誰も知らないアブノーマリティー【二周目開始】   作:邨ゅo繧峨〓螟「縺ョ繧「繝ェ繧ケ

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記録部門
Days-41 T-04-i57『混ぜて混ぜて、はい出来上がり』


「さて、今日も作業に行くとするかな……」

 

 ついに中層のコア抑制がすべて終わり、残りは下層のみとなった。

 

 下層が終わればついに、最終段階へと移行する。ゲームとは違い、コア抑制の日程などは関係ないようだ。もしかしたら下層もこの周回ですべてのコア抑制ができるかもしれない。

 

「うん? あれは……」

 

 今日収容されたアブノーマリティーの収容室へと向かっていると、目の前で何やらもめごとが起こっているようだ。いったいどうしたのだろうか?

 

「イゴリ―、てめぇふざけてるんじゃねぇぞ!」

 

「まっ、まってよグディ君……」

 

「てめぇは本当に使えないやつだな! どうしてこんな愚図がいまだに生き残れているんだぁ?」

 

「うぅぅ……」

 

「うっとおしいから俺の目の前に来るなって言ったよなぁ!? なのになんで……」

 

 あれは最近新しく来たイゴリ―とグディか、グディがイゴリ―の胸ぐらをつかんでいるのが見える。今にもE.G.O.を取り出しそうな雰囲気を感じ、止めるために歩みを進める。

 

 普通の喧嘩なら制圧してから話を聞くが、どうやらそうではないようだ。変に力づくで止めると、余計にこじれる可能性がある。

 

 それにグディは素行に問題があると聞くし、とりあえずできる限り穏便に話を聞いておこう。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

「げっ、ジョシュア先輩!」

 

「あっ」

 

 俺に気が付くと、グディはイゴリ―から手を放しこちらに向き直って媚びたような表情を浮かべる。なんというか、路地裏なら生きるために仕方がないのかもしれないが、こういう態度は好きになれないな。

 

 まぁあそこはそんなきれいごとだけじゃ生きていけない場所というのは身をもって知っているんだけどな。

 

「一体どうしたんだ?」

 

「い、いやー、実はイゴリ―のやつが全然仕事ができないんで、ちょっくらお話を……」

 

「お話って感じじゃなかったけどな」

 

「いやぁ、それは……」

 

 グディの目が泳ぐ、どうやらずいぶんと見られたくはない光景だったらしい。

 

「大体こいつは仕事ができないくせしてちょろちょろと鬱陶しいんですよ!」

 

「仕事もできなきゃ態度も悪い、見ているだけでイライラする、人をイラつかせることだけは一人前ですよ!」

 

「だから……」

 

「もういい」

 

 どうやらグディは誤魔化しきれないと判断したのか洗いざらい吐き出していった。いや、そこまで話す必要はないだろう。

 

「グディ、この施設でうまくやっていく方法を教えてやる」

 

「へ、へぇなんでしょう?」

 

「気に入らないやつとは極力関わらないことだ」

 

 どうせこの施設で長く生きられるやつはごく一握りだ、そんな相手とわざわざかかわっていたって時間の無駄だ。

 

 俺だってマオとはあまり関わってはいない。俺は彼のことが嫌いではないが、なぜか彼は俺のことを毛嫌いしている。正直ショックだったが、そんなことを気にしてストレスを感じていたらこの施設ではやっていけない。

 

 どうしても話さなければいけない時以外は会話をしないのが一番なのだ。

 

「しかし、こいつが俺のほうに来て……」

 

「そもそもお前の今日の作業は安全部門だろう? なのになんで中央本部まで来ているんだ?」

 

「うっ、それは……」

 

「そんなにこっちで働きたいんだったらパンドラの下で働かせてやる、うれしいだろ?」

 

「ひぇっ、それだけはご勘弁を!」

 

「わかったら早く今日の作業に戻れ」

 

「は、はい!」

 

 どうやら脅しがきいたらしく、グディはおとなしく安全部門に向かって走っていった。これからはグディとイゴリ―の間の部門にパンドラが来るように管理人に提案しよう。

 

「あ、あの……」

 

「どうした、イゴリ―?」

 

「えっと、助けてくださってありがとうございます」

 

「気にするな、後輩が困っているときに助けるのも俺の仕事だからな」

 

「いえ、でもありがとうございます!」

 

 手をつかまれお礼を言われる。なんというかここまで純粋に感謝されるのも随分と久しぶりだ、案外悪いものでもないな。

 

