「おいジョシュア、本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって、俺がそんなに柔に見えるか?」
「いや、全然」
試練への挑戦後に怪我を負ったので、リッチに助けてもらいながら『T-09-i97』*1で傷を癒やし、今廊下を歩いている。
リッチは俺のことが心配のようだが、幸い傷もそこまで深くなかったので、現状違和感も無い。
それでも念のため、少し休憩をしてから作業に戻ることにする。さすがに最近作業を行うアブノーマリティーも危険な奴が増えてきたため、用心に越したことは無いだろう。
「さて、少し聞きたいんだが……」
「うん、どうした?」
「いや、お前がこんなにやられるなんて、一体どんな相手だったんだ?」
「あぁ、自爆してきたからシロをかばったんだよ」
「なるほど、男だな……」
リッチに謎の関心をされるが、気にしないでおく。これくらいで反応していたら疲れてしまう。
「そういえばシロとは最近どうなっているんだ?」
「いや、別にお前が気にすることじゃないだろう?」
「そうはいっても気になるだろう、いい加減見ていてくっついて欲しいんだ」
「……努力はする」
自分でもちょっとは頑張ったんだ、許してくれよ! しかしそんな心の中の声はもちろん届かず、リッチの追究は続く。
「そもそも押し倒してしまえば良いんだ、シロの様子を見ていたらわかるだろう?」
「いやいや、そんなひどいこと……」
「だが、それくらいの意気込みで行かないと何もしないだろう?」
「うぐっ」
痛いところを突いてくる。そもそももう時間も無いのだからなんとかしなければならないのはわかっている。だがそう思ってもそこからが難しい。
「だったら……」
『設計部門にて、『O-04-i17』が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』
「よし、早速鎮圧に行こう!」
「……はぁ」
なんかリッチに呆れられたような気がしたが、そんな事は無いと思って聞き流す。
今回脱走したのは『O-04-i17』のようだ。あの謎の肉塊がどうやって脱走したのかは正直気になる。
「さっさと行くぞ!」
「了解」
急いで設計部門に向かって走り出す。こんな奴はさっさと鎮圧してしまおう。
『ジョシュア、リッチ、今『O-04-i17』は記録部門に移動しオフィサーたちを襲っている。どうやら人を襲う習性があるようだ』
「了解した、どのみち通り道で良かった」
どうやら『O-04-i17』は人がいるほうへ移動しているようだ。あの見た目からして人を襲って食べるのだろう。そうなると、隠れていた口も出てくるのだろうか?
「うわっ、なんなんだあれは……」
記録部門に向かうと、そこでは悍ましい光景が広がっていた。
飛び散る血と肉、悲鳴と銃声、そして騒ぎの中心の肉塊。
それは食事中だった。いや、食事をしようとしていた。
息絶えつぶれた人だったものに、入り口のない口を押し当て咀嚼する。だがいくら押し付けてもそれを口にすることはできない。
咀嚼するたびに己の内側を削り、くぐもった咆哮を放つ。そしてまた忘れたかのように人の肉に食らいつこうとしてただ体を押し付ける。
それはどれほど欲にまみれても、決して満たされることのない地獄のような所業。しかし巻き込まれるものにとっては冗談じゃない。
「リッチ、さっさと片付けるぞ」
「わかった」
お互いにE.G.O.を構えて走り出す。『O-04-i17』はこちらに気づく様子もなく食事をしようと夢中になっている。
その隙をついてまず“墓標”を突き立てる。すると『O-04-i17』はのたうち回ってくぐもった悲鳴を上げる。
そこをリッチが“超新星”で切り刻み、逃れようとするところを“墓標”で突き刺し抉る。
さすがに反撃に出てくるが、動きが遅く大雑把な攻撃が当たるはずもなく、避けるついでに“墓標”で切り刻む。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
最後にリッチが“超新星”で切り刻むと、『O-04-i17』は動かなくなる。鎮圧完了、以前なら苦労しただろうが、いまの俺たちだったらこれくらいは簡単に鎮圧できる。
「さて、それじゃあ作業に戻るか」
「そうだな、さっきの話は仕事が終わってからでもできるしな」
「やめてくれよ、この後はシロと……」
「なに、詳しく!」
余計なことをいってしまったが、聞かれてしまっては仕方がない。
俺はこの後、リッチに根堀り葉掘り聞かれることとなった……
「さて、この感覚も久しぶりだな」
『O-04-i17』の収容室に入ると、また不思議な感覚に包まれる。
この感覚に包まれると、いつも知らない光景が目に映る。
目の前の肉塊はこちらを見つめているような気がする。それはなにかを望んでいるかのように……
おなかがすいた
欲深き私は、常に空腹を訴える
食事は生きる原動力で、生きるための幸福である
食事を望むことのどこが罪なのか
どうか私に食事を恵んでほしい
この憐れな肉塊に、どうかお恵みを
俺はこの肉塊に、食事を……
恵まなかった
そうだ、それでいい
もはや私に食事をする権利はない
ならば私は、その罰を甘んじて受けよう
すると肉塊から光が溢れ、気がつくと俺の首から肉の塊がぶら下がっていた。
趣味は悪いが、力は感じる。
そんなことを感じつつ、俺は収容室から退出するのであった……
かつて、欲深き男がいた
彼は欲望のままに際限無く貪り尽くした
彼の通った後には腐敗と荒野の道が続く
決して満たすことのできない体になろうと、彼の欲望が消えることはない
今も彼の体のそばでは……
咀嚼音だけが聞こえてきた
O-04-i17 『肉の実』