【完結】誰も知らないアブノーマリティー   作:名無しの権兵衛

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Days-48-2 T-04-i59『決して音を立てないでください』

 次に作業を行うのは、『T-04-i59』だ。できれば先ほどのアブノーマリティーよりは楽な奴であってほしいな。

 

「あのぉ、ジョシュア先輩? そろそろ許してくれてもいいんじゃないですか?」

 

「うるさい黙れ、もう口を開くな」

 

「うぅぅ、ひどすぎる……」

 

 とりあえずまたやらかしたパンドラを転がしつつ、そろそろ次の作業に移ったほうがいいかな。

 

「もう、あと少しなんですからもう少し寛容になってもいいんじゃないですか?」

 

「お前がもう少しおとなしくできるのであれば、考えてやらんこともない」

 

「それ考えるだけでしてくれるわけじゃないですよね!?」

 

 本当にこいつはしゃべらせるとピーピーうるさいな。もう少し静かにできないのか?

 

「まぁいいですよ、でも正直ジョシュア先輩も静かにしたほうがいいんじゃないですか?」

 

「わかったよ、これからはお説教の分まで肉体言語で語ってやる」

 

「ぎゃあぁぁぁ!! ごめんなさいギブアップです!!」

 

「うわぁぁぁん!! ジョシュア先輩なんてもう知らないんですからね!!」

 

 いい加減こいつから解放されたい……

 

 

 

「さて、それじゃあ頑張るとするか」

 

 パンドラを沈めてから、今日来たもう一体のアブノーマリティーのところに行く。今日収容されたもう一体のアブノーマリティーは『T-04-i59』、さっきも同じことを考えていたが本当に変な奴じゃないことを祈る。

 

「頼むぞ」

 

 いつものように収容室の扉に手をかけてお祈りをする。そしてそのあとに扉にかけた手に力を入れて開く。収容室の中は恐ろしいほどに静かであった。

 

 

 

 

 

 収容室の中央には、灰色の結晶体が存在している。

 

 それは俺と同じくらいの大きさで、よくは見えないが結晶の中心部分には何かがあるような、いやいるような気がする。

 

 収容室の中は、嫌な静けさが漂っていた。

 

 純水の中に入れられた魚のような息苦しさ。誰もいないお堂のような、何か悪いことをしているわけでもないのに騒いだらいけないような変な感覚に包まれる。

 

 意を決して収容室に踏み入れると、足下に音もなく小さな結晶が生えていた。

 

 それは収容室の中央に存在する灰色の結晶と同じ色をしており、一瞬のうちに成長して小指ほどの大きさの結晶になった。

 

「なんだこれ?」

 

 何気なく呟いたその言葉、しかしそれが命取りだった。

 

「がふっ、ごふっ!」

 

 その瞬間、結晶の中心に存在している何かがピクリと反応したかと思うと、唐突に口内から結晶が生え出し口をズタズタに切り裂いて頬や口から飛び出した。

 

 音をたてて血が滴り、その場からも結晶が生える。

 

 体の内部からの痛みにのたうち回り、体が壁にぶつかるとそこからも結晶が生えて俺の体を切り刻む。

 

 もはや、何が起こっているのかわからなかった。

 

 声を出そうにも口は塞がれ、体を動かせば全身を切り刻まれる。

 

 血を吐き呼吸をするだけで結晶は体の内側から肉を突き破り、体中を支配する。

 

 目の前で何かが動いている感覚があるが、もはや確認することもできない。

 

 そして体の内側から弾けだし、そこで俺の意識は途絶えることとなる……

 

 

 

 

 

「おい、なんだこいつhぐべしゃっ!?」

 

「い、いやぎゃべべべべっ!?」

 

「んっ、んんんんんん!?」

 

「……」

 

「あーあ、残念」

 

 

 

 

 

「はっ!? はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

 嫌な目覚めだ、自分の死をこれほどリアルに夢で体験することになるとは思いもしなかった。

 

「……いや、本当に夢か?」

 

 強烈な違和感、確かに死んだという体感、燃え盛る瞳の炎、そして知らないアブノーマリティーの情報。

 

 もしもこれが本当の記憶なら、それが意味することはどういうことだろうか?

 

「……いや、考えていても仕方がない」

 

 考えるより行動だ。もし今日収容されたアブノーマリティーが記憶通りなら、その時はその時だ。

 

 

 

「はぁ、まさかここまで同じとは……」

 

 今日の出来事は記憶の通りだった。とりあえずパンドラだけは行動をすべて事前につぶして何もしていないのに折檻した。本人は不服そうだったが、これからするから仕方ない。俺は悪くない。

 

 それに、今日収容されたアブノーマリティーは『O-04-i55』*1と『T-04-i59』だ。まさしくあの夢、いや記憶通りだ。

 

 つまりこれから起こることも同じになりえるということだ。

 

 そこで、あの時は訳も分からず死にかけたが、何が悪かったのかをしっかり考えてみた。

 

 あの時俺がしたことは言葉を話したこと。もしもこれがトリガーならかなり厄介だ。一度に二体も口を開けないアブノーマリティーが収容されたことになる。

 

「さて、それじゃあ行くか」

 

 いつものようにお祈りをしてから、細心の注意をしながら扉を開く。

 

 収容室の中には、やはり灰色の結晶が存在していた。

 

 

 

 

 

 それは音を餌とします

 

 それの中の何かは、眠っている間は安全です

 

 しかし、一度でも目を覚ませば、空腹のままに動くでしょう

 

 それは音から生まれて、音で成長する

 

 それを目覚めさせたくなければ、できることは一つです

 

 

 

 

 

 決して音を出してはいけませんよ

 

 

 

 

 

T-04-i59 『惰眠の細動』

*1
『木霊蜘蛛』

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