友の屍を超えた先の どこまでも続く道
この先にわれらの王国が待っている
「ジョシュア、これくらいでへばってどうする?」
「ゲ、ゲブラーさん…… そろそろ休憩を……」
ちょっとした思い付きで、ゲブラーにE.G.O.の扱い方を教えてもらおうとしたのが間違えだった。
軽い気持ちで聞いてみたら、ゲブラーの何かに火が付いたのか、そのまま特訓が始まった。
使い方なんて実戦でしかわからないと言ってとりあえずWAWの相手をさせられた。そのまま何度も戦っていたら今度はALEPH、途中で脱走した甲殻類ブラザーズたちの相手もしながらE.G.O.の使い方を実践の中で覚えさせられることとなった。
一体一体ならまだましだったが連続はきつかった。しかも何の嫌がらせかほかの職員たちもなぜか協力的だった。パンドラなんて嬉々として手伝っていたな、そんなに俺が嫌いか……
「そうだな、そろそろ休憩としよう」
「えっ、まじで!?」
「あぁ、もうじき試練が発生するからな。そいつの相手をしてもらおうか」
ゲブラーの発言で一瞬希望が見えたが、それもすぐに砕かれてしまった。もしかして休憩って試練の鎮圧のことですか?
「いやいや、次の試練って深夜ですよ? まさかそれを……」
「あぁ、一人で鎮圧してもらう」
「無理に決まってんだろ!!」
今まで出てきた深夜がどれだけやばいやつらだったか忘れたのか!?
明らかに放置したらまずい奴と洗脳系だぞ! そんなの時間をかければどんなことになるか、それにまだ判明していない深夜もいるはずだ。
「安心しろ、時間がかかるようならほかの職員を向かわせよう」
「ほっ」
「……まぁ、その場合鍛錬が足りなかったということだから、追加が必要だな」
なんか最後にボソッと恐ろしいことを言っていた気がするが、気のせいだよな?
なんか急にやる気が出てきたぞー!
『福祉部門にて試練が発生しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』
「さて、休憩の時間だな」
「そういえば休憩という名目だったなチクショー!」
もはややけになって福祉部門に向かっていく。そもそも深夜がそんなに簡単につぶせる相手なわけがないだろうが!
「さて、ここにいるんだな……」
本日最後の試練、黄金の深夜がいると言う福祉部門のメインルームの目の前に到着した。
ここから先はどうなっているかはわからない、一抹の不安を感じながら扉を開く。
はたして、扉の先に広がっていたのは、一面の草むらだった。
少し元気がなく白がかった草のなかに、小さな花がポツポツ顔を出している。
そしてその先には、人の形をした怪物がいた。
傷だらけのからだに輝きを失った瞳、それは今までの黄金の試練に出てきた彼の成長した姿と考えられるが、それにしてはなんだか覇気を感じられない。
黄金の深夜は細い体を外套で隠し、目の前に広がる草むらを歩く。一歩踏みしめる毎に草木は枯れて、元の床に戻っていく。
「さて、それじゃあ早速いかせてもらうか」
墓標をもって黄金の深夜に立ち向かう。それに反応して黄金の深夜が腕を上げてこちらに向けるが、何やらおかしい。
よく見れば黄金の深夜の腕は肘から先がなく、随分と短くなっていた。
黄金の深夜がぶつぶつとなにかを呟く。それと同時に目の前に円が描かれる、そして円から黄金の光が漏れて……
「まずい!」
とっさに右に飛び込むように身を投げると、背後から光を感じた。
転がりながら体勢を立て直し、黄金の深夜に目を向ける。
追撃が来るかと思ったが、やつは俺には一瞥もせずに歩き続けていた。俺になんて興味もないかのように、一心不乱に歩き続ける。いったいどういうことだろうか?