「それじゃあ俺はもう行くから、また困ったことがあったら俺を頼ってくれよ」

 

「はい、わかりました!」

 

 とりあえず握られた手を外し、ここから立ち去る。今日の作業を早く終わらせたい。

 

 

 

「さてさて、今日は一体どんなアブノーマリティーが来るんだろうか?」

 

 今日収容されたのは『T-04-i57』、久しぶりの人型でないアブノーマリティーだ。できれば変なのでないことを祈る。

 

「さて、それじゃあ行くか」

 

 収容室の扉に手をかけて、いつものようにお祈りをしてから扉を開ける。

 

 収容室の中からは、禍々しい空気が流れ込んできた。

 

「ひっ」

 

 収容室の中に入ってまず最初に目の前に飛び込んできたのは、大きなムカデだった。

 

 そう、ムカデだったのだ。

 

 蛇みたいににょろにょろとした体から、何本もの足が生えている。頭からは気持ち悪いほど長い触角が生えており、鋭い顎をカチカチと鳴らしている。

 

 体からは瘴気が漏れ出しており、こちらに向いた顔からは人間に対する怨念しか感じられない。それ以外には何も感じず、ただ無機質にこちらを見つめてくる。

 

 そして何より気持ち悪いのが、その大きさだ。

 

 頭を上げてこちらを向いているのだが、その時点で俺と同じくらいの高さだ。ふざけるな!

 

「と、とりあえず作業を行わないとな!」

 

 とりあえずえさを与えてみる。こういうのは餌付けするのが一番なんだよ!

 

「ど、どうだお味は……?」

 

 とりあえず反応をうかがうが、なぜか威嚇されてしまった。いったいどうしろと……

 

「と、とりあえず今日はここまでだな!」

 

 キモイキモイキモイ! こんなところにいてられるか、俺は帰るぞ!

 

 とにかく速足で収容室から抜け出し、休憩室へ駆け込む。正直無理だよあれは、出来ればもう二度と作業したくない。

 

 でもまた作業をしないといけないんだろうな…… 憂鬱だ。

 

 

 

 

 

「なに、最近施設内で変死事件が起こっている?」

 

「えぇ、そうなんです。もしかしたらジョシュアさんなら何か知っていると思ったんですが、やっぱりご存じないですか?」

 

 あれから数日たっての話だ。

 

 メッケンナの話では、施設内では変死事件が起こっているらしい。しかも一度や二度ではなく、何度かにわたって。

 

 被害者はほとんどオフィサーで、ついにこの前エージェントであるグディが同じような死に方で発見されたらしい。

 

 その死にざまは凄絶で、みな一様にもがき苦しみながら死んでいったらしい。肉体は腐り落ち、突然苦しみだしたかと思えば死を吐きながら数時間にわたって苦しんで死ぬ。

 

 その死因はアブノーマリティー以外には考えられない。そこで俺に聞いてきたのだろうか?

 

「なるほど、そうなると最近収容された中で怪しいのは、やっぱり『T-04-i57』だろうな」

 

「それ以外に考えられませんもんね」

 

「それなら最近はイゴリ―が作業を行っているはずだ、彼に聞いてみよう」

 

「あれ、ジョシュアさんは?」

 

「……人間、誰にでも得手不得手があるんだよ」

 

「あぁ、はい」

 

 何かを察したのか、メッケンナはそれ以上は何も聞かなかった。

 

 イゴリ―のいる記録部門へと向かいながらしばらく歩いていると、なにやらもめごとが起こっているようだ。

 

 何事かと思ってのぞいてみると、リッチがイゴリ―の胸ぐらをつかんでいる。

 

「おいどうしたリッチ!」

 

「放せジョシュア、こいつを許すわけにはいかない!」

 

「ちょ、リッチさん!」

 

 リッチをイゴリ―から引き剥がすと、彼はリッチのことを冷めた目で見ていた。依然見かけたときはおどおどしていたが、そのことから考えるとずいぶんと信じられない光景だった。

 

「やめてくださいよリッチさん、本当のことでしょう?」

 

「それのどこが!」

 

「やめろリッチ、どうしたんだ?」

 

「それなら僕が言いますよ」

 

 暴れるリッチをなだめていると、イゴリ―が口を開いた。その声は冷たく、以前の面影はない。

 

「ただグディが死んだのは当然だったといっただけですよ、むしろ死んでよかったと」

 

「なっ」

 

