奴らに対する矛であり盾
しかしておぞましきなにかでもある
「さて、そろそろ次の試練かな?」
「変なやつが来なければいいな」
「まったくだ」
今日の業務もようやく中頃だ、そろそろ次の試練が来るはず、先ほどの試練が強力な相手だったため、今回も油断なく挑みたい。
「心配するな、今回はシロだけじゃなく俺もいる」
「ジョシュア、任せて」
「確かに心強いけど、俺自身の装備が不安でな」
今俺が装備しているE.G.O.は“墓標”だ。正直リッチとシロの“超新星”と“儺追風”に比べるとずいぶんと心もとない。
……まぁ、比べる相手を間違えている気がするけどな。
「しかし、こう固まっていてもいいのだろうか?」
「念のためマオとメッケンナ、パンドラも動きやすいところで固まっているし、大丈夫だろう」
「上層ならあっち、下層ならこっちで大丈夫」
「まぁ、そうだな」
『記録部門と懲戒部門で試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』
そう話しているところで、ついに試練が発生した。懲戒部門のほうが近いが、そっちはメッケンナたちに任せよう。記録は俺たちのほうが近い。
「よし、それじゃあ行くぞ!」
「あぁ!」
「了解」
武器を構えて、目的地まで走る。記録部門までも遠くないので、さほど時間もかからずに目的地に着く。
「気を引き締めろよ!」
そして、試練の発生した場所の扉を勢いよく開き、すぐに戦闘態勢に入る。ここからは一切気を抜くことができない。
「くっ、何だこいつは?」
「気を抜くなよ!」
そこにいたのは、白いマネキンのような男だった。
真っ白いスーツ、いや指揮者が着るような服を着て、のっぺりとした目も口もない顔にはモノクルが付いている。
そしてその手には、真っ黒な音符の形をした大鎌、“ダ・カーポ”を持っている。その姿、その得物、その姿はまさに……
「来るぞ!」
そのマネキン、白の幻想体は“ダ・カーポ”を振り上げて襲い掛かってくる。
それを避け、すれ違いざまに横腹に“墓標”をたたきつける。いい手ごたえだ。
そこでよろけたところを、リッチが“超新星”で切りかかる。
白の幻想体は“ダ・カーポ”の柄で防ごうとするが、そのまま吹き飛ばされる。
「よし!」
「追撃」
さらに吹き飛ばされた白の幻想体を追いかけるようにシロが突っ込み、“儺追風”を叩き込む。白の幻想体は苦しそうにうめきながら壁に激突した。
「よし、行くぞ!」
壁に倒れている白の幻想体に“墓標”を突き立てようとしたその時、白の幻想体の腕がピクリと動き出した。
「っ!? まずい!!」
白の幻想体の腕が動くと同時に、どこからともなく音楽が聞こえる。なんかまずい気が……!!
「ぐっ!!」
「ジョシュア!?」
軌道をそらしきれなかった“墓標”の刃が、白の幻想体の脇腹を浅く裂く。すると俺の脇腹も傷ついた。しかもさっき切り裂いたたころと全く同じ場所、これはもしかして……。
「くそっ、ふざけているのか!!」
お前の能力は特定のタイプ以外の攻撃無力化だろうが!
やはり俺の知っている奴とは少し違うようだ、相手の厄介さを考えていると、鳴り響いている音楽の曲調が変わった。
「なっ、今度は……」
「むぅ……」
「シロ、どうかしたか?」
「大丈夫、ちょっと頭が痛いだけ」
曲が進んで、シロに異変が起こった。俺とリッチには効かずにシロにだけ効く。女性関連かと思ったが、それ以外に考えられるものがある。
俺もリッチも“調律”のギフトが付いているが、シロにはない。もしかしてこの流れる曲にも何かあるのか!!
