【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-42 T-02-i03『これはいい船だ』

 今日収容されたアブノーマリティーは『T-02-i03』、動物型のアブノーマリティーだ。

 

 前回は苦手な虫型のアブノーマリティーだったので、できればまだ見た目がましな奴であってほしいと願う。虫でなければ黒くても何でも良いから……

 

「さて、もう着いたのか」

 

 気が付けばもう『T-02-i03』の収容室の前までついていた。どうやら随分と考え込んでいたらしい、それほど虫が嫌ということでもある。

 

「できれば変なのが来ませんように」

 

 いつものように祈りながら扉に手をかけ、開く。なんというか、今日の俺は随分と不運だったらしい。

 

「ひっ」

 

 収容室の中にいたのは、5㎝くらいのアリたちだった。収容室の床を列を組みながら歩き、中央の蟻塚に出たり入ったりしている。

 

「なっ、なんでこんなことに……」

 

 よく見ると、このアリたちはなぜか二足歩行していた。彼らはこちらに気が付くと進路を変えて、どんどん近づいてきた。

 

「……そういう感じか」

 

 俺はその行動に冷静になり、“墓標”を構えて彼らに向けた。

 

 今までの俺だったらこの数相手には不利だったが、今の俺なら対抗手段はある。

 

 アリたちも“墓標”から発せられる死の気配におびえたのか、一定の距離からは近寄ってこようとしない。どうやらこれがどういうものかは理解できているようだ。

 

「さて、今のうちに作業をしておきたいな」

 

 取り合えず餌を取り出して蟻塚のほうに投げてみた。

 

 アリたちは最初は餌に驚いて逃げていったが、一匹が恐る恐る近づいて確認し食べてみると、他のアリたちも安全だとわかったのかお行儀よく並んで餌を運び出していった。

 

「なんというか、意外と愛嬌があるな」

 

 できれば見た目がアリでなければもう少しのほほんと見れたが、正直きつい。できれば目をそらしたいが、そうすれば何が起こるかわからないので最大限警戒する。

 

 たまに一匹のアリが俺のほうに近づいて来ようとするが、“墓標”を向けて警告する。すると彼らも素直に引き下がって遠巻きに眺めてくる。

 

 意外と好奇心旺盛なのだろう。

 

「さて、そろそろ作業終了の時間かな」

 

 ある程度観察も終わってエサやりも終了したので、そろそろ収容室から出ようとする。

 

 すると、何かが俺の方に落っこちてきた。

 

「くっ」

 

 俺の方に落っこちてきたのは『T-02-i03』のうちの一匹だった。俺は首だけは守ろうと手で払おうとしたが、肩に乗っているアリはそれを器用にジャンプして避ける。

 

 こいつばかりに気を取られるわけにもいかないので周囲も警戒するが、彼らは別に近寄る気配もなく遠巻きに俺と肩に乗っているアリとの戦いを見ていた。

 

 ……いや、こいつ楽しんでないか?

 

『ジョシュア、そろそろ戯れるのもほどほどにしてくれ』

 

「いやいや、どう見たら遊んでいるように見える? こっちは生きるか死ぬかなんだぞ」

 

『だがすぐにでもこちらを害そうとする気配もない、いったん手を止めてみろ』

 

「……わかった」

 

 管理人から連絡があったので、言われたとおりに手を止めてみる。するとアリもジャンプを止めてこちらに顔を向け、首を傾げた。それはまるで、もう終わりなのと聞いているようだった。

 

「……確かに何もしては来ないな」

 

『そうだろう、逆に傷つければほかの彼らに何かされていたかもしれないな』

 

「それはいやだな、でもこいつ下りようとしないぞ?」

 

『……仕方がない、そのまま収容室から退出してみろ』

 

「いや、正気か?」

 

『それともこのままここで遊んでおくか? ほかのやつらも遊んでほしそうにしているみたいだぞ?』

 

「……仕方がないか」

 

 さすがにこんな大勢のアリたちに囲まれるのは避けたい。ほかに方法がないのであれば、それをとるしかないだろう。

 

「それじゃあ退出する、骨くらいは拾ってくれよ」

 

『もちろんだ』

 

 『T-02-i03』とともに収容室から退出しようとすると、他の『T-02-i03』たちは旅立つ我が子を見送るように手を振っていた。

 

 それに対して肩のアリもまた、手を振っている。……まさか、そのまま外に居ついたりしないよな?

