空を飛び始めた。

 

「うおっ、やっちまったか…… うん?」

 

 しばらく空を飛んでいたお札は、俺の周りを囲むように空中で停止した。なんというか、守ってくれているようだ。

 

「装着型だな、攻撃から守ってくれるのか、それとも戦闘のサポートか……」

 

 とりあえずデータが欲しいな。何となく作業ではなく戦闘のほうがいい気がする、試し切りに『F-01-i05』*2でも脱走させようか…… いや、でも面倒だなぁ。

 

「まぁいいか、とりあえず行ってみよう」

 

 情報部門に向かって歩いていく。見た目に騙されがちだが、実は抽出部門と情報部門とは意外と近い。ただ気持ち的に面倒なだけだ。

 

「はぁ、なんかいい感じのやつが来ないかな」

 

 もういっそ試練でもいい、だが次は深夜だからできればやめてほしいところではある。

 

『ジョシュア、ちょうどそっちに向かっているのなら『T-09-i96-1』の鎮圧に向かってくれ。今日の『T-09-i96』*3当番がさぼったらしい』

 

「なるほど、了解」

 

 一体さぼったのは誰だ? パンドラ…… は今日じゃないか。しかしあいつ以外がそんなミスをするだろうか?

 

「まぁいいか、せっかくだし試し切りくらいはしておこう」

 

 幸い『T-09-i96-1』は動きが遅いため、不意打ちでも食らわない限りは被害があまり出ない。数が出ればそれこそ『黄金の洪水事件』のようになるが、そうでなければ大丈夫。

 

「さてと、それじゃあ行きますか」

 

 ちょうど目のまえに『T-09-i96-1』が現れたので、さっそく戦闘を始める。すると俺の周りを囲むように浮いていた『T-09-i86』は、横向きに取れて俺の上を通るようにアーチ状になった。

 

「すぐに終わらせる」

 

 手に持っている“墓標”を構えて『T-09-i96-1』に向かって突き刺した。すると俺の動きと同時に『T-09-i86』が『T-09-i96-1』に向かって飛んでいき、張り付いた。すると『T-09-i86』は黒い炎をまき散らし、『T-09-i96-1』にダメージを負わせていく。

 

「なるほど、そういう感じか」

 

 “墓標”で攻撃すればするほどお札が飛んでいき、『T-09-i96-1』にダメージを負わせていく。さらに、いつの間にかお札は補充されているので弾切れの心配もない。これは一気に戦闘が楽になったかな。

 

「これで終わりだな」

 

 最後の一撃を『T-09-i96-1』に刺して戦闘を終了する。これで鎮圧完了だ、装備の整っていない時ならいざ知らず、今の状況でこいつに負けることなんてありえない。

 

「今回は早く片付いたな…… いてっ」

 

 ふいに肩に痛みを感じてその場所を確認すると、肩に傷が入っていた。先ほどの戦いで傷はつけていないし、それ以前で傷ついたとも考えられない。となると……

 

「やっぱりこいつのせいだろうか?」

 

 周囲に浮いている『T-09-i86』に向かって語り掛けるが、もちろん返事は帰ってこない。だが、何となく確信があった。

 

「……でもまぁ、戦闘が楽になるならいいか。とりあえず新人にだけは使わないように伝えておこう」

 

 『T-09-i86』を返却するために収容室に向かう。だが、安全からでは結構遠いのだ……

 

 

 

 

 

 この札はとても便利だ

 

 相手が格上だろうとこいつがあれば戦える

 

 俺たちが魔と戦うときにはいつだってこいつが助けてくれる

 

 ……だが、どうしても不安を感じる時がある

 

 こいつを使っていると、魔を滅せよと声が聞こえる

 

 それも、傷つけば傷つくほど、死に近づけば近づくほど声は大きくなる

 

 それはいつしか、自分を飲み込んでしまうのではないかと思えるような、そんな感覚だ

 

 確かにこいつは便利だ、こいつがない生活なんて想像もできなくなってしまった

 

 だが、こいつを使えば使うほど、俺が俺でなくなってしまう

 

 

 

 

 

 だから我々は、頼もしさと同時に、恐ろしさを感じる

 

 

 

 

 

T-09-i86 『破魔の札』

*1
『極楽への湯』

*2
『彷徨い逝く桃』

*3
『黄金の蜂蜜酒』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。