「くそっ、シロはいったんメインルームに避難を! リッチ、曲が終わるまで待ち構えるぞ!」
「了解!」
とりあえずシロをこの部屋から離れさせる。奴の音楽は危険だ、それを無力化できるやつで戦うべきだろう。
白の幻想体は指揮を執る、その手の動きに合わせて音楽が流れ、そしてフィナーレへと向かう。
「行くぞ!」
「おう!」
そして曲が終わると同時に攻撃を開始する。まず先に俺が攻撃を当てて、何もなければリッチも攻撃に加わる。リッチの場合は高火力になる可能性があるので万が一の可能性を消すためだ。
「よしっ、通るぞ!!」
「わかった!」
そして攻撃が通ったことにより、リッチが“超新星”で切りかかる。
白の幻想体は“ダ・カーポ”で防ごうとするがそれを俺が弾き、がら空きになった体に“超新星”が叩き込まれる。
「よしっ!」
「離れろ!!」
そして白の幻想体が力尽きるとともに、奴の体から世にも悍ましい音楽が漏れ出る。意味の分からない不協和音は、“調律”のギフトをもってしても気分が悪くなるものだった。
「リッチ、大丈夫か?」
「あぁ、それよりも倒したか?」
「なんとかな」
「じゃあ向こうは……」
『まずい、向こうはかなり厄介だ! メッケンナたちは今後方に下がらせてシロに足止めをしてもらっている、至急向かってくれ!』
「くそっ、急ぐぞ!」
「あぁ!!」
どうやらもう一体はかなりやばい奴らしい。今までの傾向からある程度予想はつくが、もしもやつならかなりやばいことになっているかもしれない……
「シロ、大丈夫か!?」
どうやらこっちに向かって移動していたようで、もう一体は中央第二まで来ていた。
あいつら三人でもまずい奴を今シロが足止めしている。急いでシロの戦っている部屋まで行って扉を開く。そこにいたのは……
「うっ、うぷっ……」
そ、それは、な、んだ、? それ、それはおぞまし、いや、こわい、いやだ、みるな、みないでくれ、こっちもみるな、こっちをむくな、くるな、こっちにくるな、こないでくれ、いやだ、いやだ、いyだだ、おれ、なんだっけ、あぁ、なんだそれは、めのまえに、な、なんだそれは、やめて、それは、それはおそろしい、いや、こ、こわい、みつめる、こわい、こわい、なんだよ、みてる、こっちをみてる、みるな、みないでくれ、こっちをむくな、むかないでくれ、みるな、むくな、やめろ、こっちに、こっちにこないで、くるな、くるな、くるな、こないで、いやだいやだいやだこわいこわいこわいたのしいこわいこわいいやだいやだあっちいけこっちにむこう、のぞくいyだ、あっあっあっ、えっと、なんだっけ、どうしたんだっけ、あぁ、そうか、めのまえになにかいる、なんだあれは、なんであんなやつがいるんだ、あんな奴は知らない、あんな恐ろしい存在は、俺は何を見ているんだ、あの怪物は、まさか……
「……ュア、ジョシュア、しっかりしろ!」
「はっ!?」
リッチの声でようやく頭がはっきりする。そうか、あれが――――、そしてこれが絶望か。ここにきてその恐ろしさを知ることになるとは。
「シロは!?」
「大丈夫、でもそろそろきつい」
「わかった、任せろ!」
シロが下がると同時に奴、黒の幻想体に接近して攻撃を仕掛ける。しかしやつは手に持っている“――――”をこちらに伸ばして攻撃を仕掛けてくる。
それに対して“墓標”で斬撃を飛ばして牽制して攻撃を避ける。そして俺の後ろにいたリッチがそれを弾いて黒の幻想体の体勢を崩す。
「おらぁ!!」
懐に入ったので“墓標”を奴の胸? に突き刺す。辛うじて人型をしているそれはうまく攻撃を避けると、体をひねって伸びた“――――”を引き戻す。
そしてその回転のままこちらに向かって“――――”を振り払う。
それを“墓標”で受け止め、背後に回ったリッチが“超新星”を振るう。さすがに無防備なところを突かれたのでダメージは大きそうだ。
「今」
体勢を崩し膝をつく黒の幻想体に、今度はシロが接近して“儺追風”を振るう。今までかなりのダメージを受けていたのだろう、その一撃によって黒の幻想体は八つ裂きにされてしまった。
「よし、離れろ!」
そして、切り裂かれた黒の幻想体の体から、悲鳴が聞こえる。それは悲しみのような、悦びのような泣き声であった。
「くそっ、だいじょうぶか?」
「こっちは大丈夫」
「なら……」
『大変だ、そこのアブノーマリティーたちの収容室すべてにクリフォト暴走が発生した。すぐに作業を頼む!』
「そういうことかよ!」
何とか白昼の試練も乗り越えたが最後の置き土産のせいで喜ぶ暇もなかったのは残念だ。
それの本質は奴らとは何ら変わらない
せめて飲まれないように気を付けるべきだ