 そんな彼から告げられた言葉は、予想外のものだった。

 

「だって彼は自分勝手で上手くいかなかったら人に当たり散らかして、ジョシュアさんとパンドラさんがいなかったら僕は本当に危なかったんです」

 

「ジョシュアさんもあの時に見たでしょう? こいつは死んで当然のやつだったって」

 

「……」

 

 この言い方は、自分が絶対に正しいと思っている言動だ。確かにこの施設では死は隣人のように身近だが、死んでいい人間なんていない。なるほど、リッチが怒る理由もわかる。

 

 これはかなり危うい、早めにどうにかしなければ。

 

「イゴリ―、あまり勘違いしてはいけない」

 

「えっ?」

 

「これはアブノーマリティーによる事故のようなものだ、天罰なんかじゃない」

 

「確かにグディの行いには問題があった、だがそのせいで死んだわけでもないし、あいつが死んでいい理由には……」

 

「……なんだよ、それ」

 

 ふと見れば、イゴリ―はうつむいて震えている。これは怒りを押さえている声だ。しまった、失敗してしまったらしい。

 

「ジョシュアさんなら、わかってくれるって思ったのに……」

 

「おいまてイゴリ―、俺は別にお前を否定しているわけでは……」

 

「もういい!!」

 

 彼は大声で叫ぶとどこかへ走り去っていってしまった。

 

 ……やってしまった。

 

「ジョシュア、あまり気にするな。俺のせいでもある」

 

「リッチ……」

 

 どうやらリッチは少し気が落ち着いてきたらしい。表面上はいつも通りに見える。

 

「ジョシュアさん、これからどうします?」

 

「そうだな、とりあえず時間をおいて落ち着いてからもう一度彼の話を…… なっ!?」

 

 メッケンナと話していると、何か嫌な予感がして反射的に“墓標”を床にさした。

 

 すると、そこには小さく禍々しいムカデが一匹、刺さっていた。

 

 いったいこれはなんだろうか? 明らかに怪しい虫を見ていると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 

「ぎゃあぁぁぁ!!!!」

 

『『T-04-i57』が脱走しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「この声はイゴリ―か!?」

 

「ジョシュアさん、急ぎましょう!」

 

「あぁ!!」

 

 とにかくさけびごえのする方へと走っていくと、そこには巨大なムカデ、『T-04-i57』が這いずり回っていた。

 

 その体の節々からは禍々しい瘴気があふれ出しており、少し吸っただけでのどが痛くなった。

 

 また、何人かすでに被害が出ているらしく、苦しんで倒れている職員たちが何人かいた。

 

「くっ、全員なるべく息をするな! 短期決戦で行くぞ!」

 

「「了解!」」

 

 それぞれのE.G.O.を構えて『T-04-i57』に向かってかかっていく。

 

「ふっ!」

 

「くっ」

 

 『T-04-i57』の攻撃は非常に厄介だった。ただでさえ瘴気で見えにくいのに、それを利用して姿を隠しながらの攻撃を繰り返していった。だがこちらはALEPH装備の三人だ。慣れて攻撃が当たるようになればこちらのものだった。

 

「止めだ!」

 

 『T-04-i57』の頭部に“墓標”を突き刺して鎮圧が完了する。こいつが収容室に戻るまではまだしばらくかかるだろう。

 

「ジョシュア、こっちにこい」

 

「どうした…… あぁ」

 

 リッチに呼ばれて『T-04-i57』の収容室の中をのぞくと、そこには変わり果てた姿のイゴリ―がいた。

 

 その表情は裏切られたような、自分がこんなことになるとは夢にも思っていなかったかのような、そんな表情をしていた。

 

「……イゴリ―」

 

「せめて、ここから出してやる」

 

 俺は収容室の中からイゴリ―を運び出すと、その見開いた眼を閉ざした。せめて死んでから位は、こんな世界を見てほしくはなかった。

 

 

 

 

 

 それでは簡単な呪殺方法をお教えしましょう

 

 まずは毒虫をいっぱいいっぱいかき集めて

 

 それを瓶の中にドーン

 

 そしたらひたすら人間を憎むように嘲笑ってあげましょう

 

 そして楽しい楽しい殺し合いを堪能しつつ

 

 この世の憎悪を精一杯おなか一杯

 

 

 

 

 

 混ぜて混ぜて、はい出来上がり

 

 

 

 

 

T-04-i57 『蠱毒の災禍』

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