「まぁいい、それならそれで好都合だ」
歩き続ける黄金の深夜に“墓標”をたたきつける。黄金の深夜は少しよろめくと、ようやく俺のほうに顔を向けた。
その顔は、どうしようもなく空虚だった。感情なんて何もなく、表情なんてどこにもなかった。その人のような何かは、一瞬で俺に近づくと、その唯一無事な足で俺を踏みつけようとした。
「うおっと!」
突然の攻撃に驚きながら、バックステップでかわして攻撃後に再び接近する。踏みつけによって衝撃波が飛んでくるが、それを跳んでよけて“墓標”を黄金の深夜に突き付ける。その攻撃を黄金の深夜はよけようとするが、もう遅い。俺の突きによって衝撃波が飛び出し、一瞬先に黄金の深夜に到達する。
あの時は使えるようになった衝撃波だが、あれ以来なかなか使うことができなかった。火事場の馬鹿力かと思っていたが、ゲブラーとの特訓で何とか使えるようになってきた。
とはいえ彼女からしたらまだまだ不完全のシロモノ、完全にものにするまで特訓は続きそうだ。
「くっ」
弱いとはいえ衝撃波による一撃を食らい、黄金の深夜が暴れだした。足技による攻撃を“墓標”の柄で弾き、そらして受け流しつつ隙を伺う。そしてバランスを崩した瞬間を狙い“墓標”で足払いをして心臓の部分に突き立てる。
正直人型だからと言って弱点まで同じとは思えないが、そのほうが的もでかいし構わない。
「ふっ、くっ」
攻撃が足技だけで大ぶりなこともあり、基本的にこちらの優勢だ。正直一撃でも貰うと危ないだろうから、一撃一撃がすべて恐ろしい。
「そいやっ」
“墓標”による振り下ろしをよけられて、黄金の深夜が後ろに大きく飛び退く。
仕切り直しによって少し余裕ができたのか、周囲の変化にようやく気が付くことができた。
「おいおい、なんか嫌な予感がするぞ……」
気が付けば、周囲の草むらがすべて枯れ果て無くなっていた。そしてそのことに黄金の深夜も気が付くと、やつは頭を抱えてもがき始めた。
「くっ、退避!」
すぐにメインルームから脱出しようと扉に向かって走る。背後で黄金の深夜が大声で叫ぶと、そのまま後ろで光が発生すると、何かが後ろから襲い掛かってくる。
「だあぁぁぁ!!」
何とか扉まで間に合って飛び込んで後ろを振り向く。気が付けば俺のすぐ後ろまで先ほどまでの草むらが迫っていた。
「なっ、何とかなったのか……?」
もしこの草むらに追いつかれていたらどうなっていたのだろうか?
何もないなんてことはないだろう、もしかしたら苗床になっていたかもしれない。
黄金の深夜はまだそこにいる。だがおそらくはそろそろどこかに移動するだろう。
『今の攻撃で施設内のエネルギーが減少した、できる限り早急に鎮圧してくれ』
「わかった!」
管理人から注意され、即急に黄金の深夜に迫る。黄金の深夜はこちらに気が付くと再び円を描く。
「もうそれは見た!」
射線上から逃れて接近し、その無防備な体に“墓標”をたたきつける。黄金の深夜はレーザーを射出してからその足を振り上げ、再び俺に攻撃しようとしてくる。俺はその攻撃をよけて斬撃を飛ばしてけん制する。
再び攻防が激しくなるが、それでも俺のほうが優勢で、その決着もすぐについた。
「……とどめだ!」
“墓標”を黄金の深夜の胸に突き立て、ついに決着がついた。黄金の深夜は体の動きを止めると、どんどん体が灰になってボロボロになっていく。
そして彼は何かをつぶやくと、そのまま散っていってしまった。
「……何とかなったな」
一人での深夜の鎮圧、正直無理かと思ったが、何とかなるものだ。
「でも、これが休憩なんだよな?」
『そうだな、ゲブラーが呼んでるぞ?』
「うげぇ」
管理人からの余計な情報で辟易する。肩を落としながら懲戒部門へと向かっていこうとすると、何やら違和感を感じた。
これは、正直まずそうだ。嫌な予感がする、このままここにいてはいけない。
早くここから逃れようとするが、どうやらそれは俺を逃してはくれないらしい。
Emergency! Emergency! Emergency!
Risk Level ALEPH
それは何色にも染まらないもの
長い時間をかけて成長し 尊き愛によって育まれしもの
それは慈愛を知り 慈愛を与えるもの
世界は残酷だ 何も与えてくれない
この世界は優しい人々を虐げる
ならば僕が 優しい君たちに恩返しをしよう
O-01-i02 『新星児』
友よ すまなかった