ついに最後の週がやってきた。
ここからは一日一日が非常に危険になってくる、しかしその先に物語の終焉が待っている。
「さて、それじゃあそろそろ作業に行くか」
「えぇ~、もう行っちゃうんですかぁ~」
「だまれ、自分の翼でモフッてろ」
「そんなぁ~」
いつまでも俺の翼を撫でているサラを無理やり引き剥がし、今日新しく収容されたアブノーマリティーのところへ行く。
今日追加されたアブノーマリティーは2体だ。『O-04-i17』と『O-05-i47』だ。どちらもオリジナルだな。
最近いろいろなことがあったせいか、ずいぶん懐かしく感じる。今まで厄介なやつばかりが来ていたんだ、最後のほうはまだましなやつが残っていると思いたい。
「さて、ようやくついたな」
誰もいない設計部門の長い廊下を抜けて、ついに『O-04-i17』の収容室の目の前に到着する。
この部門特有の異様な雰囲気に飲まれそうになりながらも、何とか意識を切り替える。
そして収容室の扉に手をかけ、お祈りをする。何となくいつもより長めにお祈りをしてから、扉を開く。
収容室からは、不快なにおいと音が漏れてきた。
「うわっ、何だこいつ」
収容室の中には巨大な肉塊が存在していた。
それはいくつにも引き裂かれた肉を無理やり固めて球状にしており、筋繊維のようなものを周囲に張り巡らせ繭のように宙づりにされている。
肉塊は脈動し、時折蠢いては不快な咀嚼音を響かせる。その肉塊から発せられる不快なにおいは、おそらくは排泄物と肉の腐敗臭だろう。
しかし、口や排泄口に当たる器官はどこにも見当たらず、ただただ蠢いているのみであった。
「なんというか不気味だな、さっさと作業を終わらせてしまおう」
とは言ったものの、いったいどんな作業が適しているのかあまり予想が付かない。
なんとなく本能作業がいい気もするが、口もなければ出すところもない。それなら洞察作業はというと何とも言えないし、愛着作業なんてもってのほかだろう。
「となると、抑圧作業か……」
そうと決まるや否や、目の前の肉塊の欲求を抑圧する。
時折聞こえる咀嚼音がすれば叩いて抑圧し、稀に周囲の筋線維から逃れようとすれば殴って黙らせる。
どこまでやっていいかを見極めながら作業を続け、ようやく作業終了の時間となった。
「はぁ、ようやく終わりか」
作業終了と同時に、目の前の肉塊は再び咀嚼音を響かせる。どこにも存在しない口、それに音が聞こえるほうからしてあれはおそらく……
「いや、やめよう」
なんだか考えていたら気分が悪くなってきた。
今日は肉は食えないな。魚を食おう。
「あっ、ジョシュア先輩、今終わりですか?」
「あぁ、作業は終わったけど、どうやら新しい仕事ができたみたいだな」
「えっ、ちょっと待ってくださいよ。私まだ何もしてないですよ!」
収容室から退出すると、そこでばったりパンドラと出くわした。今日彼女はこっちに用はないはずなので、何かやらかして隠れに来たのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
「それで、いったいなんでここに来たんだ?」
「いやぁ、こんなところ初めて見るんでちょっと気になって……」
「って、そうじゃなくって、ジョシュア先輩に用事があったんですよ」
「俺に?」
パンドラから用事だなんて珍しい、もしかしたら以前『O-02-i24』*1をつまみ食いしたことがばれたのだろうか?
「はい、実は余ったお肉をミンチにしてハンバーグを作ってみたんですよ。よかったらどうですか?」
彼女が差し出してきたのは、よりにもよって今一番食べたくなかったものであった。肉で、あの音を連想させるミンチはどうにも気分が乗らない。
以前彼女が作ったステーキも結局食べなかったし、申し訳ない気分もあるが断ろう。
「すまない、実は健康のため野菜中心の食事にしているんだ。よかったらまた今度にしてくれ」
「そうですか、それなら仕方がないですね。ちょっともったいないけど」
それにしても、こいつは意外と料理をするな。今まで食べたことはないが、見た目だけならうまそうなんだよな。
「おいおい、もしかして捨てるのか? それなら自分で喰うなりほかのやつにあげるなりすればいいじゃないか」
「いやぁ、私は味見でさんざん食べましたし、ほかの人たちは私が作ったって時点で近づこうともしないので……」
「まぁ、普段の行動を考えれば当たり前だな」
こいつが毎回やらかしているのは周知の事実だ。新人であっても初出勤から一時間でこいつがやばい奴だって理解できる。
「ジョシュア先輩はこのあと食事ですか?」
「いや、少し休憩してから次のアブノーマリティーのところに向かうつもりだ」
「そうですか、それじゃあお邪魔みたいなので私は失礼します」
「おう、誰にも迷惑かけるなよ」
「……」
「おい、返事をしろよ!」
そんなパンドラを捕まえようとしたが、一瞬で逃げられてしまった。まったく、逃げ足だけは早い奴だ。
「まったく、しょうがない奴だ」
とりあえず何か起こったらリッチあたりが何とかしてくれるだろう。しかしあいつはなんだかんだでパンドラに甘いからな、メッケンナのほうが頼りになるかもしれない。
「……」
なんとなく、先ほどまでいた収容室のほうを見る。
なぜかはわからないが、いまだにあの咀嚼音が、耳に残っていた。
O-04-i17 『蠢く繭』