「さて、今日も頑張るか!」
怪物との戦いから一夜明け、今日もまた業務に励む。
背中に後光を背負っているので阿弥陀様みたいになっているが、意外と邪魔にならない。なぜか触れないので、実質見た目だけの問題だ。
今日収容されたアブノーマリティーは、『T-02-i35』と『T-09-i82』だ。
設計部門にツール型? とも思ったが、ゲームと違う部分なんて今さらなんで特に気にしないことにした。
「さて、着いたな」
設計部門の廊下は長いが、まだここくらいならメインルームからさほど遠くはない。しかしこれからどんどん長くなると思うと憂鬱になる。
「よし、いくぞ」
『T-02-i35』の収容室の扉に手をかけ、いつものようにお祈りをしてから扉を開ける。
「……なんだこれ?」
収容室の中には何もいない…… 訳もなかった。
収容室の中央、その床の部分にはいかなる方法かマンホールの蓋が置いてあった。
何故こんなところに? とも思うが、理由は一つしかないだろう。
「今回はいっそう変わっているな」
このマンホールがアブノーマリティーなのかと思ったが、何かに見られている気がする。
一瞬頭の中にシャーデンのことがよぎったが、逆の場合もあるので視線の主を探す。
「お前か?」
とはいっても、探すところなんて限られている。
よく見ればマンホールの蓋が少し浮いており、その先にある目と視線が合った。
縦長の瞳孔と、黄色い瞳。緑色の皮膚に鋭い牙、それは紛れもないワニであった。
「あー、なんかそんな話聞いたことあるな」
取り敢えずワニという事で、餌をやる。腹を満たせば襲いかかっては来ないだろう。
「よしよし、よく食ってるな」
なんか頭を撫でたくなるが、マンホールの蓋もあるし、アブノーマリティー相手にそんなことしたら自殺行為なのでやめることにする。
……姫様たちは例外だろ。
「よし、それじゃあそろそろ終わるか」
ワニが餌を食べ終えて満足そうにしていたから、そろそろ収容室から退出する。
今回は何事もなく終わったな。
「さてと、次は……」
『設計部門にて『T-02-i35』が脱走しました。エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』
「……はぁ?」
突然のアナウンスに、思わず間抜けな声が出てしまう。さっきまで順調だったことを考えると、本能作業が問題か俺のステータスに反応したかのどちらかだろう。
「全く面倒くさい、何処にいったんだ?」
『すまないジョシュア、脱走した『T-02-i35』の反応がないのだが、そちらで目視はできるか?』
「いや、こちらには何も…… いや、まさか!?」
脱走後の行方がわからない、地面に潜伏するアブノーマリティー、これらと共通する特徴をもつアブノーマリティーを俺は知っている。
その事を丸々信じるのは危険だが、闇雲に探すよりはいいだろう。
予想通りなら、厄介なことになったかもしれない。
「管理人、地面にマンホールはないか? 何か不自然なものでもいい!」
『わかった、探してみる……』
「……どこかに、不自然な食い残しは?」
『なるほど…… あった、福祉部門と中央第二を繋ぐ廊下だ』
「わかった、取り敢えず誰も近づけないように、俺はすぐに向かう!」
場所がわかればあとはなんとかなる。
俺は急いで件の場所に向かった。
「よし、見つけた!」
不自然に廊下に置かれているマンホールの蓋、俺はそこから少し離れたところで“転生”を振るい、斬撃を飛ばす。
元が“墓標”であるからか、このE.G.O.でも斬撃をうまくとばせるようになった。
その斬撃は動かぬ獲物に吸い込まれ、ズタズタに切り裂いた。
「……すまなかった」
間に合わなかった職員に懺悔する。そのあとは気持ちを切り替え次の業務に向かう。
この職場でいつまでも引き摺っていたら持たなくなる、だからこうして区切りをつける。
そして俺は、次に向かうのだった……
どうしたんだベイビー?
えっ? 大きなワニがマンホールからでてきたって?
しかもそいつが人を食べた?
はっはっはっ、面白いことを言うな!
見ろ、誰も騒いでないし、父さんも見ていない
いいか、よく聞け
地下にそんな怪物はいないんだ
T-02-i35 『喧騒の浸透』