「今日も来ましたね、セフィラコア抑制」
「あぁ、今日のは気を付けないとやばそうだな」
「それってどういう……」
『俺に良心というものが残っているのだろうか?』
隣に立っているメッケンナが話しかけてきた。彼はどんな時でも油断せず客観的に努めようとする、そのおかげでこの施設でも随分と長いことやっていくことができた。
ケセドのセフィラコア抑制、それはゲームではクリフォト暴走ごとに特定の属性ダメージが5倍になるというとんでもないコア抑制だ。
しかし、それは現実ではどのように受けるダメージが大きくなってしまうのか。その理由が今明らかになってしまった。
何やらさっきから周囲が騒がしい。どうやら先ほど作業を終えたリッチが帰ってきたらしい、しかしその姿はずいぶんとボロボロになっていた。
「おい、どうしたリッチ!」
「すまない、『T-04-i13』*1だからって油断した。今日は何かがおかしい、いつもよりも受ける苦痛が段違いだった……」
「一体なんでこんなことに」
「……待って、この防具変」
『罪を悔いるには、あまりにも長い日々が過ぎてしまった』
ボロボロのリッチのところに駆け寄ってみるとシロが何かに気が付いた。どうやらリッチの装備している防具、“簒奪”に何か違和感を感じるようだ。
「ジョシュアさん、これ……」
「メッケンナ、何かわかったのか?」
「明らかに防具の整備不良があります、しかも素人が手を出すと余計に悪化しそうな感じの場所です」
「なんとか直す方法は?」
「防具のメンテナンスは福祉部門の管轄です、ですが今は……」
「福祉部門のコア抑制中か…… くそっ、そういうことか」
『冷めたコーヒーは捨てないとな、新しいマグカップが必要だな』
防具のメンテナンスは福祉部門の管轄だが、その福祉部門が現在機能停止している。この状況を何とかするには、結局コア抑制を終わらせなければならない。つまり今回も悠長には仕事ができないということだ。
「とりあえずみんなBダメージを避けて作業を行ってくれ、定期的に変わる可能性もあるから違和感を感じたら報告を頼む!」
「はい!」
「ジョ、ジョシュアはどうするの?」
「俺は『O-01-i02』*2の作業に行く」
こんな状況でも定期的に作業を行わなければならない存在がいる、それが『O-01-i02』だ。奴の作業は慎重に行わなければならない。最悪の場合『T-09-i87』*3の使用も考えられる。そうなったらこの中で一番生き残れそうな俺が行くべきだろう。
「……ジョシュア、気を付けてね」
「あぁ、行ってくる」
『仲間は先に旅立ち、俺は一人、この闇の中で夜明けを待っている』
シロの応援を背中に受けて、『O-01-i02』の収容室へと向かう。できればこんな状況であいつと戦うのだけはごめんだ。
だからせめて、俺が食い止めないとな。
「はぁ、できればもうこんなことはごめんだよ」
「そんな軽いノリでいうことじゃないよな……」
作業もだいぶ進み、何とかエネルギーを貯めることに成功した。残るところは最後のクリフォト暴走を起こすところまで来ていた。
こいつの他にも厄介なことはたくさんあった。まさかのミスでWダメージ増加中に『O-05-i18』*4が脱走しただけで、あれほど大混乱が起こるとは思ってもみなかった。
ほかにもRダメージ増加中に『T-04-i09』*5へ作業を行ったきり帰ってこなかった職員がその収容室内で植物になって見つかったり、灰塵の黎明のダメージが思ったよりも痛くてみんなで必死に部屋の中を探したりと、ろくでもない事件ばっかりが起こった。
だがそれももうすぐ終わる、あとはいつも通り作業をこなしていけばいいのだから。
「あぁ、もう終わるさ」
「できれば二度とごめんさ」
アブノーマリティーに好かれたって、なにもうれしくはない。そんなことよりもモフモフしたい。
『ついに…… 俺の世界が壊れるのか?』
「あぁ、できれば二度と会いたくないけどな」
クリフォト暴走の達成とともに、純化が始まる。俺はそれに合わせてこの収容室から退出するのだった……