肉、骨、魂。
それらが混ざり合い、元に戻り、本来の姿に戻らんとする。
黒くなった塊は粗末な墓の下へと染み込み、邪悪な何かを形作る。
不気味な音、異常な振動、邪悪な気配。
それらは止まらず、変わらず、壊れゆく。
ふと、静寂が訪れる。
すると床から腕が伸びる。それは人の腕の形であり、明らかに人を超越した大きさであった。
一度ことが起これば、あとは済し崩しだ。
頭が、体が、足が露出し、全貌が現れる。
それは、巨大な人間。いや、魔人だ。
部屋を覆うほどの巨躯にボロボロの着物、巨大な数珠を首と右手首にかけ、四肢を床につけ獣のように起き上がる。
肌は皮を剥いだかのように赤黒く、目隠しをしており本来目のある部分からは青白い炎を噴き出している。
真っ黒な歯をむき出しに笑い、こちら顔を向ける。それは目隠しをしているにも関わらず、こちらを目視しているようであった。
『よう、久しぶりだな』
それは語る。身の毛もよだつ恐ろしき声で、こちらを嘗め回すように……
『なんだ、久しぶりの再会に声も出ないほどうれしいか?』
その言葉に誰も答えられなかった、だれも動けなかった。
この怪物は、今まで出会ったどのアブノーマリティーとも違った。
今まで出会ったアブノーマリティーは、どれも理解できなかった。
人を食らう、人を助ける、人に伝える。
手段は違えど、善悪の差はあれど、なぜそうするのか、理解とは程遠い存在であった。
だが、目の前の怪物は違う。
それは人間の悪意だ。理解できる形の悪意だ。
今までの怪物とは違い、理解できてしまったのだ。
人の欲望が、悪意が、我々に理解できる形で、我々に理解できない大きさで目の前に現れた。
それは今まで出会った怪物たちとのどれとも違う。
無垢な赤子は、理解を超えた新たな世界への希望を与え人々を敬服させた。
四季を束ねる姫は、理解しきれないほどの尊大さがあった。
だが、下手に理解できるものは、理解できないものより恐ろしい。
今まで数々のアブノーマリティーと対峙し、数々のALEPHクラスのアブノーマリティーを鎮圧した歴戦の俺たちの誰もが動けなかった。
悍ましき悪意を向けてくる目の前のアブノーマリティーに対して、だれも……
「……黙れ、怪物が」
いや、やつと会ったことのある俺以外は。
『そういうな、俺たちの仲だろう?』
「お前と話すことなんてない」
『そうか、周りが邪魔なのかな?』
「なっ!?」
「皆さん、危ない!!」
反応できたのは、俺とサラだけであった。その理由はわからないが、二人動けるなら上等だ。
俺がシロとメッケンナを、サラがアセラとマキを捕まえてその場から離れる。
すると、さっきまで俺たちがいた場所から、骨の槍が生えてきた。
『なんだ、動けるじゃないか』
「くっ、ふざけんな!」
よけた俺を追って、怪物が追撃を行ってくる。
俺は抱えた二人を左右に投げて、拳を“墓標”でそらしながら体勢を整える。
「ぐっ」
何とか着地し怪物に接近する。それに対して怪物は再び拳を振り上げる。
「ジョシュア、ごめん!」
「ジョシュアさん、援護します!」
そこで、ようやくシロとメッケンナが動き出した。サラはどうやら二人を逃がしに行ったようだ。
「行くぞ!」
拳が当たる直前に上に跳んで、怪物の腕に乗る。そのまま駆け上がって顔を狙いに行く。
『いいぞ、いいぞ』
「黙ってろ!」
するといきなり腕から骨が生えて襲い掛かってくる。俺はその攻撃をよけながら腕を“墓標”で切りつけるが手ごたえがない。
「ジョシュア!」
さらに骨が生えて襲い掛からんとしたその時に、シロが足元で“儺追風”をふるって体勢を崩す。そのおかげで追撃を逃れたのでもう一度切りつけながら降りるがやはり攻撃が効かない。攻撃をすべて無効化するわけではないらしい。
『楽しいなぁ』
「勝手に楽しんでろ!」
着地を狙って怪物から触手が放たれる。その攻撃をよけ、よけれない触手を“墓標”で切り払う。
そして再び接近して攻撃を仕掛けようとするが、触手が行動を阻む。
「ジョシュアさん、ここは任せてください!」
そこでメッケンナが加わって触手を切り払う。
「どらあぁぁぁ!!」
触手をメッケンナに任せて怪物に接近する。触手をすべて切り払ったシロと一緒に足元に攻撃を加える。
今度は攻撃が当たり、怪物の足を切り刻むことに成功した。
『いいぞぉ、もっと楽しもうじゃないか』
「楽しめるわけがないだろうが!」
骨が床から突き出てくる、その瞬間“墓標”による攻撃が効かなくなったのですぐにその場から離れて骨をよける。なんというか厄介な攻撃だ。
『効かぬか、ならば焼こう』
「くそっ、よけろ!」
怪物が息を吹くと同時に青白い炎が吹き荒れる。
よけきれず炎に焼かれ激痛が走るが、肉体に変化はない。精神汚染系か。
『朽ちろ』
「っ!?」
そこへ再び拳が振り下ろされる。しまった、よけられ……
「ジョシュア先輩!!」
そして、迫りくる拳に死の斬撃が突き刺さる。
少し軌道がずれた拳に向かって、“超新星”の斬撃が叩き込まれる。
そして炎が晴れると、二人の人物の姿が見える。
「すまん、遅くなった」
「私が来たからにはもう大丈夫ですね!」
リッチとパンドラ、彼らは得意げにそういって武器を構える。
相手は強大、だが仲間は強力。
さぁ、仕切り直しと行こうじゃないか!