 

「とりあえずこいつから目を離さないようにだけしておくけど、この後はどうすればいいんだ?」

 

『しばらく観察して大丈夫そうなら、収容室にでも返してやってくれ』

 

「了解した」

 

 とりあえず休憩室に向かってみる。

 

 すると、アブノーマリティーだというのに『T-02-i03』はなぜかみんなに人気だった。

 

 ……解せぬ。

 

 

 

「さて、それじゃあそろそろ収容室に戻るか」

 

 しばらくたっても牙をむく様子もないので、とりあえず収容室に向かって歩き始めた。

 

 何やら『T-02-i03』は帰りたくないと駄々をこねているようにも見えるが、気のせいだと思うので無視して収容室に戻った。

 

 すると意外にも駄々をこねていたアリは素直に肩から飛び降りて仲間たちのほうに向かって歩いて行った。

 

 肩を落としてとぼとぼ歩いていくのはなかなかに哀愁漂う、そしてほかのやつらはそんなアリを肩をたたいて励ましているように見えた。

 

 そんな非難するような目で見るな、俺はお前たちを肩に乗せてこれ以上いたくなかったんだ。

 

「さて、それじゃあそろそろおさらばするかな」

 

 なんというかいたたまれなくなってきたので収容室から退出する。今回は何事もなかったが、何か落とし穴がありそうで怖い。

 

 できればあまり関わりたくないと思いながら、俺は収容室から退出した。

 

 その後、なぜか職員の間で『T-02-i03』を肩に乗せている光景が多くみられるようになった。

 

 

 

「ザビエル、ちゃんとその肩のアリ返しておけよ」

 

「ジョシュアさん、わかってますよ。さすがに部屋にまで持って帰ったりしませんて」

 

 もうすぐ仕事も終わり、純化が始まろうとしているのにザビエルはまだ『T-02-i03』を収容室に返していなかった。

 

 さすがに収容室から出したままではまずいのでザビエルに忠告しておく、まぁこの感じだったら大丈夫そうだったが。

 

 ザビエルはその後すぐに『T-02-i03』の収容室に向かっていった。

 

 その後すぐに純化が始まったので、俺たちはすぐに施設を後にしたのだった。

 

 だが、俺が元気な彼を見ることができたのは、これが最後だった。

 

 

 

「おいザビエル、調子はどうだ?」

 

「……」

 

「おい、どうした?」

 

「……」

 

「ザビエル……」

 

 次の日にあった彼は、もうその瞳に何も映していなかった。うつろな目のままふらふらと歩き、収容室に向かおうとしている。

 

「……すまん、ザビエル」

 

 俺は“墓標”をザビエルに振り下ろした。

 

 その耳からは、黒い触角が顔を出していた……

 

 

 

 

 

 さぁそれでは今日も探検に出よう!

 

 食料も持ったし準備も万端だ

 

 それにしても彼らは随分と気前がいい

 

 こうしてわれらを外の世界に連れて行ってくれるのだから

 

 やはり外の世界はいい

 

 こうして知らないことを知ることができるのだから

 

 それにしても、もう少し快適性が欲しいな

 

 こんなに大きいのだから、少しくらい手を加えても大丈夫だろう

 

 さすがに借りっぱなしでは悪いので、少しお礼を上げよう

 

 この蜜は彼らの大好物だからな

 

 これを入れてやれば、痛みもないし気持ちがいいらしい

 

 いやぁ、それにしても……

 

 

 

 

 

 これはいい船だ

 

 

 

 

 

T-02-i03 『秘密基地の冒険隊』

 

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