「ジョシュアさん、今日はどうしたんですか?」
「いやな、ちょっとせっかくの癒しがな……」
「あなたまだそれのこと言ってるんですか?」
メッケンナがあきれたように言うが、それも仕方がないだろう。やっと手の届いた癒しがまた制限されそうになっているんだから。
「あれ、お二人方どうしたんですか?」
「おうマキか、いや少しな……」
そこに、最近入ってきた新人のマキがやってきた。
彼女は結構活発で、さばさばしている。少し苦手なところはあるが、話していて楽しいところはある。
「話したくないならいいですけど、それよりも何か面白い話とかないですか?」
「相変わらずマキさんはさっぱりしてるね、それより向こうの子たちはいいの?」
「あぁ、アセラの話って意味わからなくて楽しくないんだよね」
向こうでこちらを見ていたほかの新人たちが、その発言にぎょっとしていた。その言われた本人であるアセラは何も気にしてないように見えるが、よく見ると手に持っているコップが細かく震えていた。
結構気にしていたんだな。
「それならジョシュアさんのほうが知ってますよ」
「おいおい無茶ぶりはやめろよ、こんなところにいて面白い話なんてあるかよ」
「いやいや、いっぱいあるでしょう? パンドラさんの話」
「あれは決して笑い話じゃない」
即答する俺を見て、マキは愛想笑いを浮かべている。意外とそんな表情もするんだな。
「あっ、そういえばメッケンナ先輩ってミラベル先輩と付き合っているんですか?」
「なっ、そんなわけないでしょう!?」
「いやいや、結構新人の間でも話題になってますよ。もしかして隠してましたか?」
笑い話からいきなりメッケンナに飛び火した。それは俺たちがわざわざ触れないようにしてあげていた話だぞ、そんな軽々しく……
「だ、だれがあんな軽い人と…… そもそも僕は恋愛なんて……」
「でも、正直バレバレですよ? ジョシュア先輩も知ってましたよね?」
「えっ、そうなんですか!?」
「……すまん」
「そんなぁ……」
どうやらずっと隠し通せていたと思っていたらしい、メッケンナは灰になって崩れ去ってしまった。
「そういえば、ジョシュア先輩のほうはどうなんですか?」
「えっ、何のことだよ?」
「いやいや、嘘ついてもわかりますよ。シロ先輩のことです」
おいおい、まさかこいつは俺とシロが付き合っていると思っているのか? 俺たちはまだそんな関係ではないぞ。
「まったく、意外とミーハーだな。だけど俺たちはそんな関係じゃないぞ」
「えっ、でもすごい距離近いですよね。あれで恋人じゃないんですか?」
「なんだよそれ。そもそもこんないつ死んでもおかしくない施設で恋人が作れるわけないだろうが」
「何言っているんですか」
俺の話を聞いて、マキの眉間にしわが寄った。どうやら俺の話が気に食わなかったらしい。
「いつ死ぬかわからないからこそ、後悔がないようにするんじゃないですか」
「そうですよジョシュアさん、いつまでシロさんのことを待たせてるんですか?」
「おいメッケンナ」
いつの間にか復活していたメッケンナが俺を貶めるために参戦してきた。てめえ俺のほうに矛先を向けて自分は逃げる気だな。
「でも本当ですよ、このまま何もせずお別れになったら、それこそ悲しいじゃないですか」
「だがもしもどっちかが死にでもしたら……」
「そういう時は、無くなるものより残せるものを考えたほうがいいですよ。何もないよりもそっちのほうがいいです」
……確かにそうだな、どうやら俺は憶病になっていたらしい。
確かにこのまま終わるなんて嫌だ、日数ももうないし、どこかで彼女を失ったら耐えきれないだろう。
それならマキの言うとおりに何かを残したほうがいいのだろう、まさか後輩にそんなことを教えられるとはな。
「確かにそうだな、俺も頑張ってみるよ」
「おっ、さすがですね!」
「ジョシュアさん、男前!」
「お前らなぁ……」
なんというか、ちゃんと宣言したのに反応が軽い。というか食堂で話しているからほかにも聞かれている可能性があることに今気が付いた。こんなことパンドラにでも知られたら大変だ。
ちなみに後で聞いた話だが、聞いてたやつらはパンドラには伝えないことで満場一致していたらしい。
パンドラェ……
「それじゃあ皆さんの恋バナ教えて下さいよ!」
「えっ、嫌ですよ」
「ダメに決まってるだろ」
「そんなぁ……」
俺たちの冷たい反応に大げさに反応するマキ、なんというか面白い奴だな。
「それじゃあ仕事のためになる話とかしてくださいよ、ジョシュア先輩なら色々と知っているでしょう?」
「まぁそれならいいけど……」
先ほどまで落ち込んでたかと思うと、急に話題が切り替わった。ずいぶんと切り替えが早い、いい性格をしているな。
とりあえず仕事上の危険行為や見落としがちなこと、職員の変化の見分け方などをなるべく簡単に教えた。できるだけ聞いてるほうもつまらなくないように質問したり問題出したりし、なるべく面白いことを言おうとした。滑ったが。
「ジョシュア、何してるの?」
「おうシロか、今ちょっとマキに仕事の話をしてたんだ」
そんな話をしていると、シロが話に割り込んできた。
「シロ先輩も聞きますか? ジョシュア先輩の話面白いですよ、ギャグはあれだけど」
「そんな本当のこと言ったらジョシュアさんが可哀想ですよ」
「……メッケンナ、それ擁護してないだろ」
俺の指摘に対してメッケンナはきょとんとした表情でとぼけてきた。本当にこいつはいい性格になったな。
「…………したいけど、今から仕事」
「あぁ、それなら俺もだ。一緒に行くか」
「うん!」
まぁ有言実行というわけでもないが、せっかくなので途中まで一緒に行くことにした。
メッケンナとマキが小声ではやし立ててきたので、立ち上がる際に足を踏んでやった。メッケンナだけ。
「ジョシュアジョシュア、この前ね……」
道中シロと一緒におしゃべりをしながら歩いて行った。初めのほうは俺が一方的に話していたが、最近はシロも色々と話をするようになってきた。食べ物の話が多いが、それ以外にも何か楽しめるものが見つかるといいな。
「それじゃあ、またねジョシュア」
「あぁ、またな」
途中でシロが作業する予定の収容室についたので、そこで別れて俺も次の作業の収容室に向かっていった。
今日収容されたツールは『O-07-i99』だ、あまり見かけない番号だが、いったいどういうものなのだろうか?
「さて、もう着いたな」
気が付けばすでに収容室の前、俺は
収容室の中に入っていった。
「さて、今日のツールはなんだろうな?」
収容室の中央には、見たこともない文字の書かれた羊皮紙が置かれていた。それは見たことなんてないはずなのに、なぜか嫌な予感がしてしまう。
「いったい何なんだよこれは……?」
その羊皮紙に近付いて見る。
確かにその文字を俺は知らない。しかし、読めてしまうのだ。
『不要なものの処分に困る、そんな経験はありませんか?』
『わざわざ捨てるのが面倒なもの、処分のしかたが大変なもの、処分するところを見られたらまずいもの』
『どうやって処分したらいいのかわからない、そんな日々とはもうおさらばです!』
『この契約書にサインしていただければ、私が責任をもって処分いたしましょう!』
『大きいもの小さいもの、重いもの軽いもの、鋭利なもの丸いもの、神聖なもの穢れたもの、死んでるもの生きてるもの、はては呪いから祝福まで』
『それらすべてが、あなたの前からきれいサッパリ消え失せるでしょう』
『使い方は簡単』
『まずこの契約書にお名前をサインしていただき、不要なものを思い浮かべながら不要なものリストにその名前を書くだけ!』
『それだけでどんな面倒事からもおさらばです!』
『この契約書を使えば、あなたの世界が変わるでしょう』
「……なんだこれは?」
文章を読んでみて、そのうさんくささに思わず声が出てしまう。
契約書と言いながらかしこまった言葉遣いは全くなく、どちらかと言えばテレビショッピングの方が近いくらいだ。
それにメリットだけ書いてデメリットについて何も書いていない。文章だけなので、問い合わせることもできない。絶対に隠していることがあるはずだ。
「とはいえ、使わなければいけないんだよなぁ」
そう、この施設に収容された以上、このツールを使ってそれがどう言うものか調べなければならない。
そこで改めて契約書を見る。
取り敢えず契約書に名前を書こうとおもったが、既に誰かの名前が書かれていた。
仕方がないので不要なものリストの方に目を向ける。
不要なものリストは空欄だった。シミ一つない綺麗な状態であったが、なにかを書いたようなあとはある。いったいどうしたのだろうか?
「取り敢えず使うか」
対象は、出来ればさほど影響のないものにしたい。なくなっても困らないし、あっても別になんともないもの。ものによって代償が変化する可能性もあるので、下手なことはできない。
「取り敢えずペンを…… あっ」
そこで、俺の持っているボールペンが、もうすぐインクが切れそうなことを思い出した。
そこで、どうせ後でもらえばいいと考えて不要なものリストに手に持っているボールペンを思い浮かべながら『インクが切れかけのボールペン』と書いた。
「うおっ、なるほど……」
すると、不要なものリストにかかれた文字と一緒に、手に持っていたはずのボールペンも消えてしまった。
「一応異変がないか聞いてみるか」
そのあと管理人に訪ねてみたが、特に異変は感じられなかったらしい。
なにか胸にモヤモヤしたものを感じながら収容室から退出すると、廊下でなにかを蹴飛ばしてしまった。
「しまった、灰塵の黎明か!? ……って、なんだこれ?」
それは奇妙な置物だった。何かの儀式用のものかと思ったが、それにしてはチープ過ぎる。
なんと言うか、海外旅行に行ってお土産にかったはいいけど、結局置き場に困る変な置物みたいだ。
「全く、誰かの落とし物か?」
取り敢えずポケットにいれて次の作業に移る。結局他の職員に聞いたが誰も知らず、俺の部屋におくことになった。
「なぁ、フンの奴を見かけなかったか?」
「いや、見てないぞ」
最近たまにだが職員が消えることがある。『T-06-i30』*1のせいかとおもったが、奴では説明がつかないやつまで消えている。
『O-07-i99』も最近触れていないし、いったいどう言うことだろうか?
あれは便利なものだったが、それだけで使うべきではなかった
大きな力には代償がいる、そんなことはわかりきっていたのに
故に我らはいずれ、我が身をもって
その契約の意味を知るだろう
Emergency! Emergency! Emergency!
Risk Level ALEPH
O-07-i99 『異界送りの契約書』
二週目の展開はどれがいいですか?(詳しくは活動報告をお読みください)
-
これまでのような感じで幻想体変えて二週目
-
まだ出ていない幻想体の紹介だけ
-
アンケートで次回の幻想体を決める